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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二七章 誰も知らない本物勇者と、誰もが知ってる偽勇者

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困っていない人を助けるのは、世界を救うより難しい

 名も無き小さな村にやってきてから、おおよそ二ヶ月。俺は今日も村の人達への顔つなぎのために、適当な雑用を――


「ねえ、エド。ちょっといい?」


「ん?」


 村長から借りている部屋を出ようとしたところで、背後から呼び止められ振り返る。すると何とも困ったような表情を浮かべたティアが、言いづらそうに視線を彷徨わせている。


「何だよティア。何かあるのか?」


「あの……あのね。少し前から、言おうかどうかずっと迷ってたんだけど……」


「? 何を?」


「別にね! 私はエドの方針を否定したいとか、そういうことじゃないの! それは勘違いしないで欲しいんだけど」


「だから何だよ? 思ってることがあるなら、はっきり言ってくれって」


「じゃあ言うけど…………マグナさんと全然仲間になれていない気がするんだけど、いいの?」


「グハッ」


 必死に目を背けていた現実を突きつけられ、俺は思わずその場に崩れ落ちた。四つん這いで床を見つめる俺の背を、ティアが慌てて擦ってくれる。


「大丈夫エド!? ごめんね、やっぱり言うべきじゃなかったのね」


「いや、いいんだ……わかってる。わかってるから……」


 二ヶ月も経つというのに、俺達とマグナは特に親しくなれてはいない。村で顔を合わせれば挨拶くらいはするが……要はその程度の関係ということだ。


「くっそ、わかっちゃいたけど、ここまで難しいとはな……」


「そうね。普通にお話しする機会すら、あんまり無いものね」


 マグナの家は、マグナの親父さんとマグナ、それに妹のルルカの三人家族だ。母親は一〇年ほど前に病気で他界したらしく、その後は三人で助け合って生活しているという。


 で、マグナは親父さんと一緒に農業を営んでいるわけだが、農業というのは基本忙しいうえに、休みの日というものがない。毎日朝から晩まで働いており、そんなところに用もなく雑談だけしにいったら、邪魔をするなと怒られてしまうだろう。


 ならば仕事終わりにと思っても、この村には酒場なんて気の利いたものはない。村人は皆自分の家で飯を食い酒を飲むため、相席で雑談をするどころか、「飯を奢るから村のことを色々教えてくれ」と頼むことすらできない。


 調理場を借りて俺が料理を作ることはできるが、手料理まで作って食事に誘うには、あまりにも関係性が薄すぎるしな。


 とまあそんなわけで、結果俺達がマグナと話せるのは、マグナ側が仕事を中断してでも話をしたいと思った時か、仕事を中断させてでも話さなければならないことがあるときだけだ。


 そしてそんな緊急性のある事案は、この平和な村では何もおこらない。一応農具の手入れとかで一度だけ家に行ったことがあるが、逆に言えばその一回だけだ。腕がよすぎると逆に怪しいので「見様見真似の熟練工(マスタースミス)」は使わずに打ったが、それでも農具なんてよほど無茶な使い方をしなければ、一度手入れすれば一〇年やそこらは余裕で使えるしな。


「俺が畑仕事を手伝えねーのはわかってたことだけど、まさかティアの手助けまで断られるとはな……」


「言われてみれは仕方ないわよね。確かに私は、農業の知識があるわけじゃないし」


 素人の俺が手伝えないのは、最初からわかっていた。最高に忙しい収穫期ならまだ手伝う余地もあったかも知れねーが、十分人手が足りている状況で、わざわざ余所者に大事な作物を弄らせたりしないのは当然だ。


 が、ティアの精霊魔法まで断られたのは想定外だった。俺としては簡単に広範囲の水やりが終わるとか、サクッと雑草がなくなるとかはスゲー便利だと思ったんだが、マグナ達は地面や作物の状況を見て細かく水の量を調整したり抜く草、残す草なんかを選別してるみたいで、それをいちいちティアに教えて微調整させるくらいなら、自分達でやった方が早くて確実らしいのだ。


