強い奴らが集合したら、更に強いに決まってる
『ハッハー! さあ、ドンドン行くよ!』
『ちょっ、レベッカさん!? もう少し速度を抑えた方が……』
ノアブレインの操舵室にて舵を取るレベッカに、側にいるトビーが怯えた声を出すのが聞こえる。こっちは甲板なのでその姿を見ることはできねーが、その情景が目に浮かぶようだ。
ちなみに、トビーが操舵室にいるのは、その類い希なる危機回避の才能を生かして、進路を指示してもらっているからだ。手足のように船を操るレベッカの技術と相まって、俺達の進行速度はさっきまでとは比較にならないほど速い。
無論、それは正面から高速で敵が突っ込んでくるということでもある。が、これだけの数の勇者がいれば、その程度はどうとでもなる。
「行くのだ! 衝撃肉球拳!」
「超! 稲妻メッチャ斬り!」
「えーっと……に、ニコスラッシュ!」
ワッフルとバーン、それにニコが、正面から迫ってくる敵に向かって攻撃を繰り出していく。素で叫んでいる二人に対して、ニコの顔はちょっと赤い……恥ずかしいなら無理に言わなくていいと思うんだが、まあニコはちょっと流されやすいところがあるからなぁ。
「ギョギョーッ! 何でオレだけ船の外なんだギョーッ!?」
「それは君だけが、船の外で活動できるからだろう? むしろどうして活動できるんだい?」
「そんなのオレにだってわからないギョ。でもこの黄金の波は泳げそうな気がしたんだギョー!」
船の後方では、一人船外に出て船体を押しているギンタに、チューリッヒが興味深げな視線を向けている。どうやらギンタは創世子で出来た海だか波だかを、この船と同じように泳ぐことができるらしい。なので繊細な回避に必要な微妙な船の位置調整を一手に担ってくれているのだ。
確かに一人だけ船を下りて押している姿はちょっと可哀想に見えなくもないが、そこは適材適所ということで頑張って欲しい。実際ギンタの微調整のおかげで、船への被弾は格段に減ったしな。
「へぇ、ミゲル君もエドさんに剣を教えてもらったの?」
「そうだよ。エイドスは僕の師匠なんだ」
左舷では、エルエアースとミゲルの二人が、追いすがってくる「羽付き改」を会話しながら叩き落としている。俺が再現したせいで二人の見た目こそ子供のままだが、その中身は「勇者顛末録」に刻まれた結末までの経験が生きているので、剣の腕は達人級だ。あの様子なら何の問題もないだろう。
「神様なんかに、僕とマオちゃんの未来は邪魔させないぞ!」
「俺だって、ドーマやケインとの暢気な生活を邪魔させねーぜ!」
「まさか私が、こちら側に立つことになるとはな……ハハハ」
対して右舷の方では、神にいい思い出のないユートとジンクの隣で、シュバルツが微妙な笑みを浮かべながら剣を振るっている。その気持ちは察して余りあるが、特に何を言えるということもない。何というか……強く生きて欲しいと願うだけだ。
「さあさあ、怪我をした人はすぐに言って下さいね。いえ、むしろ怪我をする前から全部まとめて癒やしてしまえばいいのでは?」
「あの、リーエル様? それは流石に大雑把過ぎるというか……」
「そうでしょうか? 手っ取り早くていいと思いますけど」
「武器に問題があったら、全部こっちに持ってこい! 俺が新品同様に打ち直してやるぞ! おら若いの、もっと腰入れて運べ!」
「は、はい!」
船の中央後方では、ちょっと張り切りすぎているリーエルにマーガレットが突っ込みをいれ、気合いの入ったドルトン師匠の側では、マグナがあれこれ指示されながら金属の入った箱なんかを運ばされている。
勿論、他にもローレンツが『勇者の号令』で全体の能力を底上げしていたり、アネモが「羽付き改」を観察して能力を分析していたり、壺を探し始めるゴウに「何故壺!? やっぱり男、意味わからない!」とドナテラが絡み、それをレインが必死で止めるという不毛な場面もあったりするが……とにかく皆が皆、それぞれに出来ることをやっている。ならば俺達だって、黙って見ているわけにはいかないだろう。
