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第百七話 煮え切らない思い

三人が激しい戦いを繰り広げている中、それを眺めている俺の隣に綱秀が近づいてくる。


「・・龍穂。」


純恋達は反対側の壁際に立っているが目線は楓達に向いている。

綱秀はその様子を見てこちらに来たのだろう。


「・・大変だったみたいだな。」


涼音も綱秀について来ている。

二人にねぎらいの言葉をかけて様子を伺った。


「ああ、一応毛利先生には気を付けるように言われていたから何とか対応できた。

それに・・・竜次先生達が駆けつけてくれてなんとか逃げ切れたよ。」


「巻き込んで申し訳ないと思っているよ。無事で何よりだ。」


襲われた原因は涼音にあるとはいえ、元はと言えば俺の使命に巻き込まれた。

純恋達がいる手前堂々と謝れないが、短めの謝罪の言葉を述べた。


「いいんだ。涼音と一緒にいる時点で覚悟は出来てる。」


「安全な場所で身を隠しているって聞いたけど、一体どこにいたんだ?」


「実家だよ。広い地域を守る神社だから結界とか色々備えてある。

それに新年にかけてかなりの人が出入りする。

姿を見られたくない奴らだと毛利先生は言っていたから家に涼音を匿うのが一番得策だった。」


安全な場所で新年を過ごしていたと聞いて胸をなでおろす。

二人の精神状態が心配だったが、綱秀の実家に身を隠していたのであれば安心だ。


「そうか・・・。それならよかったよ。」


「怠けてないで初詣の手伝いをしろって親父に言われて大変だったけどな。

おかげで忙しさで嫌なことを考えずに済んだよ。」


「・・大きな神社だもんな。それはお疲れさんだ。」


歴史ある神社なので県外からも人がやってくるだろう。かなり大変だったのが伝わってきた。


「それで・・・涼音の事なんだが・・・・。」


綱秀が本題に入ってくる。隣にいる涼音は綱秀の手を握りながらこちらを見つめていた。


「今回の出来事で敵の強さを大まかに把握できた。

あれは・・・俺じゃ敵わない。いつか涼音は殺される。」


何時も強気な綱秀らしくない言葉だが、

それだけ襲ってきた賀茂忠行の配下が強力だったのだろう。


「出来れば奴らに何度も勝っている龍穂達と一緒に行動したいと思っている。」


「俺だってそうしてやりたいんだが・・・・。」


俺は純恋達に目線を移す。

俺達が話していることに気が付いたようで、鋭い視線をこちらに送ってきていた。


「純恋達がな・・・。」


「龍穂から言ってもダメか?」


「厳しいな。さっき軽く話しをしたんだが、純恋達は涼音に対する態度を変えようとはしなかった。

だから出来れば涼音の方から何かアプローチがあればと思っているんだが・・・出来そうか?」


綱秀は難しい顔をしながら涼音の方を向くが涼音は俯いて呟く。


「なんて声をかけていいか分からない・・・。」


「・・だそうだ。あの様子だと例え声をかけても答えてもらえるか分からないだろうな。」


無視はしないだろうが純恋の事だ。何も答える事はないと、面を向かって言ってくるだろう。


そして涼音自身がなんて答えていいかわからないと言ってしまっているので

信頼の回復は期待できない。


「そうか・・・。俺からも何とか純恋に態度を直すように何とか言い聞かせてみる。

涼音も出来れば純恋達に勇気を出して声をかけて見てくれ。

強情な奴だけど物分かりが悪い奴じゃないんだ。」


色々重なり合って複雑になっているが、決して純恋が許してくれないとは俺は思っていない。

受け入れる状態に持っていくには涼音自身が信頼を勝ち取ることも必要だ。

怖気づくのではなく少なくとも前を向いてもらわなければ。


綱秀との話し合いに区切りがつくと、黒川と楓たちの戦いが終わりを告げる。


「ぐっ・・・・!!」


人造式神達を千夏さんが全てねじ伏せ、楓が黒川を床に伏せさせ首元に刃を添えていた。


「そこまで~♪」


俺の魔力を使えるようになったことで二人の風の魔術が大幅に強化され、

他の魔術も魔力量が増したことで一段と強力になった。


「お三方お疲れ様でした~。楓さん、千夏さん。茜さんはいかがでしたか~?」


ノエルさんが小さな足を動かして三人の元へ歩いていく。


「・・まあ合格点をあげてもいいんじゃないですか?」


黒川も人造式神による人数有利を押し付けながら上手く立ち回り、

楓達をそれなりに苦戦させていたので相当な技量があることの証明は果たせたのだろう。


「上級生である私たち二人を相手にしてここまでできれば上等だとは思います。

・・信頼を寄せられるという点は別問題ですが。」


だが二人は黒川の事を信頼は出来ないようで、

ノエルさんがいるのにも関わらずほんの少しの殺気を向けている。


襲い掛かる気はないだろうが模擬戦であるのにも関わらず、

床に伏せている黒川に向けるのはあまり良くないだろうと二人の元へ歩いて行った。


「お疲れ様。新しい力はどうでしたか?」


「非常に強くなっている事を実感できました。風の魔術以外もかなり強化されたようですし・・・・。」


「それに・・・式神契約の影響なのか龍穂くんが使役している青さんの力も強く感じました。

魔力の影響は確認できましたが、神力の方も確認したいですね・・・。」


青さんの力・・・?

