可能性は無限大だが、流石にそれは無い気がする
その後一ヶ月ほどかけて、俺達はどうにかしてドナテラを元に戻せないかと色々と試していった。二週間ほどで集落が落ち着いてきたこともあり、ハモキンやガルガド達も手伝ってくれはしたのだが……
「……………………」
スッと、ガルガドがドナテラを捕らえている牢のなかに人形を入れる。するとドナテラは汚物を見るような目でチラ見してから、そのまま足で人形を蹴り飛ばしてしまった。
「ああっ!? ドナテラ、お前何するか!?」
「それはこっちの台詞。ガルガド、オマエこそ何のつもりだ?」
「エロいもの見る、心優しくなる! だから俺、お前のために一生懸命作った!」
「知るか! そんなもの見て優しくなる、無い! やっぱり男最低! 男低俗!」
「ぐぬぅ……」
とりつく島もないドナテラの態度に、ガルガドが悔しげな表情を浮かべる。なお蹴り飛ばされた人形は従来の女性型ではなく、この日の為にとガルガドが必死に造り上げた、集落一の筋肉を持つ男の半裸像だ。
「何故だ、何故このエロさが伝わらない……やはり俺、女のエロい、よくわからない……」
「気を落とすな。ガルガド頑張った、みんな知ってる。そうだろエド?」
「あ!? ああ、そうだな。間違いなく頑張ってたとは思うぜ?」
「ハモキン、エド……よーし、俺もっと頑張る! ドナテラの心に響くエロい人形、また造る!」
「頑張れガルガド! 俺応援する!」
「おう!」
ハモキンに励まされ、ガルガドが洞窟を出て行く。その頑張りは俺だって認めているんだが、もうちょっとこう、方向性を……いや、言うまい。実際何が功を奏するかわかんねーわけだし。
「全く、男本当に理解不能。何故エロで何もかも解決すると思うか?」
「ははは、男の悩み、エロいもので大抵解決する。やる気出る。争い収まる。エロいもの素晴らしい」
「フンッ!」
そんな事を言いつつも、ハモキンもまたドナテラの牢に小さな壺を入れる。そこには今朝摘んだばかりの花が入っており、ドナテラは不満げに鼻を鳴らすもその壺は蹴ったりしない。
「ハモキン、オマエ毎朝これ持ってくる。何のつもりか?」
「洞窟の中、景色寂しい。でもドナテラ外に出す、無い。男ならエロいものだが、ドナテラそれ駄目、言う。だから花にした……これも駄目だったか?」
「……花ならまあ、駄目じゃない。でも、そんなことで男最低、変わらない」
「別にいい……なあドナテラ」
「何だ?」
静かな口調で問いかけるハモキンに、ドナテラが答える。
「ドナテラが本当に男嫌いなら、それは仕方ない。でも光る星のせいで変わったなら、それ本心違う。俺きっとドナテラ元に戻す」
「余計なお世話! 私変わった! でも変えられた、違う! 男の真実知った! だから男嫌い! 男最低!」
「……エロいもの好き、そんなに駄目か? 子供増える、集落繁栄する。何が悪いか俺にはわからない」
「……………………フンッ!」
表情を沈ませるハモキンに、しかしドナテラは明確に答える事無く顔を背けてしまう。そしてそんな二人のやりとりを少し離れたところで見ていた俺は、口をねじ曲げながらも考えを巡らせていく。
うーん、どうにかこう、もうちょっと二人の橋渡しをできればいい感じに問題が解決できそうな匂いがするんだが……残念ながら俺にはその方法がこれっぽっちも思いつかない。
こういうときティアならもっと上手くやるんだろうが、ドナテラの周囲には女性を近付かせるわけにはいかねーからなぁ……マジでどうすりゃいいんだろうな。
「た、大変だ!」
と、そこに突然洞窟の入り口から大声が響いてくる。俺がそっちに顔を向けると、見知った男が息を切らせてそこに立っている。
「おいどうした? 少し落ち着け……水飲むか?」
