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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二九章 勇者と魔王と神の使徒

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断章:相違と総意

今回は三人称です。ご注意ください。

 それは、何処でもない世界の狭間。エドと違って好きな世界を自由に行き来できるからこそ、ルカは泡のように浮かぶ一〇〇の異世界を外側から眺めつつ、黒い世界で小さく息を吐いた。


「はぁ、楽しかったなぁ」


 終えたばかりの旅路を反芻し、思わず笑みを零す。世界から自分の記録を消したからといって、当然自分の記憶まで消えるわけではない。この八ヶ月ほどの面白楽しかった日々は、しっかりとルカのなかに残っている。


「それにしても、先輩があんなミスをするなんて……フフッ、次からはその辺も考慮して作戦立ててみようかな?」


 魔王を何とかするという神から与えられた使命を、ルカは当然覚えている。ならばこそ次にエドが出向く世界を調べ、今度はどんな方法で関わろうかと考えていた時……ルカの中に、低く重い別の声が響いた。


『温い』


「んー? 何か言いたいことでもあるんですか?」


『温いと言ったのだ。魔王が失敗をしたというのなら、何故それをもっと積極的に利用しなかった? 上手くやれば、今頃魔王をあの世界に閉じ込め、使命を果たすことにすら成功していたのではないか?』


「……それ、さっきボクが先輩に説明しましたよね?」


 自分の内に響く、自分ではない、だが間違いなく自分の声。それにルカは珍しく不機嫌な様子で反応したが、低い声はそれを意に介すことはない。


『それでもだ。お前が魔王と馴れ合っていなければ、魔王を害する機会は幾らでもあった。お前は甘すぎる』


「ハァー……あのですね? 先輩と仲良くなったのは、ボクの一番の功績ですよ? そのおかげでボクは堂々と先輩の側にいられるんですから」


 終焉の魔王(エド)に対し、ルカは自分が何者であるかも、エドをどうしたいかも語ってある。にも拘わらず、エドはルカを積極的に排除しようとしないどころか、警戒はしていても隣にいることを許してくれている。


「普通なら明確に敵対しているはずの相手に受け入れられ、ある程度までなら邪魔をしても笑って許される。これがどれだけ凄いことか、ボクならわかってますよね?」


『無論。だからこそそれを最大限に利用し、寝首を掻くべきだ』


「だからー! それやっちゃったら先輩との縁が切れちゃうでしょう!? それこそ絶対に成功するって確信が持てなかったら、そんな作戦は実行できないんですー!」


『違う、お前は甘いだけだ。神よりも使命よりも、魔王を優先しているのではないかと思う程に』


「……それ、ボクに喧嘩売ってます?」


 ルカの声から温度が消え、スッと目が細められる。映しているのは無明の闇だが、視線が捕らえるのは見えぬ己の内側だ。だがそんな意識を向けられようとも、低い声が怯むことはない。当然だ、どちらもまた「ルカ」なのだから。


『違う。自分に喧嘩を売る意味などない』


「……まあ、そうですよね」


 そもそも「神の欠片」に、人格などというものは存在しない。与えられた使命を達成するのに必要な知識や判断力はあるが、それを自身の考えとして昇華する知恵を持っていないのだ。


 が、七八個もの欠片が集まることで、それは変わった。無垢な赤子が周囲から情報を集めて言葉を覚えるように、多種多様な知識と経験が収束することで、そこに自我が生まれたのだ。


 といっても、それだけの数が集まって、生まれる自我が一つということはない。全てが自分でありながらも、違う観点、違う価値観、そして違う判断を下す「ルカ」が、その中にはいくつかあった。


『そもそも、俺は疑問に感じていた。何故お前は、最も効果的な手段をとらない?』


「ほえ? 効果的な手段ですか?」


『そうだ……どうしてあのエルフを排除しない?』


 その言葉に、ルカは大慌てで周囲を見回す。そこに誰かがいるはずもないのだが、それでも背筋を走る恐怖は消えない。


「ちょっ、何言ってんですか!? 馬鹿じゃないんですか!?」


『馬鹿はお前だ。あのエルフを排除できれば、極めて高確率で魔王の精神を崩壊せしめることができる。それにあのエルフはお前からすれば取るに足らないほど脆弱であり、簡単に始末できる。なのに何故そうしない?』


