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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二七章 誰も知らない本物勇者と、誰もが知ってる偽勇者

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中央突破が許されないなら、外からじわりと攻めるべし

 そうして村長のお許しを得たことで、俺達は堂々と村の中を歩き回ることができるようになった。俺一人なら向けられる胡散臭げな視線を解きほぐすのはかなり苦労しただろうが、そこはティアが居てくれるので余裕だ。何せウチの美人さんは、あっという間に誰とでも仲良くなっちまうからな。


「あらアンタ、凄いじゃないかい! 干し肉があっという間にできあがっちまったよ!」


「へへへー、お役に立てたなら何よりです」


 ティアの精霊魔法でカラカラに乾燥した干し肉を見て、人のよさそうなおばちゃんが笑う。最初こそ眉間に寄っていた皺も、今はツルツルのニッコニコだ。


「こっちも終わりましたよ。どうですか?」


「おお、凄いな! 新品同様じゃないか!」


 そして俺の方も、久しぶりに振るった鍛冶の腕をその旦那さんに褒められる。草刈り用の鎌の刃が欠けていたのを軽く打ち直しただけなんだが、鍛冶師がいねーとその程度(・・・・)の修復すらできねーからな。


 最初こそ大事な農具を見ず知らずの俺に触らせることに不安を露わにしていた旦那さんだったが、元の形を取り戻した鎌を眺めて満面の笑みを浮かべている。うむうむ、これだけいい反応を返してくれると、俺の方も嬉しくなるな。久しぶりの鍛冶仕事も楽しかったし。


「いやー、ありがとう。助かったよ。随分若いからどうなのかと心配だったけど、こりゃいい!」


「ホント、ありがとうねぇ。ほら、これ持ってきな!」


「わ、ありがとうございます!」


「しばらくは村長さんの家に滞在すると思うんで、何かあったら気軽に声をかけてください」


 笑顔で手を振るご夫婦に、俺はそう告げてその場を立ち去る。その隣ではできあがったばかりの干し肉を手渡されたティアが、ムグムグと美味しそうに囓っている。


「ふふ、たまにはこういうのもいいわよね。何かこう……役に立ってる! って感じが凄く実感できて」


「だな。じゃ、この調子で村を回るぞ」


「了解!」


 顔見せはまだ始まったばかり。やる気を見せるティアを引き連れ、俺達は更に村を歩いていく。洗濯をしてるおばちゃん、野菜を引っこ抜いているおじさん、人の尻を蹴ってくるクソガ……げふん、元気なお子様。色んな人達と出会い、声をかけてかけられて、少しずつ顔を広げていきながら村の人達の話も聞いて……


「さて、それじゃ次だな……ティア、いよいよだぞ」


「いよいよって……あ、じゃあ次の人が?」


「そうだ」


 空が緩やかに暗やみ始め、そろそろ外での仕事は終わりの時間。俺達が歩き進んだ先には立派な麦畑があり、まだ実りには遠そうな緑の穂のなかに、一人の若い男性の姿がある。


「こんにちはー!」


「はい?」


 俺が声をかけると、俺よりも少し年上の青年が曲げていた腰を伸ばしてこちらを見る。短く刈られた茶髪に、髪と同じ色の純朴そうな瞳。くすんでヨレヨレになってはいるが決してボロではない布の服を身に纏ったその男こそ、この世界の勇者マグナである。


「えっと、どちら様ですか?」


「初めまして。俺達は今日この村にやってきた、開拓者(ピオニー)の者です。しばらくここに滞在する許可をいただいたんで、挨拶と、あと何かお手伝いできることがないかを聞いて回ってるんです」


