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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一四章 偶像勇者の夢舞台

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酒は飲んでも飲まれるな。わかっちゃいるけどやめられない

「何で!? どうして本体がここに!? っていうか、エッダちゃんが本体!? え、そんなまさか!?」


「ようやく気づいたか。ってことは、女の状態だと気づかれないってことか? むーん、仕組みってか理由が気になる……」


「くそっ、離せ! 我はこんなところで終わる訳には……っ!」


 俺の正体に気づいたクロムが、その場で激しく暴れ出す。だが俺にガッチリ手首を掴まれている以上、その抵抗に大した意味はない。


 魔王と触れ合うと追放スキルが使えなくなるという弱点も、既に対処済みだ。戦闘中に不意にというならともかく、これだけ落ち着いた状況で自分から触りにいくのであれば能力が使えなくなることはもうない。綱引きの力加減はこっそり練習したからな。


 ならばこそ、魔王クロムは逃げられない。「不落の城壁(インビンシブル)」で身を包む俺に掴まれている以上、それを無効化するほどの圧倒的な怪力でもなければ脱出は不可能なのだ。


「こうなったら……」


「む?」


 そんなクロムの全身に、大きな力が満ちていくのを感じる。流石にこれは対処しなければならないと俺は空いている左手を「彷徨い人の宝物庫ストレンジャーボックス」に突っ込み、長らくしまいっぱなしになっていた「夜明けの剣(ドーンブレイカー)」を引き抜こうとして……


「……………………くそっ!」


 その前に、クロムの体に満ちていた力が霧散してしまう。俺は剣の代わりにクロムの黒フードを掴んで脱がせると、そこには悔しげな表情を浮かべる俺そっくりの顔があった。


「どういうことだ? 何かしようとしたんじゃねーのか?」


「……そう思ったさ。でも我がこんなところで力を使ったら、この町が消し飛んでしまうだろう? それは嫌だったのだ」


「何故だ? お前は俺……魔王なんだろう?」


「我は確かに魔王だが、我は我だ。我が大好きなアイドル達や、特に激押ししてるティアちゃんが傷つくのは嫌なのだ」


「……そうか」


 俺はクロムを掴んでいた手を離し、今度はテーブルを挟んだ正面に座る。だがクロムは逃げ出すそぶりもなく、項垂れたようにテーブルに突っ伏している。


「ああ、ここが我の『終わり』なのか……」


「なあ、魔王クロム。お前は一体この世界で何をしてきたんだ? どんな人生を送ってきた?」


「そんな事聞いてどうするのだ? 本体が我を吸収すれば、それで全て終わりであろう?」


「いいじゃねーか、聞かせてくれよ。確かに俺はお前でお前は俺の一部だが、同時に俺は俺でお前はお前だろ? だったら知っときたいんだよ。幸いにして時間はたっぷりあるんだしな」


 俺は万一誰かが来たり、ここから飛び出すような状況になった場合を考えてエッダの姿に戻ると、テーブルの上にあったワインボトルの栓を抜く。そうして四つあったグラスの二つに注いでから片方をクロムの前に置くと、クロムは暗い目でそれを受け取り、小さくため息をついてからその中身を口にした。


「ふぅ……いいだろう、語ってやるのだ。本体も知っての通り、我ら魔王は世界の異物ではあるが、だからといって世界の敵対者ではないのだ。ただ大抵の魔王は初期段階で自分の中にある大きな力を制御できずに暴走させてしまうため、自我が確立して力を制御できるようになる頃には、世界から脅威と見なされていることがほとんどというだけでな。


 それは我も例外ではない。最初の頃の我は全く力の制御ができず、この世界の大半を砂の大地に変えてしまっていたのだ」


「おおぅ、そりゃまた……ってか、砂? でも今は――」


「そうなのだ。我は大地を砂に変え、世界を終わらせそうになっていた。でも我は別にそんなことを望んでいなかったし、世界の側もドンドン減っていく緑の大地を巡って生存戦争を繰り返していたので、我の方には手を出してこなかったのだ。


 なので、知恵と知識、自己を確立した我は、力の方向性を変化させることで砂にした大地をもう一度緑化していったのだ。と言ってもかなり強引にやったので、今度は世界中が森になってしまったのだが」


「あー、だからこの世界は森ばっかりなのか。まあ砂漠に比べりゃ万倍マシだろうけど」


 砂の世界にも生きる術はあるのだろうが、森と比べれば難易度は雲泥の差だ。実際今のこの世界は、特に困窮しているという様子はない。何せアイドルなんて娯楽職が幅をきかせてるくらいだしな……このワイン、スゲー美味いな。


「このままいけば、もう何千年かで徐々に森が減って、ごく一般的な世界と同じ感じの自然分布に戻るはずなのだ……まあそれはそれとして。とにかく我はそうすることで、この世界から敵対される理由を無くしたのだ。実際我は魔王ではあるけれど、今まで一度も勇者に襲われたことはないのだ。


