同じ結果に至るなら、進む道は別でもいい
「いやぁ、儲かったぜ! 久々にいい勝負だった」
一仕事やりとげ、随分と懐が暖かくなった俺は上機嫌で笑う。流石に元の世界と同額まではいかなかったが、それでも四割程度は回収できたので上出来だ。これでしばらくは活動資金に困ることはないだろう。
「てかギンタ、お前いつまで悩んでるんだよ」
「いやだって、結局最後までエド達が『丘の人』だって信じてもらえなかったギョ。これじゃオレの計画が――」
「そう言われてもなぁ」
本物の『丘の人』がいたのは、もう何千年も前の話らしい。この世界の人間の寿命は俺達と大差ないので、当然ながら本物を見たことのある奴など生き残っているはずがない。
勿論資料くらいならあるだろうが、それだってさっきの女性が言うように、正確なところを把握しているのは研究者くらいだ。一般人が気にするのは『丘の人』の残した遺物……つまりは金目の物であり、それを作った異人類のことにまでは興味が及ばないのもやむを得ないだろう。
「でも、私達ってギンタやあのおばさんとは全然見た目が違うわよ? それでも同じ人間だって思うものなのかしら?」
「多分、意思疎通ができればとりあえず人間扱いなんだと思う。『丘の人』が特別扱いだったのは、姿形が違うからじゃなくて水中で活動できないからみたいだからな」
「ああ、そういうの区別なのね。それなら納得だわ」
俺の説明に、ティアが大いに納得したように頷く。この世界における「人間」の定義は、かなり大雑把なものだ。というのもさっきの女性とギンタのように、そもそも見た目が大きく違う種族があまりにも多種入り交じっているせいで、いちいち区別などしていられないからである。
そんななかで極めて明確に分けられているのは、「水中で活動できるか否か」だ。人も大地もほぼ全てが水の中にだけ存在する世界で、ごくわずかな期間だけ存在していた地上と、そこに住み、水中では呼吸できない「丘の人」。自分たちの当たり前を享受できない存在だからこそ、彼らは別枠として伝説になったのだ。
「でも、それだと私達が『丘の人』だって証明するには、何処かで溺れないといけないってこと? それは嫌ね」
「だな。てーことだから……おいギンタ!」
「何だギョ? オレは今二人が苦しまずにアワアワする方法を必死に考えているんだギョが……」
「何気にヒデーこと考えてるな……そうじゃなくて、ギンタにとって重要なのは、俺達が『丘の人』かどうかじゃなく、周りに認めてもらえるような大発見をすることだろ? だったら俺達と遺跡探索に行こうぜ?」
「遺跡探索? それはいいギョが……でも、『丘の人』を見つけたのと同じくらいの大発見なんて、そう簡単にできるわけないギョ?」
「フッフッフ、それは甘いな」
若干の呆れを含んだ目で見てくるギンタに、しかし俺はニヤリと笑ってみせる。
「いいかギンタ。俺は『丘の人』……つまり遺跡を作った側の人間だ。つまり……」
「……つまり、何だギョ?」
「そこは察しろよ! 遺跡の場所がわかるって言ってんだ! 未発見……は流石に保障できねーけど、ギンタが知らないような遺跡なら、それなりに貴重な遺物も残ってるんじゃねーか?」
当然だが、俺は遺跡の場所など知らない。が、「失せ物狂いの羅針盤」を使えば遺跡そのものを探すのは簡単だし、そこからさらに「価値のありそうなの遺物」がある場所を絞り込むことだってできる。
そんな俺の提案に、ギンタは大喜び……するかと思ったんだが、何故か微妙な表情で悩んでいる。あれ? どういうことだ?
