手段を選ばず最高の利益を追求すると、最終的には善人に落ち着く
「いやいや、実にお見事でした」
沸き立つ俺達の船に、小舟を使って商船側から数人の男がやってきた。ニコニコと笑顔を浮かべながら側にやってきた男に、レベッカが機嫌良く話しかける。
「おう、マキスの! 金は持ってきたかい?」
「はい。金貨五〇〇枚、どうぞお納めください」
上機嫌なレベッカの言葉に、男がズッシリと重そうな布袋を渡してくる。レベッカはそれを受け取ると中身をチラッと確認し、そこから取りだした二枚の金貨を俺とティアにそれぞれ手渡してくる。
「船長!? いいんですか?」
「ああ、構わないさ。今回はアンタ達の活躍がでかかったからね。新入りだろうと何だろうと、結果を出した奴に褒美の一つもやらなきゃ、アタシの立つ瀬がないってもんさ」
「そういうことでしたら、ありがたく頂戴します」
「ありがとうございます、船長さん」
笑うレベッカに礼を言いつつ、俺とティアは金をしまい込む。それを見て満足げに頷くと、レベッカが改めて商船からきた男に顔を向け直した。
「しかし五〇〇とは随分張り込んだね。そんなに大事な荷物だったのかい?」
「はい。今回の積み荷にはとある貴族様からの依頼の品がありまして……これを奪われておりましたら、とてもお金では取り返せませんから」
「そうかい。ならそのまま奪っちまった方が儲かったかねぇ?」
「ご冗談を。船長さんに我等ほどの人脈がおありでしたらわかりませんが」
「アッハッハ! 確かにそうだ!」
「……ねえ、エド。どういう意味?」
「ん? ああ、商人にとって最重要の売り物は『信頼』なんだよ」
クイクイと袖を引かれて、俺はティアに小声で説明する。
「この人に頼めば適正な値段で必要な品を約束した通りに納品してくれるという信頼があるからこそ、商人はでかい仕事ができるんだ。簡単に入手できる日用品ってならまだしも、船で運ぶようなのは貴重品だろ?
なら相手は当然それなりの立場ってことになるから、そんな相手との商談に穴を空けて信頼を無くすくらいなら、儲けが無くなる……どころか大損したって替えの利く金貨で支払った方が得なのさ。
でも、逆に船長がそんな積み荷を手に入れても買い手がつかない。そんな貴重な品を誰だか分からない相手から買うわけねーから、使い道の無い豪華なゴミが増えるだけだ。つまりはどっちにとっても現金でのやりとりが一番得になるってことだな」
「ほえー。じゃあこの船が他の海賊と戦ってたのも?」
「そうだ。商船や客船を襲っても、まともな店がちゃんとした値段で買い取ってくれるわけねーだろ? 足下見て買いたたかれたり、逆に絶対必要な食料なんかの物資はぼったくり価格で売りつけられることになる。
なら下手に奪うより守ってやって恩を売り、現金を調達したうえで適正価格で物資が購入できた方が中長期的には儲けがでかくなるんだよ」
「……それって海賊なの?」
「そりゃ海賊だろ。この国の法律を守ってるわけじゃねーしな」
レベッカ達は税金を納めていないし、自分達の儲けがなくならないように敵対する海賊達を全滅させたりすることもない。これがもし雑傭兵や冒険者であるなら、自分達の仕事を確保するために毎回野盗を見逃しているということになるわけで、とんでもない批判を受けることになるだろう。
が、レベッカはそれを気にしない。何の義務も責任も背負わず、他人の評価など何処吹く風で笑い飛ばせる自由な生き方を称するならば、それこそ海賊としか言いようがないのだ。
「へぇ。アンタ随分と頭が回るじゃないか」
と、そこで俺の話を聞きつけたレベッカが、品定めするような目で俺を見てくる。更にはレベッカと話をしていたはずの商船の男まで俺を見て目を細める。
「確かに。若い商人には目先の金ばかりを追う者が多いですが、ちゃんと信頼の大切さを理解し、その上で損得勘定として考えられるとは……商人としての薫陶を受けたことがおありなのですかな?」
