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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一四章 偶像勇者の夢舞台

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旅立つその背に言祝ぎを、残るその身に祝福を

「あのねエド、私は別にお酒を飲んだら駄目なんて言うつもりはないの。エドだっていい大人なんだし、たまには羽目を外したい時だってあるわよね。だからそれは否定しないわ


 でも、ものには限度ってものがあると思うの。あんな呼び出しの後で朝まで帰ってこなかったエドを、私がどれだけ心配したと思う?」


「いや、その……本当に申し訳ない」


 明くる日、宿の一室。懇々とお説教を続けるティアの前で、男に戻っている俺はガンガン痛む頭をそのままに綺麗な正座で話を聞き続ける。完全に俺が悪いだけなので、言い訳をする余地はない。


 まあ確かに、もし立場が逆であれば、俺は深夜を回った辺りでティアの様子を探るべく動き出したはずだ。ティアがそれをしなかったのはこっそり様子を探る能力の有無なんかもあるだろうが、一番大きいのは俺が実は男だと知っていたからだろう。


 万が一があっても俺が男に戻れば……いや、ひょっとして相手が男もいける人物だった場合、更なる危機が……? あー、駄目だ。頭が痛くて考えがまとまらない。


「だからね……って、聞いてるのエド?」


「ああ、聞いてる。スゲー頭痛いけど、頑張って聞いてるぞ……」


「ハァ……まったく仕方ないわね。そんな正直に言われたら、これ以上怒れないじゃない」


「……いいのか?」


「いいわよ。どうせこんなの、一晩心配したことに対する腹いせみたいなもんなんだから」


 上目遣いに問う俺に、苦笑したティアがペシンと俺の額を叩く。それからテーブルの上に置かれたカップを渡され、俺はその中に満たされた水をゴクゴクと一気に飲み干した。ああ、水美味い……


「それで? 結局昨日会ってきたのはどんな人だったの? 一晩飲み明かしたってことは、悪い人じゃなかったのよね?」


「ああ、それなんだがな……ほら、昨日の舞台の時に観客に混じってた、黒フードの奴を覚えてるか?」


「黒フード……? あー、そう言われれば確かにいたわね。あの人がエドって言うか、私達を呼び出した人なの? そんなに偉い人には見えなかったけど」


「そういうこった。あとついでに、アイツがこの世界の魔王だった」


「っ!? どういうこと?」


 ティアの表情がにわかに真剣味を増す。だが俺としてはこれは既に終わった話なので、特に構えることもない。


「なに、そう難しい話じゃない。あの黒フード……魔王クロムのおかげで、これから俺達がやるべき事は全部見えたってだけさ」


「全部って……今度は何をするつもりなの?」


 ニヤリと笑ってみせる俺に、ティアが興味深そうに問うてくる。今俺が抱えている三つの問題、即ち「魔王への対処」と「大司教とやらに宿った神の欠片の排除」、それに「レインボウティア」からの脱退……勇者パーティからの追放による帰還。その全てを一度に解決する名案は、既に俺の頭に浮かんでいる。


「アイドルが最後にやることなんて決まってるだろ? 引退コンサートさ」





 やるべき事が決まってしまえば、後は早かった。ジョーニィとクロムの伝手を使うことで場を整え、三ヶ月後には「神の欠片」に取り憑かれた大司教を招き、盛大な引退コンサートを行うことができた。


 何故大司教を招いたのかと言えば、当然欠片の除去のためだ。ドナテラの話を聞いた感じだと、本人に明確な拒絶の意思があれば「神の欠片」を体外に排出することができそうだと考えた。


 なのでレインの歌を聞かせたうえで「実はあの子は三人組制度のせいでアイドルになれないところだった」という感じの言葉をクロムに耳元で吹き込んでもらったわけだが、それが上手くいった形だ。


 うむうむ、レインの歌の凄さと、本気でアイドルを好きでなければ大司教になどなれないというクロムの言葉を信じてみたのは大成功だったようだ。この経験は今後の世界でもきっと役に立つことだろう。


 なお、その欠片は魔王クロムの力を介して既に俺の中に在る。では魔王クロム本人はどうなったかと言うと……


「本当によかったのか?」


 別れ際。俺達を見送る五人のうち一人に、魔王クロムの姿がある。相変わらず怪しさ全開の黒フードをかぶっているが、誰もそれを気にしないのはこれが正装だからだ……うん、大司教も白いフードかぶってたしな。


 そしてそんなクロムに、俺は笑いながら手を差し出す。


「いいさ。ここまで頑張ったんだから、最後まで見届けたいだろ?」


「うむ……約束しよう。この地にアイドルが生まれ続ける限り、我は我としてアイドルを輝かせ続けてみせる。そしていずれ全てが終わったならば……」


「ここに還ってくるといい。土産話をたっぷり持ってな」


 ガッチリと握手を交わしてから、俺は自分の胸を立てた親指で突いてみせる。ラストの時のように人類に敵対視されていなければ、こういう対応だってとれる。俺が目指すのは全員の(・・・)ハッピーエンドだからな。