「何だ? ああ、そりゃ会ったばかりの俺にそんなことを言われても、信用できねーだろうけど……」
「いや、そうじゃないギョ。そもそも遺跡漁り……ギョフン、トレジャーハントは運の要素が強いから、仮に情報が間違っていたとしても特に気にしたりはしないギョ」
「なら何が気になるんだ?」
「それは…………」
意味がわからず首を傾げる俺に、ギンタは渋い顔をしながら徐に言葉を続ける。
「エドの言う通りの場所に行って、そこに凄い価値のある遺物があったとして……それって、オレが見つけたと言えるのかギョ?」
「ふむ、そういうこだわりか。なら、そこは考え方の問題だな」
「考え方ギョ?」
「そうだ。俺に教えてもらうのが嫌だってことだが、なら俺が人間じゃなく、地図だったらどうだ? あるいは遺物を隠した場所を書いた日記帳とか。それを見てその場所に探しにいって、実際に遺物が見つかったとしたら、それは誰の手柄だ?」
「…………それなら、確かに俺の手柄だギョ」
「だろ? 誰かの情報を元に探しに行くのは同じなのに、生きてる人間から聞くのだけは納得できないってのは、それこそ違わねーか? いや、それだってシチュエーション次第だ。こう……あれだ。謎の老人とかが徐に語る昔話の場所に調べに行くなんてのは、普通にありだと思うが?」
「ギョハッ!? 確かにそれはアリだギョ! 浪漫溢れる大冒険だギョ!」
「そういうことだ。ってわけだから、一緒に遺跡探索に行こうぜ」
「わかったギョ! なら準備を整えて早速――」
くぅぅ……
と、そこで不意に誰かの腹の音が鳴った。誰のものかは言及しないが、俺とギンタが音のした方に顔を向けると、そこには耳の先まで赤くしたティアの姿がある。
「し、仕方ないでしょ! 泳ぐのって全身運動だから、いつもよりちょっとだけ体力を使っちゃったのよ!」
「別に悪いとは言ってねーだろ。確かに腹は減ったしな」
俺達がこの世界に降り立ったのは船に表示されていた時計を見ると午前一〇時くらいだったはずだが、今はもうとっくに昼を回り、夕方が近い。おまけに水中で食える保存食など流石にもってはいないので昼を抜いているため、腹が減っているのは当然だ。
「ならギョラン堂……は、流石にこの時間からだと厳しいギョ。その辺の店に入ってもいいギョが、そうすると夕食が……って、そうだギョ! 二人ともウチに来て、一緒に夕食を食べればいいギョ!」
「ん? いいのか?」
「勿論だギョ! 家族にも紹介したいし、何ならそのまま泊まっていけばいいギョ!」
「嬉しいけど、連絡もなしに二人もお邪魔したら流石にご迷惑じゃない?」
「そんなことないギョ! オレが『丘の人』を連れていったら、きっとみんなビックリするギョ! それに最悪怒られても、俺の部屋にこっそり二人とも泊めるギョ!」
「それはそれでどうかと思うが……まあ招待してくれるって言うなら、泊まるかどうかは別にしても顔くらいは出すか。この魔導具をもらうときに約束したしな」
「そう言えばそうだったわね。なら……流石に手土産くらいは用意したいわ。ねえギンタ、この辺で適当なものを買えるお店はない?」
「それなら通りの突き当たりの店で売ってる揚げダンゴがいいギョ!」
「えっ、水中なのに揚げ物ができるの!? それは凄く興味があるけど、夕食前に食べ物の差し入れってどうなの? 料理の邪魔になったりしない?」
「あれならオレ一人でも一〇個くらい余裕で食べられるから、何の問題もないギョ! さあさあ、それじゃ早速行くギョー!
揚げダンゴー! 揚げダンゴー! カリッと美味しい揚げダンギョー!」
「語尾が変な風に混じってるし……ったく仕方ねーなぁ。行くか、ティア」
「フフッ、了解」
ご機嫌で泳いでいくギンタを後を追って、俺達もまた手を繋ぎ、青から赤に変わっていく不思議な水の中を泳ぎ進んでいった。




