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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二五章 石の向こうに夢を視る

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非常識を常識にしたいなら、相応の設定は用意せよ

「長い! 確かに長いです! え、ひょっとしてティアさん、伝説のエルフなんですか!?」


「えぇ!? それは、えっと……どうなのかしら?」


「何で知らないんですか!? って、記憶がないんでしたよね。あれ? じゃあエドさんは何でティアさんの魔力が回復するって知ってたんですか?」


「ん? それは……あれだよ。何でかはわかんねーけど、そうだってことは知ってたというか、覚えてたというか……多分記憶をなくす前の俺は、当然のこととして理解してたんだろ」


「うぅ、記憶喪失……聞きたいことは山ほどあるのに、覚えてないんじゃ何も聞けません……あ、ティアさん! もしよかったら、少し耳を触ってもいいですか?」


「へ? いいけど……優しくね?」


「勿論です! うわぁ、これがエルフの耳……フニャフニャでコリコリで、でもこれでどうやって魔力を吸収してるんでしょう?」


「あはは……多分だけど、別に耳から魔力を吸収してるわけじゃないと思うわよ?」


「え? じゃあ何でエルフは魔力が回復するんですか?」


「あー、そうね。考えたこともなかったけど……ごめんなさい、それは流石に記憶があったとしてもわからないと思うわ」


「むぅ、生命の神秘……」


 俺の手で一旦引き剥がしたはずのアネモが、再びティアの上に乗っかるようにしてその耳をプニプニといじり始める。するとくすぐったいのか。ティアの口から「あっ」とか「んっ」といううめき声が聞こえて……とりあえず俺はその全てを無心で聞き流すべく、改めて今の状況を頭の中で確認してみることにした。


(とりあえず、これでティアが魔法を使っても平気な下準備は整ったか。本当ならもっと前に突っ込まれると思ってたんだがなぁ)


 ティアと精霊魔法は、切っても切れない関係だ。だがごく普通の旅人を装った場合、ティアが魔法を使うことが著しく制限されてしまう。普通に戦闘が必要な世界でそんなことをしたくはなかったので、ティアには伝説の(・・・)エルフ様になってもらうというのが今回の茶番の目的だ。


 その際に答えられないような質問を誤魔化せるようにと付けた記憶喪失の設定が、俺の中でもやや曖昧になっていたこの世界の常識を聞き出すのに都合よく働いてくれたことや、すぐに聞かれると思っていたティアの耳にこのタイミングまでアネモが触れなかったことなど、良くも悪くも誤算はあったのだが、とにかくこれで俺達は普通に戦うことができるようになった。


 ちなみに、もし万が一、魔力が回復しないのが「この世界の住人」ではなく「この世界そのもの」の特徴であった場合でも、俺達は「足し水」なんて間に合わせじゃなく、ちゃんとした魔力回復薬を持っているので問題ない。


 もしそれすら効果がなかったならば、やむなく魔法の禁止やそもそもこの世界から一刻も早く「追放」されるように努力するつもりだったが……結局初日の段階で普通に魔力が回復することは確認できていたので、完全な杞憂で終わった。


 まあ「なら何故この世界の住人の魔力は回復しないのか?」という疑問は残るが……


「フーッ、堪能しました! やっぱり未知は素晴らしいです!」


「うぅ、エド……私弄ばれちゃったわ……」


「はいはい、楽しそうで何よりだ。んじゃ、そろそろ探索続行といこうぜ」


 と、そんな風に思考に逃げている間に、どうやらティア達のじゃれ合いは終わったようだ。肌をつやつやさせご満悦な笑みを浮かべるアネモがティアの上から退くと、俺はあからさまな嘘泣きをしているティアの頭をポンポンと撫でてからそう呼びかける。するとアネモが自分の身だしなみを整えつつ答えてくれた。


「そうですね。じゃ、最後は私が戦うところを見てもらいます。本当はここで先輩風を吹かせつつ『こうやって戦うんですよ?』といい顔で指導するはずだったんですが……うぅ」


「そんな顔すんなって。実際俺達の戦い方はかなり変則的というか、普通じゃねーんだろ? ならごく普通の戦い方を知るのは十分勉強になるさ」


「そうね。特に私は、エドと違って魔法が使えなかったらエンカウンターは倒せないと思うし……」


「ということは、ティアさんのその剣にも、やっぱりコーティングはしてないんですか?」


「ええ。それに悪いけれど、この剣には造ってくれた人以外の手を入れたくないの。だからやるとしたら、予備の武器を買うことになるかしら? ただその、こーてぃんぐ? っていうのをしてある武器がどんな感じなのかがわからないから、まずはアネモが戦っているところを見てからって思ってて」


