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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二七章 誰も知らない本物勇者と、誰もが知ってる偽勇者

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自分の欲しい本物が、皆の認める本物とは限らない

 微妙な空気になってしまったこともあり、俺は訝しげな視線を向けてくるオッサンに曖昧な笑みを浮かべながらその場を立ち去った。するとすぐに隣に並んだティアが、手にした串焼きを差し出してくる。


「落としちゃって残念だったわね。はい、どーぞ」


「おう、ありがとう……って、食べかけかよ! まあ貰うけれども」


 上半分が食べられた串焼きを受け取り、残ったところに齧り付く。流石にちょっと冷めてきてるが、やはり味はいいな。


「で、エド。勇者の人の名前が違うのは、どうしてだと思う?」


「うーん、考えられる可能性は、概ね二つだな」


 食い終えた木串を口にくわえて揺らしつつ、俺は話を続けていく。


「一つは、まあ騙りだな。勇者の偽物なんて何処にでもいたし」


「そうよね。私の偽物を見た時は、笑っちゃったけど」


 当時のことを思い出してか、ティアがクックッと口を押さえて笑う。勇者パーティは当然有名であり、その偽物は偶に現れたりするわけだが……


「まあ、あれはなぁ」


 顔はまあまあだが妙に背の低いアレクシスに、ひょろりと背は高いが痩せ気味のゴンゾ、おまけに豚か何かの皮で作った偽の長耳を身につけた、本物よりも大分老け顔のティア(中身は三〇代の人間の女)という三人組に出会った時は、ぶっちゃけ腹を抱えて大爆笑してしまった。


 ちなみに俺の偽者はいなかったんだが……まあ、うん。荷物持ちだしな。


「ただまあ、今回に限って言うなら、偽者の可能性は低いと思う」


「あら、何で?」


「そりゃ、さっきのオッサンが言ってたからだよ」


 ここが小さな田舎町ならば、近くに偽者が出たんだろうと考えるところだ。が、ここは人口が万に届こうかという大きな町であり、しかも町門近くの屋台のオッサン……つまり外部の人間と頻繁に接する人物の口から出た言葉となれば、単純な偽者ではあり得ない。


「関わる全員が同じ名前を口にするってことは、この辺一帯でそれが真実だって思われてるって事だ。国家ぐるみで勇者の捏造はしねーだろ。費用対効果が悪すぎる」


「それはそうね」


 王様やら王子様やらが勇者となればそりゃ栄誉だろうが、勇者本人じゃなくても、その仲間とか、あるいは勇者を召し抱えてるとか、その程度でも十分な価値がある。なのに莫大な手間と金をかけて勇者本人に成り代わるなんて面倒なこと、よほど勇者の生まれや人格に問題がなければしないだろう。


 そして俺の知る限り、勇者マグナはこの国の農村の出身であり、温厚で善良な人物だ。万が一どっかの王侯貴族の隠し子なんて裏設定があったりするのでなければ、表に出して困ることなどないだろう。


「じゃ、もう一つは?」


「そりゃあ……本当に勇者が別人になってるってことだ」


 勇者は強い。だが無敵でも不死身でもない、ただの人だ。何らかの事情でマグナが既に死んでいた場合、次の勇者として件の人物が世界から選ばれた可能性は、当然ある。


 あるいはこの世界そのものが大きく変わっていて、そもそも勇者が違う人物になっていることも、今となっては完全否定はできない。一周目の……これまでの世界がそのまま繰り返されると盲目的に信じるには、俺達は色んなことを知りすぎている。


「ま、どっちにしろ確かめりゃわかるさ。ということで、少々人気のない場所にご案内してもよろしいですか?」


 近くのゴミ箱にぽいっと木串を捨ててから、俺はティアの前で一礼してみせる。するとティアがピクリと耳を揺らしてから、すまし顔で口元に手を当てる。


「まあ、日も高いというのに、大胆ですこと。でもせっかくだし、エスコートしていただこうかしら?」


 伸ばされた手を取り、俺達は適当な路地を曲がって暗い方へと進んでいく。そうして周囲に人気のないところまでやってくると、右手を伸ばして手のひらを上に向けた。


「現れろ、『失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)』。捜し物は、勇者……いや、俺がこの世界で出会う必要のある勇者だ」