「ぬぅ、完全に農業を侮ってたぜ……マジで手を貸す余地がない。でかい獲物を狩ってきても村全体にお裾分けってなると一言二言御礼を言われて終わりになっちまうし、本当にどうしたもんだろうな」


 表向きの理由があるので、俺達は三日森に入ると一日村で過ごすというペースで生活している。で、その際にいい感じの熊だのイノシシだのを狩って手土産にしているのだが、それもやはり「特定の誰か」と一気に親しくなれるような手段とは言えない。村全体としての好感度はあがっているだろうが……逆に言えばそれ以上は望めないとも言える。


「困ってない人の役に立つって、こんなに難しいのね。私も正直、もうちょっと仲良くなれると思ってたんだけど」


「だなぁ。まあ本当の最終手段としては『特別な仲』を目指すって手もあるけど……それは流石になぁ……」


「駄目よそんなの! っていうか、私もやりたくないし」


「だよなぁ」


 ティアがマグナに惚れた、あるいは俺がルルカに惚れたという体でならば、やや大げさな便宜を図っても周囲からの理解は得られるし、それを成就することで家族として受け入れられれば、「追放」の条件としては十分だろう。


 が、勝手に惚れたことにした上に、相手が受け入れてくれたら適当な理由で別れるのはいくら何でもあり得ない。そうしないと誰かの命に関わるとか、運命の流れ的に大きな問題が生じるとかなら泥を被ってもやり遂げる覚悟はあるが、単なるきっかけとして選ぶには重すぎるし、酷すぎる。俺だってやりたくないし、ティアにやらせたいとも思わない。


 なお更に非人道的な方法としては、何らかの事件や事故を意図的に引き起こしたうえで助けることで恩を売るというのもあるが、それをやってしまったら、もう俺はティアと一緒に異世界を旅することを楽しいと思えなくなってしまうと思うので、端から選択肢には入れていない。まあ当然だな。


 というか、そう。きっかけ、きっかけなのだ。やはり見ず知らずの相手といきなり「仲間」になるには、それなりのきっかけが必要なのだ。


「あー、『偶然という必然(フラグメイカー)』って、やっぱりスゲー能力だったんだなぁ」


 しみじみ……本当にしみじみとそう呟きながら、俺はゆっくりと立ち上がる。これは唯一俺の力じゃなく、神から押しつけられた能力なので、ぶっちゃけ俺の力ではどうやっても再現できない。


 無くしてわかる、そのありがたさ。いや、そもそも「追放」されないと世界から出られないとかいう糞条件が無ければいいだけなんだが、更に言うなら異世界を巡らされていることだって……いや、やめとこう。これは考えれば考えるだけ不毛になっていくやつだな。


「それで、本当にどうするの? これからも時間をかけて、ゆっくり仲良くなっていくしかないのかしら?」


「うーん、今のところは、そうだなぁ……」


 勇者が勇者じゃなくなってる時点で、一周目の知識はこれっぽっちも役に立たない。本来ならマグナが抱えていた色々な事情も、勇者として戦ってない時点で全部なかったことになってるんだろうしな。


「というか、そもそも何でマグナさんは勇者になってないのかしら? いえ、逆? 何でマグナさんは勇者になったの?」


「ああ、それか。俺もそこまで詳しい話は知らねーんだけど、マグナが勇者になった理由は……」


 言いながら、俺はかつてマグナが旅の間に話してくれた内容を思い出す。ぽつりぽつりと語られたそれは、ただの村人を勇者に変えた、ありきたりな悲劇。


「この村が夜人形(ナイトウォーカー)に……魔王の眷属に襲われて、全滅したからなんだよ」


 それは実在した過去で、訪れなかった未来。平穏に満ちたこの場所は、かつて死と絶望の横たわる墓所であった。

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