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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二九章 勇者と魔王と神の使徒

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敵であるということは、握手ができない理由にはならない

「……ぐぬぅ」


 尻を突き上げ地べたに這いつくばる姿は、正に敗北者のそれ。たまらず変な唸り声をあげた俺の頭上から、何とも楽しげなティアの声が響いてくる。


「あら、今日は随分とお寝坊さんなのねエド? ほら、大丈夫?」


「……まあな」


 差し出された手を掴み、俺はその場に立ち上がる。満面の笑みにはしてやったりという感情がありありと浮かんでいるのだが、悔しくはあっても腹立たしいとは思わない。それがきっと人徳の差というやつなんだろう。これがタルホだったら、顔の形が変わるまで殴り続けるところだ。


「え、え!? 先輩が負けたんですか!?」


 と、そこでルカが遅れて驚きの声をあげた。何度も何度も俺とティアを見比べ、困惑の表情を浮かべている。


「えっと……先輩が手加減した、とか?」


「馬鹿言え、子供相手ならともかく、ティアにそんなことしねーよ。油断したわけでもねーし、読み負けってところだな」


「えぇ? むしろそっちの方が驚きなんですけど……ティアさんってそんなに強かったんですねぇ」


「フフーン、そうよ! って言いたいけど、これはエドが相手だったからよ。ルカがエドと同じくらい強いなら、多分私が負けちゃうと思うわ」


「……? ごめんなさい、訳が分からなくなってきちゃったんですけど?」


 苦笑するティアの言葉に、ルカが混迷を深める。しきりに首を傾げて考え込むルカをそのままに、ティアが俺の方を向いて話を続けてくる。


「私がエドに勝てたのは、最後のとっておきが決まったから……よね?」


「そうだな。あれがなきゃ、俺が勝ってたと思う」


 決して強がりや負け惜しみではなく、あの一撃がなければ間違いなく俺が勝っていたという確信がある。が、だからこそあの一撃には黄金よりも価値があり、それを見抜けず対応もできなかった俺が負けたのだ。


「てか、あれ何だったんだ? 俺だけじゃなくティアからしても完全な死角になってる場所から、突然ぶん殴られた感じだったんだが」


「そうね、私も発動場所は視認してなかったわ。でも相手がエドだから当てられたの」


「俺だから? 何だそりゃ?」


 ルカの混迷が移ったかのように、俺も思いきり首を傾げる。するとティアがフフンと胸を反らしながら説明を続けてくれた。


「毎日見てるんだもの。エドの顔のことなら、きっと私はエド自身より知ってるの。あれだけ密着してればエドの顎が何処にあるかなんてすぐ分かるからこそ、完璧に命中させられたのよ。


 逆に言えば、他の人だったら絶対無理ね。あの魔法は無詠唱で発動させたから、当てる場所が一センチずれるだけでも大した威力にはならなかったと思うし」


「おぉぅ、そういうことか……」


 確かに、あれは真芯に当たったからあれほど脳を揺らされたのであって、少しでも場所がずれていれば、最低でもティアを跳ね飛ばしてその場から離脱することはできたと思う。


 だがティアは、俺の後頭部から顎の位置を正確に割り出し、見えない場所で発動させた魔法で的確に急所を打ち抜いた。そんな離れ業をこなされては、潔く負けを認めるなければ失礼というものだろう。


「スゲーなティア。今回は完敗だ」


 改めて、俺はティアに賞賛の言葉を送る。だがそれを受けるティアは、何故か微妙な笑みを浮かべている。


「ありがとう。でも今回だけよ。そうできるってわかったら、エドなら二度と喰らわないでしょうし……それに本当の本気(・・・・・)で戦ったら、勝敗はまるっきり変わっちゃうでしょ?」


「それは…………」


 今回の勝負において、俺は「追放スキル」を一切使っていない。そしてもし何か一つでも使っていれば、俺の勝利はその時点で決まっていた。


 そりゃそうだろう。「追い風の足(ヘルメスダッシュ)」で駆け寄ればティアの詠唱は間に合わねーし、「吸魔の帳(マギアブソープ)」を使えば全ての魔法攻撃が無効化される。ましてや魔王として「終わりの力」を振るえば、近寄る必要すらなく剣の一振りで終了だ。


 だがティアを相手にそんな戦いをするつもりもなければ、互いの力を勇者に見せるのが目的の模擬戦で俺の力だけアピールする意味もない。故に俺が発揮したのは「勇者に見せるための勝負」という枠の中での全力でしかなかったのはその通りで、だから手を抜いたと言われてしまえば反論もできないわけだが……


