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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二五章 石の向こうに夢を視る

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間章:とある魔王の回顧録 上

(何だこりゃ?)


 訳の分からない状況に、俺は慌てて周囲を見回す。すると辺りは真っ暗であり、唯一正面だけは窓のように四角く切り取られた場所に、謎の景色が映し出されている。


 どうやら体は動くようだ。が、動くだけで移動などはできない。感覚的には宙に浮いている感じだろうか? どれだけ手足をジタバタしても何の手応えも感じられないので、事実上動かないのと大差ない。


(声は……出ねーな。まあ俺しかいないなら声を出す必要はないわけだが。で、この見えてるのは……)


『お前の野望もここまでだ! 今日こそこの俺が、相棒と共にお前を仕留める!』


『フハハハハ! やれるものならやってみるがいい、愚かなる人間の勇者よ!』


(あの赤い石に封じられてた、魔王の記憶……だろうなぁ)


 声はすれども魔王自身の姿は見えない。これはおそらくこの光景が、魔王の見た景色そのものだからだろう。そしてそんな魔王の前には、空のように青い髪を逆立たせ、光り輝く剣を手にした若い男の姿がある。おそらくはあれが当時の勇者で……


『さあ、行くぞシエル!』


『お任せ下さい、勇者様!』


 そんな勇者の傍らには、輝く銀髪と透き通るほどに白い肌をした女性が立っている。服まで白いというのに、その瞳だけが宝石のように赤く輝いているのが印象的だ。


 そんな勇者達と魔王が、激しい戦闘を繰り広げる。尋常ではない魔力を用いて豪雨の如く黒い炎弾を降り注がせる魔王に対し、勇者は己が傷つくことも厭わず果敢に魔王に挑みかかり、白い女性がそんな勇者を光の魔法で守り、癒やす。


 一進一退の攻防は、正しく激闘と呼ぶに相応しい。しかしそんな戦いにも当然終わりはあるわけで……魔王の放った黒い槍の魔法に胴体を半分吹き飛ばされながら、遂に勇者の剣が魔王の腹を突き刺した。


 一見すれば相打ち、だが勇者の傷はすぐに癒え……対して魔王の体は床に縫い止められ、光の毒に蝕まれたその体からは急速に力が抜けていく。


『ハァ……ハァ……どうだ、魔王!』


『み、見事だ勇者よ……だが我は魔王。我がこの世にある限り勇者が生まれ続けるように、例えこの身を滅ぼされようとも、我もまた不滅。いずれはこの地に蘇り、その時こそ再び地上を――』


『いえ、そんなことはさせません』


 今際の呪いを残そうとする魔王に、しかしシエルと呼ばれた女性が一歩前に出る。その身が光に包まれると、次の瞬間女性は白く美しいドラゴンへとその身を変じさせた。


『確かに魔王は、神の力を得た私ですら完全に滅することは適いません。ですが、倒せば復活するというのなら封印すればいいだけのこと。


 さあ、邪悪なる魔王よ! 聖母竜シエルに抱かれ、永遠の眠りにつくのです!』


『なっ!? ば、ばかな、こんなことが――――』


 大きく口を開けた白竜のなかに、黒い塵となった魔王が吸い込まれてく。そこで一旦視界が暗転し、次に目に映ったのは先程の勇者の顔であった。


『シエル! 大丈夫なのか!?』


『ええ、勇者よ。問題ありません。魔王はここに……この額に封じました』


 勇者の瞳に映る白竜の額には、大きな赤い宝石が輝いているのが見える。ということは、封じられた状態でも魔王の意識はあったってことだろうか? だとすれば、きっと今の俺みたいな状態になってたんだろうなぁ……って、それはいいとして。


『さあ、帰りましょう勇者よ。平和になった世界が貴方を待っています』


『ああ、一緒に帰ろう。懐かしいあの村に』


 優しい目をした勇者が、そっとシエルの頬を撫でる。きっとこの二人……一人と一匹か? にも色々なことがあったんだろうが、残念ながら魔王の記憶ではそれを知ることは適わない。


