自分の居場所が理解できれば、進むべき道も自ずと見える
他作品になりますが、本日は拙作「威圧感◎ 戦闘系チート持ちの成り上がらない村人スローライフ」コミカライズ版2巻の発売日となっております。当作品とは違って全く戦わない主人公が波瀾万丈なスローライフ(謎)を送る素敵な作品となっておりますので、よければ手に取っていただけると嬉しいです。
「何故だ!? 何故聖剣を持っていない……それどころか勇者ですらない者の攻撃が、我の体を傷つけることができるのだ!?」
「何言ってんだ? 俺は勇者様が連れてきた『勇気』なんだから、魔王に攻撃が通じるのは当然だろ?」
「何故だ!? 何故我が生み出した『七大災悪』のひとつである貴様が、我を裏切り我を攻撃するのだ!?」
「それはまあ、人徳の差ってやつじゃないですかね? しょんぼりしてるのも可愛い魔王と、みっともなく駄々をこねる魔王なら、そりゃ可愛い方を選びますよ」
「ぐぅぅ……わけがわからぬ!」
怒りにまかせて、魔王が再生したばかりの足を踏みならす。その衝撃で室内が大きく揺れるが、今更その程度のことで俺達が怯むはずもない。
「別にわかってもらう必要はねーからなぁ」
「ですね、わかり合えるとも思いませんし」
「だから、私達がその体にわからせてあげるわ! 勇者様に連れてこられた私達がね!」
「エド、ルカ、ティア……私は…………」
「さあ勇者様、号令を! 今こそ貴方の集めた勇者パーティで、魔王を討つ時です!」
「…………ああ! 私は勇者ローレンツ! 集いし三人の勇気と共に、今日ここで暗黒の時代に終止符を打つ!」
高らかに宣言するローレンツの体から、黄金に輝く光が噴き上がる。己を、仲間を真に受け入れたことで、今こそローレンツは本物の勇者となった。
「わかる、わかるぞ。私が何を為すべきかが、今ならばはっきりとわかる! 発動せよ、『勇者の号令』! エドは右腕、ルカは左足、その後は全力でかき回せ! ティアは風から、星の光を!」
「おう!」
「了解です!」
「わかったわ!」
ローレンツから飛んできた光が、俺達の体を包み込む。その指示を全うすべく踏み出した足が大地を蹴れば、俺の体は羽のような軽さで魔王に向かって飛んで征く!
「もらった!」
「グアッ!? な、何が!?」
その速度に反応できず、棒立ちの魔王の右腕が跳ぶ。すぐにそれを再生しようとしたんだろうが、俺達の攻撃はまだ始まったばかりだ。
「よそ見はよくないですよ?」
「グオッ!?」
倒れ込みそうな前傾姿勢で地を駆けるルカが、魔王の左足を斬り跳ばす。二度連続で同じ場所を斬り落とされては、流石の魔王も瞬時に再生はできなかったのだろう。大きくよろけて前方に倒れ込み……下がった顔にティアの魔法が炸裂する。
「――顕現せよ、『ウィンドエッジ』!」
「グァァァァ!?!?!?」
可視化できるほど圧縮された風の刃が、魔王の顔面に深い切り傷を刻む。随分と男前になったその顔に浮かぶのは、強い戸惑いと若干の恐怖。
「馬鹿な!? 先と同じ魔法で、何故今度は傷つく!?」
「そりゃ魔力の練り込み方が違うし……後はやっぱり、このピカピカ光ってるのが原因、よね?」
「だな。体がめっちゃ軽いし」
「流石は勇者様ですね! 今なら空だって飛べそうです!」
お前は素でも飛べるだろ、という突っ込みは、無粋なのでしない。代わりにルカと視線を重ねると、笑いながら小さく頷き合う。
「畳みかけるぞルカ!」
「はいです、先輩!」
「グォォォォ! そう何度も好きにやらせるものか!」
魔王の周囲を駆け回りながら斬撃を繰り出し続ける俺達に、怒り狂った魔王が反撃を繰り出してくる。流石にこれ以上は易々と攻撃を通してはくれないようだが、時間が稼げれば十分。
「光を集めて形作るは眩く輝く白月の星、風を纏いて荒ぶるは鋭く切り裂く尖月の檻、鈍の光を宿して貫く破眼黒禄精霊の瞳! 輝き貫き撃ち抜き爆ぜろ! ルナリーティアの名の下に、顕現せよ『スターハストゥール』!」
詠唱を終えたティアの手から、嵐を纏う恒星が撃ち出される。風の刃とは桁の違う威力の魔法に、焦った魔王は俺達の攻撃を食らいながら、ギリギリで横に飛び退いた。が……
「ぐぅぅ……だが貴様等の切り札、確かに回避したぞ! これで――」
「……『勇者の号令』、私に続け!」
「は!?」
魔法の影に隠れて移動していたローレンツが、その力をティアが放った魔法に対して発動する。すると嵐の恒星は魔王に飛びかかるローレンツを目がけて、あり得ざる角度と速度でその進路を変えた。
