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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第二二章 妖精郷と甘い夢

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不完全であるからこそ、完全よりも価値がある

 その後、俺達は軽く魔王と雑談したり妖精と遊んだりしてから、集落の方へと戻って天幕を張った。当たり前の話だが、ここに人間用の宿なんて気の利いたものはないのだ。


 ちなみに、張るのは一張りだけである。木々の乱立する森の中では綺麗に天幕を張れる場所は限られており、離れた場所に二つ張るくらいなら、一つで一緒に寝ればいいということだ。寝るだけなら二人くらいは入れるしな。


 そうして寝床を確保したなら、あとは夕食までの空き時間ということで、軽く集落の周りを探索して回ったのだが……


「何つーか……随分と気合いが入ってんなぁ」


 集落の周囲には、魔獣どころか通常の獣すら影も形もなかった。所々に痕跡くらいなら残っていたが、排泄物の類いが一切ないので、いなくなったのは年単位で昔だろう。


(あー、くそっ。一周目の時はどうだったかな……?)


 この状況は、間違いなく魔王がいるせいだろう。が、一周目の時に森の様子がどうだったのかは、正直覚えていない。魔獣や獣に襲われた記憶はないが、だからこそ何も印象に残っていないのだ。


(あの時、魔王のことを妖精達に聞いてりゃなぁ……今更言っても何の意味もねーけど)


 当時魔王が集落にいたかどうか、それを判別する手段は手持ちにない。ならば悩んでも仕方ないかと内心で割り切る俺に、ティアが少しだけ眉根を寄せて周囲を見ながら俺に話しかけてくる。


「これ、環境的には大丈夫なのかしら? ここまで全部の生き物を排除しちゃったら、自然が成り立たなくなりそうだけど……」


「流石にそれは魔王も配慮してるとは思うけど……うーん?」


 妖精は「倒しづらい」存在ではあるが、決して「強い」存在ではない。小さな体でヒラヒラと宙を舞うが、体自体は大きさに見合う頑丈さなので、捕まったり不意の一撃が当たればあっさりと死ぬ。それに多彩な魔法を使うことはできるがどれも悪戯程度の規模であり、誰かを驚かすことはできても、敵を撃退、ましてや殺傷はかなり難しい。


 つまるところ、妖精は伝説に語られるような不滅の存在ではなく、ごく普通に生きて死ぬ生命体だということだ。ならばこそ、魔王はこの地の妖精達を守るために周辺の脅威を排除したんだろうが……これは過保護の度を超えて、あまりに徹底的すぎる。


「ちなみに、ティアの見立ては?」


「精霊の力も大分弱いわ。このままだと、多分一〇年もしないうちに森が死んじゃうと思う」


「……マジか?」


「マジよ。でもそれは、あくまでも私達が見て回った範囲の見解ね。もうちょっと外側までいけば普通に動物がいるとかだったら、特に問題はないかも。ほら、人間の町があるからって、周囲の森が死んだりはしないでしょ?」


「ああ、そっか。確かにそうだな」


 人が暮らす町の中に、獣が暮らしているはずもない。が、それだけの広範囲から排除したとしても、その外側に豊かな自然があれば、それらが生息することに何の問題もない。


「要するに、あれか? ここは森に見えるだけで、実際には魔王がいい感じに整えた町の中ってことか?」


「そう考えると、理由はつくわね。この先ってまだまだ深い森が続いてるんでしょ?」


「多分。行ったことはねーけど」


 一周目の時に聞いたことがあるが、曰く「ずーっと森!」だという。半年いて人間と出会うことはなかったから、少なくともおいそれと人が入り込めない程度には深い森のはずだ。


「なら平気でしょ。あの魔王さん、妖精達やこの場所のこと、すごーく大事にしてるみたいだったし」


「だな。後で軽く聞いてみるにしても、急ぐことはねーか」


 そう結論づけると、一通りの周辺調査を終えた俺達は集落へと戻り、魔王と一緒に食事をして……第〇九二世界で買い込んだ保存食の一つで、そろそろ期限がヤバくなってきた『ヨーカン』なる甘いものをご馳走したら、スゲー勢いで貪り食ってた……天幕に戻ると、俺はそのままごろんと横になった。


「あー、今日は一日よく動いたな」


「異世界転移の初日は、大抵濃いわよね」


 そんな俺の隣では、ティアもまた毛布にくるまって寝転がっている。通常の野営ならどちらかが起きて見張りをしているところだが、ここは下手な安宿の部屋より安全なので問題ない。


