人の評価はどれだけ努力したかではなく、どんな結果を残せたかで決まる
その後俺の用意した宿にて快適な一夜を過ごした俺達は、翌日早速鉱山へとやってきた。入り口を塞ぐ岩をゴンゾの拳が容赦なく砕き、できた隙間から俺達は鉱山の中へと入っていく。
「思ったほど空気がよどんではおらんな。まあこの辺は入り口付近だからかも知れんが」
「エド、魔導具はどうだい?」
「あ、はい。正常に動いてます」
俺が手にしているのは、鉱夫が必ず身に付けるという特殊なランタンのでかいやつだ。今は青白い光で辺りを結構な明るさで照らしてくれているが、空気に異常があると、この色が赤や黄色に変わるらしい。
「まったく、何でアタシがこんな辛気くさいところに来なきゃ駄目なのよ……ってか、そもそもここ平気なの? 入り口の塞いでた岩を殴り壊してたけど?」
「ははは、ロックワームは地表近くには出てこないのだから仕方あるまい。入り口に関しては、壁や天井は崩落していたものの支えとなる坑木はしっかりしていたから、まあしばらくは平気だろう」
「しばらくって……もっとちゃんと安全を確保しなさいよ!」
珍しく極めてまっとうな抗議の声をあげるルージュに、しかしゴンゾは困ったような表情を浮かべる。
「そうは言うが、ワシにできるのはあのくらいが限界なのだ。壁や天井の補強にしろ、よどんだ空気の問題にしろ、優れた精霊使いでもいれば簡単に解決できるのだが……」
「いい人材がいなかったのだから、それこそ仕方ないさ。さ、それより先に進もう。エド、先導を頼むよ?」
「任せてください!」
入り口近くの少し広くなった場所で話していた俺達だったが、アレクシスに言われて先頭を歩き出す。通路はそこそこの頻度で崩落が起きており、その都度ゴンゾが前に出てきて岩を殴り壊していく。その進行手段には猛烈な不安が伴っているが、かといってこれ以外に進む方法もない。
そりゃそうだろう。まともに坑道を復旧しようと思ったら年単位の時間がかかるし、何よりこの山に埋蔵されていた銀は、その多くがロックワームに食い尽くされてしまっていると予想されている。採算の取れない鉱山に莫大な金と時間、人材を投資して復旧なんてするはずがない。
ならば何故俺達がそんなところに入り込んでいるかと言えば、鉱物を食べ尽くしたロックワームが他の鉱山に移動する前にここで仕留めるためだ。ロックワームを放置すれば近隣にある他の鉱山も死ぬ。そうなれば国家レベルの問題になるが、場所が場所だけに大軍でどうこうという話でもないため、勇者であるアレクシスに依頼が回ってきたのだ。
「うーん、流石に分岐が多いな……これとにかく一番奥に行けばいいんですよね?」
坑道の地図なんて素人が見ても訳が分からないが、それでも無いよりはずっとマシだ。何枚にも渡って書かれた複雑怪奇な地図を必死に凝視しながら問う俺に、ゴンゾが答えてくれる。
「そうだな。できるだけ山の中心部に近く、それでいて行き止まりの坑道があれば最上だ。そこで餌を使っておびき出したロックワームを狩る」
「じゃ、こっちかな……いや、こっち?」
「何よアンタ、荷物持ちのくせに迷ってるの?」
「いやこれ、スゲー複雑なんだって! あと荷物持ちと迷うの関係ねーよな!?」
ジト目で見てくるルージュに適当に突っ込み、その後も幾つもの崩れた道を無理矢理通りながら、俺達は最奥を目指す。そうして二時間ほど歩き回ったところで、ようやくにして俺達は目的地へと辿り着くことができた。
「では、使うよ?」
全員が戦闘態勢を取ったことを確認してから、アレクシスが懐から銀色の塊を取りだした。銀色だけにまさに銀塊っぽいが、普通の銀よりも光ってるような……?
