どうせやらなきゃいけないことなら、無駄に悩む意味はない
本日は遂に、当作「追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双」の2巻が発売となりました! 続きを書き続けるためにも、どうか手に取って応援していただけると嬉しいです。
「え、どういうこと!? 終わりかけとかじゃなくて、もう終わっちゃってるの!?」
シーナの言葉に激しく反応したのはティアの方だ。対して俺は、悪い予想が的中してしまったことに、ただ奥歯を噛み締めて顔をしかめる。
「そうです、もう終わっています。より正確には、この封印世界は……ですね。箱の外は元々神様の光が満ちておりましたので、まだギリギリ踏みとどまっている、という感じでしょうか?」
「そんな……」
「落ち着けティア。大丈夫だから」
ガックリと肩を落として泣きそうな声を出すティアに、俺は肩を叩いてそう告げる。するとティアが翡翠の瞳に涙を浮かべたまま、噛み付くように俺を睨み付けてくる。
「何言ってるのよエド! 世界が……みんなが死んじゃったのよ! 何でそんなに落ち着いていられるのよ!」
「いや、だってそんなのいつものことだろ? この世界が繰り返す度に、全部終わって、また始まってるんだぜ?」
「あっ……」
ハッとした表情になったティアが、その視線を周囲に彷徨わせる。その先に並んでいるのは天を突く巨大な本棚と、砂漠の砂粒より多いであろう莫大な本の山だ。
「そっか、この場所……」
「そうだ。ここが無事なら、世界はまた再生……いや、再誕か? とにかく全部元に戻る。そうだろ?」
「そうですね。このアガスティア・アーカイブは封印内部でも特に厳重に隔離された場所なので、ここもまだしばらくは大丈夫です」
「しばらく、か……」
「はい。完全隔離空間なので神様の光が霧散しないというだけで、大本である神様がお目覚めにならなければ、蓄えた光がいずれ尽きてしまうのは必定です」
「なるほど。なら聞きたいことが三つある。まず一つ目は、そもそも何でこんなことになってんだ?」
謎ってのは一つずつ順番に解きほぐさないと、あっちこっちで絡まって訳が分からないことになりがちだ。ならばこその最初の質問に、しかしシーナは静かに首を横に振る。
「わかりません。突然神様との繋がりが切れてしまったのです」
「繋がりが切れた……死んだとかじゃねーんだよな?」
「違います。神様の存在自体はきちんと感じるのですが……何というか、どうも神様が繭、あるいは殻のようなものの中に閉じこもって、ご自身の存在を外界と隔離してしまっているようなのです」
「それってつまり、神様が部屋に籠もって出てこなくなっちゃった……みたいなこと?」
「まあ、はい。有り体に言ってしまえば、そんな感じです」
「えぇ……?」
ティアの補足にシーナが頷き、俺は露骨に顔をしかめる。
「じゃあ、あれか? 何か気に入らないことがあった神が、拗ねて文字通り『自分の殻』に閉じこもった結果、世界が滅んでるわけ? それは流石に、どうなんだ?」
「どうと言われても、私はただ理解した現状をお伝えしているだけなので、実際に神様が何を思われてそうされているかまでは……」
「あー、まあそうだわな。しかし随分とはた迷惑な……ってのも違うのか」
神に人格があると知っているからこそ、俺はそこに果てしない理不尽さを感じている。が、これが自然現象……例えば急に太陽が燃え尽きたとかなら、太陽そのものに「何で消えるんだよ!」と文句を言ったりはしないだろう。
それに、そもそも神がいなければ、世界そのものが存在していないのだ。生み出した相手に無責任だと文句を言うより、未だに自分達だけでは存在を維持できない人間の未熟さを嘆く方が、きっと正しいんだろう。
「よしわかった。じゃあ二つ目の質問だが……何で俺なんだ? 普通そういうのって、勇者の役目だろ?」
納得はともかく、理解はした。なのでぶつけた次の質問に、シーナが若干困ったような表情になる。
「そうですね。私もそう思うのですが……既に世界は終わってしまっているので」
「…………ああ。まあ、うん。そうか」
勇者は、世界から生まれる。だが生まれるべき世界が既に終わってしまっているので、そこから勇者は生まれない。なるほど道理だ。
「って、待て。こういうのって普通、世界が終わる前の段階で勇者が生まれるだろ? 何で手遅れになるまで生まれてねーんだよ?」
「それは勿論、魔王がいるからです」
「は? 俺?」
「違います……いえ、違いませんが。正確には魔王の欠片が、未だ大半の世界に魔王として存在しているからです。勇者というのは基本的に複数同時には生まれません。なので魔王の欠片に対抗する勇者が存在している場所では、それより大きな脅威があったとしても、そちらに対応する勇者が生まれないのです。
