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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二二章 妖精郷と甘い夢

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存在しないというのなら、自分達で作ればいい

「それじゃエド、そろそろいつもの本を読みましょ?」


「ああ、そうだな」


 話は終わりとばかりに、手を離したティアが弾む足取りでテーブルの方に移動していく。俺もその後についていくと、先についたティアが不意に戸惑いの声をあげた。


「え、あれ!?」


「ん? どうしたティア?」


「ないのよ! 本が何処にもないの!」


「『勇者顛末録(リザルトブック)』がない……?」


 言われて俺もテーブルを見ると、確かにそこには何も乗っていない。下を見ても落ちてないし、本棚を確認しても入っていない。まさかと思って身構えたが、空から降ってくることもないようだ。


「これってどういうことかしら? あの本ってないこともあるの? それとも、エドがもらった祝福で内容を書き換えちゃったから、神様が拗ねて書かなくなっちゃったとか?」


「いや、それは流石に……」


 そんな人間くさい対応を、あの神がするとは……いや、ちょっとしそうな気はするが、流石にこんな細かい嫌がらせまではしないだろう。優先順位を考えれば、少なくとも道化人形(にんげん)の体を捨てた俺を放置して「勇者顛末録(リザルトブック)」が出ないようにするなんてことはしないだろう。


「うーん……あ、そういうことか?」


 ひとしきり考え、そして一つ思い至る。なるほどそれなら納得できそうだ。


「何なに? どういうこと?」


「ほら、今さっき俺達が追放された世界って、勇者がいなかっただろ? だから『勇者顛末録(リザルトブック)』も出ないんじゃねーかなって」


「ほえ? あの妖精の子が勇者だったんじゃないの?」


「違う違う! そうじゃない。俺達は世界を移動したんだぜ?」


「あっ!?」


 俺のその言葉に、ティアがハッとした表情となる。そう、今回俺達は独力で世界を移動している。そして俺達が追放されたのは、魔王も勇者も神の欠片もない、平和そのものの世界の方だ。


「前の世界が崩壊する前に追放判定が出てればあったのかも知れねーけど……いや、やっぱり微妙か? その後世界を移動したらどうなるのかとかわかんねーし」


「うぅ、それじゃ妖精達やあの魔王さんのことは、もう何もわからないのね……」


「そう、だな…………ふむ」


 しょんぼりと耳を垂れ下がらせるティアに、俺はしばし考え込み……虚空に開いた黒い穴に、徐に手を突っ込む。


「あれ? エド、私の助けがなくても力が使えるようになったの?」


「みたいだな。よしよし、これならいけそうだ」


 驚くティアをそのままに、俺は「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」から羽ペンや紙なんかを取りだしてテーブルの上に置く。次いで本棚の方に行って適当な「勇者顛末録(リザルトブック)」を手に取ると、発動させるのは「半人前の贋作師(コピーアンドフェイク)」だ。


「お、いけたか。なら…………よしっ!」


 俺の手には、見事複製された「勇者顛末録(リザルトブック)」が出現する。最後の関門として複製した方のページをペラペラとめくってみると、きちんと本の形になっているようだ。


 いや、実はこれが一番の難題だったのだ。「半人前の贋作師(コピーアンドフェイク)」は見た目だけそっくりな偽物を作り出す追放スキルだが、本みたいなものを複製すると、本っぽく見える四角いものができあがる可能性があったからな。中身は真っ白だが、ページが存在するなら何の問題もない。


「ねえエド、さっきから何をしてるの?」


「まあ見てろって。これをこうして…………」


 不思議そうに見てくるティアをそのままに、俺は複製した「第〇〇四世界 勇者顛末録(リザルトブック)」と書かれた本の表紙、その「四」の部分に紙を貼って隠すと、羽ペンで「五」と書き込んでみたのだが……


「おぉぅ、これは酷い……」


 できるだけ似た色の獣皮紙を貼り付けたまではよかったが、金の箔押しの部分を細い羽ペンで書き換えたのは、いかにもショボい。あまりの低クオリティに思わず変な声を漏らしてしまったが、それを見ていたティアの目がキラキラと輝いている。


