表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二四章 それは小さな恋の歌

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

415/552

自分に都合の悪い存在が、世間にとっても悪とは限らない

「皆が安穏と過ごしているこの世界は、日々滅亡の瀬戸際にある! それもこれも、全てこの世界に魔王が存在しているからだ!」


 朗々と響き渡る白ローブの男の声に、しかしその場にいた大半の奴らは嫌そうに顔をしかめる。無視して自分の作業を続けようとする者もいたようだが、こう騒がれては集中も何もないだろう。


「故に! 我らは世界を守るため、一日も早く勇者の存在を見いださねばならない! 強き者、賢き者、そして何より勇気ある者! 我と思う者は、聖光教会の門を叩くべし! 我らは常に、正しく神と共に在る者を募集している!」


 一方的にそう言い終わると、白ローブの男は軽くギルドの内部を一瞥してからそのまま外に出て行った。するとすぐにギルドの中に喧噪が戻り、俺もまたさっきの男に声をかけてみる。


「んで、あれって何なんだ?」


「聖光教会さ。ああやって時々やってきては、よくわからんことを言って信者を集めてるんだ。ま、少々やかましい程度で実害があるわけじゃねーから、ほどほどに聞き流しとけばいいさ」


 それだけ言うと、親切な男が掲示板から依頼書を一枚剥がし、俺の前から立ち去ってしまった。その背を軽く見送ってから、俺は少し真剣に考え込む。


「ねえ、エド。今のって……」


「ああ、気になるな」


 この世界では、マオ……魔王の存在は認知されていない。それに何より、俺はあんな奴らのことを知らない(・・・・)。一周目で出会っておらず、かつ神の関係者を名乗るというのはどうにもきな臭いが……ふむ?


「考えてもわかんねーし、ちょっと聞いてみるか」


 そのまま少し待ち、カウンターが手隙になったのを確認してから、俺はアルマのところに行った。すると当然アルマは営業スマイルを浮かべて声をかけてくる。


「エドさん。いい依頼はありましたか?」


「いや、それとは別にちょいと聞きたいことがあるんだが……さっき騒いでた『聖光教会』ってのは、どういう成り立ちのどんな組織なんだ?」


「へ? エドさん、聖光教会に興味があるんですか?」


「興味と言えば興味なんだろうが、どっちかって言うなら警戒、か? 今日初めて見たから、どういう距離感で扱っていいのかわかんねーんだよ」


「聖光教会を知らないんですか!? 割と歴史のある組織だと思うんですけど」


「あー……それは、あれだ。俺のいた田舎では聞いたことがなかったんだが……」


 軽く首を傾げるアルマに、俺は大概万能な「田舎者なので知らない」という札を切る。この世界に来てもう四ヶ月くらい経つし、ここまで出会わなかったのなら世界中の全ての人が知ってて当然の常識ってことはねーと思うんだが……どうだ?


「そうなんですか? まあ確かに、活動範囲は広くても規模は小さい組織ですからね。わかりました。通り一遍の知識となりますけど、よろしいですか?」


「ああ、頼む」


 どうやら賭けは俺の勝ちらしい。俺と、ついでに横にいるティアが頷くと、アルマがコホンと咳をしてから説明を始めた。


「では、改めて……聖光教会は、この世界の最大宗教である創造神バルモア様を奉るバルモア教から分派した存在で、その成り立ちはおおよそ一〇〇年ほど前だと言われています。


 小規模ながらも世界中に拠点があり、信者の総数は教会側の発表では一万人ほど。主な活動内容は先程のような演説をして新たな信者を勧誘することと、集めた人達を使って僻地の村なんかで魔獣退治を請け負うことですね。


 ただし、個人ではなくある程度纏まった人数で動くため、立ち位置としては冒険者ギルドより軍隊の方が近いかも知れません。なのでギルドとしては特に何とも思っていないのですが、国からは睨まれることもあるようです」


「規模が小さくて国に睨まれるような組織なのに、潰されずに成り立ってるの?」


 ティアの素朴な疑問に、アルマが大きく頷きながら答える。


「ええ、そうなんです。国の軍隊は国民を守る義務がありますが、そうは言っても動かすために煩雑な手続きが必要だったり、国境沿いなんかだと迂闊に動けなかったり、色々と制約があるでしょう?


