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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二五章 石の向こうに夢を視る

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不審者と不明者には、超えられない違いがある

「っ……ふぅ」


 新たな世界に降り立ち、俺は一瞬だけ息を詰める。流石に三度目ともなると、体の不調にも慣れたものだ。俺の顔を覗き込んでくるティアの表情も、心配というよりは確認の方が近い。


「大丈夫……なのよね?」


「ああ、平気だ。俺の体はいいけど、ここでは油断はするなよ?」


「勿論! にしても……」


 俺から視線を逸らし、ティアがキョロキョロと周囲を見回す。縦横三メートルほどの石造りの通路はどう見ても人工物だが、そうではない。この世界ではこれこそが天然(・・)の地形だ。


「本当に地下遺跡……いえ、迷宮? とにかくそう言うのなのね。世界中全部がそうなの?」


「少なくとも、俺が知ってる限りではな」


 複雑に入り組んだ石造りの迷宮。それがこの第〇六九世界の全てだ。つまり、世界全てが地下迷宮(ダンジョン)なのである。


「光源があるわけでもないのに暗くないし……かといって石が光ってるわけでもない? どういう仕組みなのかしら?」


「さあな。詳しいことはわかんねーけど、性質的にはほら、ギンタのいた世界の水と同じ感じ?」


「ああ、なるほど」


 俺の説明に、ティアが一応の納得を示す。手をかざせば常に壁側に影が落ちるので、おそらくはあの世界の水のように、この世界では空気そのものが光る感じなんじゃないかと思う……いや、本当にそうなのかどうかはわかんねーけど。


「っと、それよりそろそろ移動しようぜ。さっきも言ったけど、気を抜くなよ?」


「わかってるわよ。こんな場所で油断するほど寝ぼけてないわ」


「そいつはよかった」


 耳をピコピコと揺らして張り切るティアに笑って応えつつ、俺達は石造りの通路を、便宜上の奥へと歩いていく。するとすぐに角の向こうから何かの動く音と気配を察知した。


「いるわね」


「だな。俺達が手こずるほど強い敵はいねーはずだけど……俺が先行するから、ティアは背後を警戒しつつ着いてきてくれ」


「了解」


 息を殺し気配を隠し、俺達はそのまま通路を進んでいく。そうして角から頭だけを出して覗き込むと、そこには全身がゴツゴツとした石で構成された人型……いわゆるストーンゴーレムとでも言うべきものが二体いて、互いの手を打ち合わせるような動作を繰り返していた。


『ねえエド、あれって何をしてるのかしら?』


『うーん……挨拶? いや、会話とか?』


 俺の肩に手を置き「二人だけの秘密(ミッシングトーク)」を発動してきたティアに、俺は軽く眉根を寄せながら答える。


 当たり前だが、石は喋れない。が、言葉が空気の振動だというのなら、ああして体を打ち付けることで直接衝撃……振動を伝え合うことで、言葉の代わりに意思疎通できる可能性はある。


『え、あれそんなに頭がいいの?』


『いや、あくまで想像だ。まあ倒しちまえば同じさ』


『……それはそうね』


 ティアが俺の肩から手を離したのを確認し、俺は一気に通路へと踏み込んでいく。姿を現した俺にミニゴーレム達はゴゴゴと体を動かして反応するが……


「遅いっ!」


 腰から抜いた「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」を一閃。まずは一体のゴーレムが真っ二つになり、蠢く石塊へと成り果てる。そうして切り抜けた俺の背を狙い、残った一体が殴りかかってくるが――


「そうはさせないわ!」


 風の刃を纏わせたティアの「銀霊の剣」が、触れる側からゴーレムの石の体を削っていく。即座に反撃を繰り出してきた辺り、割といい反応速度をしていたゴーレムだったが、殴りに入った姿勢で背後から切りつけられればどうすることもできず、結局そちらも真っ二つになって床の上に転がった。


「はい終わり……って、まだ動いてる!? これどうすればいいの?」


「えーっと、確か……どうだったかな?」


「抜き水をかけるんですよ」


 対処法を思い出そうとする俺に、不意に背後から声がかかる。俺達が声のした方に顔を向けると、そこには身長一三〇センチほど、背中には体より大きなリュックを背負い、腰の左右にもパンパンに膨らんだ鞄を身に付けた、空のような青い髪と海のような蒼い目を持つ、ずんぐりとした体型の女性の姿があった。


