成功の秘訣は、需要を見定めることだ
当たり前というか何というか、その後も慰霊祭は何事もなく進行し、そして終わった。もっと大きな町なら酔っ払って暴れる奴や明け方まで飲んで騒ぐ奴なんてのがいるんだろうが、この小さな村でそんなことをする奴はいない。日が暮れる少し前には料理も酒も片付け終わり、次の日にはもう何もかもがいつも通りだ。
そして俺達とマグナは、ちょっとだけ仲良くなった。俺はマグナの少しだけ深いところに入り込み、ティアは妹のルルカにいい具合に気に入られたらしい。ただそれで「仲間」と言えるほどになれたかというと……やはりまだ足りない気がする。
もう一歩、踏み込む何かが欲しい。となると一番有効なのは、共通の話題だ。そして余所者の開拓者と農家の長男であるマグナに共通する話題と言えば……
「勇者様の旅の軌跡の情報、ですか?」
アントラの町にある、開拓者協会の受付。俺の出した依頼に、受付の女性が不思議そうに首を傾げる。
「ええ、そうです。ほら、その……勇者様って、凄いじゃないですか。なんで俺も是非、憧れの勇者様の辿った道を旅してみたいなぁと思ったんですよ。でも自分で情報を集めてみると、どうも人によって微妙に内容が違うというか……いや、大筋は同じなんですけど、小さな村とかだと名前が違ったりすることが結構あって」
「なるほど。確かに旅の詳細に関しては、流れている噂の内容に地域ごとのばらつきがありますからね。なにせ勇者様が立ち寄ったとなれば、それだけで大きな自慢になるでしょうから」
要は自己顕示欲からくる他愛のない嘘……というより見栄だ。よほど悪質なものでなければ、その手の与太話は大抵流されて終わりである。が、今の俺が欲しいのはできるだけ確実な情報なので、それでは駄目なのだ。
「別にそれをどうこう言うつもりはないんですけど、ただせっかく行った先で『ここが勇者様が立ち寄った村かぁ』と感慨に浸ってるところで『いや、うちに勇者様が来たことなんて無いよ?』とか言われたら……それはちょっと格好悪いかなって。だったらここで依頼ってことにすれば、正確な情報が集まるかと思ったんです」
「そうですか。確かに依頼であれば裏付けはきっちり取りますし……そもそもうちの前身は『銀月の剣団』ですからね。そりゃちゃんとした情報はありますよ」
勇者に憧れる青年という体でやや興奮気味に話す俺に、受付の女性が納得しつつ頷いてくれる。今でこそ便利屋のようになったが、ここは半年前まで人々のために戦う者達の組織だった。なので当然勇者の動向は正確な情報として残されていると踏んだのだが、間違いではなかったようだ。
そして、魔王が討伐された今、勇者の過去の道程は別に機密でもなんでもない。実際受付の女性は軽い調子で頷きながら、手元の資料をパラパラとめくりつつ答えてくれる。
「そういうことなら、そうですね……情報料と手数料を込みで、銀貨三枚ほどで資料をおまとめしますが、どうでしょう?」
「それでお願いします」
「はい。では今日の夕方以降にまたお越し下さい」
「わかりました。では、また」
礼を言って、俺は協会の建物を後にする。すると入り口で待っていたティアが、すぐに俺の方に寄ってきた。
「おかえりエド。どうだった?」
「ああ、大丈夫だった。あとは夕方に取りに来てくれって」
「そう。なら少しこの辺を見て、時間を潰しましょうか」
「だな」
ティアの誘いに乗って、俺達は町中を歩き回る。比較するのは無粋だろうが、やはり村とは活気が違うので、時間つぶしには事欠かない。
「にしても、不思議な感じね。勇者の人とここまで離れて活動してるのって、ひょっとして初めてじゃない?」
「そうだな。いつもだとこうはいかねーし」
パーティ判定が続くのは、精々同じ町の中くらいだ。村からここまでは徒歩で三日ほどの距離があるので、普通ならば俺達だけでここに来ることはできない。
が、今回はまだ勇者マグナに、俺達は仲間とまでは認めてもらっていない。それを何とかするための行動ではあるが、だからこそ今の俺達はまだ自由なのだ。
「それで、資料を見てどうするの? まさか本当に同じ旅路を行くわけじゃないわよね?」
