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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二四章 それは小さな恋の歌

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手段を目的と見誤らなければ、辿れる道は幾つもある

「なるほど、そんなことがあったわけか」


 その場にしゃがみ込み、ボソボソと喋るユートからおおよその事情を聞いた俺は、スッと立ち上がって周囲を見回す。


「でもこれ、どうすりゃいいんだよ……」


 辺りに広がっているのは、一言で言って惨状だ。元は天幕だったであろうぼろ切れやマオを捕らえていたらしいでかい石のかけらなど、一切合切はゴミと化しており、原形を留めているものは何もない。


 そんな荒れ果てた一角には、ローブか鎧かの違いはあれど白い服に身を包んだ一団が山と積まれている。全員気絶しているだけで死者がいないというのは僥倖だが、それは同時にこいつらと色々話をしなければならないということで……まあ、それは後で考えるとしよう。


 そして俺の足下には未だに膝を抱えて暗い目をしたままブツブツと言っているユートの姿がある。最初の頃よりはやや落ち着いたと思われるが、相当に恐い思いをしたようなので、これもしばらくは様子を見るしかないだろう。


 で、最後に、本来ならそんなユートを慰めるべき立場であり、この騒ぎを起こした元凶の一つであるマオはというと……


「うわーん、ティア殿ー! みんなが酷いのじゃ! よってたかって妾の乙女心を粉砕するのじゃ! 心という器は、ひとたびヒビが入れば二度とは元に戻らぬのじゃぁぁぁ!」


「そうね、酷いわね。でももう大丈夫よ」


 ティアに抱きつき、頭を撫でられながらギャン泣きしている。あれはもう本当にどうしようない。下手に慰めたりしようものなら却って怒らせたり、あるいは更に激しく泣かれたりするやつだ。ティアに任せるのが唯一にして最善の手段。他力本願と言う勿れ、物事には向き不向きというのがあるのだ。


 とまあ、状況の把握はこれでいいとして……


「いや、本当にどうしろと?」


 もし「途方に暮れる」という言葉の意味を説明しろと言われたら、今の状況より適切なものがあるとは思えない。見上げた空の青さに現実から逃げ出したくなるが、その誘惑を振り切って、俺はまず白い集団のところへと近づいていった。


「うーん、一番年上っぽいし、多分この人か? おーい、爺さん? 大丈夫か?」


「うっ……私は…………っ!?」


 スネイル司祭だと目星をつけた老人の頬をペチペチと叩いて声をかけると、うめき声をあげて覚醒した老人はガバッと飛び起き……だがすぐに周囲の状況を確認して、ガックリと肩を落とした。


「そう、か。我らは魔王に敗北したのか……これでもう世界は…………」


「あー、落ち込んでいるところ悪いけど、あんたがスネイル司祭で間違いないか?」


「……そうだ。私がスネイルだ。神のお言葉を聞きながら、満足に使命も果たせなかった愚か者だ。そう言う君は何者だ?」


「そんな卑屈にならんでも……俺はエド。冒険者で、ユートの仲間で……あとはまあ、マオの兄ってところか」


「魔王の……? そうか、君が……すまない。我らにもっと力があれば、君の妹を助けることもできただろうに……」


「いやいや、別にマオが成り代わったとかじゃねーから! あいつは最初から俺の妹で……そうか、こう言った方がいいか?」


 そこで一旦言葉を切って溜めを作ると、俺はニヤリと笑みを浮かべる。


「どうも初めまして。俺はマオの兄で……多分あんた達が探してた方の魔王だ」


「…………は?」


 怪訝そうな表情を浮かべるスネイルに、俺はこっちの事情を話せる部分だけ話していく。するとスネイルは顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりと激しく反応を示し、最後にはグッタリと疲れ切ったように地面に両手を突いてへたり込んでしまった。


 ちなみに、神託が示した魔王がマオじゃなくて俺なのは、ほぼ間違いないと思われる。ずっと昔からここにいたマオを今更「降り立つ」なんて表現はしねーだろうし、そもそも俺がこの世界に来た時期と同じだし……何より神の欠片がちょっかいをかけてくるのは、基本的に俺に対してだからな。


「何だ、何だそれは……世界の外から来た魔王? しかもそれが単にここに立ち寄っただけで、もうすぐ帰る? この世界の魔王は勇者に一目惚れしたので、もう暴れない!? は、ははは。頭がおかしくなりそうだ……」