 まあ始まりも経緯も知らずとも、その結末は見事な、そしてありふれた英雄譚だった。白き聖母竜はその後も勇者と共に過ごし、その人生を見守り続ける。好いた女性と結婚し、子供が生まれ、歳をとり……そうして勇者が穏やかな死を迎えると、シエルは静かに村を飛び立ち、人里から遠く離れた雪深い霊峰の奥へと引きこもり、己もまた眠りについた。


 一〇年、五〇年、一〇〇年、二〇〇年……長い永い年月を、シエルは微睡みのなかで過ごす。魔王を永劫に封じるために、己もまた永劫を生きるため。世界の終わりまで眠り続けるつもりでいたシエルに、しかしある日悲劇が襲った。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 何故!? 何故人間が私を害するのですか!?』


『しっかり押さえつけろ! 手足に杭を打ち、翼を切り取れ! 絶対に逃がすな!』


 完全武装した兵士達が、目を血走らせてシエルに襲いかかる。だが魔王の封印に力のほとんど全てを費やしている今のシエルでは、眠っている間に仕込まれたと思われる強力な捕縛の魔法に抵抗することができない。そしてそんなシエルの前に、一際立派な鎧を身に纏った壮年の男が歩み出て語りかける。


『そう暴れないでいただきたい、聖母竜シエルよ』


『私が誰だかわかっているのなら、何故こんなことを!?』


『それは勿論……貴方の額にあるそれをもらい受けるためです』


『額の……っ!? 人の子よ、これが何かわかっているのですか!?』


『勿論。魔王の持つ無限の魔力、それこそが我らの目的ですから』


『アァァァァァァァァ!?!?!?』


 押さえつけられたシエルの額から、赤い宝石がえぐり取られる。そうしてグルリと視界が回転すると、そこには全身から血を流し、グッタリしながらも涙を流す哀れな白竜の姿があった。


『駄目、駄目です……それは…………世界を…………』


『今までお疲れ様でした。ですが貴方の献身はもう必要ないのです。これからは我ら人間が、魔王の力を管理する役目を負わせていただきましょう』


『将軍、ドラゴンはどうしますか?』


『苦しまぬよう、とどめを刺して差し上げろ……それを以て一つの時代の終焉とする』


『ハッ!』


 将軍と呼ばれた中年の男の言葉に、兵士達がシエルへの攻撃を再開する。


『あぁぁぁぁ…………それでも、私は……約束を…………魔王だけは、必ず……』


 白い肌は血に濡れ、悲痛な叫びは天に溶ける。だがその命が終わるのを見届けることなく赤い宝石を持った男はその場を離れ……再びの暗転。次に広がった光景は、石と金属でできた不思議な場所だった。薄暗い室内にはぼんやりと緑色の光が灯り、眩しい光と共に正面の扉が開くと、白い服に身を包んだ男が悠然と歩み寄ってくる。


『反応はどうだ?』


『素晴らしいです。どれだけ抽出しても魔力は尽きることがなく……まるで手桶で海の水を汲んでいる気分ですよ』


『ははは、それは僥倖だ。旧態依然とした価値観に囚われ、これほどの動力源(・・・)を放置していたとは。だがこれからは違う。これだけの魔力があれば、人の世はもっと豊かに便利になることだろう』


『ですね。燃費とか出力とかを気にしなくていいなら、今までは机上の空論でしかなかった魔導具も、その大半が実用化できます』


『そうだとも! 貧民街に浄化した水を流すことも、大きな怪我や不治の病に苦しむ人々を癒やすことも、あるいは人の寿命すら、魔力の限界で適わなかった全てが現実となる!


 ああ、素晴らしい。本当に素晴らしい! たかがドラゴン一匹の犠牲で、人の世に蔓延る悩みがここまで解決するとは!』


『あの、その物言いは流石に……』


『おっと、そうだったね。今のは忘れてくれたまえ。偉大なる聖母竜に感謝を捧げつつ、我らは人の世界を踏みにじった魔王の力を利用……活用して、人の世を幸福に導こうじゃないか!』


 大げさに両手を広げて宣言する男を前に、魔王の意識は再び闇に落ちる。そしてそれこそが、真なる終わりの始まりであった。

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