「あ、違うのよ! 別に皮肉とか卑屈になってるとか、そういうのじゃないの! ただエドの本気は今の勝負よりずっとずっと凄いって、そう言いたかっただけよ。


 だって私の相棒は、女の子に地面に転がされるだけの人じゃないでしょ?」


「ははっ、当たり前だ! 機会があれば、いつだって俺の最強っぷりをその目に焼き付けてやるぜ!」


 悪戯っぽく言うティアに、俺はニヤリと笑って剣を振る。完璧な軌道を描いた剣は光に照らされ残像を残し、真昼の草原にほんの一瞬夜明けが輝いた。


「キャー! 先輩、かっこいー! どうですか勇者様? これなら合格間違いなしですよね!?」


「ん? そうだな。エドもルナリーティアも、素晴らしい腕だった。私としても是非とも仲間になって欲しいところだが……ルカ」


「? 何ですか?」


「何というか……君はこの二人が私の仲間になるのを、反対していたんじゃなかったか?」


「…………あっ!?」


 無邪気に首を傾げていたルカが、ローレンツの指摘に「やっちまった」という顔をする。そのまま俺を見て、ティアを見て、そしてローレンツに視線を戻し……最後にはそっぽを向いて、ぼそっとその口を開いた。


「し、仕方ないです。先輩もティアさんも強いですし? とってもとっても不本意ではありますけれども、その実力は認めざるを得ないというか……」


 喉元まで出掛かった「それでいいのか?」という突っ込みを、俺は黙って飲み込んでいく。ルカの立場としては絶対によくないと思うんだが、それを俺が指摘するのはいくら何でも筋違いすぎるし、何より……


「なあルカ、難しいことはひとまずおいといて、一緒に冒険しようってことにしねーか?」


「先輩……先輩はそれでいいんですか? ボクは――」


「今言ったろ? そういうのはどうでもいいんだ。互いに色んな事情を知ったからこそなれる関係ってのもあるだろうし、それに……俺はルカにだったら(・・・・・・・)、背中を預けてもいい」


「……………………」


 その言葉に、ルカが動きを止めた。吊り上がった目を大きく見開き、期待とも不安とも違う、ガラスのように透明な視線をまっすぐに俺に向けてくる。だからこそ俺は、まだ生まれたてで何物にも染まっていない透明な魂に火を灯したくて、続く言葉を口にする。


「だから行こうぜ。俺はお前の先輩なんだろ?」


「…………先輩っ!」


 ルカが、ぴょんと俺に飛びついてきた。受け止めた体は予想よりも大分軽い……こいつちゃんと飯食ってるのか? いや、まあ神の使徒なら飯なんか食わなくても平気なのかも知れねーけど。


「やですねー! そこまで言われちゃったら、そりゃ同行しないわけにもいかないですよねー! もー、先輩ったら素直じゃないんですから!」


「今のお前の発言に、俺が当てはまる部分が一つも見つからねーんだけど、お前の中の俺ってどうなってんだよ?」


「それは勿論、先輩は先輩ですよ! あ、でも勘違いしないでくださいね! これからもボクは自分のやるべき事をやりますから、ボクの魅力にメロメロになったりしてると、いいところでグサッとやられちゃいますからね?」


「大丈夫だ、お前にメロメロになることは一生ねーから」


「そんな、酷い!?」


 じゃれついてくるルカの頭を掴んで、強引に引き剥がす。するとそこにやってきたティアが、ルカの手をギュッと掴んだ。


「二人が仲良しなのはわかったけど、私も忘れたら嫌よ? よろしくね、ルカ」


「こちらこそ、よろしくお願いしますティアさん! あ、ほら、勇者様も!」


「わ、私か!? いや、私はそういうのは……」


「いいからいいから! ほーら、これでみんな仲良しの勇者パーティです!」


 ルカに引っ張られ、ローレンツの手がルカの手を掴むティアの手の上に重ね合わされる。こうなると俺だけが孤立してしまったわけだが……


「ほら、先輩も早く!」


「エド!」


「……できれば早めに済ませてくれると嬉しい」


「あ、はい。じゃあ、まあ……」


 四人の手が重ね合わされ、何ともくすぐったい空気が場を満たす。


「新生勇者パーティ、ここに結成です!」


「いや、そういうのは普通、勇者様が言うんじゃねーのか?」


「細かいこと気にしちゃ駄目よ、エド。それに勇者様だって……あれ?」


「……………………」


「え? まさか勇者様、本当に言いたかったですか? ならもう一度! はい、どうぞ!」


「べ、別に言いたくなんてない! もういいだろ!」


「もー、照れちゃって! 勇者様ったらボクの次くらいに可愛いんだから! って、痛い!?」


「知らん!」


 ローレンツに拳骨を落とされ、ルカが涙目で頭を押さえる。何とも締まりのない感じだが、だからこそ俺達は俺達らしい流れで、今回も何とか勇者パーティに加入することに成功した。

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[気になる点] ティアって追放スキル貫通できるんじゃなかったっけ?
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