油断していたわけではないが、その方向性は耐えがたい
「エド、どうしてここにいる!?」
「そりゃこっちの台詞だ! 何でハモキンがこんなところにいるんだよ、しかもドナテラと一緒に!?」
驚くハモキンの言葉に、俺はそっくりそのまま言い返す。いや、だってマジで焦ったのだ。集落への襲撃が落ち着いて洞窟に帰ったら二人ともいないとか、想定外にも程がある。
「ったく、まだ集落の方に押しかけてくるくらいの予想はしてたけど、まさか二人だけで魔王……黒い星を倒しに行くとか、何考えてんだ!?」
「……それには、色々事情ある。それより集落はどうなった?」
「そっちはもう片付いた。まだ多少は残ってるだろうけど、ティアがいればどうにでもなるからな」
集落を襲っていた黒い悪魔とやらは、ぶっちゃけそれほど強いってわけじゃなかった。ただ俺の場合は触ったらヤバそうなのと、獣はともかく操られてる人間はできるだけ殺さないようにしたので多少は手間取ったが、逆に言えばその程度だ。
唯一問題があるとすれば数の暴力だが、そこはこっちも数で補える。女性が敵対しなくなったことで集落に入った男達が戦い、そこにティアの補助が入れば戦況を覆すには十分だった。
一端数が逆転してしまえば、後はもう消化試合。どのみちドナテラと会わせられないティアはそのまま備えとして集落に残し、俺は洞窟へと戻ったわけだが……そこにまさかの誰もいないという状況を受けて、俺は慌てて「失せ物狂いの羅針盤」を使い、ついてきた男達と一緒に二人を追いかけてきたのだ。
「ガッハッハ! ドナテラ、ハモキンと一緒に戦う!? ドナテラ、遂にエロいものの良さに気づいたか?」
「ふざけるなガルガド! 私男と一緒に戦う、違う! ただ軟弱な男、利用してただけ!」
「照れるな! オイお前達、黒い悪魔押し返すぞ!」
「「「オー!」」」
「チッ、人の話聞かない! だから男最悪!」
悪態をつくドナテラをそのままに、戦士達が黒い悪魔に群がっていく。たった二人だからこそ数に押されて窮地に陥っていたのだろうが、こっちも集落の時と同じく、数が増えれば話は別だ。
「ウォォー! 死ね!」
「あっ、お前トコスコか!? とりあえず寝とけ!」
「お前、今夜の飯に決定!」
黒いもやを纏った獣は次々と屠られ、黒いもやを纏った人間は打ち倒されていく。割と雑に頭を殴られたりしているので本当に無事かは微妙なところだが、この乱戦では仕方ない。
「どうだドナテラ。男強いだろう?」
「……フンッ! 私よりは弱い」
「ハハハ、それは厳しいな!」
息を吹き返したハモキンもその戦いに加わり、面白く無さそうにふてくされるドナテラは何故か素手で黒い悪魔を殴り飛ばして……あー、槍が折れたのか?
「おいドナテラ、これ使うか?」
「これは……っ!? お、男の施し、受けない!」
「いいから持っとけって!」
俺は「彷徨い人の宝物庫」から取りだした短槍をドナテラに押しつける。鍛冶の訓練として俺が打った単なる鋼の槍だが、それでも集落で使われている石器の槍とは段違いの品質のはずだ。
「うぅぅぅぅ……男に借り、作らない! 黒い悪魔、全部殺す!」
一瞬だけ迷う顔を見せたドナテラが、俺の槍を振り回してあっという間に周囲の敵を排除していく。うは、やっぱり勇者の力はスゲーな。普通に戦うなら俺の方がずっと強いだろうけど、対魔王戦力としてならドナテラの方が明らかに優れている。
そうして形勢を逆転した俺達は、群がる黒い悪魔達を快調に排除していった。ただあまりにも調子が良すぎたせいで誰も撤退を口にせず、気づけば周囲には大量の獣の死骸と気絶……多分気絶? してる男達が横たわっている。
「ハァ、ハァ、ハァ……これで終わりか?」
「やっぱり黒い悪魔、大したことない! 私強い! 男軟弱!」
「いやー、本当に皆さんお強いですねぇ!」
「っ!?」
不意に、森の奥から場違いに明るい声が聞こえた。喉に引っかかるような甘ったるい声の方へと顔を向けると、そこには……っ!?