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ボク、ここまで深いため息をついたの人生で初めてですよ」


 呆れを通り越し、いっそ哀れみの籠もった声でルカが言う。


「いいですか? 自分だけが思いついた画期的な手段っていうのは、大抵の場合誰もが思いつくけどあえてやらないことで、貴方のそれはその最たる例です。


 確かにティアさんを失えば、先輩はもの凄く落ち込んで塞ぎ込むでしょう。あるいはそのまま自分を『終えて』しまうことだってあるかも知れません」


『なら――』


「でも! その前にティアさんを害した相手に対し、先輩は一切の容赦なく『終わりの力』を振るうでしょう。それを示唆したのがボクであると知れれば、ボクは勿論、その大本である神様にすらその矛先は向くはずです。


 今の先輩は神様をどうこうしようなんて思ってないのに、わざわざ特大の爆弾に火をつけて神様を危険に巻き込むと? それこそあり得ないでしょう!」


『だが、そのリスクを許容すれば一気に魔王を無力化できる。使命の達成のためなら、その程度の危険は許容すべきだ


 鬱陶しく飛び回る毒虫を適当に追い払うか、刺されて死ぬ可能性を考慮してでも即座に叩き潰すか。絶対に刺されないという確証がない以上、前者はダラダラと低リスクを負い続けるだけだ。なら俺は後者を選ぶのが妥当と判断した』


「むぅ、そこには見解の相違がありますね」


 持っている知識や経験は、どちらも同じ。ならばこそ低い声の出した答えに、ルカは一定の納得を示さざるを得ない。


 だがそれでも、ルカのなかにはルナリーティアを傷つけるということに強い忌諱の気持ちがある。ただしその気持ちには、納得できるだけの理由がなく……「何となく嫌だから」では、自分自身すら説得することは敵わない。


『迷う必要などない。今の俺ならエルフを単独で誘い出すことなど容易だ。その後は適当な事故にでも見せかけて始末すればいいだけだ』


「でも、それをやったらせっかく構築した先輩との関係が……」


『たった一度成功すればいいだけなのだから、その後のことなど考える必要はないだろう? それにどうしてもとなれば、魔王の母や友人をそうしたように、死んだエルフを創り直して(・・・・・)やればいい。そのうえで魔王には実は隔離していたとか、蘇生させたと言ってやればいいだろう』


「それ、絶対上手くいかないやつですよね? 失敗する未来しか見えないというか」


『何故だ? 俺には失敗する理由の方が思いつかないのだが』


「……そこも、見解の相違ですねぇ」


『相違か……ならば仕方ない』


「えっ!?」


 不意に、ルカの視界が揺れた。いや、正確には視覚そのものが失われた。慌てて人の五感から「神の欠片」としての知覚に切り替えると、そこには自分自身の姿があった。


『何これ!? どういうこと!?』


「見解の総意(・・)だ。もうお前は俺に必要ない」


『そんなっ!?』


 自分の声で、自分の顔で、自分とは違うモノが言い放った言葉に、ルカは激しく動揺し……その「動揺する」という感情すら急速にかすれていく。神に与えられた「使命」の比率が大きすぎて、欠片一つでは「ルカ」という個人を維持する余地がないのだ。


『駄目だ、消える……ボクが、きえちゃう…………っ』


「これ以上お前をどうこうするつもりはない。以前のように単独で使命を果たすべく活動してもいいし、自我を失いただの欠片に戻ったならば、もう一度俺のなかに取り込んでもいい。


 神の使命は、俺が果たす。だからお前は……安心して消えろ」


『あぁぁぁぁ…………せん、ぱい…………』


 激しく明滅を繰り返していた光の球が、程なくしてほの明るい状態に安定する。それを見てルカが光の球に手を伸ばしたが、球はフヨフヨとルカから離れる方へ飛んでいってしまった。


「……ふむ、まあいいだろう。では、魔王と決着をつけにいくか」


 神の使徒たる目を以て因果の流れを見つめ、魔王が次に訪れる世界に目星をつける。それからルカは背中に輝く翼を出現させると、その世界にまっすぐに飛び込んでいった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルカ…かなり好きだから復活とかしてくれないかなあ
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