千夏さんが指摘した後、青さんが飛び出してくる。


「千夏の飛びぬけている魔術の属性は水と土だ。それはわしも同じ。

同じ龍穂との式神契約をした影響だが、わしと千夏の相性がすこぶるいいのはあるだろうな。」


仙蔵さんは水の魔術を極めていた。

千夏さんは土の魔術を極めているが、仙蔵さんの力をしっかりと引き継いでいるのあろう。


「彼女はまだ発展途中ですから国學館に入学すればさらなる実力向上は確実でしょう~。

来年は千夏さんもいなくなりますし、強力な味方になるとは思いませんか~?」


ノエルさんが手を合わせて笑顔でこちらに尋ねてくる。


(・・そうか。千夏さんはもうすぐ卒業か・・・。)


頼りになる千夏さんはもうすぐ卒業だ。

終わりの見えないこの戦いに対応できる十分な実力を秘めている。


「私は皇學館大學から推薦をもらっています。国學館とはあまり距離が離れていません。

それに式神契約を結びましたからすぐに駆けつけられますよ。」


「すぐに駆けつけられるとその場にいるとでは状況が違いますよ~?

それに敵の数はまだ未知数ですし、どこに潜んでいるかも分からない状況では

そのわずかな差が甚大な被害を産むかもしれません~。


千夏さんがいらっしゃるだけでも大きな戦力になるのは龍穂君も十分に分かっているとは思いますが、

少しでも不安を埋めるのも大切だと思いますよ~?」


ノエルさんの話しはごもっともであり、千夏さんの代わりにはならないだろうが

これからの成長を残している黒川であれば補えるかもしれない。


「・・国學館への入学は決まっているんです。仲間するとは決めなくとも目的は同じですから

俺は悪くはないと思います。」


兼兄は怪しい行動を取ったらすぐに入学を取り消すと言っていた。

現時点でそういった行動は見られないが、

もし本当に賀茂忠行の討伐を目指しているのなら、俺達の傍から離れたくないだろう。


「黒川って言ったな。お前は一体何をしに国學館へ入りたいんだ?」


全員事情は分かっていると思うがあえて尋ねる。

ただ受け入れるだけではみんなは納得しない。

自らの口で説明して初めて望んでいると認識してもらえる。


「・・私は師匠の仇を打ちたい。あの人はあんな人じゃなかった。嵌められたんだ。」


「それは都合がよすぎへんか?

その嵌められた奴について行ったのはアンタや。

襲った高校に入学して隣で戦わせてくれなんて簡単に認められへん。」


実力は認めているのだろうが、その立ち振る舞いが気に食わない純恋が噛みついてくる。


「それは・・・謝るよ。でも・・・・私は仇を討ちたいんだ!!」


呆れた表情を浮かべる純恋。

筋も何にもない駄々をこねているが、それでも賀茂忠行を倒したいという気持ちは伝わってきた。


「はぁ・・まあ・・・。私達の邪魔せぇへんかったらなんでもええわ。」


熱意のある一言に純恋はどうにもすることは出来ず、呆れながらも黒川の事を認める。

入学が確定しているという事は、同時に業である兼兄達が許可を下しているという事であり、

白である竜次達の監視下に置かれるということを示している。


涼音の侵入は許していたものの、現在は警戒を最大限に引き上げている。

下手な行動を取ればすぐに捕らえられてしまうだろう。


「・・では黒川さんと共に戦っていただけるという事ですね~?」


「ともに戦うのはええで。龍穂の言う通りや。でも、仲良くなるのは話しが違う。

さっきも言ったけど邪魔をしたら許さへんで。」


彼女を制限する事などできない。

同じ道を歩むのであれば自然と協力関係を結んでいくのだろう。


この会話の最中、俺は綱秀達に目線を送る。

もし賀茂忠行を倒したいと思っているのならこういう道もあるのだと黒川は示していた。

俺の使命を知っている綱秀、そして涼音も同じ道を辿ることも当然できるがそれは涼音しだいだ。


「・・いいねぇ。こういうの俺は好きだよ。」


少し隙間の空いた玄関から声がする。

そして勢いよく開かれると、そこには新校長である皇太子様の姿があった。


「いやー、いいものを見させてもらったよ!一度は相対する者達がこうして手を取り合う!

