第百九話 伏見稲荷大社
京都に着いて宿に荷物を置いた後、すぐに自由行動になった。
班は大きく分けて二つ。
俺と純恋と桃子、そして綱秀と涼音に分かれそれぞれ護衛と先生方がついての行動になった。
「おお・・・・。」
見事に鳥居が見事に並んでいる。何度見ても壮観な景色だ。
来ているのは伏見稲荷大社。
修学旅行で京都に行くと知らされた時、純恋から行きたいと意見が上がった。
「・・・・・・・・・・・。」
ただ純恋自身が行きたいと言ったわけでは無い。
とある人物からの強い進言があり、仕方なく意見を出したのだという。
「ほほっ♪久々に来たけどやっぱココはええなぁ。信仰が集まっとるわぁ。」
先程から純恋が視線を送っているのは式神である玉藻の前。
神融和での姿しか見たことなかったが、人の姿に化けて出歩いている。
「別にお前に向けての信仰やないで。」
気分が上がり先に進もうとする玉藻の前を純恋が服を掴んで止めに入る。
「稲荷神は可愛そうやなぁ。を祀る神社のはずなのに
その使いである狐に信仰を向ける奴が多い。
神使やから間違っておらんけど、
イメージが強すぎてこうして私にも信仰が集まっているっちゅうわけや。」
なんともこすい方法で信仰を受け取っているものだ。日ノ本を大混乱に陥れた大妖怪とは思えない。
「玉藻の前、あまり目立ったことはしないように。
決してあなたのためにこちらに来たのではないのですよ?」
引率の毛利先生が殺気を放ちながら玉藻を睨む。
「ああ怖いなぁ。そんな怖い顔されたら恐怖で足が勝手に逃げ出しそうやわぁ。」
冷たく鋭い殺気だが、臆することなくフラフラと純恋の元へ戻る。
「そんなことしたらすぐに体に戻すからな。私の視界に大人しく入っとれ。」
純恋に甘えるように腕に捕まるが、頭の横についている耳を引っ張られると大人しくなる。
玉藻の前が日ノ本の歴史に乗ったのは千何百年も前だが、
一説によれば中国からやってきたとも言われている。
一体何年生きているのか分からないが、今の姿を見るとまるでやんちゃで狡猾な妹の様だった。
「ここに来たのは玉藻の前いるからだったんですね・・・。」
護衛である楓と千夏さんが俺達を脇を固めるように歩く。
人通りが比較的少ないので視界が広く確保できるため、例え何かあった時はすぐに気付けるだろう。
「殺生石に何年も封印されててやっと解放されたと思たらすぐに確保されてまた封印や。
時代の流れで変わった日ノ本をただ見て回りたいだけやのに・・・。
純恋に何度もせがんでも一向に連れて行ってくれないんやもん。」
「ちなみに稲荷神様は平安時代以前にこの伏見に鎮座されたようですよ。
平安時代と現代を比べてどう変わったか、ぜひ聞いてみたいですね。」
千夏さんは辺りを見渡しながら玉藻に尋ねる。千何百年と前の日ノ本の姿は確かに気になる所だ。
「少しは整備されたなぁ。昔はこんな石段なんてなくてただの坂道やったで。
でも・・・趣は無くなったなぁ。
鳥居は神域と人間の世界を分かりやすくするために建てられた目印みたいなもんや。
これ見よがしに鳥居を並べるのは確かに壮観やけど・・・
それがこんなにあったらどこが神域なのか神様も分からなくなってくる。
必要な物は一つだけ。分かりやすくしたかったらその分大きくすればええだけや。」
玉藻が千本鳥居の感想を述べながらこちらに近づいてくる。
「分かるか?これが侘び寂びというもんや。
見栄えよく豪華に並べるのではなく調和、バランス。自然的な美しさが日ノ本で好まれてきた。
やけど・・今の君は不自然やなぁ・・・。」
俺の眼前まで顔を寄せてきたので、踏み出した足を止めて後ろに後ずさる。
「男に寄り添う女は一人で十分。それが自然であり、美しい。
多くを望んだ者はいずれ罰を受ける。悪いことは言わん、相応しい女をしっかりと選ぶべきや。」
逃げる俺に構うことなく、づけづけと顔を近づけてくる。
すぐに追いつかれ、顔が肩に向けて迫ってくると周りに聞こえないほどの小さな声で囁いた。
「ちなみにおすすめは純恋や。
皇族の血を引いた娘やからは階級は高いし教養もある。
見るからにツンケンしとるのが玉に瑕やけど意外と甲斐性あるんやで?
本当は近寄るのも嫌な京都に来たのはあんたがいたからや。
好いた男のためなら我慢できる色んな意味でいい女、今ならお買得やで?」
純恋を選べと催促されるが、脳天を割るような手刀が玉藻を襲う。
「よ・け・い・なお世話や!!」
小さな声で話していたはずだが、玉藻が念で今の会話を純恋に届けていたのだろう。
怒りながら元の場所まで歩いていく純恋を見て玉藻は笑う。
「見てみい、耳が真っ赤やろ?見るからに初心な子で可愛いわぁ。」
あまりバカにしてやるなと言いたいところだが、他人ごとにしてはいけないと心に留める。
「だから京都にいる時ぐらいは隣にいってやってな?可愛い主様をいっぱい見させてもらうわ。」
この性格の悪さ、日ノ本を傾けさせた片鱗が僅かながらに見えた気がする。
「あっ後な。あんたみたいな男、私も好みやで?
