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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一五章 熱血勇者と偽りの魔王

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「一度」の奇跡に二度目はなく、かくて道化は螺旋を歩く

「……………………ん?」


 俺の目の前に、突如として広がる真っ白な世界。その光景に見覚えなどあるはずもなく、俺は間抜け顔を晒しながら慌てて周囲を見回す。


「え、何!? 何だここ!? あ、え、うぇぇ!?」


 右を見ても左を見ても、ただひたすらにのっぺりと白い。というか、上も下も白い。空が見えないってことは、何かの建物の中なのか? 閉じ込められた? 攫われた? 何で俺が? どうやって?


「……待て待て待て。時に落ち着け。まずは状況を整理しよう」


 ついさっきまで、俺は爪モグラの退治をしていた。畑に出た害獣の駆除は雑傭兵の重要な仕事であり、爪モグラの巣を叩き潰すべく俺は森に足を踏み込んで……


「…………本当にそうだったか?」


 頭に浮かんだその光景は間違いなく俺の日常のはずなのに、どういうわけかそこに強烈な違和感を感じる。感じるが……そもそもこんな異常な状況で違和感も何もない。というか周囲に存在する全てが違和感の塊だ。


「頭でも打ったか? これが気絶して見てる夢なら最高なんだが……いや最高じゃねーよ。夢ならもっとこう、楽しいのにしてくれよ……ん?」


 全身を拘束されて牢屋に放り込まれているのも困るが、ここまで何も無く完全な自由というのはそれより困る。会話できる相手などと贅沢は言わねーから、せめて何か……と目を細めながら周囲を見回していると、さっきまで何も無かった場所にいきなりテーブルと椅子が出現していた。


「……………………」


 おかしい。猛烈におかしい。絶対さっきまで何もなかったのに、右を見て左を見てもう一度右を見たら、そこにテーブルと椅子があるとか意味がわからない。こういう怪しげなものには近づかないのが信条なんだが……


「まあ、無視はできねーわな」


 目を離した瞬間にテーブルと椅子が消えてしまえば、今度こそ俺は真っ白で何も無い世界で芋虫のようにゴロゴロ転がるだけの存在と成り果ててしまう。恐る恐るテーブルに近づいていくと、そこにもまた真っ白な本が置いてある。それを手に取り中を開けば、何とも自分勝手な内容が記載されていた。


「何だこりゃ? 一〇〇の異世界とか追放とか、どう考えても頭おかしいだろ……」


 何をすべきかは書いてあったが、どうしてそんなことをしなければならないのかはこれっぽっちもわからない。思わず顔をしかめながら横を見れば、そこにもやはり唐突に白い壁とそれにくっついた扉が出現している。


「ハァ……………………」


 俺は一つ大きなため息をついてから、テーブルの上に視線を戻す。ほんの数秒目を逸らしただけなのに出現している水晶玉には、もう何も驚かない。ここはこういう世界で、俺はこんなことができる奴に無理難題を押しつけられ、それをこなすしかない……要はそういうことなのだ。


「頼みの綱は、不思議な力をくれるっていうこの水晶玉くらいか。さてさて……」


 ポンと水晶玉に手を置くと、俺の中に不思議な熱が流れ込んでくるのを感じられる。次いで頭の中に浮かんだのは、「偶然という必然(フラグメイカー)」という名前とその能力の詳細。


「なるほどなるほど、こういうのか……これならまあ何とかなる、のか?」


 自分でどうにかするのではなく、勝手にどうにかしてくれるというのであれば単なる雑傭兵である俺が勇者パーティなんてとんでもないものに入ることも可能かも知れない。というか、可能でないと困る。俺は一刻も早くこんな訳の分からない世界を抜けて、家に……元の世界に帰りたいのだ。


「とりあえずはやるだけやってみますかね。なら早速……ん?」


 もうここに用はないと、俺が席を立とうとしたその時。ふとテーブルの上に、この世界で初めて白以外の色の付いた存在が置かれているのに気づいた。


「また本? 何だこりゃ……『勇者顛末録(リザルトブック)』?」


 茶色い革張りの本には、金の箔押しでそうタイトルが書かれている。他にも何か書いてあるようだったが、その部分はガリガリとひっかいて削られたようになっており、判読できない。


「よくわかんねーけど、これも読めばいいのか?」


 浮かせかけていた腰を落とし、俺は新たに出現したその本を読むために座り直す。そうして本を開いてみれば、そこに書かれていたのは聞いたことも無い勇者の英雄譚であった。


「勇者バーン? 誰だよ? あ、ひょっとしてこれが異世界の勇者なのか?」


 そんな事を呟きながらも、俺は本を読み進めていく。田舎の村に生まれた子供が幼い日に聞かされた物語に憧れ、英雄を目指して町に出る。するとそこで運命的な出会いを果たし、仲間と共に勇者の力に目覚める……言ってしまえば割とありきたりな展開だ……途中までは。


「えぇ、嘘だろ!?」


 物語の中盤にて、突如仲間の女神官が「一緒に旅をしていた男の正体は魔王で、神の力を簒奪した邪悪な存在だ」と勇者に打ち明けた。それを聞いた勇者は疑念と信頼という相反する気持ちを抱えて仲間の男を「勇者の剣」で貫き……その結果、仲間の男が死んでしまったのだ。


「うわぁ……ってか何だこの展開。そういうのってもっとこう、序盤からそれっぽい伏線とか張ってあるからこそだろ? いきなりそんな事言われて次の日には死ぬとか、急展開にも程があるじゃん!」


