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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第五章 荷運び勇者の逃避行

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努力で知識を高めるのは、それを使って楽をするためだ

「魔王の心臓って……一応確認なんだが、それっぽい名前が付いてるだけのただの宝石ってことはないんだよな?」


 額に汗を一筋垂らしながら言う俺に、トビーは力なく首を横に振る。


「違います……いえ、正確には違うと思います。少なくとも僕は、これが『魔王の力を宿した石』であると聞いています。ただし箱を開けて中身を見たわけではないので、絶対とは……」


「そうか、まあそうだよなぁ」


 そこまでの危険物なら複数人に偽物を渡し、どれが本物か分からない状態でバラバラに運搬させるのは当然だ。


 だが、俺はトビーの持つこれこそが本物だと確信している。異世界で俺が巡り会うのは例外なく勇者。本物を他の誰かが運んでいるなら、俺が行動を共にするのはそいつでなければおかしい。


「心配しなくても、間違いなくそれは本物ですわよ?」


「えっ!? な、何で!?」


 そんな俺の予想を肯定するようにパームが言う。驚くトビーに対し、パームは得意げな顔でフフンと笑う。


「決まってますわ。他の四人から奪ったものは、全て偽物だと確認しておりますもの。私の知らない六人目がいるのであればわかりませんけれど……不安でしたら鑑定でもしましょうか?」


「…………遠慮しておきます」


 パームの言葉に、トビーが引きつった笑みを浮かべる。そ、そうか。他の運び手は全部やられちゃったのか……まあ俺達が干渉しなければトビーも奪われていたわけだしなぁ。


「でも、そんなに凄い物を、何でトビーだけに運ばせてるのかしら? 普通もっと護衛をつけるとかするんじゃない?」


「偽物を運んでいる方の中には、大量の護衛に守られている人もおりましたわよ? それはそれでやり方がありますから、城の宝物庫のような物理的に辿り着くのが困難な場所でなければどうとでもなりますわ」


「そうなの? 貴方達って割と凄いのね」


「……私達をあっさりと捉えた方々に言われても、皮肉にしか聞こえませんわ」


「ははは、まあ俺達は更に凄いって事だからな……そうだトビー、ちょっとそれ貸してくれ」


 拗ねたように言うパームに、俺は笑って答えつつトビーの手から箱をひょいっと奪い取り、自分の腰につけた鞄の中に突っ込む。


「…………はっ!? ちょっ、エドさん、何やってるんですか!?」


「いや、確認だよ確認。そんな大事なものなら、いざって時は俺やティアが運ぶこともあるだろ? 金属だと大きさが変わらねーから、鞄に入るか知っときたかったんだ。ティアもやっとくか?」


「あ、うん」


「いやいやいやいや! 駄目ですよ!? 返してください!」


 俺がティアに向かって差し出した箱を、トビーが慌てて奪い取る。そのまま大事そうに懐にしまい込むと、少しだけ非難するような目で俺を見た。


「勘弁してくださいよ!」


「悪い悪い。でも手で持つしかないか鞄に入るかは大きな違いだぜ? トビーだって懐のポケット? が破れたら大変だろ?」


「まあ、確かに……」


 何とも微妙な表情でトビーが唸る。大事なものを手に持ったままで戦闘や逃走を試みるのがどれだけ大変かは、逃げの勇者であるトビーならよく分かっているはずだ。


「ちなみに、いざって時はトビーとその箱、どっちを守って欲しい?」


「ぐぅ……そこは何とか、両方でお願いできませんか?」


「努力はする」


「断言! そこは断言しましょうよ!」


「ハハハハハ」


「エドさん!?」


 乾いた笑い声を上げる俺に、トビーがすがるような声を出す。そんな風にじゃれ合いながらも俺達は何とか次の町に辿り着き……そしてその日の晩。


「はいお疲れさん」


「っ!?」


 俺とトビーの泊まった部屋の窓から入ってきた男に、俺は問答無用で剣を振り下ろす。鞘をしたままなので斬ってはいないが、それでも首を後ろから思いきり叩いたので、打ち所によっては死ぬ。


「……本当に来ましたね」


「だな。今度は何処の奴らなんだろうな?」


 無言で床に倒れ伏す男を前に、俺とトビーは暢気に会話をする。向こうからすれば完全な奇襲だったはずだが、「他勢力が襲ってくる可能性がある」という情報を得たうえで「旅の足跡(オートマッピング)」と「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」を駆使すれば、基本的に奇襲は成り立たない。例外は範囲外から超高速で飛んでくるか、転移系の魔法なり魔導具なりで跳んでくるかのどっちかだけだ。


