自分で吐いた嘘を自分で否定するのは難しい
「お、出られたな」
先の見えない光の扉っぽいところをくぐると、見覚えのある石造りの通路に出ることができた。ちょっとした広場のようになっていた場所にはやはり見覚えのある二人組がおり、俺達の姿を見るなり慌ててこちらに走り寄ってくる。
「チュォォォォ!? エド君に、ルナリーティア君!? 二人とも無事だったのか!」
「ニャー。二人とも全然出てこないから、先生と心配してたニャー」
「おっと、そうだったのか。ご心配おかけしました」
「ごめんなさい二人とも。でも、私達は大丈夫よ」
「そうかそうか! それならいいのだが……うーん?」
再会を喜び声を掛け合った俺達だったが、そこでチューリッヒが難しい表情で首を傾げる。
「どうかしました?」
「いや、私とニャムケット君はそれぞれ別の場所から出てきたのだが、何故エド君とルナリーティア君は同じ場所から出てきたのかと思ってね」
「えっ!?」
言われてみれば、俺達はそれぞれ別々の扉に入ったのだから、そりゃ出てくるのだって別々になるだろう。だがまさかあそこであったことをそのまま話すわけにはいかねーし、何か適当な言い訳を……
「えーっと……あの、あれです。扉のなかの罠的なアレに、ティアが出てきたっていうか……それで一緒になったんじゃないかと」
「チュワッ!? そ、そうなのか。それは…………まあ、そうか。うむ、そういうこともあるのだろうな」
「? はい、そうですね」
あんなあからさまな空間に閉じ込めておいて、素通りってことはないだろう。その予想を元に誤魔化してみたんだが、何故かチューリッヒが困ったような表情で顔を逸らす。えぇ、何だこの反応?
「あの、二人は扉のなかで何があったんですか?」
と、そこでティアがナイスな質問をしてくれた。その言葉にチューリッヒとニャムケットが普通に答えてくれる。
「ニャー。アッチは沢山の焼き魚があったニャー。すっごく美味しそうだったけど、一人で食べるのは寂しいから我慢して歩いてたら、外に出られたニャー」
「私の方は、珍しい遺物や見たこともない古代文字が所狭しと並んでいたな。その全てを調べ尽くしたいところだったが、研究というのは目の前のものから一つずつコツコツやっていかねばならない。なのでそれを無視して進むと、外に出られた感じだ」
「へー、そんな風になってたんですね」
「うむ。その辺から推察するに、おそらくこの罠は入った者の欲望を刺激し、足を止めさせるようになっているのではないだろうかと思うのだ」
「なるほど、欲望……っ!?」
言われて、俺は自分の発言を振り返る。俺の欲望を刺激する罠に、ティアが出てきた? それはつまり……
「い、いや! それは、あの――」
「チュッチュッチュッ、大丈夫だ。他人の欲望を知りたがるような下衆な好奇心は持ち合わせていないからね」
「ニャー。若い男の人なら仕方ないニャー」
「ぬぐっ! お、おぉぅ……」
生暖かい視線を向けてくる二人に、俺は何も言えなくなってしまう。心の底から否定したいが、自分で言ったことを否定するわけにもいかない。
「な、なあティア?」
「フフッ、私は気にしないわよ? それに、実際そうだったでしょ?」
「ぐはっ!?」
一縷の望みをかけてティアに目を向けてみたら、見事にとどめを刺されてしまった。確かにそういう感じに責められた場面もあったことは事実だけれども、でもそれは……くぅぅ。
「さ、それよりそろそろ先に進もうじゃないか。二人とも元気なようだしね」
「そうだニャー。ずっとここにいても仕方ないニャー」
「そう、ですね……じゃあ、はい」
「行きましょ!」
何なら元の場所に戻って、俺が本来受けるはずだった罠がどういうものだったのかを確認したいくらいの気持ちなのだが、俺だけ我が儘を言うわけにもいかない。腑に落ちないものを感じつつ、俺達はその後も遺跡を進んで行く。
その道のりは、決して単調なものではなかった。ルカの制御がなくなったとはいえ、この遺跡が生きていることは変わりないからだ。だがそんな罠も、俺達全員が協力すれば突破できないはずもない。
「……なるほど、この文字か!」
知識系の罠は、チューリッヒの出番だ。一辺が一〇メートルはあろうかという巨大な壁に刻まれた数えるのも馬鹿らしい古代文字のなかから正解を読み解き、近くの仕掛けを操作する。すると壁に亀裂が走り、ゴゴゴと音を立てて左右に開いた。
