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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一九章 少年勇者と欲望の魔王

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断章:欠片の記憶 下

 本来、この世界に存在するモノに「アレ」に対して直接影響を与えるような力は無い。仮に宿主が死んだとしても「アレ」は魂が消える前に離れて、別のところに漂っていくだけだ。


 だが今、そこに例外が起きた。「アレ」が強制的に弾き飛ばされる衝撃となれば、単なる自然現象ではあり得ない。それこそ世界の外側に影響するほどの理の力が加わったことになるが……かといって別に「アレ」が焦ったり困ったりすることはない。何故ならそんな感情を持ち合わせていないからだ。


(こ、れは――――)


 だと言うのに、オッサンの中どころか世界から飛び出し、外に出てしまった「アレ」の見た光景に、俺は驚愕の声をあげてしまう。


(世界が、増えて重なってる……!?)


 完璧な球であった世界が、二重に重なっている。二つの球が食い合うように重なる形は、あらゆる命の最初の一歩……細胞分裂の始まりのように見えた。


(……? 細胞って何だ? いや、それよりこれは……?)


 自分の頭に浮かんできたのに自分では意味のわからない言葉を無視し、俺は目の前の光景に釘付けになる。二つの球は激しく振動し、徐々に離れてそれぞれが独立したモノと成ろうとしているように見えたが……その重なりが半分まで離れたところで動きが止まってしまう。


(何故止まった? ……いや、違う。止められた? これ以上動けないのか?)


 二つの球の周囲には、一見すると無限の闇が広がっているように見える。だが実際にはそれが空間ではなく壁であることを、「アレ(おれ)」は知っている。


 そう、ここは閉じた箱の中。時の流れも空間も、全てに限りのある場所。あの球一つ分の容量しかないところに、二つが収まるわけがないのだ。


(はー、こりゃ大変だな)


 しかしその光景を前に、俺はただぼーっとそれを眺めている。「アレ」には思考能力など無く、感情だって無い。誰かの魂に張り付いている間はその思考を借り受けて人のように考えたり感じたりする真似(・・)もするが、今は「アレ」単体なのだから何もしないし、できない。


 必然、俺もそうなる。俺のいるはずの世界が大変なことになっているが、そこに危機感のようなものはない。全ては他人事であり、外から指示が来なければ、己の存在が消えるその時までこの場で漂うだけであることに何の疑問も抱かない。


 が、今の俺は「アレ」であり、「アレ」は俺の意思を持つ。完全に無ではないだけに、感想くらいは持ち合わせている。


(これ、箱が壊れるんじゃねーか? 何とかした方がいい気はするけどなぁ……お?)


 と、そんな時、不意に箱の蓋がほんの少しだけ開き、そこから巨大にして強大な何かが見ている気配がした。黒曜石のような瞳孔を黄金の輝きが包み込む巨大な目が一瞬だけピクッと動き、次の瞬間「アレ」の中に新たな知識が入り込んでくる。


 どうやら、この世界に封じられているモノがやらかしたらしい。「アレ」の本体たる万知万能の存在の想定すら越える奇行の結果、世界が増えてしまったようだ。


――壊さなければ


 増えた分を減らさなければ、遠からず箱は壊れてしまう。それは「この世界」にとっては他の世界と繋がり、無限に分岐し永劫に続く未来を手に入れる福音となり得るが、「アレ」にとっては最悪を招く破綻だ。ならば防がねばならない。何故なら俺は「アレ」なのだから。


――壊さなければ


 そも、一度でも起きたことは再び起きる可能性がある。もしこのまま更に世界が増え続けたら? 一つが二つに、二つが四つに。限られた時間しか持たない代わりに、その内部に無限の分岐と可能性を重ね合わせたものが、連なり重なり大きく成長していったら?


――壊さなければ


 その中心には「ソレ」が在る。終わりを司る権能を有するが故に、「アレ」を終わらせる選択を持ち、「アレ」にも終わらせることのできない存在。もしそんな「ソレ」がこの閉じた世界を増殖させて我が身としたならば、もはや力の総量としても「ソレ」が「アレ」に並ぶのでは?


「……壊さなければ」


 (アレ)のなかに、他人のうわべをなぞったものではない、初めて明確な意思が生まれた。俺の視線が宙を彷徨い、その力を振るう対象を見極めていく。


 最優先で壊すべきは、世界の中心たる「永遠の白」だ。だがあれは「アレ」の本体が持てる力を存分に注いで創り上げたものなので、末端たる俺では壊せない……壊せないよな?


