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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第三〇章 英知の勇者と偽りの遺跡

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動き始める時は、まず目標を明確にすべし

「っ…………」


 揺らぐ視界が正常になった瞬間、俺は剣の柄に手をかけて周囲を警戒する。素早く視線を走らせるも、俺達以外に動くものはいないようだ。


「ふむ、いきなり襲われるということはないようだね。しかしこれは……」


「ニャー。何で明るいニャー?」


 縦横五メートル、天井までは三メートルほどの石造りの小部屋。正面に扉があるが、基本的には閉鎖空間であり、照明の類いはない。


 だと言うのに、室内はまるで昼の屋外のように明るい。その不思議な光景にチューリッヒとニャムケットは不思議そうに辺りを見回しているが、俺は……俺達はこれとよく似た景色を知っている。


「ねえエド、私こういう景色に見覚えがあるんだけど……」


「奇遇だな、俺もだ……まあ似てるだけかも知れねーけど」


 アネモのいたダンジョン世界。全てが石で囲まれているのに明るいというのが実にそっくりだ。


 ただ、なら同じ存在なのかと言われると疑問が残る。あれは魔王の力と人の業が合わさってできた奇蹟と悲劇の産物なわけで、それを古代の一文明が再現できるかと言えば……いや?


(ルカが関わってるなら、できそうだよなぁ)


 ここに俺達を招いたのは、他でもない神の使徒だ。欠片の状態で遙かな過去へ干渉できることはわかっているので、もしその古代文明とやらにルカが知識や技術を与えたというのなら、再現することは十分に可能だろう。


 というか、そもそもルカ個人の力でもこのくらいはできるのか? その辺はわからねーが……ま、気にしたところでどうなるものでもないので、とりあえず今はいいだろう。


「うーむ、ここには特に何もないようだな。入り口がああだったのだから、何か注意書きの一つも残っているかと思ったんだが……」


 と、俺がそんなことを考えている間に、チューリッヒによる室内の調査は概ね終わったようだ。元の遺跡と違ってこっちの室内は完全に均一の大きさに整えられた石が綺麗に組み合わさっており、文字どころか見えるような傷すらないのでは流石にそれほど調べようもなかったのだろう。


「ニャー。それじゃ先生、部屋の外に出てみるニャー?」


「そうだな。転移陣とやらの痕跡すらないのでは、ここに留まっても何もわかるまい」


「じゃあ、俺が扉を開けます。ティアは二人を」


「わかったわ。二人とも、私の側を離れないでね?」


「うむ、チュー意しよう」


「わかったニャー」


 ティアが二人を守るように構えたのを確認すると、俺は部屋にあった唯一の扉に手をかけた。特に施錠などはされていないらしく、ノブを回せばあっさりと開いたので、俺は慎重にそこから身を乗り出し、周囲を探っていく。


「外は、横長の通路だな。先は見えない。道幅は二メートルくらいだろうか? 敵の気配なし、罠は……正直わからん。正面やその先にも扉が見えるが、今は全部閉まってるようだ」


 視認できる情報は、その程度。「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」や「旅の足跡(オートマッピング)」を使えばもっと詳細な情報も得られるだろうが、今回は使えない。ルカの言う「ズル」の範囲がどの程度なのかわからない以上、俺の「追放スキル」は必要最低限に抑える必要がある。


「とりあえず、通路に出ても大丈夫だとは思う。でも、慎重にな」


「了解。じゃ、行きましょ」


「うむ」


「ニャー」


 俺の言葉に頷き、ティアが二人を連れて通路へと出てくる。新しい景色にチューリッヒとニャムケットが周囲を見回していくが、そんなチューリッヒの視線が正面にある扉のところで止まった。


「む? あれは……ニャムケット君、ちょっと私を扉の側で抱え上げてくれたまえ」


「わかったニャー」


 チューリッヒの言葉に従い、ニャムケットがその小さな体を抱き上げる。そうして扉の表面に刻まれた文字っぽい模様を見つめたチューリッヒが、程なくしてすぐに口を開いた。


「ほほぅ? ルナリーティア君、我々が今出てきた扉を、一旦閉めてみてくれるか?」


「扉? えっと、これでいいのかしら?」


「ああ、それでいい……やはりそうか」


 言われてティアが扉を閉めると、その表面にも文字が刻まれていた。それを読んだチューリッヒは満足げに頷くと、ニャムケットの腕をポンポンと叩いて床に下ろされてから、改めて俺達に向かって説明を始めた。