「だ、大丈夫。それよりハモキン、エド、大変! 集落が黒い悪魔に襲われてる!」
「なっ!?」
期せずして、その場にいた全員の声が重なる。ドナテラはがしっと牢にしがみつき、ハモキンは慌ててこっちに駆け寄ってくる。
「黒い悪魔の襲撃、いつものこと。今回は違うか?」
「違う! 黒い悪魔、一〇〇以上いる! とても守り切れない!」
「なんだと!?」
襲撃者の数を聞いて、ハモキンが驚愕の声をあげる。二、三匹の襲撃は日常だが、一〇〇なんて数が襲ってきたのは俺が知る限り初めてだ。集落には獣よけの簡素な防壁があるだけなので、その数で襲われればあっという間に侵入を許してしまうことだろう。
「ハモキン、俺はすぐに集落の防衛に回る。あんたは――」
「私、連れてけぇ!!!」
俺の言葉を遮るように、洞窟内にドナテラの絶叫が響き渡る。強く掴まれた牢の素材がギシギシとゆがみ、今にも破って飛び出して来そうだ。
「ドナテラ!? お前何言ってる!?」
「集落の防衛、男なんかに任せられない! 私なら黒い悪魔、戦える! 今すぐここ出せ! 私集落守る!」
「それは……」
「そいつは無理だろ」
迷った声を出すハモキンを横に、俺はドナテラにそう言い放つ。確かにドナテラは強いだろうし、襲ってきてる黒い悪魔はこの世界の魔王の力を受けた存在……なら勇者であるドナテラは、俺と対峙した時のように圧倒的な力を発揮して集落を守り切れるのだろう。
だがそれでも、ドナテラを出すわけにはいかない。
「エド!? オマエ私の邪魔するか!」
「当たり前だ。お前を出して集落に連れてったら、ティアを含めた女性全員がまたお前の精神操作を受けちまうだろうが。多少戦力になったとしても、そんなやつを連れ出せるわけねーだろ」
「それの何が悪い! 軟弱な男の代わり、女戦える! エロに惑わされない女こそ最強! お前達女に嫉妬してるだけ! 軟弱で最弱!」
「ハァ……そんな風にしか言えない段階で、お前を連れて行くって選択はねーんだよ。大人しくそこで待ってろ。
ハモキン、俺は行くからドナテラを頼む」
「あ、ああ。わかった」
「エドぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
怨嗟の雄叫びを背に、俺は洞窟を飛び出して集落に向かって走り出す。普通に移動するならそこそこの距離だが、「追い風の足」を使えばあっという間だ。
「うおっ!? こりゃヤバいな」
見えてきたのは柵のあちこちが破られ、集落の中に入り込んで乱戦になっている様子。俺はそこまで駆けつけると、黒いもやを纏ったイノシシもどきの首を一撃の元に切り伏せる。
「大丈夫か?」
「エド! 助かった。でもまだ黒い悪魔、沢山いる! 他も頼む!」
「わかった。中にいるのは俺が処理するから、あんたはこれ以上入ってこないように外を頼む」
「任せろ!」
その答えを聞くまで待たず、俺は次の獲物に向かって走り出す。黒い悪魔のなかには獣だけじゃなく人間も混じっているため、そっちに関しては殺傷は無し、気絶させるだけだ。
別に慈悲をかけてるわけじゃない。黒いもやに操られているだけなのでできるだけ助けて欲しいと頼まれているのと、頭を強くぶん殴っているので運が悪ければ死ぬこともある……ということで、殺すのと大差ない手間で生きる可能性を残してやっているだけだ。
「キャーッ!」
「っと、次は向こうか!」
集落の至る所から聞こえてくる悲鳴。まだ小さいが火の手もあがっているようで、細い煙が立ち上っている場所もある。何とも大忙しだが……少し前までと違って、今の俺には頼りになる相棒がいる。
『火事は任せて! エドはあっちの女の人をお願い!』
「了解!」
近くにはいない。だが俺の耳に確かに届いたそよ風に、俺はニヤリと笑って強く大地を蹴った。




