宿敵と好敵手はいつだって紙一重
そうして一通り話すべきことを話し終えた俺達は、その後も飽きること無くお互いの話をし続けた。何せ互いに主観時間ではずっと会っていなかったのだ、話すことなど幾らでもある。
ベッドでゴロゴロしながら雑談し、腹が減れば外に出て飯を食い、町をぶらつきながら話をし、日が落ちればまた飯を食って酒を飲み、同じベッドで横になって眠くなるまで話をして……そんな何とも無為で幸福な一日を過ごした翌日。俺達は昨日と同じ教会にやってきていた。
「あー…………」
「だらしないわよエド、しゃんとしなさい!」
「へいへい……うぁぁ…………」
俺が疲れた感じで首を回していると、ティアがそう注意してくる。うーん、同じ事をしていたはずなのに、何でティアはこんなに元気なんだろうか? というか、何で俺はこんなに疲れて……?
「……ああ、そうか」
「ん? どうかしたの?」
「いや、何でもない」
今までの世界移動では、俺はゴンゾ式鍛錬を積み重ねた第〇〇一世界の体をそのまま使っていた。が、この世界では元からここにあった体に戻る形になったため、身体能力が一気に落ち込んでいるのだ。
必死に鍛えただけあって、あっちの体は大分能力高かったからなぁ。また鍛えたい気もするけど、普通に「白い世界」を経由する移動だと意味がねーし……むぅ。
「あ、来たわよ」
俺がそんなことを考えている間に、どうやら待ち人がやってきたようだ。真剣な顔をしたバーンと無表情なエウラリアが並んでやってきて、俺とティアの前でその足を止める。
「ようバーン、それにエウラリアも。おはよう」
「おはよう二人とも」
「超! おはようだぜ」
「……おはようございます」
バーンはともかく、てっきり無視されるとばかり思っていたエウラリアからも返事がもらえた。その事実に俺は少しだけ驚き、そして思い切り笑顔を浮かべる。
「ははっ、挨拶ができるってのはいいもんだな。んじゃ、どうする? 今度こそ飯でも食いにいくか? それともすぐに――」
「エド、それにティア……俺の話を超! 聞いてくれるか?」
「……ああ、いいぜ」
まっすぐにこっちを見てくるバーンに、俺はその目を見つめ返して頷く。それがどんな答えであったとしても、本気には本気で答える用意と覚悟が、俺にはある。
「あれからずっと、俺なりに超! 考えたんだ。考えたんだけど……やっぱりよくわかんなかったんだ。俺は勇者でエドは魔王で、勇者は魔王を倒すのが使命で……でもエドは俺を倒そうとしたことなんてなかったし、俺もエドを倒したいと思ってるわけじゃなくて……
っていうか、そもそも俺が勇者になれたのはエドとティアのおかげだし、エドが魔王なのはわかったけど、エドと魔王がどうしても繋がらないって言うか……」
「だから、それは何度もお話したでしょう? 魔王が勇者様を害さなかったのは、自分ではどうにもできない勇者の力を回収させてから殺すつもりだったからです!
仲間として近づき、協力するふりをして力を集めさせた。そして全てが集まった今、遂に魔王が勇者様に牙を剥いたのです!」
「おいおいエウラリア、牙を剥かれたのは俺なんだが……」
「貴方は黙っていてください!」
「おぉぅ……」
もっともらしい理由を並べるエウラリアは、どうやら俺の反論を許してはくれないらしい。肩をすくめる俺に、バーンが改めて声をかけてくる。
「なあ、エド。最後にもう一つだけ教えてくれ。エウラリアはずっと俺についてきて超! 説得しようとしてきたけど……どうしてエドはそうしなかったんだ?」
「ん? ああ、そりゃ簡単な理由だよ。俺が聞きたいのはバーンって男が自分で考えて出す結論であって、俺達に都合のいいようにねじ曲がった答えじゃない。それだけの話さ」
「詭弁です! 目的の為に最善を尽くすのは当然でしょう! 真に成し遂げたいこと、伝えたい思いがあるなら、最後まで誠心誠意相手に伝えるべきです!」
「……後はまあ、流石に二人から挟まれて反対の話を聞かされ続けるのはうんざりするだろ? そこは俺なりの配慮って感じかな」
鬼の形相で睨み付けてくるエウラリアに苦笑を返しつつ、俺はバーンの問いに答える。するとバーンは小さく笑い……そして大声で宣言する。
「わかった……超! 決めたぜっ! 俺は……俺はこれからもエドやティアと一緒に旅をするっ!」
「勇者様!?」
「ほぅ? 俺が聞くのも何だけど、いいのか?」
驚愕し叫ぶエウラリアをそのままに、俺はバーンに問いかける。するとバーンはいつも通りの自信たっぷりな顔で力強く頷いてみせる。