 ただ、そうなると我は暇なのだ。なので旅人として世界を回っていたのだが……そこで我は素晴らしいものに出会ったのだ」


「素晴らしいもの? そいつは……」


「歌なのだ」


 やたらと美味いワインと料理を楽しみながら話を聞く俺の前で、クロムがパッと表情を輝かせる。その顔がほんのり赤いのは、酔っ払ってきたからだけでは無さそうだ。


「とある小さな農村で、一人の少女が歌を歌っていたのだ。我はその素晴らしさに心を奪われ、すぐに虜になってしまったのだ。


 できればいつでも、いつまででもその歌を聞いていたい。だが少女もまた働き手なので、そういつも歌っているわけではない。


 ならばどうすればいいか? 仕事をせずに歌うのが駄目なのなら、歌そのものを仕事にしてしまえばいい。そうして考えて作ったのが『アイドル教会』なのだ!


 ちなみに、協会(ギルド)にしなかったのは教会の方が周囲の理解や協力を得られやすく、また我の力をいい具合に発揮しても『奇跡』として誤魔化せる感じがしたからなのだ」


「え、アイドル教会ってお前が作ったのか!?」


「そうなのだ。我が創始者なのだ!」


 驚く俺の前で、魔王クロムがドヤ顔を決める。それもまた俺の顔なので微妙にいたたまれない気持ちが湧いてくるが、それはそれとして疑問は残る。


「創始者なのに、今は大司教補佐なのか?」


「……あんまり偉くなりすぎると、政治的なしがらみとかが多くて面倒なことがわかったのだ。なので我はアイドル達を支援できるほどほどの権力を維持しつつ、推しのアイドルを見に行くことに全力を尽くしているのだ。


 ただまあ、そのせいで今回はちょっとした問題も起きたのだ」


「問題……ひょっとしてあれか? 大司教が『アイドルは三人組』って決めたやつ」


「そうなのだ! 大司教は三人いるのだけれど、そのうち一人が突然訳の分からないことを主張し始めたのだ!


 しかも最初は反対していた残りの二人も何故か途中でトンチキな意見を支持し始めてしまって……補佐でしかない我にはその流れを止められなかったのだ。一体何が起きたのか……」


「それに関しては、ちょっと心当たりがあるぜ」


 言って、俺はこれまでの世界で起きたことを話していく。するとそれを聞き終えたクロムが憤慨して声をあげる。


「何なのだそれは! 教会を作っておいてなんだけど、本当に神というのはろくでもないことしかしないのだ!」


「だよなぁ。マジで一回ぶん殴りにいかねーとな」


「その時は是非我にも殴らせるのだ! あの変な決まりのせいでどれだけのアイドル候補生達が涙を飲んだか……っ! ああ、考えるだけで悔しくて泣けてきてしまうのだ!」


「だよなぁ。俺とティアが組まなかったら、レインだってアイドルを諦めてただろうし」


「レインちゃんの歌はまさに奇跡なのだ! あれを失わせるなど全世界共通の損失! 神は糞なのだ! あ、でも、その結果ティアちゃんがアイドルになったと考えれば、やはり神は神なのでは……?」


「ばっかお前、ティアはアイドルにならなくったって神だろうが!」


「然り然り! それはまさにその通りなのだ! ということはつまり、ティアちゃんが神……!?」


「ちげーよ! ティアを糞神と一緒にすんじゃねーよ!」


「ぐはっ!? 痛いから叩かないで欲しいのだ! 我魔王ぞ? 大司教補佐ぞ?」


「知らねーし関係ねーよ! それ言うなら俺は終焉の魔王だぞ! あと雑傭兵……あれ、こっちは別に偉くない?」


「どうでもいいのだ! とにかくアイドルのティアちゃんは最高なのだ!」


「だな! 確かに最高だ!」


 いつの間にか俺の隣にいるクロムの顔が、これでもかと赤い。つまり俺の顔も多分真っ赤になっているんだろう。


 テーブルの上には空のワインボトルが並び、食い切れないほどあったはずの料理も割と減っている。


 (クロム)が呼び出し、(エッダ)が応じて、(ラスト)で騙し、(エド)が始めた会談。弛緩した空気に包まれぼやっとする思考のなか、俺の俺による俺だけの宴会はその後もよくわからないまま続いていく。


 翌日の朝心配して様子を見に来たジョーニィが見たのは、ズボンを頭に履き下着(パンツ)丸出しで高いびきをかいていた俺の下に、腹に顔の柄を描いた黒フードのクロムが俺の胸に顔を埋められて苦しげに呻いている状況であったという……

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― 新着の感想 ―
魔王の魔王による魔王のための飲み会楽しそう
完全に分かり合えた…! が、朝の状況はそれはそれで通報されかねん惨状だった…
[良い点] 良きかな。
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