知り合いかと思ったらそんなことはなかった……と思ったらやっぱり知り合いだった件
明日はいよいよ当作の2巻が発売になります! 今回も全編書き直しによりボリューム1.5倍となっておりますので、是非手に取っていただけると嬉しいです。
パシュンッ!
『世界転送、完了』
「……っと。ここは……?」
そうして跳ばされた先は、いつもの「白い世界」によく似た場所だった。ただし全周を巨大な本棚に覆われており、その頂点は霞んで見えないほどに高い。
「とりあえず、暗くないのはよかったわね」
「だな。あー、じゃあこれ、どうすっかな?」
若干薄暗い感じはするが、それでも雲の多い昼間くらいの感じだ。視界に困ることはなく、だからこそ手にした「神の玉座」を持て余してしまう。下手に持ち歩いて壊したりしたら大変だが、かといって「彷徨い人の宝物庫」に入れて大丈夫なのかもわからない。
「なら、それボクがお預かりしますね」
「ん? そうか、悪いな……って、ぬぁっ!?」
不意に聞こえた声に、俺はほぼ無警戒で「神の玉座」を渡そうとしてしまい……振り向いた先にあった顔で、更に驚く。
「えっ、嘘!? ルカ!?」
「何でお前が!?」
その姿に、ティアも驚きの声をあげる。少し前に別れを済ませたルカが、白い翼を羽ばたかせて平然と浮かんでいたからだ。
「おま、流石に三回目は……いや、再会できたこと自体は嬉しいけど」
「アハハ、違いますよー。ボクはルカじゃありません」
別れたはずが再会して、また別れを告げて……という流れも、この短期間で三回目ともなるとちょっとどうしていいかわからない。しかしそうやって渋顔をする俺に、ルカは顔の前で手を横に振ってそう告げてくる。
「ルカじゃないって……どう見てもルカなんだが?」
「それは先輩が、『この場所にいるのに最も相応しい存在』として、ボクをイメージしたからです。お望みなら……
ガッハッハ、こっちの方がいいか?」
「ゴンゾのおっさん!?」
ルカの姿がぼんやりと歪み、次の瞬間現れたのは二メートル近い巨体のハゲ親父。声も姿も筋肉も、間違いなくゴンゾそのものだ。
「他には……ふむ、確かに私なら適当ではある、か? ギョギョーッ!? 何でオレを思い浮かべたギョ!? 絶対向いてない……ぐふふ、白い世界って響き、何だかとってもエロス……待って消さないでーっ!」
その姿がジョンになり、ギンタになり、ラストになり……
「へー、私がいいの?」
「え、私!?」
そして最後には、ティアになった。自分そっくりの存在を前に驚いたティアが手を伸ばすと、偽ティアが本物のティアの手を掴み、二人でグルグルと回り始める。
「さあエド、本物はどっちでしょう?」
「え、え!?」
「あー、そこは合わせてくれないと……ねえエド?」
「やめろ! もうルカでいいから!」
「ちぇっ、ざーんねん……………………ということで、ボクなわけですよ」
「ハァ、そうか。うん、よくわかったよ」
ルカに戻った謎の存在を前に、俺は大きくため息を吐く。確かにそうだな。如何にも神に関係してそうな場所だし、ここにいて一番違和感がない存在としてルカを思い浮かべるのは当然だった。それはいいとして……
「で、結局ここは何処で、お前は誰なんだ?」
「あれ? 場所はともかく、ボクが誰かはわかりませんか?」
「? 今更『実は本物のルカでした』なんてふざけた事を言われるんじゃなかったら、わかるわけねーだろ?」
「むぅ、それはちょっと寂しいですね……ではお答えしましょう」
顔をしかめる俺に、ルカっぽい奴が胸の前で両手を組み、表情を消して言う。
『私はこのアガスティア・アーカイブの管理人にして、神様がお創りになられた封印世界の統轄者。真なる神の使徒、「シナリオライター」です』
「っ!? その声……っ!?」
頭に直接響くその声に、俺は大いに覚えがある。いや、覚えがあるなんてもんじゃない。いつもいつも同じ台詞しか聞かなかったが……
「なるほど、そうか。アンタが俺を……俺達を転送してたのか」
「フフッ、そうです。ああ、いちいち真名を呼ばれるのは他人行儀……げふん、仰々しくて好きでないので……そうですね、貴方達の流儀に倣って、シーナとでも呼んでください」
色々と含んだ笑みを浮かべる俺に、シーナが平然とそう答える。まさかここで、こんな大物と出会うとはなぁ。
