早速か漸くかは、見ている者の視点で変わる
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 超! 光ってるぜっ!」
まるで迷宮のように入り組んでいた坑道の最奥、そこから跳んだ先にあった石碑でバーンが手にした新たな力は、光り輝く鎧であった。ただし鎧といっても全身を覆う光の膜のようなもので……それが「鎧」であるならばこそ生じる問題というのもある。
「なあバーン、それずっと光ってる感じなのか?」
そう、盾と違って鎧は常時装着しているものだ。この光った状態でないと効果を発揮しないということであれば、目立つなんてレベルの話じゃない。
「私はとても神々しくて素晴らしいと思いますけど……」
「いや、流石にこれは駄目でしょ。隠密行動も何も無いっていう以前に、町中でこんなに光ってたら怒られるんじゃない?」
「うぐっ……ちょ、超! 待ってくれ……えっと…………こうか?」
俺達の言葉に、バーンが何やら難しい顔をして変な動きをする。すると光が収まっていき、いつもの装備が普通に見えるようになった。
「それは能力の発動を止めたのか?」
「いや、超! 押さえ込んでる感じかな? 超! 薄い膜が体を覆ってて、攻撃を食らうと超! 光ると思う」
「なるほど、それなら十分だな。ただ割と眩しかったから、盾と同じで戦闘中に全力で使う場合はできれば声をかけてくれ。そうしたら俺達も合わせられるから」
「超! 了解だぜっ! で、これが多分鎧だろうから……」
「フフフ、わかってるって。あと一つだけ心当たりがある。おそらくそこに……」
「……勇者様の剣があるのでしょうね」
ニヤリと笑い合う俺とバーンの会話に、エウラリアが入ってくる。確かにこの流れなら、最後はほぼ間違いなく剣だろう。意表を突いて弓とか槍みたいな可能性も無いとは言わないが、世界の流れが意表を突いてくるとか、どんな顔をすればいいのかわかんねーしな。
「うぉぉ! 勇者の剣!? 超! 楽しみだぜっ! 行こう! 今すぐ出発しようぜっ!」
「流石にここから直には行けねーよ。剣は逃げねーんだから、確実に行こうぜ」
今にも走り出しそうなバーンを宥め、俺達は山を下りて町に戻り、しっかり休息をとって準備を済ませてから出発する。そうして最後に辿り着いたのは……広大な海の前だった。
「な、なあエド。ここなのか……?」
「そうだな。多分海の底とか、そういう感じだと思う」
「超! どうすれば……っ!? まさか潜るのか!?」
「馬鹿言え、海の底なんてティアでも無理だろ」
「そうね、ちょっと潜るくらいならともかく、どれだけ深いか分からない場所となると、流石に厳しいわね」
俺の言葉に、ティアが苦笑しながら言う。水中呼吸を発動させ続ければその間中魔力を消費するし、海というのは深く潜れば潜るほど体を締め付けてくるようになる。そっちに関してはティアの精霊魔法でもどうにもならないので、湖くらいならともかく深い海に潜るというのは相当に難しいのだ。
「……では、どうすればいいのでしょうか?」
「多分近くに転移陣があるんじゃねーかな? 俺の集めた情報だと……あっち?」
勿論、情報など集めていない。いや集めるふりというか、「失せ物狂いの羅針盤」の指し示す方向に何があるかくらいは調べているが、そんな核心情報がその辺に転がっているはずもない。
が、俺が誘導するままに歩けば、そこにはぽっかりと洞窟が口を開けていた。岩礁地帯を回り込んだうえに近づかないと角度的に見えない場所にあったため、通常の手段でこれを見つけるのは相当な偶然、あるいは幸運が必要だろう。
「おお、穴が空いてるぜっ! 流石エドだっ! 超! スゲーぜっ! よーし、超! 突入!」
「はいはい。わかってるから焦るな……ん?」
ふと振り返ると、背後ではティアとエウラリアが話していた。俺はバーンを追いかけて歩きながらも、そっと二人の会話に耳を傾ける。
「どうしたの、エウラリア?」
「……いえ、やはりエドさんは凄いな、と」
「そうね。エドは凄いわよね」
「ええ、本当に……」
「……………………」
「……………………」
「えーっと……じゃ、じゃあ行きましょうか!」
「はい……」
(あー……まあそんなもんか)
どうやら二人の会話はあまり弾んでいないようだが、こればっかりは仕方ないだろう。いずれは時間が解決してくれるんだろうが……
(どっちが早いかな?)