「……本当にか?」


 俺の手の中には、いつの間にか剣が握られている。夜明けの如き輝きを宿す刀身を振りかざせば、「永遠の白」でも終わらせることができる気がする。


 故に俺は意識を向ける。一つはできたばかりで周囲の世界と繋がりと呼べるものがほとんど無いが、もう片方には周囲を囲む一〇〇の世界全てと濃密な線が結びついており、特に最近できたであろう一五本の線は強く光り輝いている。


「壊すならこっちだな」


 古い方は、色々とガバガバな感じになっていた。億兆を超える回数開け閉めされた栓はもはや中身を押しとどめる役目を果たせておらず、力がダダ漏れになっている。もし今回のようなことがなかったとしても、これでは遠からず栓が壊れ、全ての力が「永遠の白」に集約してしまったのではないかと思えるほどだ。


「ふむ。なら……よっと!」


 俺が軽く剣を振るうと、「永遠の白」に黒い線が走る。ただそれだけで強固なはずの世界が一つ消え去り、中身がバラバラと崩れて虚空に消えていく。具体的には小洒落た感じのベッドや、魔導炉などだ。


「あー、あれ高かったのになぁ……」


 その光景に、俺は思わず苦笑する。確かに一瞬で終わったが、まだ使える物くらいは回収してもよかったんじゃないだろうか? そう、回収は大事だ。分割された魔王の力だって……んー?


「……何だっけ? まあいいか。んじゃ、次はこっちだな」


 よくわからない思考が浮かんできたが、わからない程度のことなら無視してもいいだろう。俺はそのまま残った方の「永遠の白」に意識を向け、再び()を構える。


「えっと、こっちもいい感じに調整しないとなんだよな?」


 俺はスッと穂先を動かし、「ソレ」のいる世界から新たなる「永遠の白」に線を引く。うむ、これでちゃんと繋がったはずだ。これをやっとかねーと、「ソレ」が何処に流れるかわかんねーからな。


「さてさて、それじゃ残りは増えた世界の処分か。面倒臭えなぁ」


 世界は二〇〇個あるので、壊さなければならないのは一〇〇個。箱がやばい感じにミシミシいっているので、できるだけ早く処分しなければ箱が壊れてしまう。


「……でもこれ、どれがどれなんだ?」


 世界の半分ほどは綺麗に分かれているが、残りの半分はかなり複雑かつ混雑した感じになっていて、どちらがどちらの世界かの判別が極めてつきにくい。きちんと見分けないと古い世界と新しい世界が混在する形になってしまうどころか、場合によっては同じ世界が二つとも残ったり、逆に二つとも壊してしまったりすることになりかねない。


「ハァ、これは一個ずつ確認してくしかねーか」


 全くやる気は出ないが、それでも俺はため息をついて気合いを入れる。周囲では俺と同じ存在が、次々と世界に入り込んでいるのが見える。ここで俺だけサボるというのは魅力的な提案ではあるが、それは己の存在意義をドブに投げ捨てるようなものであり、迂遠な自殺と変わらない。


「ではでは、最初の世界は……あそこでいいか。ぬおっ!?」


 手近な世界に目標を決め、俺はそこに向かって移動しようと翼をはためかせ……しかしその場でよろけてしまう。顔をしかめながら背後を振り返れば、俺の背にはどういうわけか片方しか翼がない。


「何で片翼なんだっけ? くっそ、飛びづらいったらねーぜ……」


 あっちにフラフラ、こっちにフラフラ彷徨いながら、それでも俺は目標としていた世界に入り込む。まずは景気づけにと目の前に在るでかいカジノに槍をぶち込もうとして――


「うわっぷ!? な、なんだこりゃ!?」


 突然俺の体を覆った、黒く粘つくナニカ。もがいてももがいてもまとわりつくそれに完全に捕らわれた俺は必死の抵抗を試みるが、徐々に力が削られ、身動きが取れなくなっていく。


「や、やめ!? 臭い! 汚い! 気持ち悪い!」


 そうして最後は情けない声をあげながら、(アレ)は変な男の腹の中にズブズブと沈められていくのだった。

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― 新着の感想 ―
〈悲報〉 お高いベッド、立派な鍛冶アイテムなど諸々、完全消滅 完全に自我が神の欠片に同期しちゃったな、こりゃティアに連れ戻してもらわなきゃね… この欠片、白い部屋を欠片一つで壊してたけど、欠片の中で…
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