純恋と一緒にしっかりいただこうと思ってるからそのつもりでいてな?」
俺の耳元でぼそりと呟いた後、スキップをしながら鳥居をくぐっていく。
(とんでもない奴らに狙われていたもんだな・・・。)
命を狙われているが、その別の意味で仲間から狙われているのは良いことなのだろうか?
内部分裂を起こしそうなものだが今の所は仲良くしてくれている。
玉藻の前が変なことを吹き込まないことを祈りつつ、皆の元へ足を進めた。
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何事も無く一通り観光を済まして旅館へ戻る。
京都らしい落ち着きのある雰囲気の旅館だが、飾られてある日本画や見事な庭園、
そして夕食に出された芸術といえるほど綺麗にに飾られた料理を見ると、
普通に泊まったらどれくらいかかるのだろうかと考えてしまう。
「ふう・・・・。」
お腹を満たして疲れを癒すために大浴場の湯船に浸かる。
大浴場には今の所俺と綱秀しかいないが、それどころか俺たち以外の利用客を一人として見ていない。
修学旅行まで時間が無かったのにも関わらず、こんな高級旅館まで貸し切りしてしまえるのは
国學館や校長先生の力があってこそなのだろう。
「隣、座るぞ。」
広い湯舟なのにも関わらず、体を洗い終えた綱秀が隣に座ってくる。
「・・・・・・・・・・・・。」
わざわざ隣に座ってくるという事は俺と話したいことがあるのだろうが、綱秀は口を開かない。
「・・涼音はどうだ?」
聞いてほしい内容はこれだろう。大体予想はついているし、俺も気にかけている。
「・・・・一応、桃子とは簡単に話しをしたらしい。
頑張って信頼を取り戻すと伝えたら、私はもう気にしてないでって言ってくれた見たいだ。」
「残るは純恋か・・・。
桃子も従者の立場があるから純恋の意向を汲むだろうけど、許したとしても表に出せないだろうな。」
「まあそれでも一歩前進だ。ありがとな龍穂、お前が裏で手を回していたんだろ?」
綱秀からの感謝の一言を受けるが、すぐさま否定する。
「別に俺が何かしたわけじゃないよ。ただ桃子が許しただけだ。
確かに涼音が裏切った後は警戒したけど、襲撃を受けたってことは被害者なんだよ。
それに平将通は・・・賀茂忠行に無理やり襲撃をやらされていた。
その事実を純恋も知っているはずだから、時間をかければ分かってくれるはずだよ。」
襲撃をやらされていた事実を聞いた綱秀は、少し驚いた表情を浮かべ大きなため息をつく。
「そうだったのか・・・。あいつ・・そんなことを一言も・・・。」
「それだけ平将通を慕ってたってことだろうな。
それに自分が選んだ道に責任を取りたかったんだろう。」
「責任か・・・・。桃子に許してもらえた後も暗い顔は治らなかった。
あいつは・・・何を背負っているんだろうな・・・。」
綱秀は涼音の問題を自身の問題と同じように考えている。
二人で厳しい国學館を生き抜いてきて絆を紡いできたが、
やはりそれ以上の特別の関係を築いているようだ。
「平将通と一度話をできれば違うのかもしれないな・・・。
そういえばあの後どうなったんだろう・・・。」
意識が無くなった後のことを覚えていないし、深く尋ねることもなかった。
「平なら武道省に捕まっているよ。当分出て来れないだろう。」
後ろから答えが返ってきて思わず振り返ると、そこには竜次先生の姿があった。
「面白い話しをしていたみたいだが、周りを気にしろよ?
誰がどこで聞いているかわからないからな。」
俊敏な動きと繊細で豪快な槍使いを納得させるほどの見事な体には、龍の鱗のような刺青が入っている。
俺達のすぐ近くに腰を落とし、頭にタオルを乗せて気持ちよさそうに息をはいた。
「すみません・・・。」
「これから気を付ければいい。
涼音は罰を受けている平と同じように自らに罰を与えているのかもしれないな。」
「罰・・・ですか。」
「綱秀はよくわかっていると思うが、涼音は弱い子じゃない。
いじめに耐え、そして反抗し戦い抜いた強い子だ。
純恋に無視されても話しかけて解決に持っていくことぐらいはできるだろう。
だが・・・罰を与えているにしては少し腑に落ちない所もある。
綱秀はしっかり涼音から離れずに守ってやってくれ。」
腑に落ちない所が気になり、聞こうとするが竜次先生は俺に向けて口を開く。
「それと龍穂、純恋に用事が出来て桃子がエントランスで一人になっている。
話し相手になってやれ。」
「えっ・・?用事・・・ですか?」
「京都御所から呼び出されたんだよ。
お正月前にすぐに帰ってしまったから改めて話がしたいんだと。
特例で外に出したけど従者である桃子だけは決まりで出せなかった。
仲良いんだろ?行ってやれ。」
冬真っただ中の一月に外の風が入ってくるエントランスで
純恋の心配をしながら一人で待っているのは辛いだろう。
分かりましたと湯船から出るが、
同じ様に湯船から出ようとする綱秀の肩を竜次先生が掴み、再度浸からせた光景が横目に写る。
「・・・・・・・・?」
少し不思議に思ったが、何か話しがあるのだろうと留まることなく
桃子の元へ行くために大浴場から去った。
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