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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二七章 誰も知らない本物勇者と、誰もが知ってる偽勇者

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意気揚々とやってきたら、世界は既に平和でした

「んっ……よしティア、警戒しろ!」


 新たな世界に降り立った俺の体に、一瞬の違和感。だが戦いに備える俺の意識は、すぐにそれをねじ伏せて周囲に気を配る。そんな俺の隣では当然ティアも武器を構えて辺りを伺うが……


「……? エド、何もこないわよ?」


「あっれぇ?」


 この第〇二六世界は、魔王の脅威が世界全体を覆っている世界だ。通常の魔獣の代わりに夜人形(ナイトウォーカー)と呼ばれる魔王の眷属が世界中の至る所におり、一周目の俺はこの場でそいつらに襲われ、窮地に陥っていたところを勇者に助けられるという、まあありがちな出会いをする予定だったんだが……何だこりゃ?


「おっかしいな……ってか、何か森の雰囲気も違う?」


 俺達が降り立ったのは、お約束になりつつある街道から少し外れた森の中だ。だが当時はもっと薄暗いというか、どんよりした雰囲気の場所だと思っていたのに、今は柔らかな木漏れ日が降り注ぐ、気持ちのいい場所となっている。


 明らかに、魔王の眷属が跋扈するような危険な場所ではない。急に現れた俺達を見て小動物が逃げ去ったのを見れば、まるで俺達こそがこの場での最大の脅威だとでも言わんばかりだ。


「どうするのエド? 夜人形(ナイトウォーカー)だっけ? それを探してみる?」


「……いや、少しここで待機しよう。あんまり場所は変えたくねーし」


 首を傾げるティアに、俺はそう言ってこの場に留まる。勇者との出会いはシビアな一面があるので、可能な限りそこは変えたくないのだ。


 だが三〇分ほど待ってみても敵に襲われることはなく、当然勇者も助けに来ない。流石にこれ以上待つのは単なる時間の無駄だろう。


「あー、参ったなこりゃ。となると、選択肢は二つだが……」


「二つ?」


「ああ。近くの町に行って状況を確かめるか、直接勇者の場所を訪ねるか、だな」


 町に行くのは、何の問題もない。このまま街道に出て少し歩けば、割と大きな町があったはずだ。そして勇者との合流を求めるなら、「失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)」で居場所を調べてそっちに向かえばいい。一周目ではここで出会ったのだから、おそらくは近くにいるはず……なんだが…………


「それなら、とりあえず町に行ったらいいんじゃない? よくわからないことが起きてるなら、情報を集めるのが先決よ」


「ま、そうだな。なら町の方に行くか」


 これが勇者ジンクの時のように、急がないと勇者本人やその周囲に危険が及ぶというのなら話は別だが、この世界の勇者マグナは、かなりの強者だ。


 無論本人も相応に強いんだが、特にその身に纏う勇者の武具の相性が、魔王とその眷属に対して圧倒的に有効であり、ぶっちゃけ俺達が何もしなくても放っておけば魔王を倒すような存在なので、合流を焦る理由は特にない。


 ということで、俺はティアと連れだって街道に出ると、そのまま町に向かって歩いていく。晴れ渡る空は高く青く澄んでおり、ポカポカと気持ちのいい日差しは実に長閑だ。


「はー、いい天気ね。エドから聞いてた話とは、随分印象が違うけど」


「そう、だな……いや、本当に何でだ?」


 しきりに首を傾げつつも、歩いていくことには変わりない。町に辿り着き門をくぐると、その先に溢れていたのは活気に溢れる人々の喧噪であった。


「うわー、賑やかね!」


「むぅ……」


「その顔、やっぱりここも違うの?」


「ああ、違う。違うんだが……悪い違いじゃねーのがなぁ」


 一周目の時も、ここは賑やかな町だった。だがその賑やかさはもっとピリピリしていたというか、常に脅威が側にあり、今日を懸命に生きる者の賑やかさだった。


 だが今俺の目の前にあるのは、明日をよくしようと頑張る人々の顔だ。今日で終わってしまうかも知れないから精一杯生きる、ではなく、明日をもっといい日にするために一生懸命頑張ろう、という感じ。それはつまり、この世界が平和であるということに他ならない。


