その先へと道は続く
最終回なので、大増量でお送りします(笑)
また、本日から新連載「見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~」を始めました! 是非ともこちらも読んでやってください。
https://book1.adouzi.eu.org/n8582hr/
「うおっと……少し重くなったか?」
「エドの馬鹿!」
抱きついてきたティアを受け止めてそう言うと、俺の頭がベシッと引っ叩かれる。うんうん、実に懐かしいやりとりだ。やっぱりいいなぁ。
「にしても、本当に早かったな。正直もっとずっとかかると思ってたぜ」
「えぇ? でもここに戻るのに、えっと……八〇年くらいかかってるわよ?」
「いやまあ、そうなんだろうけどさ。どうもここにいると、時間の感覚がなぁ」
別に、この殻の中の時間の流れる速度が外と違うというわけじゃない。単純にここでいなくなった奴の代わりをしていると、時間を意識している暇がないというか、一秒の感覚が一秒ではなくなるというか……あー、駄目だ。これは実際体験した奴にしかわからねー感覚だろうな。
「なーにエド、まさか私と再会できたのが嬉しくないの?」
「馬鹿言え。とは言え、のんびりするのはやることやってからだな」
冗談めかして言うティアの膨らんだ頬を指で突いてから、俺はその体を離してもう一人の客に意識を向ける。するとそいつは驚きで固まっていた状態から、即座に腰の剣を引き抜いて構えた。
「ハッ!? な、何だここ!? 誰だお前!? 何で俺と同じ顔……ま、まさか俺を捨てた親父とか言うんじゃねーだろうな!? 今更出てきたって、俺はお前なんか認めないからな!」
「おぉぅ……おいティア、何でこいつ、こんな愉快な方向に成長したんだ?」
「あはは……まあほら、旅の間に色々あったのよ。何処まで本当の事を話していいかもわからなかったから、適当に誤魔化してる間に……ね?」
「なるほど? まあいいさ。戻すのは一瞬だしな」
ゆらりと体を揺らし、俺はそいつに向かって駆けていく。相手が構えているのは、上質な剣。多分どこぞの名工が、いい具合に色んな金属を配合して打ったんだろう。だが……
「そいつじゃこれには届かねーぜ?」
「なっ!?」
俺が「彷徨い人の宝物庫」から取りだしたのは、ティアが持っていった「黄昏の剣」だ。それに驚きそいつが一瞬だけ体を硬直させるも、きっちりと俺の剣に合わせてくる。
「それはティア姉さんの剣だぞ! 返せ!」
「いーや、こいつは俺の剣さ。俺の師匠が、俺のために……世界の未来のために打ってくれたんだ」
「嘘だ! お前みたいなしょぼくれた奴に、そんな凄い師匠がいるもんか!」
「しょぼくれって……」
お前も同じ顔してるぞ、という突っ込みは不毛の極みなのでしない。それとこいつ、普通に強い。純粋な剣術なら俺よりちょっと下くらいの腕前だ。
「ハハッ! 強いなお前!」
「お前じゃない、アレンだ!」
「ならアレン! お前の全力はこんなもんか?」
「んなわけねーだろ! 『去れ』!」
アレンの剣が黒い光を纏い、「終わりの力」が俺に斬り込んでくる。だが俺は、それをひょいと片手で受け止めた。神の代理になろうとも、俺の本質は終焉の魔王。貸してるだけの自分の力で終わらされるほど温い生き方はしちゃいない。
「はぁ!?」
「悪いな、それこそ通じねーよ……とは言え、都合はいい。じゃ、サクッと交換するか。ほれ」
「っ!? ガァァァァァァァァ!?!?!?」
俺はアレンの顔面を掴み、まず俺の力を取り返してから、奴の力を返してやる。するとアレンは大声で叫びながら床に転がりのたうち回り……だが三〇秒もしないうちに立ち上がると、無表情ながらも怒りの籠もった目を向けて俺に声をかけてきた。
「……………………どういうつもりだ、魔王よ」
「お、漸くお目覚めか。気分はどうだ、神様よ?」
「どういうつもりだと聞いている!」
「そう怒鳴るなよ。お前が小さき者の生き様をちゃんと体験したいって言ってたから、そうできるようにしてやっただけさ」