開拓者(ピオニー)……? ああ、そうか、名前が変わったんですね。初めまして、自分はここで農家をやってます、マグナです」


「俺はエドです。で、こっちは仲間のティアです」


「ルナリーティアです。初めまして、マグナさん」


「エドさんに、ルナリーティアさんですね。初めまして」


 挨拶する俺達に、マグナが畑のなかからこちらへと歩み寄ってくる。その動きは完全な一般人で、戦いに身を置くような人生を送っていないことは一目瞭然だ。


「それで、ええと……手伝い、ですか?」


「はい。俺は鍛冶ができるんで、農具とか調理具とか、そういうのの手入れをとりあえず請け負ってる感じですね」


「私は精霊魔法が使えるから、たとえば畑に一気に水を撒くとか、ガッチリ根を張っちゃってる雑草を引っこ抜くとか……あとは作物を荒らす小さな虫を吹き飛ばすとかもできますよ?」


「おお、それは凄いですね。とは言え、現状特に困っていることは――」


「お兄ちゃーん!」


 と、そこで畑の奥から、そんな声が聞こえてきた。声の方に意識を向けると、生い茂る麦をかき分けて、一五歳くらいの少女が姿を現す。


「ああ、こんなところにいた……って、誰?」


「ルルカ。こちらは今日この村にやってきた、開拓者(ピオニー)のお二人だ。しばらく村長さんの家に滞在するから、挨拶に来て下さったんだよ」


「へー、そうなんだ。初めまして、私はお兄ちゃんの妹で、ルルカっていいます」


 長い編み込みの髪を体の横に垂らしながら、マグナによく似た顔立ちの少女がそう言って頭を下げる。その屈託のない笑顔に……しかし俺は僅かの間、呼吸を忘れるほどに動揺してしまう。


「ルルカちゃんね。私はルナリーティアよ。で……エド?」


「あ、ああ。俺はエドだ。よろしく」


「はい、よろしくお願いします。で、お兄ちゃん。そろそろ夕食だから呼びに来たんだけど、何か用事の途中だった?」


「いや、そんなことはないよ。すぐ行くから、父さんに声をかけたら先に帰っておいてくれ」


「はーい。じゃ、お二人とも、失礼します」


 そう言ってもう一度頭を下げると、ルルカがその場を走り去っていく。俺はその姿を目で追いそうになってしまったが、すぐに意識を切り替えてマグナの方に顔を向け続ける。


「ははは、騒がしい妹ですみません」


「いやいや、元気なのはいいことじゃないですか」


「そう言っていただけると助かります。それでお手伝いなんですが……すみません、さしあたってお願いしたいようなことは、自分の方ではない感じですね」


「そう、ですか。じゃあ何かありましたら、気軽に声をかけてください。しばらくはこの村に滞在させていただくつもりなんで」


「わかりました。では、失礼します」


 最後に一礼して、マグナも畑の中へと戻っていく。その姿を軽く見送ってから、俺達はその場を後にし……道すがら、ティアが話しかけてくる。


「エド、さっきはどうしたの?」


「ん? ああ……ちょっとな」


「むぅ……にしても、確かにこれは大変ね」


 言葉を濁す俺に、ティアが微妙に不満げな顔をしつつも、話を変えてくれる。ただし変えた先の話も、やはり面白い内容にはならない。


「最初の町でエドが言ってた意味が、やっとわかったわ。これ、どうすればいいのかしら?」


「うーん、正直、どうしようもねーんだよなぁ」


 異世界に来た俺達がやらなければならない最たることは、勇者パーティの一員となって、行動を共にすることだ。そしてそれは、マグナが勇者ではないにしろ、今の俺達のように開拓者(ピオニー)……各地を旅して色々な仕事を受けるような立場であったならば、そう難しいことではなかった。


 が、今のマグナは自分の生まれた村で家族と一緒に畑を耕す農民で、そこには俺達が介入する余地がない……つまり、仲間になることができないのだ。


「ま、焦っても仕方ねーさ。まずはじっくり時間をかけて仲良くなっていこうぜ」


 マグナにとって、今の俺達は「初めて会った余所者」でしかない。そこから知人、友人、そして最後は仲間に……なかなか遠い目標だが、諦めるという手はない。


 急速に暗く成り行く空を見上げながら、俺は今までにない難題の答えを求めて思考を巡らせていくのだった。

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