大丈夫かと心配されるほど、俺の装備は安くない
「んなことよりエド、お前達は次、何の仕事を受けるんだ?」
「次ですか? アーマジロの討伐を受けようかと思ってるんですけど」
「アーマジロか。そりゃまた面倒なのを選んだな」
俺の答えに、ジグが微妙に渋い顔をする。アーマジロは体長一メートルほどの大きな鼠のような魔獣で、その体に鉄より固い甲羅を複数纏っている。剣士であるジグにとっては、猛烈に相性の悪い相手だ。
「へっへっ。ジグさんには悪いけど、アーマジロなら俺の出番だな! いいぜエド、報酬を半分寄越すなら手伝ってやる」
そんなジグとは対照的に、タルホがニヤリといやらしい笑みを浮かべて言う。タルホの得物は大きなバトルハンマーであり、強烈な打撃武器だ。刺突や斬撃に高い耐性を持つ反面、打撃には割と弱いアーマジロを狙う以上、タルホの申し出は本来なら悪くない提案……流石に報酬の半分は論外だが……なのだが、今となっては違う。
「いや、別に俺とティアの二人で平気だから、お前の出番は一生こないぜ?」
「ハァ? 何言ってんだエド、アーマジロだぞ? テメェの剣で切れるわけねーだろうが!」
「あー、でも、ティアさんの魔法なら別じゃない? 火の魔法が使えれば、割とあっさり倒せるよ? アーマジロって熱にも弱いし」
「ケッ、ならエドはティアちゃんのおまけってことか。女に稼がせて自分は昼寝とか、いい身分だなオイ?」
「よーしタルホ、その喧嘩買ってやるから表出ろ。秒で伸してやるぜ」
「こーら、エド! そんなこと言わないの!」
「タルホ、お前もだぞ。親しき仲にも礼儀ありだ」
いきり立つ俺の額を、ティアが人差し指でつんと突く。タルホの方はジグに頭を引っ叩かれたが、それはそれとしてジグが俺を見て言葉を続ける。
「だが、タルホの言うことももっともだ。剣でアーマジロは無理だろ? それとも最近使ってるその剣は、そんなに切れ味が凄いのか?」
「そうですね。確かにこの剣は凄いですけど……」
俺の腰には、今まで使っていた安物の鉄剣ではなく、「夜明けの剣」が佩かれている。ドルトン師匠が鍛えたこれは、疑う余地もなく最高の逸品だ。
「アーマジロの甲羅が斬れるって、凄い剣なんですねー。ねえ先輩、それちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ん? い――」
ねだるようなルカの言葉に、俺は「いいぜ」と快諾して腰の剣を渡そうとし……しかしその動きが剣に触れたところまでで止まる。何だろう、後輩に剣を見せるくらい何てこともないはずなんだが……?
「おいルカ、やめろ。いくら仲間だからって、気軽に武器を借りたりするもんじゃない」
「えー、いいじゃないですか! ねえ先輩?」
「あー……悪い、こいつはちょっと、大事なもんなんでな」
ジグの言葉に乗っかって、俺はそのまま剣から手を離した。思わぬところで自分のケチくささを思い知らされた気がするが、まあ元々俺なんてそう大した男じゃないから、こんなもんだろ。
「ぶー。あ、じゃあみんなでアーマジロ退治をしませんか? で、一番負けた人がみんなに一杯奢るとかどうでしょう? それなら先輩が戦ってるところを見られますし、仕事も捗ると思いませんか?」
「おお、いいな! 何だよルカ、お前たまにはいいこというじゃねーか!」
ルカの提案に、自分が一番有利だと思っているであろうタルホが乗っかってくる。
「僕もいいよ。アーマジロはそれなりに得意だし」
次いでブランもそう答えるが、反面厳しい表情なのはジグだ。
「俺は……」
「何だよジグさん、負けるのが怖いのか?」
「うるせぇよタルホ! ってか、それなら相性的にはルカが一番悪いんだぞ? いいのか?」
「ボクは構いませんよ? そもそも先輩の剣技を見たいって言う、ボクの都合でやるわけですし。どうです先輩?」
「まあ、俺はいいけど……ティアはどうだ?」
「私? 別にいいわよ。みんなで競争なんて楽しそうだし!」
「なら決まりだ!」