 それから視線を横にずらすと、そこではティアとジョーニィ達が最後の言葉を交わしていた。俺もまたそっちに近づき、会話の輪に加わる。


「まったく、この私を自分の代わりにしようなんて、随分と贅沢なことですわね?」


「代わりじゃないわよ。むしろ今までの私が間に合わせだったんだもの。それにエリザちゃんなら私よりずっと凄いアイドルになれるんでしょ?」


「フンッ! 当然ですわ! 誰も貴方のことなんて覚えていなくなるくらい、私の名前を世界中にとどろかせてみせますわ!」


 ティアの代わりに入ったのは、エリザベートだ。実力的にも気構え的にも、エリザベート以上の適任はいない。彼女なら「本気の本気」で、レインと一緒にアイドルの頂点を目指してくれることだろう。お付きの二人も家に帰れてホッとしてたしな。


「ああっ、不安です。私にお姉様の代わりなんて務まるでしょうか……?」


「いやいや、務まるどころの話じゃねーだろ」


 そして俺の代わりは、「アイリス」の一人にしてずっと俺を追いかけてきていたあの子だ。俺が好きで俺の真似をするあまりに他の二人との方向性の違いが顕著になってしまったため、今回はこちらに引き取ることになったのだ。


 ちなみに、残された二人は一時的に活動休止となってしまっているが、大司教から神の欠片を無事に取り出せたので、おそらく「三人組でないと駄目」というのは来年頭にでも撤回されることだろう。


 当初はジョーニィの紹介で三人目を探すつもりだったようだが、そうなると場合によってはこのまま二人組として再デビューする道もあるのかも知れない。ま、その辺は本人達の希望次第だろう。


「歌も踊りもアンタの方が上手いじゃねーか。不安になる部分がどこにある?」


「そんなこと! それに歌はともかく、場を盛り上げる語りとか激しい動きは、やっぱりまだまだお姉様には及びません。これからもっともっと頑張って、いつかきっと追いついてみせます!」


「おう、頑張れよ。期待してるからな」


「はい!」


 俺がポンと肩を叩くと、彼女の表情がパッと輝く。潤む瞳は実に魅力的だが、これからはそういう視線を向けられる側として頑張って欲しい。


「それにしても、本当にあっさり辞めちゃうのねぇ。今の貴方達の立場だって、手に入れようと思って手に入るものじゃないのよ? 一体どれだけの子がそこまで至れずに涙を飲んだことか……」


「すみませんジョーニィさん。でも最初から決めていたことですから」


「そうね、最初からそうだと言っていたものね。ま、いいわ。貴方達は立派に役目を果たしてくれたんだし。


 もし気が変わったら、またいつでも声をかけて頂戴。今度は『最高の捨て石』じゃなく、『それなりの原石』として磨いてあげるわ!」


「あはは、やっぱり私達だと『それなり』止まりなのね」


「そりゃそうよ! ちょっと前ならともかく、今はレインちゃんを見ちゃったから」


「あー、そりゃ仕方ない」


 レインを前にすれば、最高の基準が爆上がりして当然だ。苦笑するジョーニィに俺もまた苦笑を返すと……レインが静かに俺達の方に近づいてくる。


「エッダさん……ティアさん……私……っ」


「頑張れよレイン。もうお前は一人で立てる。いや、本当はずっと前から一人でやれてたはずなんだ。だから俺達がいなくなったって大丈夫さ」


「そうね。レインちゃんの歌声なら、きっと世界を越えても届くわ。だから貴方の大好きな歌を、どうかこれからも大切にしてあげてね」


「……お二人に、いえ、エドさんと合わせて三人に会わなかったら、きっと私は今頃田舎の村に帰って、お母さんの手伝いをしていたと思います。そんな私が煌びやかな舞台に立てたのは、エドさんとエッダさんと、ティアさんのおかげです!


 だから、だから……っ! ありがとう、ございました!」


ピコンッ!


『条件達成を確認。帰還まで残り一〇分です』


 それはきっと、卒業の言葉。俺達に依存するのではなく、レインが自分の足で歩くという決意の表れ。ああ、こんなにも嬉しいことはない。ちゃんと俺達を踏みしめて、レインが坂を上ってくれている証なのだから。


「じゃあな、レイン」


「じゃあね」


 ならば俺達も歩き出さなければ嘘ってもんだ。見送ってくれる人達に背を向け、俺達は夜の町へとその身を溶かしていく。すると背後からもう何度も聞いたレインの歌声が聞こえてきた。


『いつかいつか、夢見てた。君と二人、歩くその道。いつもいつも、感じてた。君と二人、進むその先――』


「……ああ、やっぱりいい歌だな」


「そうね。あれなら本当に『世界』を越えて聞こえてくるかもね?」


「そりゃいい。レインならやってくれるかもな」


 男に戻った俺は、ティアと手を繋ぎ路地裏へと入る。いつかレインが落ち込んでいた場所に、もう泣いている少女はいない。


『三……二……一……世界転移を実行します』


 とっくに歌い終わっているはずなのに、俺達の耳には世界から消えるその瞬間まで、レインの歌が心地よく響き渡っていた。

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