ここで代理を務めてみてわかったが、確かに神の力はあまりに大きすぎる。こんなものを自分の力として宿していたら、そりゃ人間の気持ちなんてわかりようがないだろう。
「シーナに聞いた話を思い出して、考えたんだよ。俺とお前で力のやりとりができるなら、それ以外の奴にも力が移る可能性があるんじゃねーかってな。
で、お前がそれを把握してないはずがねーから、そうなると『同じ世界をループさせる』っていう対象は、俺という存在じゃなく、俺の持ってる『終わりの力』なんだろうって予想ができたわけだ。じゃなきゃ万が一『終わりの力』が俺以外の存在に渡った時、そいつが自由に暴れ回れるのに、無力になった俺だけが延々と閉じ込められてるって間抜けな構図が出来上がっちまうからな」
ひょいと肩を竦めて言う俺に、神は無言を貫く。それは気に入らないが認めざるを得ない肯定であり、ならばと俺は更に言葉を続けていく。
「で、その予想は大当たりだった。俺の力を取り込んだお前が死んだことで、お前は力と記憶を奪われて俺の代わりに『白い世界』に飛ばされた……後はお前の知っての通りさ。
神自身が全力で創った仕掛けだからこそ、神の力と記憶すら奪うことが可能だった。それで漸くお前を人にしてやれた。ま、その分俺は大変だったけどな」
神の代わりになってから今日までの日々を思い出し、俺の背筋がプルりと震える。本当に本当に、大変だったなんて言葉じゃ表現できないくらい大変だったのだ。
何せ相手は神の力。俺なんかじゃとても扱いきれないが、かといって何もしないと光をなくした世界が終わってしまう。然りとて力を入れすぎればこの殻が砕けてしまい、そうなると本来の持ち主では無い俺では霧散していく力を保持できなくなってしまい、それこそ取り返しの付かない大惨事になってしまう。
故に、俺が出来たのは本当に必要最小限。俺が開けた穴から、いい感じにジンワリと光が漏れるように出力というか、力の方向性を調整しただけ。言葉にすればそれだけだが、そこには針の穴に大根を通すより難しい精密動作が必要だったのだ。
ああ嫌だ、あんなの二度とやりたくねー。もしも俺が神じゃなかったら、今頃ゴンゾのオッサンより禿げてる気がするぜ。
あ、ちなみに、同じような条件なのにティアが記憶を失わなかったのは、ティアの魂に「半人前の贋作師」で全く同じものを上書きして被せ、そっちが消えることで誤魔化したからだ。普通なら魂の上に魂を被せたりしたら発狂してしまうが、元と全く同じものをほんの一瞬だけだったので、何とか上手くいった形である。
「で、どうだった? 人間として暮らしてみた感想は?」
「……………………悪くはなかった」
「そこははっきり言えよ! なあティア?」
「そうね。アレンはとっても楽しそうに旅をしてたわよ? それとも私と一緒の旅は、楽しくなかった?」
「それは…………っ」
俺の隣で微笑むティアに、神が言葉を失う。そのまましばし俯き……そして顔を上げたアレンは、疲れたようなため息を吐いた。
「ハァ、わかった。私の負けだ。確かに今、私はこの世界が滅んでしまうことを残念に思っている。ならばこの殻を壊し、私は再び神として世界を照らそう。それでいいのだろう?」
「そうだな、俺達にとっちゃ、それが最良だ。でもアレン、お前はそれでいいのか?」
「いいも何もない。私は神――」
「違うぞ、俺はアレンに聞いてるんだ」
まっすぐにアレンを見つめて言う俺に、アレンは再び言葉を失う。沈黙が何よりもその気持ちを雄弁に語り、拳を握ったアレンが遂にその感情を露わにする。
「いい訳がない! 一度我が身として知ってしまった感情を、今更無かったことになどできるものか! だが力が戻った以上、どうしようもない!
これで満足か魔王よ! 二度と得られぬ幸福の味を覚えさせ、その思い出に苛まれ続けるこの私を見ることが、お前の目的だったのだろう!?」
「…………そうか。それが聞けりゃあ、十分だ」
アレンを前に、俺は「黄昏の剣」を構えて力を込める。以前はこいつに「終わりの力」を纏わせようとして失敗したが、あれは使い方を間違えていたからだ。さあ、これが俺の最後の一撃だ!