「忘れたか魔王! 私は『連れていく者』だぞ!」
「馬鹿な!? それに巻き込まれれば、いくら勇者とて……」
「……そして忘れるな! 仲間は、私を傷つけない!」
それはおそらく『勇者の号令』の効果なのだろう。嵐の恒星はローレンツを飲み込み、だがローレンツはその力の全てを我が物とする。黄金の恒星となった先導の勇者ローレンツが剣を振り上げ……
「そんな鉄の棒きれで――」
「『勇者の号令』、全ての勇気をこの剣に!」
「ギャァァァァァァァァ!!!!!!」
黄金の光を宿した剣は、魔王の体を頭から両断した。切断面からブスブスと黒い煙をあげる魔王が、そこから再生する様子はない。
「ハァ、ハァ、ハァ…………」
「み、見事だ、勇者よ…………」
真っ二つになり、仰向けに床に倒れた魔王。その右半身の目がギョロリと動き、ローレンツに対して話しかける。
「は、ははは……そうだ、あまりに長い安寧の時で忘れていた…………あの男もまた、そうやって最初の聖剣を生み出していたのだった…………我としたことが、迂闊であった……」
「そう、なのか……? なら、これは……?」
「聖剣だ、紛うことなくな……もっとも、我を倒すという本懐を遂げたのだ。その剣も、そして何処か遠くに飾ってあるというもう一本も、いずれは崩れてなくなるだろうがな……クハハ、人間共の慌てふためく顔が目に浮かぶわ……」
「魔王…………」
「だが忘れるな、我は死してなお不滅。いつの日か必ず蘇り、いずれまた世界を我が手に収めるべく動き出すだろう。そしてその時、お前は既にこの世にいまい。不確かな未来に怯え、つかの間の平和を、精々楽しんでおくのだな……」
「つかの間などにはさせないさ。私は『連れていく』勇者なんだぞ? ならば私がいなくなってからも平和な世の中になるように……そんな未来へと人々を連れて行こう。
何度でも蘇るがいい。何度でも我らの勇気はお前を挫く」
「そんなことが、本当にできるとでも……?」
嘲笑うように言う魔王に、ローレンツもまた自信ありげな笑顔で返す。
「できるさ。素晴らしい仲間がいれば、私程度にだって魔王が倒せたんだ。全ての人が賢くなれずとも、全ての人が愚かになることもない。世界を憂う人がいる限り、連綿と続く勇気の光は、必ず集まるのだ。
さらばだ魔王。己の身から生み出した腹心すら連れることのできなかった者よ。お前は誰より強く……だが誰より孤独であった」
「フッ…………興ざめだ」
最後にチラリとルカを見た魔王の体が、黒い塵となって崩れ落ちる。そんな魔王を見届けたローレンツが無言でその場に立ち尽くすなか、ルカがそっと俺の耳元に話しかけてくる。
(あの、先輩? 真っ二つになったのに、魔王ってどうやって話してたんですかね? それに何か格好いいこと言って死んでいきましたけど、最初に駄々をこねてた姿が頭から離れないせいで、どうしても感動しきれないというか……)
(お前、それ絶対勇者様に言うなよ!? 絶対だからな!?)
(え、それは逆に言えってことですか?)
(逆とかねーから! 言ったら全部台無しになるから!)
「もーっ、二人は本当に仲良しなのね。でも私も無視したら嫌よ?」
と、そこで、不満げに頬を膨らませたティアが突然俺の腕をとって抱きついてきた。するとすかさずルカも反対の腕に抱きついてくる。
「先輩! ボクも! ボクも寂しいと死んじゃいますよ!」
「ティア!? 別に無視したわけじゃ……あとルカは別に死んでもいいから、その辺で適当に寂しくしとけよ」
「酷い! ボクだけ扱いが違う!」
「何でティアと同じ扱いを受けられると思ってんだよ……」
「ガーン! 勇者様、勇者様! 先輩が酷いんですよ、勇者様ー!」
「ハァァ……ルカ、何故君はこんな時までそうなんだ!? いや、エドやティアもそうだが、今くらいもう少し真面目に……」
「えー? でも、こういうのこそボク達って感じがしません? しんみりするよりは、みんなで騒いで凱旋しましょうよ!」
「君という奴は……まあ、そうだな。では、凱旋と行こうか」
「はい! お城に行ったら、ご馳走とか出るんですかね?」
「まあ出るんじゃねーの? よし、帰るか」
「最後までしっかり連れて行ってくださいね、勇者様?」
「任せたまえ。どんな問題児だろうと、きっちり連れて帰ってみせよう」
悪戯っぽく言うティアに、ローレンツが笑って答える。こうして俺達の八ヶ月に渡る魔王討伐の旅は、漸く終わりを迎えるのだった。




