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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二五章 石の向こうに夢を視る

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回数制限なんてのがあると、余裕があっても落ち着かない

 その後、俺は改めて依頼を出し、正式にアネモを「指導員」として雇用した。その際当然俺達も探索者(シーカー)に登録しており、今や俺達は五級の探索者だ。


 それを我が事のように喜んでくれたアネモの指導により、探索者としての知識のみならずこの世界の常識なども教わりながら日々を過ごし……三日後。俺達は再び門をくぐり、町の外へとやってきていた。


「それじゃ、今日から実地指導を始めていきますが、二人とも準備はいいですか?」


「おう!」


「はーい!」


 アネモの言葉に、俺とティアが返事をする。特にティアは元気いっぱいで、今回もまた未知を存分に楽しんでいるようだ。


 ちなみに、俺とティアは揃いのリュックを背負っている。荷物がパンパンに詰まったそれはかなりの重量物なのだが、ティアの方にはちょっと奮発して重量軽減の魔導具が取り付けられている。


 そんなものがそこそこの値段で普通に買えるというのは、微妙に技術レベルが歪な気がするんだが、それを言ったらこの世界そのものが割と歪な感じで成り立っているので、そこは気にしないことにする。考えてもわかんねーしな。


「いいお返事です! ならここで、昨日までに教えたことのおさらいをしましょう。ティアさん、ダンジョン探索で一番重要なことは何ですか?」


「えーっと……敵と戦わないこと?」


「そうです! 敵……エンカウンターは、普通に戦っただけでは倒せません。破損の程度によりますが、ダンジョンの魔力がある限りまあまあの速度で復元してしまいます。それをどうにかするのが、この『抜き水』です」


 言って、アネモが俺達と初めて出会った時に手にした水瓶を、腰の鞄から取り出す。


「この瓶の中には、かけた物体の魔力を抜き取る特別な水が入っています。まあ正確には含有魔力が極端に少ない水で、常に一定であろうとする魔力の動きを利用し、対象の魔力を流れる水と平均化することで結果として魔力を吸い取るという働きなんですが……まあとにかく、これがあればエンカウンターの魔力を吸い出してダンジョンに還すことができるわけです。ただし……」


 言葉を切ったアネモが、手の中の水瓶をチャポチャポと揺らす。


「見ての通り、これは消耗品です。瓶から出してしまうと周囲の魔力を吸収してしまうので回収して再利用とかもできません。つまり持ち運べる量がエンカウンターを倒せる数そのものとなります」


「回数制限つきの戦闘か……倒して放置は駄目なんだよな?」


「はい。例えばこの前お二人が倒したような状態だと、見た目にはただの石が転がっているだけなのに、実際にはエンカウンターということになります。普通に歩いている時だっていきなり足下に石が来たら転んでしまうでしょうし、ましてやそれが戦闘中だったら、どれだけ危険かは言うまでもないですよね?」


「うわー、それは嫌ね。気づいたときには避けられないってことでしょ?」


「まあ、意識があるなら避けられねータイミングで転がるだろうしな」


 意識の外からの攻撃や妨害というのは、それがどれほど些細なものであっても致命に繋がる可能性がある。かといってその辺に転がる石ころ全てに警戒を払うなんてのは現実的に無理だろう。


「そういうことです。なので半端に倒されたエンカウンターは、むしろ普通に襲ってくるエンカウンターよりも厄介な存在となります。そういう人為的な罠(・・・・・)を生み出さないためにも、倒した場合は抜き水による処理が探索者には義務づけられているわけですね。


 自分が死にそうな時にまで徹底しろとはいいませんが、悪質な場合は探索者資格の停止や、規模によっては捕まることもありますので注意してください」


「「はーい」」


 アネモの解説に、俺とティアは揃って返事をする。この世界特有であるこの制限は、俺達にとって実に面倒で、だが無視できない代物だ。


 無論俺の力を使えば無制限に終わらせる(・・・・・)ことはできるが、魔力循環システムはこの世界の根幹に関わっていると思われるので、正直迂闊なことはしたくない。面倒臭いからなんて理由で循環を断ち切って、結果世界が滅びましたなんて笑い話にもなりゃしねーからな。


