必要なことは伝えたので、あとは想像にお任せします
「ふぅ、片付いた……ってか、どうなってんだこれ!?」
マグナを襲っていた夜人形をサクッと斬り伏せ、俺は思わず悪態をつく。どうやらギリギリのところで間に合ったようだが、そもそもこの状況になっている理由が全くわからん。
「エドー!」
「おう、ティア。置いてって悪かったな」
「急いでたんだから、仕方ないわよ。それより、何でここに夜人形がいるの?」
「さあ? 少なくとも昨日の昼の段階ではいなかったはずなんだが……」
俺達がこの村を出たのは、当然珍しい薬草探しのためなんかじゃない。そろそろマグナとの仲も何とかなりそうだったので、次の目的……即ち勇者に倒されてしまった魔王の力を回収できるか試すために、その痕跡を追っていたのだ。
だからこそ、俺は「失せ物狂いの羅針盤」で一番近くにいる夜人形の場所を探し、そこに向かっていたんだが……その反応がいきなり反転し、村の方を指した時は本気で驚いた。夜人形は夜にこそ活発に動くのでたまたまチェックしてたんだが、普通に朝まで寝てたら割と洒落にならないことになっていた気がする。
「っと、まだ反応が残ってるな。ティア、マグナ達の手当を任せていいか?」
「わかったわ。どうせ私じゃ夜人形は倒せないものね」
「はは、そこは適材適所ってやつさ。じゃ、ちょっと行ってくる」
若干不満げに言うティアに笑いかけつつ、俺はその村の中央付近に向かう。するとそこには一際でかい夜人形がおり、誰かが戦っているようだ……んん?
「あれ、ひょっとしてバルゴとエルンか? ならあの鎧の人は……」
「おい君! 近づくな!」
少し離れたところで立ち止まった俺に、見覚えのある鎧を身に纏ったイケメンがそう声をかけてくる。
「えっと、これは一体? というか、貴方は?」
「は!? 勇者レイホルトを知らないとか、一体何処の田舎者ですか!? バルゴより物を知らない人なんて、生まれて初めて見たのです!」
「おいエルン、それは言いすぎじゃねーか!? 俺より物を知らないなんて……あれ? ひょっとして今、俺も馬鹿にされたか?」
「安心するのです。バルゴはいつだってお馬鹿の一等賞なのです」
「安心する要素がこれっぽっちもねーぞ!?」
呆れたような美少女っぽい少年の言葉に、でかい斧をブンブン振り回す巨漢の戦士が抗議の声をあげる。ふむ、この二人が付き添っているなら、やはりあれが勇者レイホルトで間違いないようだ。
「いやぁ、田舎者ですみません。じゃ、加勢しますねー」
「待て! これはそんな簡単な相手では――」
「よっと」
「……何?」
俺が「夜明けの剣」を振るえば、巨大な夜人形の右腕があっさりと切り飛ばされる。しかもそのまま光を失って崩れ落ちるおまけ付きだ。
「なっ!? ど、どういうことです!? 見たところルナメタルの剣じゃないですし、どうしてこんな――」
「ハッハッハ、田舎者だからって、弱いわけじゃないんですよ? そらそら!」
俺が剣を振るう度、夜人形の腕が、足が飛んでいく。確かに本来ならルナメタルの武器以外で夜人形を倒しきることはできないんだが、夜人形の力の源は、そもそも魔王の力である。俺は斬ると同時にそれを回収しているだけなので、「終わりの力」を振るうまでもない。
と、そこで最後の悪あがきとばかりに、夜人形が背中の甲羅からニュッと針だか槍だかを伸ばし、中空に飛ばす。多分あれがこっちに向かって降り注いでくる感じなんだろうが……
「んな大味な攻撃、当たるわけねーだろ!」
ふわりと空中に浮いた段階で、俺は「追い風の足」を起動して夜人形の懐に入り込んでいる。そうなれば角度的に俺に攻撃は届かないわけで……俺はとどめとばかりに下から剣を突き刺し、それに合わせてさりげなくその体に触れた。
「……っし! いけた!」