これぞ青春の1ページ!!生徒を導く先生の醍醐味はこういう所にあるのかもなぁ・・・・。」


腕を組んで頷きながらこちらに歩いてくるが、

その姿を見た純恋は見たことの無い嫌悪感を抱いた表情で皇太子様を見ながらこちらに近づいてきた。


「面倒な奴が来た・・・。アンタが来る場所ちゃうで!!」


「いやいや、私が来てもいい道理があるはずだ。何故なら私は国學館の校長だからね。」


後ろからはため息をつきながら毛利先生がやってきてる。


「皇太子様・・・。私が初めに彼らに挨拶をすると言ったではありませんか・・・・。」


「ははっ!すまないね!彼らの青春を見ていてもたってもいられなくなった!

それに・・・今のを見て決めたよ!やはり行うべきだとね!」


疲れた顔の毛利先生と何やら中身の見えない会話をしているが、

めんどくさいことになりそうな予感しかしない。


「行うって・・・なんのことですか・・・・?」


受け身になるのはいけないと恐る恐る尋ねると、皇太子様はこちらに指を向けて言い放つ。


「良い質問だ!今年は色々あったので中止にしようと相談を受けたが・・・関係ない!!

例年通り!修学旅行を行おうと思っている!!」


全員の頭の上に?が浮かぶ。何を言い出すかと思えば・・・修学旅行?


「国學館の修学旅行は三学期の始めに行うのですよ。

ですが龍穂君の件もあったので控えようと提案はしていたのですが・・・。」


「それでは生徒の成長を阻むことになる!彼らは将来この国を支える有望の生徒達だ!

実習などで社会を見ているが、そんなものはこの先いくらでも体験していくことだろう?


この大切な時期に!生徒達のみで見て体験する事こそが!この先の人生において重要になってくる!

そうは思わないか?」


まあ・・・皇太子様の言う事も分からなくはない。

修学旅行は学校生活において一番の行事と言っていいだろう。俺達も行けるのであれば行きたい。


だが俺のせいでみんなに迷惑をかけるのであれば流石にいけない。

毛利先生の言っている事の方が正しいのは理解できる。


「おっしゃる通りだと思います。ですが・・・。」


「彼の使命については把握している。そして私は彼がその使命を果たすと思っている。

彼の強さ、そして彼を慕う仲間たちが増えていく姿を見て彼ならばそれが出来ると確信している。


だからこそだ。彼らの青春がその使命によって潰され、

後の人生に支障が出ることの方が日ノ本にとって損害が大きいだろう。


私が言いだしたことだ。それなりの対応はさせてもらう。

だから教師である君が否定的にならず、実現へと向かってほしい。」


発言の責任、そして命令ではなく促す所を見るとこの人が上に立つ人間だという事を理解させられる。

その言葉を聞いた毛利先生は少し考えた後、分かりましたと返事をした。


「という事だ。修学旅行を計画する。

いつもであれば海外など広い視野で考えるが、

本来中止で考えていたので例年とは違う形になるかもしれない。そこは許して欲しい。」


俺達に頭を垂れて謝ってくる。

本来ふんぞり返ってもいい位の人なのに・・・。筋を通すことを大切に思っているのだろう。


「アンタ・・・そんなことを言いに来たのか?」


「本来は中止の謝罪をする予定だったんだがな。だが純恋、君にとってはいい話しだっただろう?


始めは嫌な顔をしていた純恋だが、今は少し嬉しそうな雰囲気を感じられる。

もしかすると修学旅行とは無縁の生活を送ってきたのかもしれない。


「場所は追々伝える。鍛錬の邪魔をしてすまない。これでお暇させてもらうよ。」


本当にこれだけ伝えてきたようで、皇太子様は背を向けて玄関の方へ向かっていく。


「・・あっ!開けましておめでとう!今年もよろしくな!!」


戸の前で止まり、思い出した様に振り向くと、新年のあいさつを言い放ち道場を出ていった。


「なんか・・・すごい人だな。」


「まあ・・そこらへんはじいちゃん似たんやろうな。

皇族の中でもまだ扱いやすい部類や。好きじゃないけどな。」


嵐のような人だったが、修学旅行があるのならこの状況を変えられるかもしれない。

二年生のみで行動するので涼音が純恋達に話しかける絶好の機会だ。


俺達と共に戦わないのであっても、

お互いにとって一度話し合いの場を設けるのは非常に大切な事だろう。


綱秀とアイコンタクトを取ると向こうも無言で頷いてくる。

突然の出来事だったが、事態を進展を望める状況に向かっている。

後は俺達のサポートも必要になってくるだろう。


「・・・寝正月を過ごして体がなまってないか?」


一段落着いた所で綱秀が挑発して来る。


「素直に立ち会いたいって言えよ。」


近くにあった木の槍を綱秀に投げ、木刀を持ちながら道場の中央に向かった。


「茜さん、彼らの戦いを見ていなさい。

国學館でも上位の強さを持つ方々ですからいい勉強になるはずですよ?」


しなければいけないことが決まったが

今はどれだけ考えても机上の空論に過ぎないため、頭をリセットするには体を動かすのが一番だ。


寮の道場でいつも行っていた鍛錬の様に綱秀と得物を交わす。

修学旅行か・・・楽しみになってきた。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

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