バーンと旅を始めて、もう五ヶ月。「追放」の条件はそろそろ満たされるが、以前と違って今の俺達は魔王を討伐するまでこの世界に留まるつもりでいる。が、それでも最後の力を手に入れれば、その時はそう遠くないだろう。
(後腐れ無くパッと別れちまうってのもアリと言えばアリなんだが……できればそれまでにもう少しくらい打ち解けられるといいんだがなぁ)
「うぉぉ!? エド! ドラゴンだっ! 超! でかいドラゴンがいるぞっ!」
「おっと、ここを守る番人か? それとも野良ドラゴンが入り込んだか……どっちにしろ倒すぞバーン!」
「当然だっ! 竜殺しは超! 最強の証だからなっ!」
張り切るバーンと俺達の前に立ちはだかったのは、全身を水の鱗で覆われたドラゴン。物理攻撃をほぼ無効化するそれはかなりの強敵であるはずだったが……バーンの使う雷の魔術が恐ろしく効果的だったために割とあっさり倒せてしまった。多分勇者なら対抗できる敵として設置されていたんだろう。
そうして辿り着いた最奥で、バーンは遂に最後の勇者の力を手に入れる。
「行くぜ……超! 伸びろ! 勇者の剣っ!」
気合いを入れたバーンが拳を握った右手を突き出すと、そこから光の剣が伸びる。まあ剣といっても光る棒が伸びている感じなので、どちらかというと槍か杭のようではあるが。
「あんまり剣っぽい感じじゃないわね」
「言うなよティア。俺だって思うだけで言わなかったのに」
「ぐあっ!? そ、そんなことない……はずっ! だぜっ!」
「その通りです勇者様。こちらを斬ってみてください」
俺とティアの言葉に衝撃受けるバーンだったが、エウラリアの差し出した何か……さっきのドラゴンの鱗のようだ……を受け取ると、それを宙に放り投げて右腕を振るう。すると光の刃はあっさりと鱗を切り裂き、それどころか斬られた鱗がそのまま光の粒子となって消えてしまった。
「うぉぉぉぉ!? 何だこりゃ、超! スゲーじゃねーかっ!?」
「おお、ホントにスゲーな。流石は勇者の剣ってところか」
「エドの打った剣とどっちが凄いかしら?」
「はは、流石にあれとは勝負にならねーよ」
世界の意思が異物たる存在を排除するために用意した武器と勝負して勝てると思うほど、俺は思い上がっていない。ドルトン師匠の打った「夜明けの剣」なら競り合えるかも知れねーが、俺の腕はまだまだ師匠には遠く及ばないからな。
「さ、それじゃさっさと町に帰って、今夜は勇者の力が全部揃ったお祝いといくか。みんなで美味いものでも食おうぜ」
「超! いいじゃねーか! 俺は大賛成だぜっ!」
「勿論、私もいいわよ。エウラリアは?」
「隣人と喜びを分かち合うことを、神は悪だとは申しません。普通のお食事であれば、勿論ご一緒させていただきます」
「じゃ、決まりだ!」
俺達は意気揚々と岐路につき、その日の晩は大いに飲んで食って騒いだ。その後は宿に戻ってそれぞれの部屋で寝ていたわけだが……
(…………ん?)
部屋の前を移動する気配に、俺はにわかに意識が覚醒する。だがその気配は俺の部屋の前を通り過ぎ、隣のバーンの部屋に入っていく。
今この宿に泊まっているのは、俺達四人だけ。なので気配の主はティアかエウラリアになるのだが、俺がティアの気配を間違えるはずがない。つまりバーンの部屋を訪ねていったのはエウラリアということになる。
(思ったより積極的だな。それともあれか? 勇者の力が全部揃ったから、そろそろ本格的に活動を始めたってところか?)
どっちにしろ、これでエウラリアが俺を好きというのは勘違いだったと証明された。あとはバーンがどうするかだが……
(まあ、好きにすりゃいいわな)
色ぼけして剣の腕が鈍るとかでもなければ、若い男女がどうするかなんて他人が口を挟むことじゃない。俺はそのまま布団を頭からかぶると、隣の部屋から聞こえてくる音から意識を遠ざけ、深く強く目を閉じるのだった。