「うわ、ミスリルじゃない。魔獣の餌にするなんて勿体ない」
「え、ミスリル!? 勿体ねぇ!」
「馬鹿なことを言っているな! 来るぞ!」
奇しくも俺とルージュが同じ感想を口にしている間にも、ゴゴゴと遠くから大地を揺らす音が聞こえてくる。その響きは加速度的に強くなっていき、アレクシスがミスリル塊を壁に投げつけて後ろに下がった瞬間。
「GYUOOOOOOOO!!!」
岩壁を食い破って出てきたのは、ルージュをひと飲みにできそうな大きさのロックワームの口。だがその口が俺達を飲み込むより早く、ゴンゾが正面に立ち塞がってロックワームの突進を受け止める。
「ぐぅぅ……っ!」
「行くぞエド!」
「はい!」
硬い鉱石すら砕くギザギザの歯が食い込み、ゴンゾの体の至る所から血が流れ始める。だがそうしてできた時間に俺とアレクシスはロックワームの左右に分かれて己の剣を突き立てていく。
「セイッ! エド、そっちはどうだ!?」
「くっ、この……っ!」
当初の予定では、ロックワームの左右に剣を突き立て、逃げられないように体を固定するつもりだった。だが俺がどれだけ力を込めても、硬く弾力のあるロックワームの皮膚を深く切る事ができない。
「駄目だ、剣が刺さらない……っ!」
「チッ、役立たずが! なら僕が――」
「すまぬ、ワシがそろそろ限界だ」
「――――なら、ルージュ! そのままロックワームの口に目がけて魔術を撃ち込め!」
「いいの? ゴンゾまで燃えるわよ!?」
「そこは僕が何とかする!」
「お、俺は……」
「お前はルージュのところまで引き返して、彼女を守れ! そのくらいはできるだろ!」
「……は、はい!」
悔しさに歯を食いしばりながら、俺は素早くルージュの側に駆け戻る。するとそのタイミングでルージュが長い詠唱を終える。
「四天貫く業炎の赤。灼熱踊る閃光の息吹。煙塵を以て灰燼と為し、眼前の敵を焼き尽くせ! 『フレアブラスター』!」
ルージュが伸ばした手の先から、真っ赤な閃光が放たれる。それがゴンゾの背に当たる寸前に横から飛び込んできたアレクシスがゴンゾに抱きついて逃がし……その先にあったロックワームの口内に、ルージュの魔術が突き刺さる。
「GYUOOOOOOOO!?!?!?」
瞬間、体内を猛烈な熱で焼かれたロックワームがその巨体をよじって苦しみだし、周囲に激しい振動が巻き起こる。それによりただでさえ脆くなっていた坑道が遂に限界を迎えたのか、俺達の周囲でも崩落が始まる。
「こりゃ駄目だ! 逃げるぞルージュ!」
「まだ駄目! もう少し……っ!」
「んなこと言ってる場合か!? ってうあちっ!?」
焦る俺の前で、しかしルージュはあろうことか目を閉じて何かに集中している。俺はそれを無理矢理抱えて連れて行こうとしたが、触れたルージュの体が猛烈に熱くて思わず手を離してしまう。
「何やってるんだ!? さっさとこっちに――っ!?」
ゴゴンッ! ガラガラガラッ!
先に脱出しようとしていたアレクシス達と俺達の間で、不意に大きな崩落が起きた。外に繋がる唯一の道が塞がれたことに俺が衝撃を受けるなか、その背後ではルージュが叫び声をあげる。
「捕まえた、ここが心臓……っ! くたばりなさい! 『爆破』!」
グゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
とっくに姿の見えなくなったロックワーム。その暗い穴の向こう側を中心とした振動が、ひときわ大きく山を揺らす。ああ、こりゃ本格的にマズい。
「小僧! 今ワシが――」
「逃げてください! 落ち着いたら救出お願いします!」
「……わかった! ならばしばしそこで耐えてくれ!」
ゴンゾの言葉に先んじてそう叫んだ俺に、崩れた岩の向こう側からゴンゾの声が聞こえる。そうとも、この状況で最悪なのは共倒れで全滅すること。ゴンゾとアレクシスの二人が無事なら、俺達くらい余裕で助けてくれるはずだ。となると後は……
「頼むぜ神様!」
「ちょっ!? アンタ何を!?」
俺は魔術を使い終えてぐったりしているルージュの体を今度こそ抱えて、近くに置いていた荷物と一緒にロックワームが開けた穴に飛び込む。その直後に俺達がさっきまでいた場所もまた崩落に巻き込まれ……
「いつまで抱きついてるのよ、この変態!」
「……いてぇ」
生き延びたからこそ感じられる頬の痛みに、俺はひとまず胸を撫で下ろすのだった。