「チュッチュッチュ。『開け』と入力させて、違う扉を開けさせるのが狙いだったのだろうが、私の目は誤魔化されんぞ。『閉じるな』が正解だ」
「ニャー。流石は先生だニャー」
「本当。これは私達じゃ絶対に解けないわよね」
「だな。俺には模様にしか見えねーよ」
「チュッチュッチュ! まあ、それほどでもあるな!」
得意げに胸を張るチューリッヒを皆で褒め称えつつ、俺達は更に先に進む。次に来たのは、純粋な身体能力を問われるような罠だ。
「ニャー!」
俺とティア、チューリッヒが鉄の檻に囚われているなか、一人逃れたニャムケットが壁に突き出た小さな足場をぴょんぴょんと飛び移り、高い部屋の天辺にあったレバーを押す。するとガシャンと音がして、俺達を閉じ込めていた檻と同時に正面の扉が開いた。
「流石はニャムケット君だ! 素晴らしい動きだったぞ」
「格好よかったわよ!」
「ニャー。こういうのはアッチにお任せニャー!」
チューリッヒとティアの賞賛に、ニャムケットが照れくさそうに尻尾をくねらせる。ヤバそうだったら鉄の檻を斬って出ようと思っていたが、どうやら要らぬ心配だったらしい。
無論、俺達だってただ見てるだけじゃない。次にあったのは、チューリッヒにもニャムケットにも、そして俺にもどうしようもなかった罠。
「えーい!」
ティアが気合いを入れて声をあげれば、部屋の中に四つ設置されていた、高さも場所も向きも違う小さな風車が一斉に回り出す。魔法師がいない場合はどうやってクリアするのか不明だが、とにかくティアの活躍で、この部屋の仕掛けは俺達に不利益をもたらす前にあっさりと解除されてしまった。
「お疲れティア」
「ありがとうエド。でも、何が起こるかわかる前に解除しちゃってよかったの?」
「チュッチュッチュ、構わないさ。確かに興味はあるが、失敗したときにどうなるかが不明だからな。単にやり直す程度なら構わないが、二度目の挑戦を許さないとか、命を危険に晒す可能性もある以上、安全に突破できるならそれが最上だ」
「ニャー。楽ちんなのはいいことニャー」
「ならいいけど」
微妙な顔をしていたティアも、チューリッヒ達の言葉を受けて納得する。そうして俺以外の全員が活躍したところで、漸く俺にも出番が回ってくる。
「ゴーッ!」
「はっはー! いいね、こういうわかりやすいのは大歓迎だ!」
俺達の前に立ちはだかったのは、遺跡では定番の存在であるゴーレムだ。自然に存在するようなゴツゴツした感じではなく、滑らかで洗練されたそのボディは、正しく石の巨兵。
でかく、強く、速……くはないが、決して遅いわけではないその在り方は、室内という逃げ場のない閉鎖空間に圧倒的な強者として君臨しているんだろうが……フフフ。
「ゴーッ!」
「ヘッ、甘いぜ!」
自分の何十倍という質量を持つゴーレムの拳を、俺は「夜明けの剣」を合わせて余裕でさばく。少し前まで圧倒的な格上と全力勝負をしていたこともあり、軍隊だって一撃で粉砕するような拳も、俺の目には亀の歩みより遅い。
「デカブツ相手なら、まずは足か? それとも腕か?」
「ゴッ! ゴッ! ゴッ!」
頭上から振り下ろされる拳をヒョイヒョイとかわし、固い石の床が砕けて飛び散る破片を気にせず、俺は一気にゴーレムに近づいていく。すると拳では殴りづらいと判断したゴーレムが、片足をあげて俺を踏み潰そうとしてきたが……
「面倒だ、両方もらっとく!」
「ゴォッ!?」
あえてその下に潜り込み、相手の力も利用してまっすぐ足裏に剣を突き立てた。師匠の鍛えたこの剣も、「不落の城壁」を使ってる俺も、たかだか動く石ころ程度にどうにかされるほどいヤワじゃない。
剣の突き刺さったところからビキビキと亀裂が走り、そこに「円環反響」で集めた衝撃を返してやれば、五メートル以上あるであろう巨体の全身が一気にひび割れ、あっという間に瓦礫の山に変わってしまった。
「おっと、悪い。両方どころか全部いっぺんにもらっちまったぜ」
「チュォォォォ!? 何という強さだ!」
「ニャー! 凄すぎるニャー!」
「さっすがエド!」
「へっへーん。まあな!」
ドヤ顔を決める俺に、三人の賞賛が降り注ぐ。皆が皆、自分の強みを生かすことで探索は順調に進んでいき……そして俺達は、遂に遺跡の最奥へと辿り着いた。




