それは無いと思っているが、絶対無いとは言い切れない
エウラリアの加入により、俺達はようやく「勇者パーティ」として完成することとなった。だができあがったのかあくまで形だけであり、中身はこれから磨かなければならない。その日から俺達は冒険者として簡単な依頼をこなしつつ、戦闘訓練に明け暮れる日々を送ることとなった。
そうして一ヶ月後。ここまでの訓練の成果を確かめるべく、その日俺達はとある森の中へと足を踏み入れていた。
「……囲まれてるな」
「みてーだな。なら俺とエド、どっちが多く倒すか競争か?」
「お、いいぜ。なら負けた方は夕食を奢りだ」
「おう! 俺が勝ったら超! 高級な肉を頼んでやるぜ!」
「へっ、言ってろ。ティア、エウラリアを頼む」
「わかったわ。こっちは任せて」
「……ご武運を」
互いにニヤリと笑ってから、俺とバーンは左右に分かれ、その背後ではティアがエウラリアを守るように寄り添う。エウラリアの戦闘能力は一般人に毛が生えた程度なので、自衛すらギリギリだからだ。
正直これにはちょっと驚いたが、言われてみれば若い女性の神官が戦闘に長けている方がおかしい。筋肉の化身であるゴンゾのオッサンや、謎の神の奇跡とやらで全く傷を負わないリーエルが異常だったのであって、それを基準に考えたら駄目なのだ。
「さて、それじゃ俺は俺の仕事をしますかね……っと」
「グルルルル……」
森の影から姿を現したのは、赤黒い体毛を身に纏った狼の魔獣。この辺では割と強い部類に入る、ブラッドウルフとかいうやつだ。
「森の中で赤いって、どうなんだ? 目立って狩りとかに不利そうだけど」
「グァァァァ!」
「って、聞いちゃいねーな。そりゃそうだろうけど!」
余裕の笑みをそのままに、俺は腰から「夜明けの剣」を引き抜いて飛びかかってきたブラッドウルフを切り捨てる。あっさりと頭をたたき割られ、自分の血にて本当のブラッドウルフに成り果てたそれは、すぐにその場で動かなくなった。
「ガォォォォォォォン!」
「うわ、全然怯まねーのかよ!?」
だがそんな仲間の屍を、ブラッドウルフの群れはあっさりと踏み越えて襲いかかってくる。時間差で噛み付いてくる無数の敵を前に剣一本では分が悪いが、そこは腕でカバーだ。
「フッ! ハァッ!」
「ギャヒン!?」
「ギャウ!」
剣を一振りする度、ブラッドウルフが倒れていく。流石に五匹も切り捨てると敵も警戒するのか、攻め手が一旦収まった。特に全滅させる必要も無いので、引き下がるならこのまま見逃してもいいんだが……っ!?
「おいバーン! 後ろだ!」
「へっ!? うわっ!?」
ふと向けた視界の先で、バーンが背後からブラッドウルフに飛びつかれる。咄嗟に腕を前に出して身を守ったようだが、革製の籠手には牙が食い込み、ダラダラと血が零れている。
「チッ、超! 油断しちまったぜ!」
「何やってんだ馬鹿! 助けはいるか?」
「いや、いい!」
俺の呼びかけに、バーンは落ち着いた口調でそう答える。普通ならばそれを強がりと判断して助けに入るところだが、この程度の魔獣に不意を突かれる未熟者ではあっても、バーンは勇者。まだまだ注意力が足りない部分はあるが……その目に敵を捕らえたならば、結果は既に決まっている。
「食らえ! 超! 稲妻メッチャ斬り!」
バリバリバリバリッ!