「皆、準備はいいかい?」
「勿論!」
「私もいつでもいけるわよ!」
「まさか誰かと協力して戦える日が来るとはな……だが、それもまた運命か」
俺とティアの横には、アレクシスとハリス。俺が出会った最初の勇者と、その世界最後の勇者が並び立つ光景には、何か特別なものを感じてしまう。
だが、それを言うならこの場で起きていること全てが、そもそも特別だろう。世界を終わらせることのできる魔王が、勇者を引き連れ世界を創った神をどうにかしに行く……何とも洒落の効いた話だ。
「FOOOOOOOO!!!」
そしてそんな俺達の前には、一際巨大な「羽付き改」が迫ってきている。ゆっくりに見えるのは距離感が滅茶苦茶になっているだけで、多分全長五〇〇メートルくらいあるんじゃないだろうか? いやもう、目算すら立たないので何となくでしかないが。
敵がでかすぎるのとこっちが速すぎるので、回避は極めて困難。停止して横に移動すれば正面衝突を避けるくらいはできるだろうが、ここで速度を殺してしまえば、後は大量の敵に押しつぶされるだけになってしまう。
常識的には絶体絶命。だがこの場に、常識程度で絶望するような軟弱者は一人だっていやしない。
「皆、僕に合わせてくれたまえ! 三……二……一……『満月光剣』!」
「終わっとけ、でかぶつ!」
「解放、『ストームブリンガー』!」
「その冬、越えさせてもらうっ!」
アレクシスの放った白銀の光弾に俺の「終わりの力」が渦のように巻き付き、その周囲をティアの起こした嵐が包んで、最後にハリスの一撃が一体となったそれを叩いて前方へと撃ち出す。
「FOOOOOOOO!!!」
でかくなりすぎたせいかまともな言葉を発せられなくなった「羽付き改」が遠吠えのような声をあげると、その口から炎が、冷気が、稲妻が迸った。その三色吐息を受けてティアの嵐が消し飛んだが、攻撃はまだ健在。
「FOOOOOOOO!!!」
巨大な「羽付き改」の腕が動き、両手で光弾を挟み込む。だが纏わり付いた終わりの黒が、その存在と引き換えに「羽付き改」の両手を黒い塵へと変える。そうして最後に残った光弾が「羽付き改」の胸に突き刺さると、その巨体に見事な風穴が空いた。
「FOOOOOOO…………!!!」
「今だ、突っ込め!」
『任せときな!』
一気に加速したノアブレインが全速で突っ込むと、あっという間に俺達は巨大な敵をやり過ごすことに成功した。あのでかぶつが一時停止し、振り返って追いかけて来る頃には、この船は遙か遠方へと到達していることだろう。
「ハッハー! どうだ! 別にまともに戦ってやる必要なんてねーんだよ!」
「流石はトビーね。こんな抜け道……いえ、逃げ道? が思いつくなんて」
『いやぁ、それほどでも……』
『ハハハ、遠慮しなくてもいいじゃないか。坊やの活躍は誰だって認めるところさ。何ならアタシの船に欲しいくらいだよ』
『ええっ!? お誘いは嬉しいですけど、海賊はちょっと……で、でもレベッカさん、凄く美人だし……ごくっ』
「トビー、お前まだ懲りてなかったのか……」
「私達と旅した短い間だけでも、何度も痛い目をみたのにねぇ」
生唾を飲んで迷うトビーに、俺とティアは顔を見合わせ苦笑する。だがそんなところもトビーらしくて、何だか嬉しくなってしまう。
「ねえエド、私今なら誰にも負ける気がしないわ」
「奇遇だな。俺もだ……まあ、俺は最初っから負ける気なんてなかったけどな」
「あー、ズルい! じゃあ私も、私も最初からそうだったわ!」
「ハッハッハ、そうかそうか」
「むーっ! 本当にそうなんだからね!」
むくれるティアをそのままに、俺は正面を向いて剣を構え直す。その視線の先にあるのは、随分と大きく見えるようになった白い球。さてさてどっちの勢いが勝つか……悪いがこのまま押し切らせてもらうぜ?