「いいさ! 俺は勇者……世界で一番勇気のある、超! 最強の戦士だ! なら魔王に背中を預けるくらいは超! 楽勝だぜ! それに俺は、じいちゃんの言葉を忘れてないしな!」
「……『人の話を聞かない奴は、人に話を聞いてもらえない寂しい奴だ。強いだけの寂しい奴にはなるな』、か」
それは俺達とバーンが初めて出会った時に聞かされた言葉。それを言った俺に、バーンは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「そうだ! 俺はエドの話もエウラリアの話も、両方聞く! だからエドを仲間にするし、魔王を野放しにもしない! どうだ、これが俺の超! 冴えてる答えたぜっ!」
「そうかそうか。何ともバーンらしいな。俺達はそれでいいけど……エウラリアはどうするんだ?」
「…………勇者様がそうお決めになったのであれば、是非もありません。私はただ勇者様の意思を尊重し、お供させていただくだけです」
晴れ晴れとしたバーンの顔とは裏腹に、エウラリアの方は苦渋の表情でそう答える。だがそれでも、これにて結論は出た。
「そっか。なら改めて、勇者パーティの結成だな。よろしく頼むぜ、二人とも」
「超! よろしくだぜっ!」
俺の差し出した右手を、バーンは何の躊躇も無く掴んできた。俺を殺した勇者の手が、今再び友情の証として繋がれる。そしてそんな俺達を見て、エウラリアが無表情のままそっとこっちに近づいてきた。
「では、不本意ながら私も握手を……ああ、ついでにその手の火傷も治療して差し上げます」
「おっと、そいつは遠慮しとくぜ。エウラリアが何をしてたかは、もうわかってるからな」
「それは一体どういう意味でしょう……っ!?」
ひょいと手を引っ込める俺に怪訝そうな目を向けるエウラリアだったが、にわかにその目が見開かれ、強引に俺の手に顔を近づけてくる。
「まさか、神の気配が消えている!? 貴方、一体何を――」
「いやいや、俺は何もしてねーよ? むしろ何かしたのはそっちじゃねーのか?」
「私? 私が何を……えっ!?」
不意にエウラリアの体から、ふわりと四つの白い光球が浮き上がった。それはすぐにエウラリアの体の中に戻っていったが……ふむ、やっぱりそっちにあるのか。
「神の力が、増えている……!? どうして、一体いつ……!?」
「ははっ。そりゃ神だって敬虔な信徒の方が好きだからだろ。だからもう俺に回復魔法は必要ない。わかるだろ?」
ほんのり火傷の跡が残るだけの右手をヒラヒラさせながら、俺はエウラリアにそう告げる。俺を蝕む神の欠片がエウラリアの方に移動しているおかげか、「負った傷が治らない」というデバフは一晩で大分改善されたようだ。この分なら数日中には俺の体内に残留する「神の力」とやらは綺麗さっぱり抜けてくれることだろう。
「…………なるほど、よくわかりませんがよくわかりました。つまり私は、この増えた神の力を使ってエドさんに回復魔法をかけ続ければいいということですね?」
「いやそれ、何もわかってねーよな? 俺の意向がガン無視なんだけど?」
「魔王の意向など知りません。私はあくまでも神の意志に従うだけです」
さっき消えたばかりの光の球が、再びエウラリアの体から出てきてその周囲をフォンフォンと回り出す。その目は明らかに獲物を狙う肉食獣のそれで、俺は思わず一歩後ずさってしまう。
「さあ、魔王エドさん。私の回復魔法をどうぞ」
「お前それ、絶対回復魔法じゃねーよな!? 触られたら火傷が悪化しそうなんだけど!?」
「そんなことはありません。聖なる力に焼かれて邪悪な存在が浄化されるだけです」
「焼かれるって言っちゃってるじゃん! 嫌だよ! 来るなよ!」
「ふふふ、逃がしませんよ!」
走って逃げようとする俺に、エウラリアがあっさりと追いすがってくる。え、何この身体能力。神の力の欠片のせいで強化されてるのか!?
「いらねーよ! 信仰の押し売り反対!」
「神の愛は万物に平等に降り注ぐのです!」
長椅子をひょいひょい跳び越えて逃げる俺に、残像が残る勢いで反復横跳びするエウラリアが立ち塞がる。何これ怖い。これが覚醒エウラリアなのか!?
「……なあティア、エドとエウラリアって、実は仲がよかったりするのか?」
「フフッ、どうやら今度は楽しい旅になりそうね」
「何二人で訳の分かんねーこと言ってんだよ!? 助けろよ!」
「神よ! 邪悪なる魔王に裁きの癒やしを!」
「どう聞いても攻撃魔法じゃねーか!? くっそ!」
困惑顔のバーンと楽しげに笑うティアを尻目に、俺はエウラリアからの執拗な回復魔法を必死にかわし続けるのだった。