「「「ギャヒィィィィィィン!」」」
ティアに教わったことで見かけ倒しではない威力を身に付けたバーンの必殺剣が、奴を囲んでいた全てのブラッドウルフを一瞬にして黒焦げにする。最初からそれを使わなかったのは、消耗が大きくて乱発できる技じゃないからだろう。
「ふぅぅ……こいつを使わされるとは、俺もまだまだ超! 未熟者だぜ」
「それを自覚できてるなら、成長してる証拠だ。おーいティア、そっちはどうだ?」
生き残ったわずかなブラッドウルフが逃げ去っていくのを感じつつ、俺はティアの方に視線を向ける。するとそこには当然ながら元気な様子のティアとエウラリアの姿がある。
「平気よ。それにしても派手にやったわねぇ」
「うぐっ!? ま、まあな……」
「勇者様、こちらに手を。すぐに治療致します」
「おう。超! 頼むぜ!」
呆れた声を出すティアをそのままにバーンが腕を差し出すと、すぐにエウラリアが回復魔術を発動する。すると流れていた血があっという間に止まり、バーンの表情から険が抜けていく。
「……どうですか?」
「おおー、超! 痛くないぜ! ありがとなエウラリア!」
「やっぱエウラリアの回復魔術はスゲーな。あれ見た目より深手だったんじゃないか?」
ブラッドウルフに噛まれると、どういうわけか血が止まらなくなる。だからこそそれをあっさりと治したエウラリアに感心の言葉を投げると、エウラリアがスッと俺の方に近づいてくる。
「……あの、エドさんも治療します」
「へ、俺? いや、俺は別に怪我とかしてねーぞ?」
「念のため、です……」
「お、おぅ……」
妙に押しの強いエウラリアの申し出に、俺はとりあえずその場にまっすぐ立つ。するとエウラリアは頭のてっぺんから足のつま先まで、いつものように全身を念入りに治療してくれる……そう、いつものようにだ。どういうわけかエウラリアは、頻繁に俺の全身に回復魔術を使ってくれるのだ。
「……終わりました」
「あ、ありがとう。いつも悪いな」
「いえ、これも仕事ですから……では、ちょっと失礼します」
ぺこりと一礼すると、エウラリアが俺達から離れていく。俺に回復魔術を使うと少しの間一人になりたがるのもいつものことだ。そしてそんな俺の側に、ティアが何とも言えない表情で近づいてくる。
「ねえエド、体の調子は平気?」
「何だよティアまで。平気に決まってるだろ?」
「ならいいけど……何でエウラリアはいっつもエドに回復魔術を使うのかしら?」
「さあなぁ。俺が聞いても『念のためです』としか言われねーし。むしろティアの方が話は聞けるんじゃねーか?」
「私が聞いても同じよ。何か誤魔化しているような気はするんだけど、かといって相手が言いたがらないことを追求するのも駄目だし……うーん」
「何言ってんだよ二人とも。そんなのエウラリアがエドのことを超! 好きだからに決まってるだろ?」
顔を見合わせ悩む俺とティアのところに、不意にバーンが言葉の爆弾を投げ込んでくる。あまりにも予想外な言葉に、俺はギョッとしてバーンの顔を見る。
「いやいやいや、それはねーだろ!? 何でそうなるんだよ?」
「何でって……俺はもう何回も、エウラリアにエドのことを聞かれてるぜ? 何が好きとか普段どんなことをしてるとか、歳とか出身地とか……そういやエドって何処生まれなんだ?」
「ああ、それは……って、今はそれどうでもいいから! 何だそりゃ!? いつの間にそんなこと……まさかティアも聞かれてるのか!?」
「え? 私は聞かれてないけど……」
「そりゃ恋敵には聞かないだろ」
「恋敵!?」
バーンの言葉に心底驚いたティアが、翡翠の瞳をまん丸に見開く。だがすぐにその顔が真剣になり、腕組みをして唸り始める。
「うーん、恋敵……いやでも……」
「ちぇっ、いいよなぁ。エドばっかりモテやがって! 俺だってティアやエウラリアみたいな可愛い女の子に超! 好かれてみたいぜっ!」
「いやいやいやいや、違うから……違うよな?」
「エドが割とモテるのは知ってるけど、でもあの反応は……リーエルとは全然違うし……」
「ティア? おーい、ティアさん?」
「くっそー! なあエド、俺にも超! モテる秘訣とかあるなら教えてくれよ! 俺だって女の子と超! イチャイチャしたいぜっ!!!」
「そんな力説せんでも、バーンならむしろ向こうから幾らでも寄ってくると思うが……って、だから違うって! 俺は別にモテてねーから!」
「わかる、わかるぜ! モテる奴ほど『俺はモテてない』って言うんだっ! 俺はっ! それをっ! 痛いほど……っ! 超! 知ってるんだぜぇぇぇぇっ!!!」
「これっぽっちもわかってねーよ!」
この場にいないエウラリア、考え込むティア、そして血の涙を流して叫ぶバーン。何処にも救いの無い状況に、俺は一人頭を抱えるのだった。




