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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第三章 海賊勇者の冒険譚

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騙される方が悪い? うんうん、確かにその通りだな

「そっち行ったぞティア!」


「任せて!」


 聞いていた説明よりもずっと速く走り回る角突きロバだったが、俺が追い立てた先でティアの剣がその足を切りつける。すると太い足にギュリギュリと茨の蔓が絡みつき、ラブルドンキーが音を立ててその場に倒れる。


「ブギー!? ブギー!」


「フフーン、どう? いくら貴方の力が強くても、私の『スネアローズ』はそう簡単には千切れないわよ?」


「ああ、大したもんだ。それじゃ、悪いな」


「ブギィィィィィィィ!?」


 暴れて鳴き声をあげるラブルドンキーの首を、俺の剣が切り落とす。先日の海戦で奪った剣をそのまま使ってるんだが、こいつはなかなかにいい剣のようだ。


「うーん、思ったよりもずっと質がいいな。あいつら服だけじゃなくこんな剣まで支給されてるのか……ちょっとした町の警備兵より待遇いいんじゃねーか?」


「流石に海賊船でお給料は出ないでしょ……っと、これで三本目ね」


 雑談に興じつつも、ティアがサクッとラブルドンキーの角を切り落とす。実は角の方がずっと硬いのだが、あっちは最高品質の付与魔術(エンチャント)を施した銀霊の剣なので何の問題も無い。


「こんなのが一本で銀貨四〇枚ねぇ……冒険者ギルドに持っていった場合は幾らになるの?」


「ん? 常設依頼じゃないから多少は変動するだろうが、確か一〇枚から一五枚くらいじゃなかったかな?」


 一周目の時は、勇者を探して普通に冒険者ギルドに聞き込みに行っていた。その時の淡い記憶を辿ると、おそらくはそのくらいだったと思うんだが……ま、大きく間違ってることはないだろう、多分。


「えぇ? 素材として単体で売った方が高くなるのに、どうしてみんなそうしないの?」


「そりゃ勿論、表立っては買い取ってないからだよ。この角を材料にして作れるのは、ちょっとヤバ目の興奮剤だからな」


 俺の持っている追放スキル「七光りの眼鏡(レインボーグラス)」は、人の可能性だけではなく物品の可能性……つまりはどんな方向に利用できるかも大雑把にだがわかる。それによるとこの角を削った粉を材料にすると、かなり強めの強心効果が得られる薬ができるようだ。


 薄めて使えば普通に精力剤として、濃いままに使えば一晩中女を鳴かせられる代わりに心臓をやられてそのまま腹上死を狙えるというのは、普通に売るにも暗殺にもと使い勝手が良さそうだ。


「それ、冒険者ギルドは知ってるのかしら?」


「知ってるだろ。だから討伐証明の部位に指定してるんだよ。敢えて、な」


「……?」


 俺の話に、ティアが微妙に首を傾げている。確かにまっとうに生活しているとこういうカラクリには気がつかないかも知れない。


「ほら、討伐証明って基本的にはその魔獣の利用価値のない場所を指定するだろ? ゴブリンの左耳とか」


「そうね。じゃなかったら素材として売れる分のお金が損しちゃうもの」


「だな。つまりギルド側は、この角を『利用価値のない物』としておきたいんだよ。それに、討伐証明の部位となると依頼を出して買い集めることもできない。冒険者が不正にランクを上げるのを防ぐためってことで、討伐証明の部位は表向き売買が禁止されてるからな。


 その結果、この角は普通に見かける素材にも関わらず、自分でラブルドンキーを倒すかギルドに裏から手を回すか、あるいは俺達みたいに非正規で依頼を受けるごろつきからしか手に入れられない貴重品になったってわけだ」


「危ない薬の材料が目につく場所に沢山あるから、それに価値がないように思わせつつ手に入れる方法を制限する……うわぁ、世の中にはエドみたいに凄いことを考える人がいるのね」


「魔獣を全滅させるなんてどう考えても無理だし、金になるってわかったらこっそり持ち込む奴なんて幾らでもいるだろうからな」


 近くの川底に砂金が積もってようと、知らなければ人は何も気にせずそれを踏みしめ川を越えていく。興味を削いで流通を制限するこのやり方は実に合理的で、考えた奴は随分と頭が切れるんだろう。


