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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一三章 暴走勇者と密林の男達

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押しつけられた責任は、時に誇りと呼ばれたりもする

「うぅん…………」


「お、起きたか?」


 可愛らしい寝ぼけ声と共に、ティアがもぞもぞと体を動かす。側に座ってその様子を見ていた俺が声をかけると、即座にトロンとした目がキッと見開かれる。


「おはようお嬢さん。今朝のご機嫌はいかがかな?」


「っ!? 何言ってるのよ! 汚らわしい男なんかに……男なんか……あれ? 私どうして……エド?」


「……ふぅ、どうやら大丈夫そうだな」


 ハモキン達の実験によると、女達からドナテラの影響が抜けるのにかかる時間は、おおよそ一週間。だがティアの場合は一般人よりよほど強力な精神力を持っているのと、そもそもドナテラの影響下にあった期間が短かったのでもっと早く戻るのではないかと思ったわけだが、その予想は見事に的中してくれた。


「とはいえ、一晩で治るとはな。流石はティア……と言うべきか?」


「やめて! 流石でも何でも無いから! うぅぅ、私何であんなことを……」


 軽くからかうように言うと、ティアがその顔を真っ赤に染める。耳の先まで赤くなるのは相当本気で恥ずかしがっている証拠だ。


「ふぐぅぅぅー!」


「ほら、そんな暴れんなよ。今縄をほどいてやるから」


「……………………」


 精神操作が解けていなかった時のことを考え、ティアの四肢はベッドの四隅に縄で結びつけられている。と言ってもガチガチに拘束しているわけじゃなく、いきなり俺に飛びかかったりできないだけで、寝返りくらいは余裕で打てるという極めて緩いものだ。


 なので落ち着けばティアが自分でその縄を外すことすらできるわけだが、すっかり茹でエルフになってもぞもぞしているティアにそんな余裕はなさそうだ。なので俺が優しく手首と足首に巻き付いている縄をほどいてやると、拘束を解除されたティアが体を起こし、ちょこんとベッドの上に座り込んだ。


「んじゃ、まずは現状の確認からだ。ここは何処だかわかるか?」


「ここは……ドナテラの家の寝室? よね?」


 キョロキョロと周囲を見回してから、ティアがそう答える。まあこれは間違えようがないだろう。話によればこの世界に来てからずっとここで寝てたんだろうしな。


「そうだ。なら昨日の夜のことは? どれだけ覚えてる?」


「えっと……エドがドナテラを襲ってて、それを私が助けに入って…………その、エドのことをチクチク攻撃してたら、突然後ろから変な薬を嗅がされて……」


「……そ、そうだな」


 改めて説明されると、やっぱり俺達の方が圧倒的に犯罪者っぽいよなぁ。いや、違うぞ。あれはどうしてもやむを得ない正義の行為であり、超法規的措置に基づいた合法活動なのだ……こんな密林に法を問う組織があるのかは知らねーけど。


「あれ? じゃあドナテラはどうしたの? まさかその、殺したりとかは……」


「しないしない! ドナテラは勇者だし、そもそもこの集落の女達だってハモキン……男達からすりゃ全員身内だからな。そうか、ならその辺の説明をしておくか」


 こちらを伺うようなティアの態度に、俺は軽く昨日のことを説明していく。昨日のあれは、俺がドナテラとティアを襲撃している間にハモキン達が集落中の女達を眠らせていくというものだった。


 この際もし俺がドナテラに負けていれば、順次集落の女性達を運び出すという大仕事が待っていたわけだが、俺が勝った……というか耐えきった末にハモキンとガルガドの不意打ちが決まってドナテラを無力化できたことで、逆にドナテラだけを集落の外、ハモキン達が使っていた洞窟に隔離することで集落の女性達を能力の影響範囲から出すことに成功している。


「ってわけだから、ドナテラはここから少し離れた洞窟に作った牢屋に入ってるんだよ。ティアと違ってガッツリ拘束されてるだろうけど、それは流石にどうしようもねーしな」


 ドナテラの強さは本物だった。いや、魔王(おれ)相手じゃなきゃあそこまでは強くねーのかも知れないが、それでも不意打ち以外で戦うなら油断していい相手じゃない。


 それにドナテラ自身の精神操作は、今のところどうしていいかわからない。なので別に彼女が悪いわけではなくても、拘束せざるを得ないのだ。


「うーん、どうにかしてあげたいけど、確かにどうしていいかわからないわね」


「だろ? 対処はまた後で考えるとして、今は里の女達の対処が精一杯だよ」


「? ドナテラが離れたら元に戻るんじゃないの?」


「戻るけど、時間がかかるんだよ。一応家族とか友人みたいな男がそれぞれついてるし、そもそも一対一なら男達が負けることはねーから大丈夫だとは思うけど、一応ティアの方でも声をかけてもらえるか? 同性でしばらくとはいえ一緒に暮らしてたティアの言葉なら、男連中が話しかけるよりは聞いてもらえるだろ」