「はいはい、ちょっとどいてください!」


 その女性はそう言って俺達の横をすり抜けると、腰に付けている茶色い鞄から深い青色をした瓶を取りだし、床の上で蠢いているゴーレムの破片にその中身を振りかけていく。するとすぐに湯気のようなものが立ち上り、ゴーレムの破片が動かなくなった。


「はい、これで大丈夫です! お二人とも、怪我はありませんか?」


「ああ、ありがとう」


「助かったわ。えーっと……」


「あ、これは失礼! 私はニイハナの町所属の準二級の探索者(シーカー)で、アネモ・アリスと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 そういって、アネモがぺこりと頭を下げる。背中のリュックがそのままアネモの体を押しつぶしそうな見た目になるが、アネモの体は小揺るぎもしない。


「こいつはご丁寧に。俺はエド。で、こっちは――」


「私はルナリーティアよ。ティアでいいわ」


「エドさんにティアさんですね。こんなところにいるなんて、お二人とも探索者なんですか? でも、その割には抜き水というか、荷物が……?」


「あー、いや、実はその辺はよくわかんねーんだよ」


 不思議と不信を半々くらいに混ぜた視線を向けられ、俺は苦笑いを浮かべながら言う。この世界に来るとわかっていたからこそ、その辺の設定はきちんと考えてあるのだ。


「わからない、というのは……?」


「言葉の通りだよ。気づいたらこの辺にいたっていうか……正直記憶どころか、パッと抜き水のことが頭に浮かばないくらい常識も曖昧な感じでさ。何かでかい揺れを感じたような気はするんだけど……」


「大きな揺れ……まさか何処かの町が崩壊した!? でもそんな情報は……ひょっとして凄く遠いところから押し出されてきたとかでしょうか?」


「押し出される?」


 考え込むアネモに、ティアが問う。今回はとある事情から、ティアには必要最低限のことしかこの世界のことを説明していないため、本当にわからないのだ。そんなティアにアネモは怪訝そうな目を向け……だがふざけていたり演技をしているのではないと察すると、一転して気の毒そうな表情をしてから説明してくれる。


「えっと……ダンジョンって自己再生するじゃないですか? なので大規模な崩壊や再生に巻き込まれると、その流れで凄く遠いところまで運ばれた挙げ句、壁からこう……ペッと押し出されることがあるんです。


 勿論、普通は物品だけで、人間がそんなのに巻き込まれたら押しつぶされて死んじゃいますけど、奇跡に奇跡を重ねたような確率で人間が押し出されることも、確か歴史上で何件かはあったような……いえ、あれは原型を留めてる死体でしたっけ?」


「えぇ……? ねえ、エド?」


「俺達が怪しいってのはわかってるけど、さっきも言ったとおり何も答えようがねーんだよ。手持ちの鞄には身分証みたいなものとかは入ってなかったしな」


 そう言って俺が腰の鞄をポンと叩くと、アネモがジッと俺達の体を見回してくる。


「……確かに、通路にいるのに荷物がそれだけっていうのはあり得ないですよね。ならやっぱり、荷物を全部喪失するような目に遭った? わかりました。ならとりあえず町まで着いてきてもらっていいですか? そこで身元の照会をしてもらうということで」


「ああ、いいぜ。なあティア?」


「ええ。何もわからないし、色々教えてくれるなら、むしろありがたいもの」


「…………ふむ。なら犯罪者ではない、かな?」


「ん? 何か言ったか?」


「いえ、何も! それじゃ私の後に着いてきてください!」


 問う俺に、アネモが慌てて誤魔化しつつ通路を歩き始める。なおその呟きは当然聞こえていたが、あえて不信を煽る必要はないので聞き流しておく。


「んじゃ、行くか」


「ええ。フフッ、町ってどんな感じなのかしら?」


 こうして俺達は勇者(・・)アネモの先導に従い、ここから一番近いニイハナの町まで移動することとなった。

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