権威を尊重する気はあるが、権威に忖度するつもりはない
バーンが勇者として公式に認定……というか認知されてから、一〇日後。俺達は今度こそ一周目の流れ通りに、この国の王様に城へと呼び出されることになった。案内役の兵士に先導されながら、俺とティアは平然と、バーンはガッチガチに緊張しながら謁見の間へと続く廊下を歩いて行く。
「おいバーン、いくら何でも緊張しすぎだろ」
「ば、ば、馬鹿言え! 俺はちっとも! 超! 緊張なんかしてねーぜっ!」
「いやもう、それ緊張してる奴しか言わない台詞じゃん」
「し、し、し、仕方ねーだろ!? ってか、何でエドもティアもそんな平気な顔してんだよ!?」
「私達はまあ、慣れてるし?」
「だな。ま、そのうちバーンも慣れるって。勇者ともなれば色んな国でこうして呼ばれるだろうしな」
「慣れてるって、お前達ホント何者なんだよ……」
「ははは、細かいことは超! 気にするなって」
「あっ!? エドお前、俺の口癖を真似するんじゃねぇ!」
「おいおい、あまり騒ぎすぎるなよ?」
背後で馬鹿な会話を繰り広げる俺達に、案内役の兵士が苦笑してそう注意してくる。とは言えそれ以上に何かあることもなく、無事に辿り着いた謁見の間で俺達が跪いていると、正面の高いところに座っていた王様から声がかかった。
「よくぞ来た、勇者バーンとその仲間達よ。余がこのポンパッサ王国の王、セルゲイ・アジフ・ポンパッサである」
「「「へへー」」」
一段高いところからの挨拶に、俺達は普通に立て膝に頭を下げて答える。本来は貴族や騎士でない俺達には平伏が求められるんだが、勇者とその仲間ということで今回は特例らしい。ま、勇者に平伏させるのは体裁が悪いわな。
「この世界には、大きく三つの悲劇があった。天地を揺らし山より火を噴かせた暗雲の魔王。大津波で世界を分断した乱海の魔王。そして北の果てに君臨し、異形の軍勢にて人の世を侵略する獣の魔王だ。
だがそのいずれも、当時現れた勇者によって討ち果たされている。そして今、四度目となる東天の魔王の出現に合わせ、お主が姿を現した! これぞまさに天の導きであろう! 余は――」
『ねえ、エド。ちょっといい?』
王様の演説が続いているなか、ティアがそっと俺に指を触れて「二人だけの秘密」で話しかけてきた。本来ならばきっちり話を聞いた方がいいんだろうが、俺としては二回目なのでティアの方に意識を向ける。
『いいけど、何だ?』
『この世界って、今いる魔王の他に三人も魔王がいたの? まさかそれ、全部エドの?』
『あー。どうだろうな? 別に俺の欠片以外が魔王にならないってわけじゃねーしなぁ』
魔王というのはその世界のバランスを著しく狂わせる力を持つモノの総称であり、当然それは俺の……魔王エンドロールの欠片に限定されたものではない。広い目で見るのであればたかだか一〇〇しかない俺の欠片より、全く無関係の魔王の方がずっと多いことだろう。
『じゃあ、前の魔王っていうのはエドとは関係ない魔王なの?』
『うーん。一概にそうとも言えないっていうか……』
『何よ、ハッキリしないのね?』
『そりゃ俺だってわかんねーことくらいいくらでもあるさ。特に俺自身が関与してない部分はな』
例えばティアはアレクシスと協力してあの世界の魔王を倒しているが、倒された魔王がどうなるのかを俺は知らない。死んだくらいで消滅したりしないのはわかりきってるが、力を失い眠りにつくのか、はたまた時間経過で勝手に復活するのか、あるいは現地の生物の中に入り込んだりするのか……その辺のことは全く分からないし、予想もつかない。
『まあでも、とりあえず今いる魔王は確実に俺の欠片だから、まずは目先のことから片付けていこうぜ』
力を回収すれば、かつての魔王との関わりがあったかどうかもわかる。あくまでもわかるだけなので好奇心を満たす以上の意味はないだろうが……ん?