「だろうなぁ……」


 俺が同情するのは違うだろうが、それでも愕然とするスネイルの姿には何とも言えない申し訳なさを感じてしまう。


「ならば、我らが何もせずとも世界は平和であったということか? 我らの努力は、全て無駄であったと?」


「いや、そりゃ違うだろ」


 ただし、その言葉は聞き流せない。積み上げた過去の全てを投げ捨てようとするスネイルに、俺は強い口調でそう告げる。


「なあスネイル司祭。あんたは今日まで何のために頑張ってたんだ?」


「それは勿論、魔王を倒して世界を滅びから救うためだ」


「ふーん。なら大事なのは『魔王を倒す』ことか? それとも『世界を救う』こと?」


「っ!? それは…………当然、世界を救うことだ」


「ならいいじゃねーか。魔王がいると世界がヤバいって思ったから、色んな努力をしたんだろ? でも、実際に魔王を見つけてみたら世界を壊すような感じじゃなかった。危惧がなくなり『世界はこれからも平和です』って結末に、何の問題があるんだよ?


 それとも何か? スネイル司祭としては魔王が予想通りに邪悪な存在で、多大な犠牲を出しながら魔王を倒した英雄にでもなりたかったのか?」


「……………………」


 俺の言葉に、スネイルが固まる。そう、英雄になりたかったというのであれば、確かにそれに相応しい敵が必要だ。だが単に世界を救いたかっただけであれば……


「そう、か。悪が滅びるのではなく、初めから悪がいなかったというのであれば……それは幸福な結末だということなのか」


「そうそう。それにほら、あんた達って国の手が届かない辺境で魔獣退治をやったりしてるだろ? 魔王なんて大層な敵がいなくても、救われた人達からすりゃあんた達は間違いなく英雄で、勇者さ。


 俺の身内が迷惑かけたし、かけられたりもしたけど……でも、あんた達は敵じゃない。マオの奴がこれからも幸せに生きていくためにも、あんた達みたいなのはいてくれた方がいいだろうしな」


 そっと振り返ってみれば、ようやく泣き止んだマオが恐る恐るユートに近づいていっている。が、ユートがビクッと体を震わせる度、ティアのところに駆け戻ってまた泣いているようだ。あー、あっちはもうしばらくかかりそうだなぁ。


「…………確かに、あの少女は我々を殺さなかった。一方的に悪と決めつけ拘束し、殺そうとした我々を……無論それだけの実力差があったのでしょうが」


「ま、最後の最後で『ユートに嫌われたくない』って理性が働いてたんだろうな。つーか、世界を滅ぼせる力を持ってる奴なんて、別にそこまで珍しくもないんじゃね? たとえば大国の王様が権力に狂って世界征服を目指したら、あっさり世界が滅んだりしそうだろ?


 でも、そうできるからって理由で何もしてない王様を殺すってのは、いくら何でも雑すぎる。あんた達がやるべきことは、そういう誰もが持ちうる可能性を論じて排除することじゃなく、そうならないように教え導くことだ。


 刃を振り下ろすのはそれでも駄目だった時の最後の手段であって、初手で選ぶもんじゃねぇよ」


 そんなものを追求していったら、生まれた瞬間赤子の首を刎ねるのが正義になってしまう。そんな世界に明るい未来が待ってるなんて、魔王だって思わない。そんな思いが伝わったのか、スネイルが険の取れた穏やかな表情を浮かべる。


「生きて存在する限り、人も魔王も過ちを犯す。間違いそうだからとその未来を閉ざすのではなく、正しい方向へと導くことこそが真に正しき道である……ははは、まさか魔王にそのようなことを教えられるとは。


 一〇歳の時、魔獣に襲われた故郷の村を救われてから神に仕えて、早五〇年。どうやら私はまだまだ、目が開いたばかりの赤子のようだ……」


「ほーらユート、恐くないぞ? 妾は恐くない感じの魔王じゃぞー?」


「……でも、僕の臭いを嗅ぐし」


「ぐはっ!?」


「思い返してみると、時々髪の毛をクンクンされてた気がするし」


「ほげぇ!?」


「僕、臭くないのに……むしろマオちゃんの方がちょっと臭いのに……」


「う、う、うわぁぁぁぁぁぁん! ティア殿ぉぉぉぉぉぉ!!!」


「はいはい、マオちゃんは臭くない……こともないかも知れないけど、冒険者としては許容範囲だと思うわよ?」


「なっておらぬ! これっぽっちも慰めになっておらぬのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「……ははは」


 騒ぐマオ達の姿を見て笑ったのは、果たして俺かスネイル司祭か。こうして神の啓示を受けた聖光教団とのいざこざは、やかましく幕を下ろしていくのだった。

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[一言] 興津さんいて草
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