 チラリと俺の方を見て言うティアに、アネモが大きく頷いて答える。


「なるほど、そうですか。確かに武器は決して安いものではありませんからね。わかりました、なら私が参考になるような、すごーく普通の戦いをお見せします!」


「やった! ありがとうアネモ、頑張ってね!」


「任せてください! 何せ私は凄く普通ですからね!」


 何故か得意げに胸を反らすアネモに、俺は思わず笑みを零す。そうしてから探索を再開すると、そろそろ折り返して町に戻ろうかというところで漸くにして三体のエンカウンターの影を見つけることができた。


「ああ、よかった。やっと出会えました……エンカウンターに出会うのをよかったなんて思う日が来るとは思いませんでしたけど」


「ははは、まあそうだよな。で、どうする?」


「勿論、倒します! 普通の激闘をよく見ててくださいね!」


「普通の激闘……?」


 何とも言えない表情を浮かべるティアをそのままに、ニッコリ笑ったアネモが顔を引き締め、静かにエンカウンターの方へと近づいていく。が……


「アネモ!? 荷物を背負ったままよ!?」


「フフフ、私はこのままでいいんです」


 アネモの背には、大きな荷物が背負われたままだ。どう考えても戦闘には向かないが、しかしアネモはニヤリと笑ってそう答えると、そのまま移動を続ける。程なくしてエンカウンター達がアネモに気づくと、アネモもまた腰の短剣を引き抜いて構えた。


「本来なら初撃は不意打ちが理想ですけど、今回は戦いを見せるのが目的ですからね。このまま相手をしてあげましょう!」


 今回のエンカウンターは、俺達平人と同じ身長をした細身の人型が一体と、小型の丸石が二体。その歩幅の違いから、まずは人型のエンカウンターがアネモに向かって殴りかかってくるが、背の小さいアネモは素早くその懐に入り込み、短剣を左足の膝に命中させる。


「はあっ!」


 ギギッというやや鈍い音を立てつつも、その短剣は人型エンカウンターの左足、その膝から下をズバッと切り落とした。途端にバランスを崩したエンカウンターがそれでもアネモに掴みかかってくるが、アネモは空いた左手一本でその腹の部分に手を添え、そのまま投げ飛ばしてしまう。


「うわ、凄い! 凄い力持ちなのね」


「流石は鉱人族ってところか」


 純粋な腕力だけなら、ゴンゾのオッサンといい勝負ができるくらいの怪力だ。その凄さに賞賛を送る俺達の前で、追いついてきた丸石のエンカウンター二体がアネモに向かって時間差で体当たりを仕掛けてくる。


「ええいっ!」


 するとアネモは体を横に回し、片方のエンカウンターの体当たりを背負ったリュックで受けた。そしてその衝撃を遠心力とし、遅れて迫ってきたもう一体のエンカウンターの胴体に深々と短剣を突き刺す。そうして貫かれたエンカウンターの胴体にはビキリと音を立てて罅が入り、刺さった短剣の柄をアネモが殴ることで完全に砕け散ってしまった。


「次は貴方です!」


 アネモの腰には、その両方に短剣の鞘が佩かれている。残った右側の短剣を左手で抜くと、最後の一体に向けて投げつける。ビュッと風切り音を立てて飛んでいった短剣は狙い違わず丸石エンカウンターの胴体に突き刺さり、同時に壁に打ち付けられて体が半分に割れてしまったが……その隙を狙っていたかのように、足を一本なくした人型エンカウンターが腕を地面に叩きつけて飛び上がり、アネモに向かって飛びかかった。


 その身に最早武器はなく、敵は自分より大きい。だがアネモは焦ることなくその場で体を丸めるように屈むと、なんと背負っていた荷物の方がアネモの頭より高い位置に来てしまったため、エンカウンターの最後の体当たりはボヨンとリュックに弾かれてしまった。ゴリュッという重く鈍い音を立ててその巨体が転がると、その顔を立ち上がったアネモが悠々と見下ろす。


「はーい、残念でした」


 アネモの足が人型エンカウンターの両腕を踏みつけ抑えれば、もうどれだけ人型エンカウンターが暴れようともびくともしない。そうして笑顔のままのアネモが鞄から取りだした「抜き水」を振りかければ、その抵抗もすぐになくなる。


「ということで、大勝利です!」


 残り二体のエンカウンターにも抜き水を振りかけると、アネモは人差し指と中指を立てた手を突き出し、ドヤ顔で勝利宣言をした。

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