「それでエドさん。これはどうすれば?」


「なに、今度は簡単さ……お、生きてたか。ならもう一回勝負だ、頑張れよ」


 床に転がる強奪者を前に困った顔をするトビーに対し、俺は男を担ぎ上げて窓から外に放り捨てる。ここは二階だが、一応尻から落としてやったので二度目の判定はさっきより優しいと思われる。


 そうしてドサリと男が地面に落ちたことを確認すると、俺は徐に窓を閉めた。証拠を残さないためか綺麗にこじ開けてもらったおかげで、木製の戸がピッタリと落ちてくれた。


「……それ、閉める意味あるんですか? さっきもあっさり侵入されちゃいましたけど」


「んー? 防犯的な意味でならほぼ無いな。だが『こっちは何も見てませんよ』という意思表示にはなる。少なくとも明日の朝に宿の主人からどやされたり、町の衛兵に詰問されたりすることは無くなるはずだ。


 つまり相手がよっぽどの馬鹿か戦争上等の軍隊でもなければこれで今夜の状況は終了ってことだな。ほれ、念のためもう少し見張りやっとくから、トビーは寝とけ。無理矢理にでも寝ないと明日が辛いぞ」


「うぅぅ、わかりました……」


 これっぽっちも納得しない顔をしつつも、トビーが布団を被る。俺の方もしばらく様子を見てから再襲撃が無いと判断して休み、翌朝。当然ながら宿の側に不審な男が転がっているなどという騒ぎは起きておらず、俺達はしっかりと朝食を取り、物資の補給を済ませてから次の町へと出発した。


「本当に何事もなく町を出られちゃいましたね」


「暗黙の了解ってやつさ。騒ぎにしたくないのはむしろ相手の方だろうからな」


「はー、その手のやりとりは本当に何にもわかんないです。そういうのって他の冒険者の人達も普通に知ってるようなことなんでしょうか?」


「普通とは言わねーけど、知ってる奴は知ってると思うぜ? ある程度実力があると降りかかる厄介事も増えるしな」


「……一応言いますけれど、盗賊くらいならまだしも大きな組織の暗部との関わりに慣れているような冒険者を、普通とはいいませんわよ?」


 俺とトビーの会話に、呆れ顔をしたパームが加わってくる。その何とも心外な感想に俺が振り向いてみると、何故かティアまで微妙な表情を浮かべている。


「ごめん。私もそういうのはあんまり……」


「え、そうなのか? いや、でもアレクシスと敵対してる派閥とかからちょっかいかけられたりとかは?」


「少なくとも私は知らないわ」


「えぇぇ……」


 うーん、如何に大国の王子とはいえ……いや、だからこそ何も無かったとは思えねーんだが……ひょっとしてゴンゾのオッサンがチョコチョコ片付けたりしてたのか? それともアレクシスが自分で?


「多分ティアが知らなかっただけで、色々あったと思うぞ」


「そうなのかしら? ひょっとして私もそういうの勉強した方がいい?」


「そうだなぁ。ならついでだし、トビーを鍛える意味でもちょっとその手の奴らの対処法を教えとくか。これからエクリルに着くまでに何度も役に立つだろうし」


「よ、宜しくお願いします!」


「フフッ、新しい知識を得るのってワクワクしちゃうわね」


 真面目な顔で言うトビーと、楽しそうに笑うティアを前に、俺は一〇〇の異世界を渡り歩いて得た知識と経験を惜しげも無く披露していく。その内容に二人の表情がドンドンこわばっていくのが難点だが……うん、現実ってのはそういうもんだ。


「こんなこと言ったら駄目なんだと思いますけど、あんまり知りたくなかった感じです」


「エドに汚されちゃった……もう綺麗な頃の私には戻れないのね……」


「そんな大げさな。このくらいまだまだ軽い方だぜ?」


「「うぇぇ……」」


「……ねえクロード。即座に敵対しなかった自分の先見の明を自画自賛したいと思うのだけれど、どうかしら?」


「仰る通りかと思われます」


「……………………」


 俺以外の四人が向けてくる渋い顔に、俺自身もまた苦虫を噛み潰したような顔をするしかなかった。

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