その場の全員が同意したことで、皆でアーマジロ退治をすることがなし崩し的に決定した。とは言え流石に今からというわけにはいかないので、明けて翌日。朝に集合した俺達はそのまま目的地の草原に向かうと、皆を代表してジグが改めて話を始めた。
「ってことで、今からアーマジロ退治競争をする! まあ仲間内の遊びみてーなもんだから、面倒くさいことは言わん。明らかにヤバそうな場合か、助けを求められない限りは誰かが狙ってる獲物を横取りしないこと、そのくらいだ。
勝敗は討伐部位の数で決めて、負けたら全員に酒を奢ること! 何か質問はあるか?」
「ジグさん、討伐部位の換金は各自でいいとして、依頼の報酬そのものはどうするんですか?」
「ん? そりゃ一番倒した奴の総取りに決まってんだろ。まあそいつがよほどのクズでもない限り、一番負けた新人の代わりにその金で酒を奢ってくれると思うけどな?」
「ぐっ……」
最も有利だと思われるタルホに向かって、ジグがニヤリと笑いながら言う。タルホは嫌そうな顔をしたものの、特に否定の言葉は口にしない。何だかんだ言って悪い奴じゃねーからな。実際誰より稼ぎが少ないルカが最下位になったら、文句を言いつつも金を出してやるんだろう。
ちなみに俺やジグが負けた場合は、一切金を出さないどころか指さして笑いながら一番高い酒を頼むと思う。そこがタルホのタルホたる所以だ。
「んじゃ、勝負開始だ!」
「「「オー!!!」」」
ジグのかけ声と共に、俺達は草原に軽く広がりながら進み始める。そうして少し行けば、鈍色に輝く装甲を身に纏ったアーマジロが、何体ものそのそと暢気に歩いているのが見えてきた。
「あいつは俺のだ! 行くぜぇ!」
そんなアーマジロに、タルホが勢い込んで駆けていく。敵の存在に気づいたアーマジロがその体を丸くして防御態勢を取ったが……
「でぇい!」
ガキーン!
「キュウ!?」
でかいハンマーに殴られて、アーマジロの体がへこむ。気絶したアーマジロが体を伸ばすと、無防備に晒された頭にタルホの追撃が炸裂し、あっさりとその命を奪った。
「おら、まず一匹!」
「よーし、なら僕も! 燃える腹より脂が溶け落ち、萌える花から恋が咲く! 犬も食わない喧火の果てに、ベッタリねっとり付き纏え! 『焼け木杭に火の脂』!」
ブランの詠唱が終わると、その手に持った木の杖から赤黒い粘液がほとばしる。それはアーマジロの体に付着した瞬間から激しく燃え始め、どれだけ転がろうとも火が消えることはない。
「相変わらずブランの魔法はえげつねーな……消えない火がベッタリくっつくとか、絶対自分じゃ喰らいたくねーぜ」
「まあその分、射程は普通の魔法の半分もないけどねー」
引きつり笑いを浮かべるタルホに、脂肪と魔力を溜め込んだ腹を叩きながらブランが言う。魔法師なのに中~近距離戦闘しかできず、何故か痩せると魔力が落ちるというブランは扱いの難しい戦力だが、上手く型にはまればこの通り、その実力は本物である。
「うわー、凄い魔法ね。なら私は…………えいっ!」
そんなブランを横目に、ティアもさりげなく何かの魔法を発動する。するとアーマジロがビクッと震え、足下にじわりと血が流れ出ていく。
「えっ? ティア、何したんだ?」
「お腹の下に、石の槍を生み出したのよ。やっぱりあの甲羅は外側しか守ってなかったみたいね」
「あー、なるほど。そいつぁ確かに有効だな」
警戒して丸くなったアーマジロには効かなそうだが、不意打ちの一撃で仕留められるなら十分だ。うーん、みんなちゃんと考えて戦ってるなぁ。
「おいエド、お前もそろそろいいとこ見せろや!」
「うるせーなタルホ、わかってんだよ! なら、あいつをいっとくか」
自分は既に一匹倒しているため、余裕で煽ってくるタルホに答えつつ、俺は近くにいた一匹に狙いを定める。するとその殺気を感じ取ったのか、目星を付けたアーマジロはその場でクルリと丸くなり、かなりの速度でこっちに突っ込んで来た。
「馬鹿、危ねーぞエド!」
「大丈夫だって」
直撃すれば岩がへこむが、急には曲がれないので回避は容易な攻撃。だが俺はそれを棒立ちで待ち受け……
「よっと」
「ピギッ!?」
軽く振るった一撃は、死を運ぶ鉄の球をいとも容易く両断した。