「――ということで、勇者バーンには支援金として金貨五〇〇枚を渡すものとする。ではこれにて――」
「お待ちください陛下!」
そろそろ王様の話が終わるはずだと意識をそちらに戻すと、不意に横から声がかかる。その場の全員が声を上げた人物に注目すれば、その人物……重そうな青いローブを羽織った男が更に言葉を続けていく。
「何故です!? 何故我が省の魔術師を勇者と同行させてはいただけないのですか!?」
「バーロックか……それは既に話し合って決めたであろう? 勇者には既に魔術の使える仲間がいるのだから、二人目を入れても意味が無いではないか」
「ですが!」
(あー、そういやそうだったな)
食い下がるローブの貴族……バーロックの言葉に、俺はかつてのパーティ構成を思い出す。そう言われれば、一周目ではこの段階で俺達より少し年上の女性魔術師が一人、勇者パーティに加わっていたのだ。
そこに政治的な臭いは感じたが、かといって断れるものでもないし、そもそも「魔術に不慣れな勇者に正しく力の使い方を教える」という名目は十分に正当なものだったので、一周目の俺達はここで三人パーティとなったのだ。
が、今回はティアが仲間にいる。俺には教えられない魔術の使い方もティアならば十分に指導できるので、加入を見送るという話になっていたんだろう。実際今のパーティに純粋な魔術師が加わっても、火力が過剰になるうえに守るのが難しいということでメリットがないしな。
「その娘、聞けば冒険者として登録したばかりというではありませんか! そんな娘に勇者を教え導くことなどできるはずもありません! 是非とも我が魔法省の魔術師を同行させ、未熟な勇者を指導するべきです!」
「何を言い出すかと思えば、陛下の決定に口を挟むなど……」
「というか、バーロック殿が推している人物も年若い娘ではありませんでしたかな?」
「そもそも、勇者殿のお仲間はエルフではありませんか。であれば我らの誰より年上なのでは?」
「ええい、黙れ黙れ! 自分たちが勇者に関われなかったからと、つまらぬやっかみを言いおって!」
周囲の貴族達の呟きを、バーロックが大声で否定する。その発言は完全に自分に返ってきていると思うんだが……これどうなるんだ?
「静粛に! 陛下、如何致しますか?」
「ふーむ、確かに年若くなりたての勇者を導くならば、熟練の者が良いというのは間違いではない。ならばいっそ魔術師だけではなく、騎士団からも人員を出すというのも吝かではないが……勇者バーンよ、お主の意見を聞こう」
「へ!? お、俺ですか!?」
突然話を振られて、バーンがあからさまに動揺する。だがそんなバーンに王様は容赦なく問いかけ続ける。
「そうだ。もしお主が望むのであれば、そちらの二人には相応の報奨金を渡し、代わりに城から勇者の仲間に相応しい者を同行させよう。どうするかね?」
「お、俺は……」
王様の言葉に、バーンが揺れる瞳で俺達の方を振り返る。その表情は迷っているというよりは、どうしていいかわからないといった感じだ。
まあそうだろう。俺達とバーンは出会ってまだ半月も経っていない。気の合う仲間としてやってきてはいるが、果たして大金を蹴ってまで自分と一緒に戦うことを望むかどうかがわからないんだろう。
ならばどうする? 答えは簡単だ。俺は不安げなバーンの顔に笑顔を返してから、王様の方に顔を向ける。
「安心しろバーン……恐れながら、私の意見を述べることをお許しください」
「許す、申してみよ」
「では……陛下やここに列席されていらっしゃる貴族の方々のご意見、ご心配はもっともなところだと私も思います。ですが、要は力ある者が勇者と共に歩むべきということでしょう? ならばその解決法は簡単です」
そこで一旦言葉を切ると、俺は騒いでいた仲間達の顔を見てからバーロックの方に視線を走らせ、そして最後に王様をまっすぐに見つめて言う。
「陛下が推される魔術師と騎士、それぞれとの一騎打ちを所望致します。そしてその勝利を以て、我らが勇者バーンの仲間に相応しいことを証明させていただきます」
「なっ!?」
俺の言葉にバーンが驚きの声をあげ、謁見の間にはざわめきが満ちる。あからさまに不愉快そうな顔で見る者、「不敬だ!」と騒ぎ立てる者、あるいは面白そうにこちらを見る者、反応は様々だが……
「如何でしょう、陛下?」
「よかろう。それだけのことを言うのであれば、その力を余の前で証明してみせよ」
全てを黙らせる王様の言葉にて、俺達が御前試合に臨むことが決定した。