 でも、彼らはそういうことを一切気にせず、魔獣に襲われた町や村に直接討伐部隊を送ります。なので彼らのおかげで助かった人々というのはそれなりにいて、特に軍が動くほどではない小さな村なんかだと聖光教会のおかげで助かったという場所が幾つもあるんです。なので……」


「そりゃ確かに、表立って弾圧はできねーよなぁ」


 要は、国という大きすぎる力が届かない場所に素早く動いて回れる集団ということだ。それなら民衆の人気が高まり、迂闊に潰せないのは理解できる。が、であればこその違和感もある。


「でも、そんな集団なのに思ったほど信者の数はいないんだな?」


「はい。やはりその……あげている教義が今ひとつ世間から受け入れられないというのがあるようで」


「魔王に勇者か……確認だけど、そういうのってやっぱりいないのか?」


「少なくとも、冒険者ギルドではそのような存在は確認されておりません。あるいは人の目の届かない辺境に、そう呼べるような強力な魔獣がいるかも知れない可能性は否定しませんけど、それを倒せる勇者を探していると言われても……」


 半笑いのような微妙な困り顔で、アルマが言葉尻を濁す。常識的に考えれば、何の脅威も被害もない状態で、いるかどうかもわからない存在が世界を滅ぼすから、それを倒すために協力してくれと言われてもそりゃ困るしかないだろう。


 が、この場で二人、俺とティアだけは「魔王」が実在していることを知っている。なので俺は話してくれたアルマに礼を告げてギルドを去ると、女将さんの微妙な視線を無視して宿に借りている俺の部屋に戻り、二人でベッドに腰掛けながらティアと顔を見合わせた。


「どういうこと? 魔王のことを知ってるってことは、聖光教会はやっぱり神様の力が影響してる場所なのかしら?」


「うーん、それが何とも微妙なんだよなぁ」


 魔王とか勇者という概念そのものは、ごくありふれたものだ。強い魔獣を現地の人々が魔王と呼ぶことは間々あるし、であればそれに立ち向かったり、あるいは見事倒した奴を勇者とか英雄と讃えることは珍しくも何ともない。


 なので、魔王がいるから倒そう、そのために勇者を探そうと訴えることと、俺の力の欠片……マオのことを知ったうえで「魔王がいる」と主張していることは、必ずしも同じではない。後者であれば放置はマズいが、前者である場合余計なトラブルを招く可能性もあるので、ここは慎重にいきたいところだ。


「エドの力で確認ってできないの? ほら、いつもの探すやつ」


「ああ、『失せ物狂いの羅針盤(アカシックコンパス)』か? いや、無理だ。『神の欠片』は探知できん」


「え、そうなの?」


「ああ。ほら、世界って基本神が創ってるもんだろ? つまり世界ってのは、神の力に満ちてるんだよ。そういう場所で『神の欠片』を探すのは……海水の中に一滴垂らした真水を探すようなもんか?」


 特に俺達の閉じ込められている一〇〇の世界は、超強力な神の力で箱の中に封印されているようなものだ。探すべき力と同質のものがここまで強烈に周囲から降り注いでいると、流石に俺の「追放スキル」でも見分けることはできない。


「えぇ……? あ、でも、前に『羽付き』は探せたじゃない?」


「ああ。一度でも俺が出会って認識してれば、微妙な違いで探せるんだよ。例えばティアを探そうとした時、本人と会ったことがあれば探せるけど、『エルフの女性』ってだけじゃどうしようもねーだろ? そういう違いだな」


「なるほど、そうだったのね。確かに今まで一度もエドが探そうとしなかったから、不思議だなーとは思ってたんだけど」


「そういうことなのですよ。あとはまあ、仮に探せたとしても、俺達の都合だけで勇者を神の欠片のところまで引っ張っていくのが無理ってのもあるけどな」


 世界を壊そうとしていた頃の神の欠片なら、放っておいてもそもそも勇者の討伐対象になっただろう。が、今の……そして昔の俺にちょっかいを出してくる系の神の欠片は、勇者視点では悪ではないことが多い。


 となると勇者を引き連れて倒しに行くわけにはいかないし、勇者パーティから抜けられない俺が単独で倒してくることもできない。つまり仮に探せたとしても、向こうから接触してくるまでは手が出せないのは同じなのだ。


「なら、今回はどうするの?」


「そうだな、何かしてくるわけじゃねーなら静観でもいいんだが……」


 顎に手を当て、俺はひとしきり考え込む。俺がこの世界を追放されるまで、最短で二ヶ月ほど。そのくらいなら黙ってれば何事もなく終わりそうではあるが……


「とりあえず、支部とやらに顔を出してみる、か?」


 俺達が立ち去ってしまえば、もう手出しはできなくなる。ならば放置して悪化しないことを祈るよりも、接触して事態をコントロールする方がより望み通りになりそうな気がする。


 俺はバタンと座っていたベッドに倒れ込むと、頭の中で作戦を考え始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