調べればすぐにわかることでも、調べるきっかけがなければ永遠にわからない
「……え、本当に倒したの? アタシ達何もしてないんだけど?」
「そう、ですね。怪我人が出なかったのは素晴らしいと思いますけど……」
そんな俺達の横では、カナンとアリエールもまた戸惑いの表情を浮かべている。その気持ちはよくわかるので、俺は苦笑しながらフォローの言葉を口にする。
「何だよ、あっさり倒せたんだから別にいいだろ? それとも死人が出るほど苦戦した方がよかったか?」
「そうは言わないけど! でも、何て言うか……これなら道中の戦闘の方がよっぽど大変だったじゃない?」
「ははは、そりゃそうだ。俺が剣の指導をしたこともあって、今のニコは十分に強い。でも一三歳の子供だってことは変わらない。腕力は技術で補えても、成長途中で未完成の体じゃ体力とか持久力はどうしようもねーんだよ。
だから多数の敵と連戦を続ける道中は疲労が蓄積して辛く感じた反面、万全の状態を整えたうえで一騎打ちだった魔王はあっさり倒せちまったってところだろうな。
補足するなら、もし魔王が大量の部下と一緒にここで待ち構えてるって展開だったら、あいつの実力がさっきの半分だったとしても大苦戦したと思うぜ?」
一番やられて嫌なのは、ニコの体力を削る持久戦を挑まれることだった。もしそういう方向で攻められていたなら、拍子抜けするような楽勝から一転、怪我人の出る苦戦になっていたことだろう。
「うーん、そういうもの? 確かにそう言われたらそうな気もするけど……?」
「まあまあ、実際そうだったんだからもういいじゃない。ね?」
「そうですよカナン。確かに私も不思議な気持ちはしますけれど、既に倒してしまった魔王の事をこれ以上考えても、あまり意味がないのでは?」
「…………それもそうね」
ティアとアリエールの言葉に、カナンが一応納得する。まあ嘘を言ったわけじゃないので当然だ。
とは言え、真実全てというわけでもない。あんなにあっさり終わった最も大きな理由は、ニコとあの……ガルグレンだっけ? とかいう魔王の立ち位置の違いだ。
この世界で生まれた強者であろうガルグレンは、この世界における常識的な強さしか身に付けていなかった。対してニコは、俺の力の欠片という外世界からの侵略者に対抗するため、世界から加護を与えられた本物の勇者。
地元でブイブイ言わせてる程度の魔王がそんなのと正面から戦ったらどうなるか……その結果がこれだ。まあ「真の敵」じゃなかったからか大分勇者補正は弱かったようだが、強化されないってだけで弱くなるわけじゃねーからなぁ。
(何て言うか、生まれてくる時代が悪かったんだろうな……哀れな)
きっとこのタイミングでなければ、追い詰められた人類のなかから生まれる勇者と、それなりにいい勝負を繰り広げることになったんだろう。そしてその流れならば、魔王が勝つ未来もあったかも知れない。
もしそんな事になった場合、この世界はきっとどぎつい赤と青に分けられた世界になっていることだって…………待て、ひょっとして神がそれを嫌って、この時代に俺の欠片を送り込んだ可能性もある、のか? アレが何を考えてるのかはよくわかんねーけど、流石に赤と青の世界は嫌だろうしなぁ……
うん、考えてもわかんねーことは気にしないことにしよう。悪は倒れた、それでいいってことで。
「さて、そんじゃ魔王も倒したことだし、凱旋といくか」
「凱旋……そうですね。あんまり実感は無いですけど、僕達魔王を倒したんですよね!」
「飛行船が無事だといいけど」
「フフッ、大丈夫ですよ。偉大な貢献をした勇者様を、神がお見捨てになるはずがありません」
心配するカナンに、アリエールが祈りながら言う。飛行船を守ってるのは実は神ではなく魔王の加護なのだが、それは言わぬが花というやつだ。そのまま俺達は来た道を引き返し、誰にも発見されず無事だった偽物をこっそり本物と置き換え、飛行船に乗って無事魔族領を離脱。とりあえず町の近くに着陸したところで、俺は徐にニコに話を切り出した。
「なあニコ、ちょっといいか?」
「はい、何ですか?」
