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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二六章 王女勇者の謀

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考える事は無駄ではないが、必ず答えが出るわけでもない

(……どういうことだ?)


 その日の夜。俺はベッドに横になりながら、昼間見たあり得ざるモノに一人静かに思いを馳せる。


 不撓不屈の魂……それは簡単に言ってしまえば、「諦めない心」である。いかなる困難を前にしても、決して諦めることなく一歩を踏み出し続ける覚悟……そう表現すれば、勇者と呼ばれるような者ならみんな持っていそうな気がする。


 実際、それも間違いではない。ただそれが確固たる資質として顕在化しているとなれは話は別だ。


 たとえば、俺の鍛冶の師匠であるドルトン。彼は年長のドワーフであり卓越した鍛冶の腕を持つ偉大な人物だが、師匠のなかには「不撓不屈の魂」なんてものは存在しない。


 勿論、それは師匠の心が脆弱という意味ではない。俺と出会ったときには既に超一流の鍛冶師であったドルトン師匠だが、そこに至るまでにはそりゃ様々な葛藤があり、艱難辛苦を乗り越えてきたはずだ。


 だが足りない。そんな普通の人生(・・・・・)では、「七光りの眼鏡(レインボーグラス)」で見えてしまうほど魂の在り方が変わったりはしない。俺が知る限りで唯一そこまでの絶望を知っていたのは、冬の魔王の世界にいた、勇者ハリスだけだ。


 愛する妻と娘を理不尽に奪われ、気が狂いそうな孤独の中で粛々と準備を整え、自分しかいない終わった世界をたった一人で踏破し、最後にはその命と引き換えにあらゆる命の仇を討った、あの世界最後の勇者ハリス。彼ほどの経験があって初めて身につくのが、「不撓不屈の魂」なのだ。


 だというのに、それと同じものをマーガレットが身に付けている? そんなことが本当にあり得るのか?


(……無理だ。どうやったって無理に決まってる)


 一周目の俺の記憶が確かならば、マーガレットは腹違いの兄と姉……第二王子と第二王女から微妙ないじめというか、嫌がらせを受けていたはずだ。それは所詮子供のすることとはいえ、子供だからこそ心を傷つけることもあるだろう。


 が、流石にそれでハリスほどの絶望を味わうとは思えない。第三妃である母親も普通に元気で暮らしてるし、城の人間から疎まれているとか、そういうこともない。


 衣食住に困らず愛されて暮らすマーガレットが、何をどうすれば「不撓不屈の魂」なんてものを顕在化させるほどの目に遭うのか? どれだけ考えてもわからないし、そもそも五歳の少女がそんなものに目覚めるには、物理的に時間が足りない。


(見逃していい案件じゃねーはずだ。つっても本人に聞くわけにもいかねーし……どうしたもんかな)


 仮に相手が老人だったとしても、「貴方の人生で過去に深く絶望したことがありませんか?」なんて気軽に聞ける話題じゃない。ましてや五歳の少女にそんなことを聞いたりしたら、正気を疑われるだろう。


 というか、多分聞いても「何のこと?」と首を傾げられると思う……ってことは、本人には自覚がない? なるほど、そういう可能性もあるわけか。もしそうだとしたら……


「……俺が帰った後のこの世界に、一体何があるんだ?」


 俺がこの城に滞在したのは、精々半年ちょっとだけ。当然一周目では魔王を倒すどころかその存在すら感じられなかったので、いずれは何処かで魔王が復活するとか、そういうことがあるんだろう。


 ならばその時、酷い悲劇に見舞われる? それに潰されないために、マーガレットには最初からそういう才能が与えられている? だとしたら――


「端的に言って糞だな」


 悲劇に耐えうる才能を与えるくらいなら、最初から悲劇をなくせよと言いたい。が、誰かの悲劇が他の誰かの救いになることもある。それにそもそも、マーガレットがどんな大人になるのかだってわからない。案外希代の悪女になってしまい、その悲劇とやらをきっかけに改心して、真の勇者に……という可能性だって無いわけではないのだ。


「あー、わからん!」


 思わず少し大きな声でそう言いつつ、俺は意識を切り替えるように頭を枕に軽く叩きつける。たとえ答えの出ない疑問だろうと様々な推測を積み重ねておくことは決して無駄ではないと思うが、かといって必要以上に考えすぎても疲れて変な方向に思考が持って行かれるだけだ。