「お前まさか、黒い星……っ!?」
「はーい、そうですよー! 皆さんがいーっぱい頑張ってくれちゃったんで、ちょっと戦力を補充しに来ちゃいましたー! イエーイ!」
「相変わらずふざけた奴……おいエド、どうした?」
「はっ!? あ、いや、何でもない。そうかコイツが……」
俺の目の前に立つ魔王は、確かに俺と同じ顔をしていた。が、目や鼻などのパーツは同じでも顔の骨格が女性のそれになっているためか、受ける印象は結構違う。あとは髪と瞳の色も違うな。俺は両方黒だが、魔王は血のような暗い赤色だ。
だが、何より違うのはその体型だ。艶のある黒い皮がピッタリと巻き付いたような胸と尻はどちらもはち切れそうな程に大きく、それでいてへそが丸出しの腰はキュッとくびれている。太ももや腕にはやはりつやつやと光る黒い筋が模様のように入っており、それ以外の部分は眩しいほどに白い。
ああ、こりゃ確かに魅力的な女性なんだろう。何だろうが……そうか、こういう感じかぁ。
「うぅ、黒い星、相変わらずエロい……」
「おや、そちらの大男さんは分かってますねー。ほーら、こっちに来てくれたらとってもイイコトしてあげますよー?」
魔王が自らの胸に手を添え、これ見よがしにユサユサと揺すってみせる。するとガルガドを含めた幾人かの男達の視線がそこに釘付けとなり、胸の揺れに合わせて顔を上下に揺らし始める。
「なんたるエロさ! くそっ、目が離せない……っ!」
「だがこのくらい! 黒い星、今日こそお前倒す……っ!」
「おやおやー? まだ魅了されてない子がいますねー? ひょっとしてこっちがお好きな方ですか? ほーらほら!」
「ぐはっ!?」
今度は魔王が尻を突き出し、フリフリと振ってみせる。それにより辛うじて耐えていたハモキン達残りの男も視線を奪われ、尻の動きに合わせて顔を左右に揺らし始める。
「ボインボイン……プリンプリン……エロい、抗えない……」
「くっ、これだから男使えない! 黒い星、私が倒す!」
夢遊病患者のように魔王に吸い寄せられていく男達を尻目に、ドナテラが魔王に向かって走り出す。だがその行く手に立ち塞がるのは……ついさっきまで共に戦っていた男達だ。
「させるか! エロい星、手出しさせない!」
「ガルガド!? お前邪魔! 寝てろ!」
「嫌だ!」
「何っ!?」
ドナテラの槍を自身の槍で受け止めたガルガドが、その膂力でドナテラを押し返す。その身に纏った黒いもやは、他の男達と比べても倍近く濃いように見える。
「ガルガド強くなった!? どういうことだ!?」
「エロいは強い! 黒い星とてつもなくエロい! そのエロさ受けた俺、今最高に強い! ウォォォォ!!!」
困惑するドナテラに、ガルガドが雄叫びを上げて襲いかかる。それに合わせて他の男達も一斉にドナテラに向かっていったが……
「おっと、それはちょっと待ってくれよ」
「エド!?」
ガルガド達の突進を、俺の「夜明けの剣」が受け止める。体に直接触れるのはやっぱりマズそうだが、剣で打ち合う分には関係ない。
「えー、何で!? こんなせくしー&ぷりちーな魔王ラストちゃんの魅力が、どうしてご主人様には通じないんですかー!? ひょっとして貧乳派とか?
あ、ちなみにラストって名前は自分で考えたんですよ。終わりと色欲を合わせたんです。どうです? イケてます?」
「知らねーよ! あと好みの問題でもねーよ! お前自分の裸を鏡で見て興奮すんのか?」
「あー、そりゃしないですねー。世の中にはする人もいると思いますけど、私はこう、他人の手で組んずほぐれつされた方がいいです! 多様性は大事ですけど、多人数プレイもいいですよね!」
「本気でどうでもいいよ! お前ちょっと黙れ!」
「お口も大好きなので、黙りませーん! それじゃ、すこーし本気出しちゃいますよ?」
魔王ラストがペロリと唇を舐めあげると、俺とは色の違う赤い瞳がキラリと輝く。するとガルガド達の体にまとわりつくもやが濃くなり、目が血走って呼吸が荒くなっていく。
「ハァ……ハァ……」
「ガルガド!? おいテメェ、何しやがった?」
「ハァ……ハァ……エド……」
「大丈夫だガルガド。俺が必ず元に戻してやる。だから――」
「エド……お前、よく見るとエロいな……?」
「…………は?」
「キュッと引き締まった尻がエロい」
「うっすら浮き出た腹筋がエロい」
「鎖骨のへこみが超エロい」
「何だそりゃ!? 腹筋に鎖骨って、そんなところ見えねーだろ!?」
俺は普通に服を着て防具も身につけているので、当たり前だが鎖骨だの腹筋だのは露出していない。だというのにガルガド達が血走った目で俺に向かって突っ込んでくる。
「うぉぉぉぉ! エドぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ちょっ、来るな! マジで来るな!?」
生理的な嫌悪感を抑えきれず、俺は迫り来る男達を片っ端から「夜明けの剣」で殴り飛ばしていく。うぉぉ、寒気が!? 背筋がぞわぞわ……いや、違う!?
「しまっ!?」
「隙ありですよご主人様?」
音も無く背後に現れたラストが、俺の首筋をペロリと舐めあげる。そのぞわりとした感触と同時に、俺の意識はラストの中へと引きずり込まれていった。