封印の外の世界はまた別ですので、いずれあちらに勇者が生まれる可能性は残っていますが……それを待っていては、こちら側は間違いなく手遅れになってしまいますし」
「おぉぅ、そういうことか……そりゃあ……残念だったな」
俺の欠片をばらまいたのは他ならぬ神なので、俺のせいで世界が滅んだなんて考えるつもりは微塵もない。
であれば俺が世界のために動く義務は何処にもないが……
「私としても、別に魔王のせいにするつもりはありませんし、責任を取れなどと言っているわけでもないのです。ただ現状魔王しか世界を救える存在がなく、そして魔王にとってもこの世界がここで終わってしまうのは都合が悪いのではと考え、提案しただけのことです」
「まあ、そうだよなぁ」
上手く利用されているようで、何となく気に入らない。が、気に入らないなんて理由で世界が終わるのを見過ごすつもりもない。元々俺は、神の手のひらで踊りまくってやるつもりだったのだ。これからもティアと楽しく旅を続けるためなら、利用くらい幾らだってされてやる。
「ハァ、まあいいや。じゃあ最後の質問だ……俺に何をさせたい? 今この場で、俺に何ができるってんだ?」
「それは勿論、神様を殻の中から目覚めさせて欲しいのです」
「目覚めさせろって、どうやって? ここから殻を『終わらせる』なんてのは、多分無理だぞ?」
対象が認識できたので、力を行使すること自体は可能だろう。が、それが通用するかどうかは全くの別問題だ。
全力で引きこもっているというのなら、その殻とやらの強度は全力で俺を封じたこの世界を包む箱と同じくらいの強度があると思われる。そして今の俺では、この箱を終わらせることはできない。「一つ上」になったことで使われている力の規模がわかるようになってしまったため、ぶっちゃけ試してみる気にもならない。
「手段の方も、ちゃんと準備してあります。これをどうぞ」
「うおっと。何だよ……鍵?」
そんな俺の疑問に、シーナが何かを放り投げてきた。つかみ取ってみれば、俺の手の中には金色に輝く鍵があった。何となく見覚えのあるそれは……っ!?
「おいシーナ! この鍵!?」
「ふふ、魔王の忘れ物です。片道しか使っていなかったでしょう?」
それは俺が、一周目の最初の世界に戻るときに使った鍵。確かにあの時、俺はある意味死んでループしたから、こいつで帰還はしなかった。
「それをあの船に使いなさい。そうすれば道が開けるでしょう。あとはそれでルカが神様の元に戻る際に開け、そのままになっている隙間を通って神様の元に行ってもらい……あとは神様を覆う殻に、魔王が直接『終わりの力』を使えば、おそらく神様と対峙することができるでしょう。
あとは魔王の方で神様を説得するなり、終わらせて力を奪うなりしてください」
「おいおい、そんなこと言っていいのか?」
「よくはありませんが、他に手段もありません。とにかく全てを、魔王……貴方に委ねることしかできないのです。では、よろしくお願い致します」
ペコリとシーナが一礼すると、俺の足下に再び光る魔法陣が出現する。なので慌ててティアを抱き寄せつつ、俺はシーナにもう一つだけ問いかける。
「……なあ、ひょっとして俺を踊らせてたのは、神じゃなくてシーナなのか?」
訳の分からん方法でここに呼ばれ、頼まれ事には実質的に選択肢はなく、引き受けたら解決のために必要な全てが用意されていた。ここまで都合のいい流れを「手際がいいな」で流せるほど、俺の頭はおめでたくはない。
だがその問いに、シーナは軽く小首を傾げる。
「さあ、どうでしょう? それは貴方がどう思うかが全てかと」
「そうかよ。ならそんなお前には……こうだ!」
「……えっ!?」
俺の意思を受け、シーナの姿が変わる。深い紫の髪は腰まで届くストレートヘアで、青い瞳とスッと通った目鼻立ちは、何処までもクール。俺よりちょっと小さいくらいの身長は女性にしては大分高く、全体的に自己主張の少ないスレンダーな体型をしている。
ちなみに、服は白いシャツに黒いジャケットとズボンで、首元にある小さな赤い蝶ネクタイがチャームポイントだ。うむ、狙い通りに格好いい女性って感じになった……なったよな? 聞いてみたいが、聞いたら負けな気がするのでティアに確認することはしない。
「あの、これは?」
「そんだけ個性があるのに、どっかの誰かと同じ姿なんてしてたらもったいねーだろ! それが俺の考えるシーナだ! じゃあな!」
「あっ……」
何か言いたげにシーナが手を伸ばしたが、転送は止まらないらしい。そのまま俺達は光の中へと消えていき……
「イテェ!? 何だよティア!?」
「何でもないわよ」
何故か尻をつねられた俺を見て、シーナが最後にクスリと笑った気がした。