「へ!? いやいや、俺なんてそんな、大したもんじゃないですよ! さっきのだってただの持論というか、経験から導き出した考えの一つってことで……」
「ほぅ? 誰かに教えられたわけではなく、ご自身でその答えに行き着いたと? それはまた……どうです? うちの商会で働いてみませんか? 給金ははずみますよ?」
「おいおい、うちの新入りを勝手に勧誘されちゃ困るねぇ。こいつはピエール……さっきの船の船長を撃退した期待の新入りなんだ。それ以上は高くつくよ?」
「おっと、そうでしたか。頭がいいうえに腕も立つと……惜しいですが、仕方ありませんな」
「エドったら大人気ね?」
「ははっ、勘弁してくれよ」
からかうようなティアの言葉に、俺は苦笑して肩をすくめる。一〇〇年も世間の荒波に揉まれりゃこの程度のお世辞で浮かれたりはしないが、一周目の頃に言われていたなら……どうだろう? のこのここの男についていった挙げ句、適当に丁稚奉公して使い潰されていただろうか? まあ海賊に比べれば十分にまっとうな人生ではあるんだろうが。
「まあいいさ。アンタ達、行き先はどこだい?」
「チャロス港に寄港する予定です」
「なら大した距離じゃないね。多めに報酬を貰ったことだし、そういうことならアタシの船が併走してやるよ。代わりに港を使わせてもらえないかい? 水やら食料やらを裏手に運ぶのは割と面倒なんだよ」
「おお、そういうことなら是非に」
レベッカの「護衛してやるから合法的に港に入らせろ」という要求に、商船側が笑顔で応じる。商船側としても次に襲われたらもうどうしようもないだろうから、決して悪い取引ではないんだろう。
「よーし、聞いたね? 次の目的地はチャロス港だ! マキスの船と併走して、そこで物資の補給をするよ! さっきの働きに応じて小遣いもやるから、久しぶりの陸を満喫してきな!」
「「「オォォォォォォォォ!!!」」」
レベッカの決定に、再び海賊船が歓声で揺れる。その後は何事もなく船は進み、一週間ほどしてスカーレット号は無事に港町の一角に停泊することができた。五日間の自由時間を得た船員達は一斉に町へと散っていき、当然俺とティアもその流れに従って上陸する。
「はぁぁ、やっぱり陸はいいわ……私地面の上大好き……」
「大げさだな。まあ気持ちはわかるけど」
船の隅っこで小さくなっていた一周目の時は、俺も陸地に戻ってきたことを大喜びした記憶がある。雑傭兵時代に加えて二つの世界で勇者パーティに同行したことで俺の根性も大分鍛えられてきてはいたが、それでもやはり当時の俺の実力はレベッカの部下達と大差ないくらいであり、一方的にいびられるような弱者ではなくても今のように目立つ強者ではなかった。
なのでバロック海賊団との戦闘でも普通に敵を一人か二人倒したくらいで、貰った小遣いの額も確か銀貨一枚だったか? ちょっと仲良くなっていた奴らに娼館に誘われたりしたんだが、勇者の情報を探すのが最優先だったから断ったら、微妙に距離ができちまったんだよなぁ……海の荒くれ男からすると、酒と女を一緒に楽しんで初めて仲間って感覚なんだろう。
「……まあ、今回はティアがいるからそういうお誘いはないわけだが」
「ん? 何?」
「あー、いや、何でもない。んじゃ、俺達も出かけるか」
ご機嫌に耳を揺らすティアの横を通り抜け、俺はウーンと伸びをする。潮の匂いにほんの僅かな土臭さが混じっており、これを嗅ぐと確かに自分が大地の上に戻ってきたんだという実感が湧く。
「それで、何処に行くの? エドのアレを使わないなら、私としては着替えとかが欲しいんだけど」
「ん? そんなの決まってるだろ。俺達が一番最初にしなきゃいけないことといえば、ただ一つ!」
ビシッと町の中心街を指さした俺の手が、そこからゆっくりとうらぶれた方へとずれていく。
「裏町に行って仕事探しだ。まずは先立つものを稼がねーとな」
「えぇぇ……」
張り切っていたティアの耳が、あからさまにションボリと垂れ下がった。