手のひらから伝わる、俺の力の欠片への繋がり。さっきの雑魚ではか細すぎて無理だったが、どうやらこのくらいの大物ならそこまで辿ることができるようだ。ならば後はそれを回収して……ほいっと。
「これで本当に『終わり』だ。お疲れさん」
「ooooooooo…………」
魔王が完全に俺の中へと消え去ったことで、存在の前提を失った夜人形の巨体がボロボロと崩れていく。俺が慌ててその場を飛び退くと、山となった錆の塊が風に吹かれ、青白い粒子となって空へと溶けて消え始めた。
「うぉぉ、スゲー! あのデカブツがあっさり倒されちまったぜ!」
「そんな、将軍級の夜人形が、こうもあっさり……」
「君は一体……?」
そんな俺の背後から、勇者様ご一行が凄い視線を投げかけてくる。流石にこれは無言で逃げるというわけにもいかなそうだ。
「あー、どうも。俺はほら……あれです。勇者とは別口で、魔王を倒すために研鑽を積んでいた一族の末裔みたいな?」
「……そんなもの、話に聞いたことすらないですよ?」
「そりゃそうですよ。存在を知られたら、真っ先に魔王に狙われちゃいますからね! それに俺達は眷属を……夜人形を倒すことこそ得意でしたけど、魔王そのものをどうにかすることはできなくて……だからほら、適材適所ってことで! いやぁ助かりました! 何もかも勇者様が魔王を倒してくれたおかげです!」
「そう、なのかい? いや、しかし……」
早口で思いついた設定をまくし立てる俺に、レイホルトが戸惑いを露わにする。だがここで流れを止めて追求されるのは困るので、俺は勢いを殺すことなく更に言葉を重ねていく。
「そうなんですって! あ、ちなみにですけど、多分今のが最後の眷属ですよ? 残りは間違いなく、俺の仲間達が倒したはずなんで」
これも勿論、嘘である。が、今のが最後というのだけはほぼ本当だ。魔王そのものが失われた今、どれほど遅くても夜明けまでには全ての夜人形が崩れて消えるのは必定。そのくらいの誤差なら……まあいいだろ、多分。
「何てこった、そりゃ本当なのか!? やりましたね勇者様! これで俺達の後始末の旅も終わりですよ!」
「バルゴ!? そんな得体の知れない奴の言うことを真に受けるとか、お馬鹿にも程がありますよ!?」
「エルンこそ何言ってんだ、こいつはたった今、俺達の目の前でスゲー力を見せたじゃねーか! 目の前で起きたことを疑うなんて、そっちの方がおかしいだろ!」
「うぐっ、それは……ゆ、勇者様!?」
「そう、だね。流石にそのまま信じることはできないから、確認は必要だろうけど……」
そこで一旦言葉を切ると、レイホルトが錆の山へと近づいていく。そこに残った最後のひとすくいを手に乗せると、それもまた光の粒子となってサラサラと消えていく。
「終わりというのは、案外こんな風にあっけないものなのかも知れないね。助力ありがとう。えっと、君は……」
問うレイホルトに、しかし俺は無言で首を横に振る。名乗るつもりはない。この世界に三人目の勇者なんていなくてもいいのだから。
ならばこそ、俺はこっそり「不可知の鏡面」を発動した。スッと消えた俺に勇者達は目を剥いて驚き、それぞれの反応を示す。
「き、消えちまった!? 何だよ、どういうことだ!?」
「……神様とか精霊とか、そういう感じの存在だったんでしょうか?」
「わからない。わからないが……きっとこれで、世界は真に魔王の脅威から解き放たれたんだろう。ああ神よ、願わくばこの優しい夜の帳が、これからも世界の全ての人々を包み込んでくれますように」
空に輝く満月を見上げ、レイホルトが静かに祈る。
(多分あいつは、そういう願いは聞かねーと思うけどなぁ)
それを消えたまま間近で聞いていた俺は、ただ静かに苦笑してその場を去って行くのだった。