「親父さん、串焼き二つ」


「あいよ!」


 情報収集も兼ねて、俺は近くの屋台で何かの肉の串焼きを買った。値段は一本で銅貨三枚……この町に住んでいる人々からすれば微妙に高いだろうが、俺達のような余所者を相手にするならごく普通の値段だ。


 俺は金を払うと焼きたてを二本受け取り、一本をティアに渡して残りに齧り付く。焼きたての肉は柔らかく、濃いめのタレが食欲をそそり……正直、ちょっと酒が欲しくなる。


 そしてそんな俺の隣では、ティアが満面の笑みで串焼きに齧り付いている。


「あふっ、あふっ! おいひー!」


「ははは、ありがとな。いい顔で食ってくれるお嬢さんには、こいつもおまけだ」


「わっ、やったー!」


 上機嫌のおっさんが、ティアにもう一本串焼きを渡してきた。肉の形が崩れていたので、おそらく端肉を使ったものだろう。


「悪いな親父さん。でもよかったのか? そもそもこんな値段じゃ儲けがでねーだろ?」


「ん? そんなことないさ。今は食料は随分安くなったしな。まあ確かに半年前なら、こんな値段で売ってたら三日で破産しちまってただろうけどよ」


「へー、そうなのか。半年前……」


「そう、半年前だ。あの日勇者様が魔王を倒してくれてから、世界が一気にいい方に変わったんだ」


「魔王を、倒した!?」


 驚きの発言に、俺は思わず手にした串を取り落としそうになる。が、必死に内心の動揺を抑える俺とは裏腹に、おっさんはまるで我が事のように得意げな顔で、腕組みをしながらウンウンと頷いてみせる。


「そうさ! 凄かったらしいぜ。何かこう、勇者様の掲げる剣がビカーッと光って、魔王の体を切り裂いたとか? 勿論俺なんかが知ってるのは、その辺の奴らが噂してる内容を聞いただけだけどよ」


「剣が光る……ひょっとしてルナブレードか?」


 それは勇者ケインが得意としていた必殺技だ。アレクシスの「月光剣(ムーンスクレイパー)」によく似た技で、多分剣士系の勇者が覚える技には、そういう系統があるんだろう。そしてそんな俺の言葉に、おっさんが激しく頷く。


「そうそう、そのナントカブレード! そのスゲェ技で、ズバッと魔王を切って倒したとか! いや、本当にスゲェよなぁ」


「そう、か。魔王が倒されてるのか……」


 はしゃぐおっさんをそのままに、俺は少しその場で考え込む。なるほど、既に魔王が倒されているとなれば、確かにこの世界の雰囲気が変わっているのは納得だ。そして勇者マグナであれば、魔王を倒しているというのも頷ける。


 ただ、それが俺達にとって都合がいいかと言われると、また別の問題だ。


(既に魔王が倒されてるなら、今更勇者パーティも何もねーよなぁ。いや、倒されて半年なら、まだ残党処理とかがあるか? ならそこに潜り込めれば……それに魔王の力の回収はどうする? 封印とかならともかく、倒されてる場合って回収できるのか?)


 魔王は倒せても滅びない。長い年月を経れば、いずれ何処かで復活することだろう。それを阻む唯一の手は俺自身が回収してしまうことなんだが……俺がいないところで倒された魔王の力を回収できるのかどうかは、今の段階ではちょっと判断がつかない。


「まあ、それは後々考えればいいか。なら今は、偉業を為した勇者マグナに乾杯しとこう」


「あん? 兄ちゃん、何言ってんだ?」


 苦笑しながら呟いた俺に、しかし屋台のおっさんが怪訝そうな目を向けてくる。


「え、何だよ。勇者に乾杯したら駄目だったか? ひょっとして不遜とか不敬とか、そういう感じ?」


「ちげーよ! 魔王を倒した勇者様を讃えるのに、そんな寝ぼけた文句言う奴がいるわけねーだろ。そうじゃなくて、誰だよマグナって」


「へ!? だから、勇者マグナ――」


「馬鹿言ってんじゃねぇ! 勇者様の名前はレイホルトだ! マグナなんて名前じゃねーぞ!」


「…………えぇ?」


 完全に予想外の怒りをぶつけられ、俺は今度こそ間抜けな顔で串焼きを地面に落としてしまった。

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