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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二四章 それは小さな恋の歌

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まずは出会っておかなければ、未来などあるはずもない

遂に本日、本作の書籍が発売となりました! 作品を継続していくためにも是非とも手に取っていただけると嬉しいです。

「キャー! ねえエド、聞いた!? 運命の相手ですって!」


「宿命の相手の間違い……ってわけでもねーのか」


 やたらとはしゃぐティアにユサユサと肩を揺さぶられながら、俺はマオの様子をじっくりと観察……するまでもない。いやだって、何か凄いクネクネしてるし。


「ユートの姿を一目見たとき、妾の中にこう……ビビビッと何かが走ったのじゃ。最初はそれこそ魔王の本能が刺激されたのかとも思ったのじゃが、どうも違う。その胸の高鳴りの正体を知るのに、時間はかからなかった」


「一目惚れ!? 勇者の子に恋をしちゃったのね!?」


「まあ、そうじゃの」


「うわー、そうなんだ! ねえねえ、あの子のどんなところが好きになっちゃったの?」


「ふむ、どんなところ、か……」


 身を乗り出して問うティアに、しかしマオは一転して落ち着いた様子になると、その口元に優しげな笑みを浮かべる。


「好きなところは、無論幾つもある。じゃがそれを口にするのは無粋じゃろう」


「え、そう?」


「うむ。出会ったその瞬間に、好きだと感じた。ならばそこから後のことは『この気持ちは何処から来るのか?』という答え合わせの理由付けに過ぎん。


 それに何より、妾はまだ彼奴のことを何も知らぬに等しい。それなのに今の段階であれが好きこれが好きと言ってしまうのは、何というかこう……薄っぺらい感じになってしまいそうなのじゃ。


 故に、今はまだ、妾が彼奴に一目惚れした……それだけで十分なのじゃ」


「おぉー、何か深いわね……あれ? でも……ねえエド、エドはマオちゃんのこと知らなかったのよね?」


「ん? そうだけど?」


「なら、マオちゃんって最低半年は、このままずっと勇者の子に話しかけることすらしないってことなの?」


「へ? あー、そう、か?」


 言われてみれば、俺は一周目のこの世界でマオに出会っていない。つまり勇者の周囲に、マオが姿を現すことはないということだ。今聞いた話や当時知り得た世界情勢から考えると、一周目のマオが今と違ってちゃんと魔王をやっていたって線もないしな。


「ぬ? どういうことじゃ?」


「それは……そうだな。そっちの話は大体わかったから、今度はこっちの事情も説明しとくか」


 そう言って、俺は俺達の置かれた状況……神の意志で異世界を巡っていることや、勇者パーティに入ってから追放されないと出られないこと、そして何より俺がこの世界に訪れるのは二度目であることを説明していく。


 するとマオは難しい顔で眉根を寄せ、六つ目の焼き菓子を囓り始めた。


「むぐむぐ……我が主様ながら、何と数奇な運命を歩んでいることか……」


「何だ、割ととんでもない話をしたつもりなんだが、あっさり信じるのか?」


「疑う理由も意味も、妾にはないからな。だがそうなると……わ、妾はこの先もずっと、ユートの姿を遠くから見つめているだけなんじゃろうか……?」


「それは俺に聞かれてもなぁ。一周目の時はお前の存在なんてこれっぽっちも感じなかったし……あ、そうだよ。お前、ひょっとして自分の気配とか消せるのか?」


「む? できるぞ。ほっ!」


 俺の問いに、マオが何やら気合いを入れる。するとマオの……というか「魔王の気配」がみるみる薄れて、俺の知覚に引っかからなくなった。


「どうじゃ! 人の町に入っても大丈夫なように、頑張って身に付けたのじゃ! 人混みであれば、もっと完全に気配を消すこともできるぞ!」


「人混み……なるほど。だから最初は気づかなかったのか」


 もしあのタイミングでマオの姿を捕らえていなければ、きっと俺は最後までマオが側にいることに気づけなかっただろう。無理に仕事先にまで追いかけてくるわけではなく、町中での観察に徹していたというのなら尚更だ。


「フフーン、主様を誤魔化せるなら大したものじゃろう!」


「おう、凄い凄い。でもこれなら……ふむ」


 ほぼ完全に一般人なマオの気配に、俺は顎に手を当て考え込む。ここまで普通になれるなら……いけるか?


