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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第三章 海賊勇者の冒険譚

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自分自身は変わらなくても、他人が変われば環境は変わる

 その後は特に何事もなく、俺達は無事にスカーレット号に帰り着くことができた。ひたすら騒ぐピエールを一応チャロス港の近くまで送り届けると……流石に外洋に小舟で放り出したりはしなかった……再び気ままな海賊稼業が再開する。


 と言っても、全てが同じというわけではない。レベッカ自身は変わらなくても、周囲の反応が大きく変わってしまったのだ。


「お前等、随分いいお宝を手に入れたみたいじゃねーか。今までは小うるさい蠅だと思って放っておいたが、そういうことなら容赦しねぇ。叩き潰されたくなけりゃお宝を置いていきやがれ!」


「ハッ! アンタみたいな小物じゃアタシにもお宝にも触れやしないよ! アンタ達、あの身の程知らずに思い知らせてやりな!」


「「「アイサー!」」」


 今までは海賊が直接海賊を狙うことはかなり少なかったのだが、「灯火の剣」なんていう伝説のお宝を手に入れたせいで、レベッカに挑んでくる者は後を絶たない。まあ日常的に対海賊戦を繰り広げていたスカーレット号の船員は有象無象の海賊達よりもずっと強いし、そもそも俺とティアがいる以上、その襲撃が成功したことは一度として無いのだが。


 それに、変わったのは何も海賊の対応だけじゃない。商船や旅客船などの民間船の対応もまた大きく変わり始めている。


「おお、貴方があの有名なレベッカ船長ですか! 是非握手をしてください! あと、宜しければ『灯火の剣』の実物を見せていただきたいのですが……」


「あ、ああ。いいよ」


 満面の笑みで手を差し出してくる小太りの商人に、レベッカが引きつった笑顔を浮かべながら握手をする。それから腰の裏に着けていた銀の燭台を手に取ると、三つ叉の燭台の根元からニョッキリと蝋燭が生えてきて、その先端にポッと小さな火が灯る。


「おおおぉぉ!? これが! これがかの有名な……何と素晴らしい! 不躾なお願いではありますが、これを売っていただくことはできませんか? お金でしたら幾らでもお支払い致しますぞ!」


「いやぁ、それはちょっと……売りたくないってわけじゃないんだが、アタシ以外が持とうとするともの凄く熱いらしくてねぇ」


「熱い、ですか? その、触ってみても……?」


「後で文句を言わないなら、好きにしな」


 小馬鹿にしたようなレベッカの言葉に、商人の男が燭台へと手を伸ばし……その結果はお察しだ。もう幾度も繰り返されたやりとりであり、諦めきれない顔をした商人に背を向けて、レベッカが船の出航を告げる。


「ハァ、最近はこんなのばっかりだねぇ」


「お疲れ様です船長」


「ああ、エドかい。本当に疲れたよ。かといって無視するとそれはそれで追っかけてくるからねぇ」


「はは、いっそ全部沈めちまいますかい?」


「馬鹿言うんじゃないよ。そんなことしたら流石に軍が出張ってくるさ」


 通りがかった船員の言葉に、レベッカが苦笑して答える。確かに俺達は強いが、所詮は一隻の海賊船。国が本腰を入れて討伐部隊を編成したりすれば、あっという間に全滅させられることだろう。


「そう言えば、そろそろアンタが船に来て半年くらい経つね。どうするんだい?」


「そう、ですね。なら……次の寄港地で船を下ろさせていただこうかと」


「……そうかい」


 少し考えて出した俺の答えに、レベッカは短くそう言うと、そのまま立ち去ってしまった。一体彼女が何を思っているのかは、俺には知る由も無い。


「そういや、お前達は半年くらいで出てくって言ってたもんなぁ。時間が経つのは早いぜ」


「はは、そうですね。色々とお世話になりました、先輩」


「ガッハッハ! いいってことよ。あー、でも、お前はどうでもいいけどティアちゃんは残ってくれねぇかなぁ? 最近は襲ってくる海賊船を返り討ちにしまくってるおかげで懐も温かいし、何なら俺が可愛がって――」