「それじゃ、おさらいも終わったことですし、そろそろ実際にダンジョン探索をしてみましょうか。最初は私が先頭を行くので、お二人は後ろから着いてきてくださいね」


「わかった。なら殿は俺がやるから、ティアは中央に」


「了解。じゃ、よろしくねアネモ」


「任せてください! 報酬分はきっちり働きますよ! ぐへへ……」


 ドンと胸を叩くアネモの顔が、一瞬だけだらしなく緩む。どうやらアネモは金欠だったらしく、俺達が払った報酬で何を買おうかとウキウキしてたからなぁ。


 ちなみに、一周目の俺は同じような感じでアネモと出会い、依頼主ではなく助手としてアネモの調査に同行していた。まあまあ役に立ち、徐々に信頼も得られるようになっていき……だが途中から意図的に手を抜いて、最後は普通に首になって追放される。何とも苦い……苦い思い出だ。


「……エドさん? 行きますよ?」


「あ、ああ。悪い」


 不思議そうな顔でこっちを見ていたアネモに、俺は慌ててそう言って後を着いていく。小さな体で元気よく歩いていくその後ろ姿に、俺の胸が少しだけ痛む。


 と、その時。風など吹かないはずのダンジョン内部で、不意に俺の頬をヒュルリと優しい風が撫でていった。


(……ティア?)


――もう違うでしょう?


 顔を上げた俺の前で、チラリと振り返ったティアが翡翠の瞳でそう語る。そうだな、ああそうだ。こうして酷い昔を思い出し、時折感傷に浸るのはどうしようもないにしても、それで足を止めるのは違うよな。


「……ありがとな」


 小さく呟く俺の声が、果たして聞こえたのかどうか。ティアはニコリと笑うと前を向き、俺もまた意識を切り替えて周囲を警戒しながら進んでいく。すると程なくして通路の先に石の人型……エンカウンターが二体いるのを発見した。


「いますね。まだ気づかれてはいないようですが」


「どうするのアネモ? ここって一本道だけど……」


「ここがもっとダンジョンの奥であれば、引き返して迂回します。またあのくらいのエンカウンターであれば、横を走り抜けて逃げてしまうというのも手ではありますが、それは後ろから追いかけられているとか、既に探索済みの地域であればの話ですね。先がわからないのに接敵して逃げるのは悪手です」


「だな。いくら倒せる数に制限があるからって、節約して逃げた先にも敵がいて挟み撃ち……なんて最悪だ。つっても、今はアネモの言う条件にはどっちにも当てはまらねー状況だぜ?」


「そうですね。なのでここは第三の選択肢……倒します」


「いいの? できるだけ避けた方がいいって言ってたのに?」


 首を傾げるティアに、しかしアネモは訳知り顔で笑いながら言う。


「ふふふ、それは勿論そうなんですけど、三級以上の探索者には、町の近くで出会ったエンカウンターはきっちり倒すことを推奨されているんです。戻って補給も容易ですし、放置すると探索者以外の人がダンジョンを移動する時に危険だったりしますからね」


「定石は守るもんだが、固執するものじゃねーってところか」


「おお、エドさんは小洒落たことを言いますね。なら、今度はそんなエドさんにテストです。お二人の実力を見ておきたいので、まずはエドさんだけで戦ってみてくれませんか?」


「俺か? ああ、いいぜ」


 アネモの言葉にニヤリと笑うと、俺は荷物を置いてから二人の横を抜けて前に出る。すると二体のエンカウンターも俺の存在に気づいて警戒態勢をとる。


 さて、それじゃ軽く運動させてもらいますか。

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