「よく聞きたまえ。我々が出てきた扉の表面には、『アーダカケーマ地区 作業員詰め所出口』と書かれていた。そしてその正面の扉には、『アーダカケーマ地区 作業員詰め所入り口』と書かれている。つまり……」


「そっち側の部屋には、ここからあの遺跡に戻る転移陣があるってこと?」


「そういうことだ」


 驚きの声をあげるティアに、チューリッヒがニヤリと笑う。それから視線を向けたのは、当然ながら俺の方だ。


「ということでエド君。悪いがこの扉も開けて、中の様子を見てくれるか? おそらく危険はないとは思うのだが……」


「勿論、任せて下さい」


 このメンバーで危険に立ち向かうのは俺の仕事だ。二つ返事で了承し、俺は改めて正面の扉を開く。そちらも特に鍵などはかかっていなかったわけだが……


「あー…………」


「どうしたねエド君?」


「いや、こっちの部屋にも何にもないというか、床が光ってないというか……とりあえず危険はないと思うんで、実際に見てもらえばいいかと」


「そうか、わかった」


 微妙な声を出す俺が体を動かして道を開けると、チューリッヒが部屋に入ってくる。それから室内を……特に床を丹念に調べ始め、途中でティアも呼んで二人で何やらやっていたようだが……


「これは……駄目だな」


「駄目って、帰れないニャー?」


 チューリッヒが漏らした呟きに、ニャムケットが若干顔をしかめて言う。するとチューリッヒは体を起こし、俺とニャムケットの顔を交互に見てから言う。


「そうだな、半分正解だ。ルナリーティア君にも協力してもらった結果、帰還用の転移陣そのものはここにあるというのがわかった。が……」


「魔力が流れてきてないの。だから転移陣を動かせないのよ」


「ふむ、魔力不足……それとも経路が壊れてるとか、そういうのか? 一応聞くけど、それをティアの魔力で無理矢理動かしたりは……」


「仕組みとしては不可能じゃないけど、純粋に魔力が足りなすぎるわ。死ぬ気(・・・)で頑張れば一人くらいなら跳ばせるかも知れないけど」


「ああ、ならナシだ」


 ティアが微妙に顔をしかめたので、「死ぬ気」というのはそのくらい頑張ればということじゃなく、寿命を削って魔力を捻出すればという意味だろう。その時点で無理矢理ここを脱出するという選択肢は未来永劫消失した。


「だが、わかったのは決して悪いことだけではないぞ? 魔力が足りないから帰れないということは、逆に言えばこれを動かすだけの魔力が確保できれば、さっきの遺跡に帰ることは十分に可能だということだ。


 そして、この本物のダシケターマ遺跡にその『魔力源』がある可能性は高い。何せこれだけ明るいのだからな」


「え? それが魔力源と何の関係が?」


 ここが明るいことと、魔力源があることの関連性がわからない。なので問うた俺に、しかしチューリッヒが何とも微妙な視線を向けてくる。


「大ありだろう? まさか何の力も消費せずに、閉鎖された空間にこれだけの光が宿っているとでも?」


「あっ。あー……そう、ですね。そりゃそうだ」


 俺の中にダンジョン世界の印象が残っているから繋がらなかったが、普通に考えれば「室内の明かり」を維持するのには魔力を消費しているのが当然だ。そして今も明るいというのなら、その明るさを保つための魔力源が何処かにあるということである。


「じゃあ、当面の目標は魔力源の確保と、それを使って転移陣を再起動することって感じですかね?」


「そうだな。情報は持ち帰れなければ意味がない。まずは帰還を最優先とし、チュー意して探索していくことにしよう」


 ルカの指示で跳ばされた、謎のダシケターマ遺跡。そこでの行動方針は、こうして最初の二部屋を探索するだけで決定した。

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