「流石にそこまではやらねーよ。ただ勇者の旅ってことなら、おそらく一周目の時に俺が行ったことのある場所があるはずなんだ。だからその辺の思い出話を絡めつつ、行ったことがあるって感じで話せば興味を引けるかなーって」
「そっか。まあ、その辺が無難よね」
「あとは、勇者レイホルト本人にも会ってみたいところなんだが……そっちはなぁ」
世界には認められていないが、人々から認められた勇者レイホルトは、今現在世界各地を回って夜人形の残党を倒す旅をしているらしい。なので一般人である俺には勇者の正確な位置などわからないし、仮にわかったとしても気軽に会いに行くわけにもいかないだろう。
無論どうしてもとなれば「失せ物狂いの羅針盤」を使えば会えるだろうが、ちらっと話をする程度でそこまでするのは正直効率が悪そうだしな。
「ふむ。でも、そうか。そういうことなら……あれはいいんじゃねーか?」
「あれ?」
「フッフッフ、そいつは後のお楽しみだ」
ニヤリと笑った俺は、そのまま通りを歩いて行く。そうして辿り着いたのは、一軒の武器屋の前だ。
「いらっしゃい!」
「どうも。あの、ちょっと聞きたいんですけど、ここってルナメタル製の武器ってあります?」
「勿論あるぜ。ほれ、そこの棚だ」
「ありがとうございます」
店主と思われる中年男性が指さした先には、銀色に輝く武器が飾られている。ただその値段は一周目の時の半額どころか、三割くらいにまで落ち込んでいる。
「うわっ、メッチャ安くなってんな……親父さん、これ平気なんですか?」
「平気か平気じゃないかと言われると、まあ厳しいな。魔王が倒されて需要が激減したから、ルナメタルの相場自体が下がってる。なんでその値段でもぶっちゃけ原価割れだ」
「うわぁ……」
何という世知辛さ。だが夜人形を唯一倒せる武器ってことで価値が高騰していたわけだから、魔王が死ねばそうなるのは仕方ないと言えば仕方ないだろう。別に普通の武器として使えないわけじゃないが、鋼の剣の方がよっぽど安くて丈夫だしなぁ。
もっとも、親父さんには悪いが、俺にとっては実に好都合な状況だ。
「こいつは運が良かったな。親父さん、これとこれと……あとこれもください」
「「えっ!?」」
次々と剣を指定した俺に、店主の男とティアの驚きの声が重なる。
「おいおい、いいのか? スゲー額になるぞ!?」
「ちょっとエド、そんなに剣ばっかり買ってどうするつもりなの!?」
「いいからいいから。それとも……そうか。練習も兼ねるなら、いっそ店にある在庫を全部買っちまうかな?」
「はぁ!?」
「いや、思ったより大分安かったんで。どうですかね? 買い占めは良くないってことなら遠慮しますけど」
「…………い、いや。俺としては在庫が捌けてくれるのは嬉しいけどよぉ」
「なら良かった。じゃ、全部買います。あ、後で馬車をよこすんで、店の裏手の人目につかない場所にでも、箱に入れて詰んどいてもらえますか?」
「お、おぅ……」
笑顔で言う俺に、店員の男が戸惑いの表情のまま店の奥へと消えていく。そうして店内に二人きりになると、ティアが怪訝そうな顔をしながら話しかけてくる。
「ねえ、本当にどういうことなの? エドが何をしたいのか、私にはサッパリわからないんだけど?」
「そうか? なら質問だが……憧れの人に少しでも近づきたいとか、その存在を近くに感じたいと思ったら、どうすればいいと思う?」
「へ? それは……訓練する、とか?」
「あー、いや、それも間違ってはいねーと思うけど……」
予想外のティアの答えに、俺は思わず苦笑してしまう。本当の意味で近づきたいならそれで間違ってないんだが、今俺が問うたのはもっと俗っぽい感じの方だ。
「いいかティア。憧れの人を身近に感じる一番の方法、それは……形から入るってことだ!」
「……形?」
「おう! ってことで、材料は調達できたから、次は鍛冶場を貸してもらえる場所を……って、そうか、それもさっきの親父さんに頼めばよかったな。おーい、親父さーん!」
「???」
頭の上にハテナを浮かべまくるティアをそのままに、俺は店の奥にいるであろう男性に呼びかける。クックック、マグナの驚く顔が目に浮かぶぜ……