(ここが勝負だ、頼むぜ……)
現地産の魔王と対峙した時よりよほど緊張しながらも、それを必死に押し殺して俺は言葉を紡ぎ出す。
「じ、実は俺とティアは、このあとちょっと行きたいところがあってさ。少しの間だけ別行動したいんだが、構わないか?」
「行きたいところですか? それなら飛行船で送りますけど?」
「いやいや、そんな世話にはなれねーよ。ちょっとした私用だし……その、俺達だけで向かいたいって言うかさ」
「そうなんですか?」
「馬鹿ね、そこは気を利かせなさいよ!」
俺とニコの会話に、不意にカナンが割り込んできてニコの頭をポカリと叩く。
「イタッ!? 何するんですかカナン!」
「アンタ、エド達が仲間になった理由を忘れたの?」
「理由って……魔王を倒すため、ですよね?」
「そうよ。つまりエドとティアには、魔王を倒すために必死に努力するだけの理由があったのよ?」
「? それってどういう……?」
「あーもう! これだからお子様は……いいわよエド。ティアを連れてさっさと行きなさい。アタシ達はエルド王国のお城にいると思うから、用が終わったらそこを訪ねて」
「そっか。悪いなカナン、気を遣わせて」
おそらく何かを勘違いしているであろうカナンに、しかし俺は話を合わせて笑う。嘘をつくのは若干心苦しくはあるが、ここで「本物の魔王を探しに行く」とは流石に告げられない。何せその魔王は、魔王として活動していない……つまりこの世界にとって目に見える脅威じゃない可能性が高いのだから。
ということで、俺はティアを呼んで旅立つことを告げ、一緒に飛行船を下りた。そんな俺達をニコ達が見送ってくれる。
「あの……色々気が回らなくてすみませんでした。どうぞゆっくりしてきてください」
「お二人の向かう先に、神のご加護と安らぎがあることを心からお祈りしております」
「凱旋パレードはどんなに早くてもひと月は先でしょうから、急がなくていいわよ」
「ありがとうニコ、アリエール、カナン! それじゃ、ちょっと行ってくるわね」
「また後でな」
「はい、また後で!」
軽く手を上げ挨拶をし、俺とティアは勇者パーティを離れ…………しかし頭の中にあの声は流れない。
「……っしゃ! ふーっ、何とか乗り切ったぜ」
「あー、ドキドキした! こんなに緊張したの久しぶりよ」
三人の姿が遠くなったところで、俺はティアと顔を見合わせ喜びを分かち合う。何せここで「追放」が成り立ってしまったら、もうこの世界には一〇分しかいられなかったのだ。いくら俺でも一〇分で魔王を探し出して倒すのは物理的に不可能に近い。
「でも、これだとパーティを離れたことになっちゃうわよね? その場合帰るにはまた半年ニコ達といないといけないのかしら?」
「どうだろうな? 一応一緒に旅をして魔王まで倒してるから、『一定以上の信頼』の方で大丈夫だとは思うんだが……まあ駄目なら駄目で一緒にいりゃいいだろ。どうせ色んな国のパーティだの何だのに呼ばれまくるんだろうからな」
「うへぇ、それはちょっと遠慮したいかも……」
笑いながら言う俺に、ティアがうげっと表情を崩す。完全に俺も同感だが、それがあるからこそ魔王を倒した後でもしばらくはニコと一緒に行動することが自然になるとも言える。
「つっても、そういうお誘いが続くのも、それにニコ達が付き合うのも永遠じゃない。まずはサクッと魔王を見つけようぜ……起動しろ、『失せ物狂いの羅針盤』」
その言葉と共に出現した金属枠に、俺は魔王の……俺の力の欠片の所在を問う。すると金属枠にはでっぷりと太った中年の男の姿が浮かび、羅針はきっちりとその方角を指し示してくれる。
「おぉぅ、調べたら一発なのか……」
「仕方ないわよ。まさか違う魔王がいるなんて思わないでしょ」
「だよなぁ。では改めて、久しぶりの二人旅と洒落込みますか。お嬢様、お手をどうぞ」
「はーい。しっかりエスコートしてね?」
差し出した手をティアが掴み、二人で笑顔を見合わせてから俺達は歩き出す。そうして辿り着いた真なる魔王の根城は……
「……ええ、ここかよ」
「うわぁ……」
まさかのカジノであった。