 なまじ俺と同じ名前……まあエドなんてありがちな名前だから、その辺に幾らでもいるだろうけど……なだけに、俺の中にも微妙に腑に落ちない感情が生まれる。とは言え目の前に作者がいるわけでもないのに文句を言っても仕方が無いので、そのまま話を読み進めるわけだが……


「……何だこりゃ?」


 やたら前向きだった勇者は仲間だった男……魔王を刺したことを延々と悩み続けてるし、いつもみんなを元気にしていたエルフの女は洗脳が解けた影響なのか、積極的に前に出る性格が反転して後ろの方に控えるようになってしまっている。


 そうしてエルフのルナリーティアの存在感が薄くなった反面、大活躍し始めたのが魔王から取り戻した神の力をも取り込んだ神官エウラリアだ。それまでとは一線を画す力を振るい始め、正直もうエウラリアだけでいいんじゃないかという感じになっている。


 なんというか、主観は勇者のままなのに、主人公が入れ替わってしまったかのような展開だ。これはこれで面白い試みと言えなくもないだろうが、お話としての統一感は当然ながらこれっぽっちもない。これなら上下巻に分けて、別の本として売り出した方がいい気がする。絶対読者が混乱するわ。俺もしてるし。


「ヒデーなこれ……いや、ちょっと面白いけどヒデーのはヒデーわ」


 今まで誰もやってない斬新な手法は、大抵誰かがやったけど駄目なのでやらなくなったことだ……なんて言葉があるが、今俺はそれを強く実感している。せめてエルフの方も一緒に強化されたならまだバランスが取れてると言えるけど、神官だけだもんなぁ。確かにこれはこんなところにでも閉じ込められねーと最後までは読まれねーわ。


「って、そんなのここで愚痴っても仕方ないわな。んじゃ、続きは……っと」


 よくわからない方向性に吹っ切れた話を、俺はそのまま読み続けていく、神官の女が神の力で敵の攻撃を防ぎ、神官の女が神の力で呪いを解き、神官の女が村人に感謝されたり貴族から息子を押しつけられそうになったりして……一体誰の話だったのかわからなくなってきたところで、ようやく最後のページに辿り着く。





――第%*&世界『勇者顛末録(リザルトブック)』 最終章 真の平和、真の信仰


 かくして三年にわたる旅の末、遂に勇者バーンとその一行は魔王を討伐することに成功した。世界中に溢れる歓喜の声に、しかし謙虚な勇者は己の功績を誇ること無く静かに微笑むのみ。


 その後は偉大な責務を果たした勇者パーティは解散となり、それぞれが己の道を歩むことになる。


 洗脳より目覚めしエルフは、魔王討伐の報告の後いずこかへと姿を消す。一説には魔王の洗脳が解けきれず、魔王を蘇らせるために邪法に手を染めたため勇者の手によって世界から消し飛ばされたという話もあったが、勇者バーンはただ曖昧な笑みを浮かべるだけで、それ以上を語ることはない。


 勇者バーンは勇者としての名声のみならず、地位や財産の全てを放棄して自分の生まれた田舎村に帰った。争いと手ひどい裏切りにすさんだ心から人との距離をとって過ごすバーンだったが、やがて年月がその傷を癒やし、三〇歳というかなり遅めの年齢で結婚してからはごく平凡な家庭を築くと、そのまま生涯を一村人として全うした。


 そして最後に、神をその身に宿した神官は勇者バーンから託された資金を使い、この世界に新たに唯一神を奉る教会を作り上げた。魔王討伐で得た全てをなげうちただひたすらに真の信仰を追求した彼女は名実共に歴史上最も偉大な存在となり、その生涯を祈りに捧げることとなる。


 そのあまりに美しく気高い生き方に、神は大いに満足して喜びの涙を流した。その雫は邪悪なる魔王の存在を押し流し、こうして世界は真に清浄なる平和へとその一歩を歩み出すのだった。





「いや、やっぱりこのエウラリアとかいう神官の話になってるじゃん!」


 予想通りに予想外の展開に、俺は思わず本の背表紙をビシッと叩いてしまった。えー、何だこれ? 実は神官が活躍する話を書きたかったけど、それだと売れないから客寄せ的に前半は男の勇者を出したとか、そういうのなのか?


「はーっ、何かスゲー疲れた気がする……けどま、これでもういいだろ」


 目を上げたらいつの間にかあった棚に本をしまってみたが、これ以上は特に何も起こらないようだ。俺はうーんと背伸びをしつつ、一つしか無い扉の前に歩いて行く。


「じゃ、行きますかね。異世界か……どんなもんだか」


 未知の冒険に、ほんの少しのワクワクと大きな不安、それに「家に帰りたい」という強烈な執念と……心の片隅に引っかかる、言葉にできない何か。様々な思いを胸の内に抱えながら、俺は新たな世界への扉を開き、その足を踏み出していった。

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― 新着の感想 ―
あのままエド抜きで話を続けても、 元気が取り柄のバーンとティアが暗くなった湿気てカビ臭い話になってそうだな 魔王討伐までの3年がカットされて良かったよ。そんな話読みたくない
ティアも元々置いてた鍛冶道具も、他の世界のリザルトブックもない… なんだここは、本当にあの監禁されてた空間なのか? 違和感だけを残して完全にふりだしに戻ってしまったエドはどうなっちゃうんだ〜!!
[一言] 記憶が曖昧な状態で戻ってきた真っ白な世界だけど、ティアが用意した生活道具やエドの鍛冶道具一式は神さまから没収されたのかな?
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