「え? え!? ねえエド、この人、エドの知り合いなの?」
「あー、そう言えばティアには聞こえねーんだったか。世界を移動する時に、俺の頭の中で毎回声が聞こえてくるんだよ。で、この人がその声の主ってわけだ。
つーか、多分声だけじゃなくて、実際に俺達を転送してるのもこの人だと思う」
「へー! じゃあシーナさんって、凄い人なのね!」
「人ではありませんけどね」
屈託のない賞賛を向けるティアに、シーナが軽く苦笑して答える。
「私はこの世界を円滑に廻すために神様によって創られた、本物の使徒です。この姿の元となったカーテンコール……ルカなどという、自称使徒とは訳が違います」
「えぇ……そ、そうなの……?」
「そうなのです。別の目的で創られた欠片の寄せ集め如きが使徒を名乗るなど、本来なら烏滸がましいにも程があります。それに私の方がずっと長く、魔王のことを見続けてきました。つまり私は常に魔王の後ろにある者であり、ルカなどよりずっと後輩なのです」
「お、おぅ? いや、後輩って別に後ろにいる奴って意味じゃ……」
「何か?」
「あ、いえ。ナンデモナイデス」
シーナの言葉の節々に、名状しがたい棘のようなものを感じる。あとルカの顔そのままなのに、ルカとは全く違う迫力を感じる。うん、これは下手に逆らったら駄目なやつだ。
「あー、えっと…………いや、そうだよ。で、結局ここは何なんだ? 何で俺はここに呼ばれたんだ?」
「ここはアガスティア・アーカイブ……繰り返す世界の情報全てが保持されている場所です。魔王が死ぬ度、ここにある情報を元に封印世界の全てが再構築されるのです」
「へー。ってことは、ここには俺やティアの情報もあるってことか?」
「そうです。そしてそれを書き換えれば、性別、人格、記憶、能力……別の世界に生まれることや、そもそも生まれなかったとして存在を抹消することすらできます」
「……ほぅ? なら何故そうしてない?」
軽く目を細めて問う俺に、しかしシーナは相変わらず無表情のまま、平然と答える。
「内容の書き換えには、それに見合った力が必要だからです。そちらのエルフの女性はともかく、『終わり』の概念を持つ魔王である貴方の存在を抹消するのは、神様ですら不可能でした。全ての力を剥ぎ取ってなお、記憶を消すのが限界だったのです」
「ふーん……前から思ってたんだが、『終わり』の力とか概念って、神に対して妙に強すぎる気がするんだが、その辺ってどうなんだ?」
せっかくなので、俺は常々考えていた疑問をぶつけてみた。神からすれば俺はちょっと危ない羽虫程度の存在だと散々言われてきたわけだが、それほどの差があるにも関わらず、神が俺を直接どうこうできないという事実は、昔から疑問だったのだ。
「それは、神様が『在れ』と望まれて創造された存在だからですね。万物を創造する神様と、それを終わらせる魔王の力は対極の位置にあります。なので魔王の存在を受け入れ、その身に取り込めれば、神様は『全知全能』へと一歩だけ近づき……逆に魔王が神様を終わらせてその力を全て奪えば、『去れ』と命じて万象を終わらせる新たな神になることでしょう」
「えぇ? 何それ、超興味ないんだけど……」
神の如き奇蹟の力で何もかもが上手くいったらいいなーと思ったことくらいならあるが、神そのものになりたいなんて思ったことは一度もない。神に意識されるためにもう少し上の存在になろうとは考えていたけれど、ジッと目を凝らさなければティアが見えないような高みにまでいきたいわけじゃないのだ。
「ねえエド、盛大に話がずれてきてない?」
「おっと、そうだ。俺が神になるとか心底どうでもいいから、次は何で俺がここに呼ばれたかを教えてくれよ」
ティアに指摘され、俺はシーナにそう告げる。するとシーナは呆れと感心の入り交じったような、複雑な視線を俺に向けてくる。
「神になる話をどうでもいいと切って捨てますか……まあいいでしょう。魔王を呼んだ理由は、この世界に光を取り戻して欲しいからです」
「世界に光を? そんなことをチューリッヒさんも言ってた……書いてた? けど、何なんだよそれ?」
怪訝な顔をする俺に、シーナが静かに、目を逸らせない現実を告げてくる。
「魔王もわかっているのでしょう? このままでは……いえ、既に世界は終わってしまっているのです」