「なあマオ。お前俺達と一緒に、勇者パーティに入るか?」


「ほへっ!?」


「うわ、いいじゃない! ねえマオちゃん、私達と一緒に行きましょ?」


「ティア殿!? 主様も、何を突然……」


「いやだって、お前ってこのままだと遠くからユートを見てるだけで終わるんだぜ? それは何かこう……なぁ?」


「そうよ! 恋が叶うかはともかく、遠くから見てるだけなんて勿体ないわ! 私達と一緒に旅をすれば、勇者の子とも自然に一緒にいられるじゃない。ね、マオちゃん、どうかしら?」


「ど、どうってそんな、突然そんなことを言われても……」


 俺の提案にティアがノリノリで追従し、しかしマオは戸惑った様子でバリバリと焼き菓子を囓り続ける。そうして皿に残った最後の一つを囓り尽くすと、手持ち無沙汰になったマオは上目遣いに俺の方を見てくる。


「何で主様は、妾にそんな世話を焼いてくれるんじゃ?」


「ははは、そんな大層な理由があるわけじゃねーよ。ただまあ……あれだ。機会くらいはあってもいいと思ったんだ」


 どんな奇跡も偶然も、機会がなければ起こらない。もしも俺がティアに遠慮して近づかなかったら、あるいはティアがもっと消極的な性格で、俺に関わってこなかったら。その世界ではきっと、俺とティアがこうして並んで過ごすことなどなかっただろう。


 そして今、この世界において、マオと勇者が出会う機会は、ひょっとしたらここにしかないのかも知れない。俺がこの世界を追放される頃にはマオは勇者のことを諦めていたり、何らかの理由でここにはいられなくなっていることだってあり得るだろう。


 だが、俺達はこのタイミングで巡り会った。縁を結ぶ機会に恵まれたのだから、ならばもう一つくらいそこに縁が、機会が重なるようにお節介を焼くくらいはいいはずだ。


「勿論、お前が嫌だって言うなら無理強いはしないぜ? 実際に近づいて話をしてみたら想像と違うとか、仲良くなったら悪いところが見えてくるなんてのもよくある話だからな。出会うことなく美しい思い出にしておくってのも、一つの選択さ。


 だから、俺は何も強要しない。ただ問うだけだ。マオ……お前はどうしたい?」


「妾は…………」


 顔を伏せて逡巡すること、僅かに数秒。覚悟を決めた表情で、マオがまっすぐに俺を見てくる。


「妾は、知りたい。勇者の、ユートのことがもっと知りたい! 知らない方がよかったと嘆くことはあっても、知らずにいた方がよかったという後悔だけはしない! だから妾を……妾を一緒に連れて行ってくれ!」


「そうか。なら早速作戦会議だ。ティアも協力頼むぜ?」


「勿論よ! 今日の私はやる気一〇〇倍なんだから!」


 俺がマオの頭を撫でながら言うと、ティアが胸の前でグッと拳を握りしめて気合いを表現する。そのまま俺達はごく自然形で勇者パーティを成り立たせるための作戦会議を行い……そして翌日。


「むぅ……」


「そんな顔すんなよマオ」


 一人で森の中を歩く勇者ユートの背後を、たっぷりと距離を離して俺達がついていく。三人ともなると誤魔化すのも難しいため相当に遠距離だが、未熟な少年の足取りを森の中でティアが見失うはずがない。


「だって、ユートはこれから襲われるんじゃろう? わかっておるのに襲われてから助けると言うのは……勿論そうする理由は聞いて理解しておるんじゃが……」


「好きな子が危ない目に遭うって思えば、なかなか納得はできないわよねぇ」


「そうは言っても、こればっかりはなぁ」


 一周目では、危ないところを助けた俺にユートが憧れのような好意を抱き、それによって行動を共にする……という流れだった。というか、そうでもなければただの少年冒険者であるユートが、俺と行動を共にする合理的な理由が何もない。


 仮に俺達が先行してユートを襲う魔獣を倒した場合、その後やってくるユートに「この辺は強い魔獣が出るようだから気をつけろ」と忠告したとして、それで終わりである。これだと単なる通りすがりの親切な先輩冒険者であり、パーティを組む要因がこれっぽっちもありゃしないのだから、流石にその道は選べないのだ。


「っと、確かそろそろだったはずだ。二人とも気を――」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺が警告を口にするより早く、遠く離れた森の奥から少年特有の甲高い悲鳴が聞こえる。おっと、これは急いで――


「ユート!? 今行くのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


「お、おい!? くそっ、行くぞティア!」


「ええ!」


 事前の計画をガン無視して走り出したマオを、俺とティアは全速力で追いかけていった。

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