「切り離せ! 『此処より先に何も無し』!」
振るった刃は空を切り、然れどアレンと神を……神の力を切り離す。その事実に気づいたアレンが、ワナワナと体を震わせ俺に掴みかかってきた。
「何を……お前、今自分が何をしたのかわかっているのか!? 私との繋がりを終わらされたアレは、もはやただの力の塊だぞ!?」
「わかってるさ。でも、世界を照らすだけならあれで十分だろ? まあ新しい世界を創ったりとかはできねーだろうけど」
「それどころではない! 私から切り離されたということは、いつか尽きるということだ! お前は今、この世界に……限りなく無限に近い全ての世界に、寿命を与えたのだぞ!」
「それも勿論、わかってるさ。でもよ、終わるってのは悪いことだけじゃねーんだ。何だって初まりがあれば終わりがある。そして終わるからこそ新しく始まるものもある。
だから永遠なんてもんのために、お前が……アレンが犠牲になる必要はねーんだよ。何せ俺は我が儘で自己中心的な魔王様だからな!」
「っ……………………」
俺の目指すハッピーエンドは、想像も出来ない未来のことなんかじゃない。今この手の届く範囲で、俺の周りにいる奴らを幸せにすること。それだけを望んでやり直してきた。そして今、そこに辿り着いた。
そんな俺の所業を、終わりに直面した世界の人々は、きっと口汚く罵るのだろう。世界を終わらせるきっかけになった魔王だとか……まあその通りなので何も反論できないわけだが。
「ってわけだから、ほれ」
「……? 何だ?」
俺の差し出した手に、絶句していたアレンが怪訝な顔で首を傾げる。すると横からぴょんと飛び出して来たティアが、アレンの手を強引に掴んだ。
「一緒に行きましょうってことよ! もうここに閉じこもってる理由はないでしょ?」
「ティア姉さん……ゲフン! いや、その……」
「フフッ、別にティア姉さんでもいいわよ? それとも、昔みたいにお姉ちゃんって呼ぶ?」
「え、アレンお前、ティアの事お姉ちゃんとか呼んでたの?」
「う、うるさい! 人に成り果て……成り立ての頃は、自我の確立が不十分だったのだ! お前だって時を戻されて最初の方は、随分と情けない姿を延々と晒していただろう!?」
「そりゃ俺の方は一人だったし、いきなり勇者パーティに放り込まれたりしたからだろ! お前はティアが一緒だったんだから、全然違うじゃん!」
「違わぬ! 失った力の大きさを考えれば、むしろ私の方がずっと理不尽な環境であったはずだ!」
「はいはい、二人とも、そこまでよ。それでエド、具体的にはこれからどうするの?」
「あー、そうだな。俺としては取りこぼした力の欠片を回収しときてーんだけど……この場合ってどうなるんだ?」
「……フンッ、その程度ならどうにでもしてやる」
つまらなそうに鼻を鳴らしたアレンが、パチンと指を鳴らす。すると一瞬にして周囲の景色が切り替わり、そこは見慣れた「白い世界」であった。
「え、マジか!? アレンお前、神の力は無くしたんじゃねーのかよ!?」
「お前が無くさせたんだろうが! 確かに新たな力は使えぬが、既に構築されている仕組みを利用するくらいは訳ない」
「はー、そうですか。流石は元神様だことで……」
「あ、でも、出てる扉は一つきりなのね。ということは……」
キョロキョロと周囲を見回してから話しかけてきたティアに、俺はニヤリと笑みを浮かべて答える。
「どうやら、また最初からやり直しってことらしいな。ならまあ、心機一転していきますか」
「おー! ほら、アレンも!」
「むぅ…………お、おー……」
心から楽しそうに笑うティアと、戸惑うアレンを引き連れて、俺達はたった一つしかない扉へと歩いて行く。最初の世界は毎回同じだったし、となるとこの向こうは魔王のいない第〇〇一世界のはずだが……
「あ、そうだ。アレンとこの世界に来た時のことだけど――」
「待てティア! ネタバレは駄目だ! せっかくだし、色々堪能したい」
「あらそう? じゃあ一つだけ……王子饅頭が売ってたわよ」
「ブホッ!?」
ティアの爆弾発言に、俺は思わず吹きだしてしまった。俺が今も神の力を持ってたら、多分幾つか世界が吹き飛んでたと思う。
「饅頭……フフフ、そうか、売ってんのか……」
「うわ、エドが悪い顔をしてるわ」
「下劣な品性が剥き出しになっているぞ、魔王よ。もう少し自重しろ」
「うるせーよ! ってか、お前ずっとその顔なわけ? ちょっと変えるとかしない?」
「お前が変えればいいではないか! 私はずっとこの顔だ!」
「いいじゃない。エドがお兄ちゃんで、アレンが弟ね」
「えぇ? その流れだと、ティアは……?」
「もっちろん、お姉ちゃんよ!」
「だよなぁ……ははは。よし、本当に行くぞ!」
楽しみで爆発しそうな気持ちを抑えて、第〇〇一世界への扉を開く。すると視界が光に満たされていく。
この先にどんな旅が待っているのか、まだまだ楽しみは尽きないようで……なら、もう一周して無双しますか!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