「わかったわ。ならすぐに行った方がいい?」


「いや、その前にもう少し色々確認させてくれ」


 ベッドから腰を浮かしかけたティアを、俺は手で制する。集落の女達のケアも重要だが、何よりも優先すべきはドナテラの力の解明だ。


「確認なんだが、ドナテラの力の影響を受けている間の記憶はあるんだな?」


「……うん、全部覚えてる」


「なら、その間はどんな感じだったんだ?」


「それは……うーん、何だろ? 心を操られているって言うよりは、絶対的な価値観を植え付けられる感じ? 男の人はくだらない欲望で女性を裏切り貶める酷い存在なんだっていう思いが、朝になれば夜が明けて太陽が昇ってくるのと同じくらい疑いようのない事実として、朝起きたらもう自分のなかにあったの。


 だから行動を操られるとか、そういうのとは違うと思う。この集落にいた女の人達は全員『男の人は酷い存在だ』っていう共通の認識を持っていたと思うけど、『だからやっつける』って人もいれば、『だから近づかない』って人もいたし。


 私の場合はなまじ戦う力があったのと、ドナテラに勇者って呼ばれて頼られてたから、彼女の護衛をしつつも男の人……エドを排除する方向に動いたって感じね」


「なるほど、あくまでも強要されるのは男に対する嫌悪感みたいなもんで、必ずしも排除するように動くってわけじゃないのか」


 これはなかなかに貴重な情報だ。もし行動までドナテラと同一にされて、集落の女性が一致団結して男の排除を求めていたならば、場合によってはガチの殺し合いに発展していた可能性すら見えてくる……おぉぅ、そいつは怖いぜ。


「よし、とりあえずそのくらいか。じゃあ後はお互いの情報交換を――」


「待って。私、エドの方の情報は聞かないわ」


「ん? 何故に?」


「だって、もし私がまたドナテラに近づいちゃったら、わかっててもエドを裏切っちゃうんでしょ? そうなったら情報の秘匿なんて無理だけど、そもそも何も聞いていなければ何も教えられないでしょ?」


「そりゃそうだけど……いいのか?」


「いいのよ。今回はエドの足を引っ張るだけだったから」


 俺の問いに、ティアが自嘲気味な笑みを浮かべて言う。何処か沈んだ表情はまんまと敵の罠にかかってしまった自分を責めているのが明白で……だからこそ俺は、ティアの頬をプニッとつねる。


「ひょっ!? はによえほ!?」


「無意味に落ち込んでるからだろ。今回のはどうしようもねー初見殺しだったってだけで、ティアが悪いところなんて一つもなかった。だからティアが気にして落ち込むのはお門違いだって言ってんだよ!」


「むぅぅ、れも……」


「でももだってもねーよ。忘れるなティア、俺達の間に『裏切る』なんて言葉はない。俺はティアにそんなことしねーし、もしティアが俺に本気で剣を向けることがあるなら……」


「あるはら……?」


 ほっぺたをムニムニされ続けるティアが、翡翠の瞳をまっすぐに俺に向けてくる。その優しい輝きに、俺は思わず笑みを零す。


「その時は、喜んで殺されてやるよ。ティアが俺を殺さなきゃならない状況だって言うなら、絶対俺の方が悪いからな」


「ほんなほほ!」


「わかんねーか? まあそうだよな、状況なんてその時次第だ。でも、俺が間違えることなんていくらでもある。自分が完全で完璧な存在だなんて、逆立ちしたって思わねーからな」


 本当にそんな存在なら、俺はガルガド相手にエロ人形を造る必要なんてこれっぽっちもなかった。その不完全さこそが俺が俺である証拠であり……だからこそ俺はいつだって間違える存在だ。


「でも、俺はきっと死なねーんだ。神ですら俺を完全には滅ぼせない。俺を終わらせることができるのは、いつだって俺だけだ。だから……」


 ティアの頬をつまんでいた右手を離し、代わりにティアの左手をそっと握って俺の胸に押し当てる。すると俺の心音が、ティアの手のひらを越えて俺の手にトクントクンと伝わってくる。


「ティアが心から俺がいなくなった方がいいと思ったならば、もう俺を殺すしかないって状況にまで追い込まれたなら……俺はそこで自分を終わらせる。世界で唯一、神すら持ってない俺の生殺与奪の権利をやるから……その時は俺を終わらせた責任を背負って生きてくれ」


「…………馬鹿ね」


 ティアの右手が俺の左手を取り、それがティアの胸に押しつけられる。静かに刻まれる命の脈動が、俺の手のひらに伝わってくる。


「私がエドを一人で逝かせると思ったの? もしそんな時が来たなら……私も一緒に逝ってあげるわ。


 あ、駄目よ! これは私の意思なんだから、エドにだって曲げさせないわ!」


 まっすぐに見つめてくるティアの視線は、一瞬たりとも逸らされない。翡翠の瞳に映る俺の顔は、仕方ねーなぁと苦笑している。


「ハァ……悪いな、重いもん押しつけちまって」


「いいわよ。その重さこそが愛おしいもの」


 互いの鼓動を感じながら、互いに呆れたような笑みを浮かべる。久しぶりの二人の時間で交わされたのは、言葉より雄弁な沈黙であった。

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― 新着の感想 ―
2人はずっと一緒なのが当たり前のように思っていて恋愛的な感情というよりは家族愛のような感じがする、だからこそくっつかないんだろうなと感じてちょっともどかしい...死ぬまで一生この2人見ながらニヨニヨし…
某僧侶の出番(もう付き合っちゃえよ)だと思うのだわ。
むしろ遅いぐらいだかついにやったね?
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