「まさかエド、本を作るつもりなの!?」


「まあな。存在しないなら自分で作ったっていいだろ? 正直大分がっかりな感じになりそうだけど……」


「フッフッフ、そういうことなら私に任せて! ちょっと本を借りるわね」


 自信満々なティアが、そう言って俺から偽「勇者顛末録(リザルトブック)」を取り上げる。それを床に置き、ティアが何やら詠唱を始めた。


 興味深く見守っていると、やがてティアの前に赤い光球が生まれる。そこにティアが手持ちの金貨を一枚落とすと、瞬く間に溶けた金が生きているかのようにうねり、俺の書いたショボい「五」の上をなぞるようにして定着した。


「フフーン、どう? なかなかいい出来でしょ?」


「うぉぉ、スゲーなティア! ああ、これならバッチリだ!」


「それじゃ次は中に書く文章を考えましょ! うーん、どんな内容がいいのかしら?」


「そうだなぁ……」


 一気に完成度があがったことで気分も盛り上がり、俺達は二人一緒に手製の「勇者顛末録(リザルトブック)」に書き記す内容を考えていく。


 まず、本来の「勇者顛末録(リザルトブック)」のように勇者の……妖精の半生を書くというのは無理だ。それにそもそもあの世界のことだって、俺もティアもほぼ何も知らない。つまり通常の「勇者顛末録(リザルトブック)」とは似ても似つかない内容にするしかないわけで……だがそこまで吹っ切れたならば、むしろ好きにすればいいとも言える。


 あーでもないこーでもないと、素人二人が必死に文章を考える。そうしてようやく形になったのは、本当に僅かな文章だけだ。だがそこには俺達二人の想いが形となっており、俺はそれを丁寧に紙に書き写すと、その内容を「半人前の贋作師(コピーアンドフェイク)」で偽「勇者顛末録(リザルトブック)」のページに転写した。


 ちなみに、わざわざそんな手順を踏んだのは、劣化によって文字がかすれて読めなくなるのを防ぐためだ。俺の出したこの偽本は「革っぽいもの」や「紙っぽいもの」で構成されてるので、経年でどう劣化するか予想がつかない。対してこうして能力で複写してやれば、壊れて消えない限りは永遠に劣化しないからな。


「これで完成か……じゃ、改めて見てみるか?」


「うん!」


 テーブルに置かれたそれのページを、俺は丁寧にめくる。内容は僅か一ページ。あの世界のことも妖精のことも何も知らない俺達が記した、夢と希望の備忘録。





――第〇〇五世界『勇者顛末録(リザルトブック)』 最終章 終わりを超えて始まりへ


 かくて崩壊する世界からの脱出に成功した魔王と妖精達は、新たな世界に解き放たれていった。空に輝く希望の光は、彼らに無限の未来を約束するように眩しい。


 そんな彼らがその後どう生きたのかを、旅立った者達が知る術はない。だがきっと幸せに生きたのだと願い、想うことはできる。いつか再び巡り会うことがあるならば、その続きを書き記すことを楽しみにしておきたい。


 世界の壁を隔てても、記憶は繋がり記録は残る。甘いもの好きの魔王と、彼を慕う妖精達の甘くて酸っぱい冒険譚は、まだ始まったばかりなのだ。





「どう? 我ながらいい感じに書けた気がするわよ?」


「ははは。いいんじゃねーか? 裏ページに載せた絵も合わせてな」


「絵? あっ、ちょっ、エド!? まさかあの落書きまで本にしちゃったの!?」


「そりゃそうだろ。あの力作を記録しないわけには――」


「わーっ! 駄目、駄目よ! あれはあんまり上手に描けなかったんだから!」


 猛然と襲いかかってくるティアの手から、俺は「勇者顛末録(リザルトブック)」を高く掲げて守る。この名作を却下されることだけは、俺の全存在を賭けてでも阻止せねばならない。


「そんなことねーって。これも大事な思い出だよ。何百年でも何千年でも、幾星霜の時の果てまで残すべき、全世界の宝だ」


「うーっ、エドの意地悪!」


 拗ねるティアの頭を撫でつつ、俺は偽の「勇者顛末録(リザルトブック)」をそっと本棚にしまい込む。最終章の向こう側、ページの裏に描かれているのは、怖い顔が絶妙な下手さで可愛らしく描かれた魔王と、妖精達が楽しく遊んでいる情景だった。

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― 新着の感想 ―
今回はかなり特殊だったから製本担当神がどう書くのか気になっていたんだけど、まぁかなり特殊なことやらかしているわけだからこうかることもあるか 重なったもう片方で物語が終わっているなら、そっち側に本が出て…
ティア画伯の作品がコミックで拝見できるのが待ち遠しい。
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