「で、エドはそれ、どうするの? まさかそのままあの人達に渡すの?」


 ひとしきり納得を示したティアが、軽い口調でそう問うてくる。ここで俺が「そうだ」と言えばその綺麗な顔を歪めてお説教されるんだろうが、当然俺の答えは違う。


「渡すのは渡すぜ? じゃないと金が貰えないからな。でもそのままじゃない」


「? どういうこと?」


「フフフ、それはな――」





 キィッと音を立てて、俺はうらぶれた酒場に舞い戻る。今回もまた場違いな存在に店内のごろつき達が目を向けてくるが、その視線もすぐに逸らされる。おそらくは俺達がレベッカの一味だと言うことが周知されたんだろう。


「どうした? ここは表のギルドとは違うんだ。失敗したからって一々報告する必要はないんだぞ?」


「ははは、違うって。ほれ」


 契約などなく、ただ結果に報酬を払うだけだと言う店員の男に対し、俺は腰の鞄からラブルドンキーの太い角を三本取りだしてカウンターに転がす。すると男はピクリと眉毛を持ち上げて驚きを表した。


「こんな短時間で三匹も狩ったのか?」


「まーな。どうやら運が良かったみてーだ」


 実際には追放スキル「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」を使っただけだが、それを知らない奴からすればたった一日で三匹も仕留めてきたのはよほどの驚きだったんだろう。ならばこそ店員の男はその角を手に取り、じっくりとそれを観察していく。


「……本物、だな。若干軽い気もするが」


「重さなんて知らねーよ。何だよ、軽いと安いのか?」


「そう、だな。多少安くなるが……」


「そっか。なら悪いけど他に持っていくことにするよ」


 そう言ってテーブルの上の角を回収しようとすると、俺の伸ばした手を店員の男が掴む。


「何だよ?」


「待て。いや、待ってくれ……わかった、約束した金額で買い取る。角三つで金貨一枚と銀貨二〇枚、それでいいか?」


「……ま、いいぜ。そういう約束だったからな」


 俺が腕から力を抜くと、店員の男は素早く角をしまい込み、代わりにカウンターの上に銀貨を積み上げ、最後に金貨を一枚パチリと置いた。今度は俺がしっかりとその枚数を確認してから、腰の鞄の中に無造作に放り込む。


「どうやら俺が思っていたよりずっと腕が立つようだな。どうだ? 追加で仕事を受けてみる気はないか?」


「いや、やめとくよ。この金で買い物もしたいし、出航に間に合わなくなったら困るからな」


「……そうか。ところで、一つ聞いてもいいか?」


「まだ何かあるのか?」


 少しだけトゲのある声を出す俺に、店員の男は僅かに目を伏せて答える。


「厄介事の類いじゃない。その……何でそっちのお嬢さんはずっと顔を伏せているのかと思ってな」


「うぇっ!? あ、あー……それは、あれだ。こいつはちょっと照れ屋なんだよ」


「そう、なのか? 前に来た時は普通に顔を見て話していたと思うんだが……」


「チッ、そういう日があるってことだよ。いい大人ならわかれよ」


「……………………そうか、すまん」


「じゃ、じゃあな!」


 ティアの耳がみるみる真っ赤に染まっていくのに気づいて、俺は冷静に、だができるだけ急いで店を後にする。そうして酒場から少し離れると、顔を上げたティアが思いきり俺の背中を叩いてきた。


「エドの馬鹿! 何よ今の!?」


「仕方ねーだろ! てかティアが顔に出しすぎるのが問題なんだろーが!」


「だって……フッ、クックックッ……」


 抗議の声を上げる俺を前に、ティアが腹を押さえて引きつった声を上げる。といっても堪えているのは痛みではなく笑いだ。


「あんな……あんな真剣な顔で、本物だって……クックックックック……」


「へっへっへ、俺の仕事はいつだって完璧なのさ」


 ポンと叩いた俺の腰の鞄には、念のため「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」に入れずにおいた三本の角(・・・・)が入っている。


 追放スキル「半人前の贋作師(コピーアンドフェイク)」、その効果は……見た目がそっくりな偽物を作り出すこと。


「でも、平気なの? ちょっと削ったらすぐ偽物ってばれちゃうのよね?」


「表の世界なら騙す方が悪いが、裏の世界なら騙される方が悪い。この程度の金額を取り戻すのに『俺達はまんまと騙された大間抜けです』なんて名乗りをあげたりしねーだろ」


「なら……?」


「ああ、俺達の大勝利だ」


 ニヤリと笑って俺が手を上げると、ティアがパチンとそれを叩く。景気のいい勝利の音が、暗い裏路地に気持ちよく響き渡った。

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