 やりたいこと、やるべき事を明確にしろ。きちんと目的をはっきりさせ、まずはそれに沿うことに全力を尽くせ。俺がやるべき最低限のことは、この世界を無事に「追放」されること。そしてその前に、可能であれば魔王の存在を特定し、その対処を決めることだ。しかし……


「現れろ、『失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)』。捜し物は、俺の力の欠片たるこの世界の魔王だ」


 天井に向かって手を伸ばしてから呟けば、宙空に金属枠が出現する。顔の上に落ちてきそうな位置だが、こいつは重力には縛られていないので問題ない。問題なのは、その内側に映し出される黒い闇だ。


「やっぱり探知不能か……」


 以前にもあったが、何らかの手段で魔王の存在が封じられていたりすると、場合によってはこうして所在がわからないことがある。存在しているのは間違いないが、こうなるとこっちからでは探しようがない。まあそもそもマーガレットは王女なので、誘拐でもしなければ探しに行くことそのものができないだろうが。


「はー、アレもわからん、コレもわからん! わからねーことばっかりってのは、何とも窮屈なもんだぜ。いっそティアだけでも、町にお使いに行かせてもらうか? そうすりゃ少しくらいはまともな情報収集も……ふぁぁ」


 あまりに空回りさせ続けたせいか、赤熱した思考の歯車がギシギシと音を立てて止まっていく。元々纏まっていなかった考えは千々に別れて溶けていき、ああ、これは駄目だ。まあ無理して粘ることもねーし……


「…………寝よう」


 気になっていた疑問の全てがどうでもよくなる温もりの中、俺はしばし安らぎに身を委ねて、その意識を闇に落としていった。





 そうして悩ましい一夜は終わり、その後も俺達の日々は続く。結局マーガレットが「不撓不屈の魂」を身に付けている理由はわからず、一〇日に一度ティアが外出する許可ももらったりして……城にやってきてから、三ヶ月と半分。その日、最初の運命が動いた。


「キュゥゥゥゥゥゥゥゥ……」


「エド! もっとよ! もっと頑張って!」


「キュ、キュゥゥゥゥ…………」


 全身全霊で鹿になっている俺は、今鹿生最大の困難に立ち向かっている。鹿といえば首がこう……クイッと後ろまで曲がるものなので、その動きを要求されているのだ。


「あの、姫様? これは流石に無理では?」


「そんなことないわよ! エドならきっといけるわ! ね、エド?」


「キュゥゥゥゥ…………」


 マーガレットの期待の視線に、俺は必死に首を捻る。だが俺の魂は鹿でも、俺の体は人間……まあ人間だ。悲しいかな人の首はそこまで後ろに曲がらない。だが無垢な少女の期待の瞳に応えるには……今こそ俺は、人の限界を超えるぞっ!


ドドーン!


「うおっ!?」


 俺の首が曲がってはいけない方向に曲がりかけていたその時、突如として周囲に轟音が響き渡る。人に戻った俺の隣では、エルザが素早くマーガレットを抱き寄せ、腰の剣に手を乗せている。


ドドーン!


「敵襲! 敵襲だ!」


 再びの揺れに合わせて、外からそんな声が聞こえてくる。するとマーガレットがエルザの手を離れ、そのまま廊下を駆け出してしまった。


「姫様!? お待ちください、姫様!」


 エルザが必死に呼びかけるが、マーガレットの足は止まらない。慌てふためく使用人達の隙間をスルスルと通り抜け、あっという間に離れていく。


 無論、俺もエルザもそれを追いかける。だが敵ならばともかく、使用人を突き飛ばしながら進むわけにはいかない。結局俺達が追いついたのは、マーガレットが城から出て中庭で足を止めてからだった。


「姫様、危険です! すぐに城内にお戻りを――」


「…………何で」


「姫様? 何を……なっ!?」


「おいおい、何だこりゃ!?」


 空を見上げて呟くマーガレットに、俺とエルザも釣られて空を見る。するとそこには巨大なドラゴンが宙を舞っており、その口から吐き出した火球が城の一部に着弾するたび、爆音を立てて城が崩れていく。


「何でドラゴンがこんなとこに!? てか、あんなでかいもんの接近に何で誰も気づいてねーんだ?」


「姫様! お早く! 姫様!」


「何で!? 何でアイツが今ここに来るのよ!?」


「姫様! 申し訳ありません!」


「アンタが襲ってくるのは、まだ七年も先(・・・・)の話でしょうが!」


 強引にエルザが抱きかかえようとした瞬間、マーガレットがドラゴンに向かってそう叫ぶ。するとそれに呼応するように、ドラゴンの金色の双眸が、ジロリとこちらを睨んだ。

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