「へぇ? 誰が誰を可愛がるのかしら?」


 ゲヘゲヘと下衆な笑顔を浮かべていた船員の背後に、見慣れた長耳の女性がヌッと現れる。俺にはわかる、矛盾しているようだがあの笑顔はこれっぽっちも笑ってない時の顔だ。


「ヒエッ!? ち、違うぜティアちゃん! 俺は――」


「んー?」


「な、何でもねぇ! くっそ、おっかなくって俺じゃとても手に負えねぇぜ! じゃあな!」


 笑いながら手を振って、船員の男がその場を去って行く。それを見送るティアは呆れ顔だが、そこには何処か寂しげな色も見受けられる。


「そっか、もうすぐお別れなのね」


「ああ、やりたい事は大体やったからな。それにここで帰らないと、おそらく当分先まで船を下りられなくなるし」


「そうなの? まあ確かに次で下りないなら、その次の寄港はまた何ヶ月も先でしょうけど」


「それとは違うんだが……まあ俺も確証があるわけじゃねーからな。ティアがもっと残りたいって言うなら、多少先延ばしにしてもいいぞ?」


 今回に限れば、勇者パーティから追放されるという条件を満たすのはかなり容易だ。年単位で引き延ばすのは難しくても、数ヶ月程度なら問題ない。


 が、俺の問い掛けにティアは微笑みながら小さく首を横に振る。


「ううん、いいわ。エドの判断を信じる……あと、正直野菜の皮はもう剥き飽きたもの」


「ははは、そうか。それじゃ……」





「ここでいいのかい?」


 それから二週間後。もはや海賊船だというのに普通に寄港できるようになったスカーレット号の甲板にて、レベッカが俺達にそう問うてくる。


「ええ。寄港の度に俺達の旅の成果(・・・・)をコツコツと流してたんですが……最近の船長のご活躍(・・・)もあって、もう十分な感じになりましたから」


「お世話になりました、船長さん」


 俺の言葉とぺこりと頭を下げるティアに、レベッカが軽く苦笑する。


「別にアタシは大したことはしちゃいないよ。でも、そうだね。アタシの活躍が役に立つって言うなら、これからはもっといい目が見られるかもねぇ」


「じゃあ、やっぱり?」


「ああ。もうご近所にはうんざりだからね……外に出る(・・・・)


 俺の問いに、レベッカがニヤリと笑って言う。ああ、やっぱりそうか。それは是非とも見てみたいし、興味もあるんだが……だからこそここが俺達の終着点。ここから先を堪能するのは、この世界の人間だけの特権だ。


「ご活躍をお祈りしてます」


「フッ、楽しみにしときな。世界の何処にいたってアタシの名前が届くような、とびっきりの大冒険をしてきてやるよ!」


「外? 冒険……あっ!? うぅ、私も行ってみたかったなぁ」


 と、そこでやっとレベッカの言葉の意味を理解して、ティアが残念そうに眉根を寄せる。


「ん? ならアンタだけでも一緒に来るかい?」


「それは……ごめんなさい」


「ハッ! わかってるさ。結局アタシには、アンタ達が何者なのかわからなかった。でもアンタ達がどういう仲なのかすらわからないほど間抜けじゃあ無いつもりだよ。


 たとえ一時だけとはいえ、アンタ達はアタシの船に乗った海賊だ! 海賊なら自分の思うまま、好きに生きな! エド、ティア、アンタ達二人の下船を許可する!」


ピコンッ!


『条件達成を確認。帰還まで残り一〇分です』


 俺の頭の中に、聞き慣れた声が流れてくる。これでもう後戻りはできないし、するつもりもない。俺達がタラップを下りれば、スカーレット号はゆっくりと港を離れていく。


「海賊なら身分なんざ糞くらえだ! 幸せになるんだよ!」


 最後にそう大声で叫んで、レベッカ達の船が征く。その目指す先に何があるかは……もう少ししたらきっとわかることだろう。


「フフフ。ねえエド、幸せになりなさいだって」


「まあ、そういう勘違いをされるのは想定内だからな」


 身一つで海賊船に転がり込んだ男女二人……一番わかりやすいのは身分違いの恋を原因とした駆け落ちだろう。実際俺とティアはほぼずっと一緒に行動しているわけだし、良くも悪くも無警戒なティアが俺のベッドに忍び込んできたりしているのだから、むしろそう思われない方がおかしいくらいだ。


「あら、勘違いじゃないわよ? エドに助けてもらって、エドのおかげで色んな世界を巡って、自分だけじゃ絶対に出会えなかったような沢山の人に出会えて……私、幸せよ?」


「そいつぁ良かった」


 微笑むティアに、俺も笑顔で手を差し伸べる。二人で手を繋いで人目の無い倉庫街の片隅に身を潜めると……程なくして、俺達の存在は音も無くこの世界から消滅するのだった。

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