「ねえエド、明日からはどうするの? 本当にこのまま遊んでるだけ?」


「うーん……」


 ランタンの明かりに照らされ、翡翠の瞳を太陽のように輝かせて問うティアに、俺は何とも微妙なうなり声をあげる。


「勇者はここにいるし、魔王も見つけたし……ぶっちゃけやる必要のあることは、もうないな」


「まあそうよね。念のため聞くけど、あの魔王さんを倒したりは……」


「しねーよ。あいつを倒しちゃったら、妖精達から想像を絶する悪戯とかされると思うぜ?」


「ふふふ、それは怖いわね」


 怒りも悲しみも、妖精達は持続しない。だがそれは忘れるというわけじゃない。楽しく笑う裏側で、妖精達はずっと魔王の存在を抱えて生きていくことだろう。そんな未来は俺の望むものではないので、こっちからお断りだ。


「でも確か、神様に会うのに力の欠片を集めなきゃなのよね? その辺はどうするの?」


「それもまあ、問題ではあるんだよなぁ」


 ある程度神に対抗するためには、俺の力の欠片の回収は必須らしい。だが異世界は一度出たら基本それっきりなので、ここで「回収しない」を選ぶと、後になって取りに来るというのがほぼ不可能になる。周回を重ねればいけるだろうが、次も記憶を保持できるとは限らねーし、何よりティアがいなくなるのでは論外だ。


「私、魔王ってもっと怖くてわるーい存在だとばっかり思ってたわ。でも実際に会ってみると、割と話のわかる人が多いわよね」


「そう、だなぁ……」


「少なくとも、手から甘いものが出せる魔王が存在するなんて、考えたこともなかったわ」


「お、おぅ。それは……うん」


 魔王の力は多種多様だが、「甘いものを出す」というのは俺の想像の中にも存在していなかった。いやでも、俺の追放スキルにも、道ばたに生えてる草がほんのり美味しく食べられる「美食家気取りの草食獣(グラスイーター)」とかあるしなぁ……


「ねえエド? 魔王にそんな人が多いのって、ひょっとしてエドの力の欠片だからなのかしら?」


「…………否定はできん」


「そんな顔しなくてもいいじゃない。私は素敵だと思うわよ? それに……ねえ、エド? エドは全てを終わらせる、終焉の魔王なのよね?」


「そうだけど……って、ティア?」


 ゴロゴロと床を転がって、ティアが俺の側にやってくる。そのままピッタリと俺に抱きつくと、鼻が触れ合いそうな距離で俺の顔を見つめてくる。


「私ね、思ったの。元のエドが……全て(・・)を終わらせる魔王だったエドが、欠けて不完全になったことで「悲しみ」とか「悲劇」とか、そういうのだけを終わらせる魔王になってくれたなら、それはいいことだったんじゃないかなって。


 なくすことは不幸じゃない。なくしたからこそ見えるものもある。そんな風に考えられたら、きっと幸せだろうなぁって……」


「……………………」


「えっと……だからね? 私が言いたいのは、エドは今のエドのままでも十分ってことよ。無理して完全を目指したり、色んなものを犠牲にして神様を殴るくらいなら、私はこうしてエドと一緒にいられる方がいいし、エドの周りにエドと一緒に笑ってくれる、エドから生まれた沢山の魔王がいていいって思うの。


 駄目……かな?」


「…………ははっ」


 不安げな目で見つめるティアを、俺は笑って抱きしめ返した。柔らかくて温かい感触が、俺のなかにジンワリと染みこんでくる。


「駄目じゃねーさ。ああ、駄目じゃねーよ」


 完全なものは、完全であるが故に何も受け入れることができない。だが細かく砕けた俺にはそこかしこに隙間があり、だからこそこうして誰かを受け入れることができる。


 欠片を集めて元に戻すのではなく、別のものとして隙間に差し込み、受け入れる……なるほど、それは何とも楽しそうだ。


「なら、ティアも俺の隙間を埋めてくれるのか?」


「あら? ここまでしておいてまだ埋まってないって言うつもり?」


「はっはっは! そりゃそうだ!」


 つぎはぎだらけで色んな色の混じった俺は、黒一色の俺より随分と賑やかになることだろう。だが歪なはずのその存在は、元のそれより随分と魅力的だ。


「私はエドとずっと一緒にいるつもりだけど、エドと同じにはならないわ。どんなに強く抱きしめられても、ちゃんと私としてエドに寄り添うの」


「ああ、それでいい。そうじゃなきゃ駄目だ。ティアはずっとティアでいてくれ。そうか、そうだな。みんなそうでもいいのか……」


 状況は何も変わっていないのに、俺の中の迷いのいくらかが溶けて無くなっていくのを感じる。そのまま俺はティアを抱きしめ続け、静かに眠りへと落ちていった。

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