 その問いかけに、金属枠のなかに何とも平凡な青年の顔が浮かぶ。その後はすぐに方角を示す羅針が出現し……だからこそ俺は首を傾げる。


「どういうことだ?」


「どうしたのエド? 今の人は?」


「マグナだ、勇者マグナ。一周目に出会った勇者なんだが……」


「? 勇者を探して勇者が映ったのに、何でそんな顔なの?」


「いやだって……じゃあ何で、マグナは勇者じゃねーんだ?」


 マグナは普通に生きていた。チラリと映った限りでは、閉じ込められてるとか大怪我をしてるとかでもなく、ごく普通に畑仕事をしていたように見える。


 そして、マグナは勇者だった。今の指定で映し出されたのだから、今も間違いなく世界に選ばれた勇者なんだろう。そして勇者は同時に一人しか存在できないわけなので……


「勇者じゃねーやつが魔王を倒して、勇者って呼ばれてるってことか?」


「えぇ? それはえっと、どう、なの? 魔王を倒してるなら勇者でしょうけど、でも勇者じゃなくて……あう?」


 俺の隣で、ティアが激しく困惑した表情を浮かべている。その気持ちは俺も同じで、大分頭の中がこんがらがっている気がする。


「……よし、よしよし。一旦落ち着こう。情報だ、確定してる情報だけを羅列するんだ。


 まず最初に、この世界の勇者はさっき見た男、マグナだ。これは確定情報でいい。ただし、今の様子からするとマグナは戦いを生業にしているようには見えない……つまり魔王は倒してないはずだ。


 にも拘わらず、この世界の魔王は極めて高い確率で倒されている。じゃねーとこの平和な空気の説明がつかねーし……うん、やっぱり倒されてるな」


 念のため「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」で確認してみたが、魔王の反応はなかった。ならば俺すら騙しきるペテン師がいない限り、魔王は討伐されたってことで間違いないだろう。


「で、じゃあ誰がマグナの代わりに魔王を倒したかって言えば、レイホルトとかいう奴だ。そいつは世界に選ばれた勇者じゃねーけど、どうやってか魔王を倒したらしい。まあ勇者じゃねーと絶対に倒せないってもんでもねーはずだから、上手いことやったんだろう」


「ということは、マグナさんは魔王を倒していない本物の勇者で、レイホルトさんは魔王を倒してる偽勇者ってこと? うぅ、また混乱してきたんだけど」


「うーん、要は偽者と本物の定義を何処に定めるか、だからなぁ」


 世界に認められることが本物の条件なら、マグナが本物でレイホルトは偽者ということになる。が、魔王を倒すことが本物の条件であるなら、マグナが偽者でレイホルトが本物……つまり立場が逆になる。


 といっても、この状況ならマグナが自分を勇者だと自覚していたりすることはないと思うので、俺達以外の誰に聞いても勇者はレイホルトただ一人って答えになるだろうけどな。


「ただまあ、俺達が今後どうするかってことについてなら、悩むまでもねーぜ?」


「え、何で?」


「そりゃお前、俺達が『追放』されるのに必要な条件は、世界が任命した勇者の仲間になることだからな」


「あっ、そうか。そうよね」


 世間的にはレイホルトが勇者だとなっているようだが、「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」で確かめた通り、俺達に必要なのは勇者マグナに仲間と認められることだ。なので俺達がすべきことは、当初の予定通りに勇者マグナの仲間となって交流を深めることなんだが……


「……まあ、だからこそスゲー大変なんだけどな」


「何で? レイホルトって人と違って、マグナさんなら有名でも何でもないんだから、普通に会いに行けばいいだけじゃないの?」


「ははは、行けばわかるさ」


 そう、行かなければ始まらない。そして行っても……始まらないかも知れない。俺の予想が正しければ、今までで一番困難な状況になるはずだ。


「んじゃ、とにかく出発するか。幸い方角はわかってるしな」


 そう言って、俺はティアを引き連れ路地から出ると、その足で入ったばかりの町を出る。人が住んでるなら道が繋がってるはずだから、とりあえず方角を大まかに合わせつつの乗合馬車だ。


 さてさて、どうなることか……願わくば、何か問題が発生していますように(・・・・・・・・・・)、ってか。

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