他者に受け入れて欲しいなら、まず自分が受け入れよ
俺の周囲では男達が歓声をあげ、目の前には勝ち誇った笑みを浮かべる敵の姿がある。もしこれが通常の勝負ならば、俺もまた不適に笑って返すところだ。
が、今回は違う。俺に浮かんでいるのは困り果てた引きつり笑いであり、とにかくこの場をどうにかしようと審判をしてくれているハモキンに声をかける。
「な、なあハモキン? これはどっちが強いかを決める勝負なんだよな?」
「ん? そうだが?」
「おぉぅ、そうか」
ワンチャン「違う」という答えに期待したかったが、スゲー平然と肯定されてしまった。ということは、うん、そうか。俺の勘違いとか、そういうことじゃないのか……
「あー……あれだ。どうも俺の思ってた勝負と違うみたいなんだけど、もうちょっと詳しい説明をしてもらってもいいか?」
「何だオマエ、そんな事も知らずに勝負挑んだか!?」
「黙れガルガド。エドよそ者。知らなくても不思議じゃない……いいかエド、この勝負は交互にエロいもの出して、相手にそのエロさを認めさせたら勝ち。ただそれだけだ」
「いやいやいや、そうじゃなくてもっと根本的なところっていうか、何で強さを競うのにエロいものを見せ合うんだ?」
「ハーッ、オマエ本当に馬鹿。そんなこともわからないか?」
ひたすら困惑の表情を浮かべている俺に、ガルガドが思いっきりため息をつく。普通なら激しく腹の立つ行為だろうが、ここまで訳が分からない状況だとこれっぽっちも怒りが湧いてこない。スゲーなこれ、新境地だぞ?
「いいか? エロいもの、みんな大好き! エロいもの、みんな気を引く! 人も獣もエロいものに目を奪われると、隙だらけになる! そうしたら狩りも楽勝! だからエロいもの作れる奴、一番凄い! 一番強い! エロい奴が強い奴! これが大自然の掟!」
「…………待て、待ってくれ。百歩譲って人はいいとして、獣? 獣がそんなのに気を引かれるのか?」
人間だろうと戦闘中にエロ人形に意識を奪われるような馬鹿はいないと思う……んだが、ここの奴らを見ているとそうじゃない気がするのでそこはまあいいとする。
が、獣が人間の女に反応するのか? いや、獲物として釣れるって意味ならあり……なのか?
「ハァァ……オマエあり得ないほど馬鹿。獣に人のエロ、伝わるわけ無い。獣用は獣用で別に作る」
「そうだ。綺麗に皮剥いで生きてるみたいな剥製にする。そうすると見た目も匂いも仲間と同じ。森の獣、割と引っかかる」
「そんなの常識! それすら分からないオマエ、信じられないほど馬鹿!」
「ぐっ…………」
思いっきり見下してくるガルガドの顔が、これ以上無いほどにムカつく。うう、今すぐぶん殴りたい……が、この流れでそれをやるわけにはいかない。
「それで、どうする? オマエのエロいの、まだか?」
「……ちょ、ちょっとだけ待ってくれ。今準備するから」
「フンッ! どうせ俺の勝ち決まってる! 好きなだけ準備しろ!」
情けなくも待ったをかける俺に、ガルガドは余裕綽々の表情でそう言い放つ。ならばその余裕につけ込ませてもらうことにして……まずは状況を整理しよう。
普通に腕っ節の強さを競うのだと思ったら、何故か手持ちのエロいものを見せ合う勝負になっていた。既にガルガドはいい感じにエロい人形を提示しており、周囲からの評判は上々。これを覆すには更にエロい何かを提示しなければならないわけだが……
(どうしよう、今すぐ帰りたい)
もう何もかも無かったことにして、俺が一人でドナテラを攫いに行ったら駄目だろうか? 駄目だよなぁ……単に捕まえるだけなら最悪四肢を切り落として運べはいいけど、そんなことしたら以後の関係修復が絶望的だし。
それにその後の魔王との対決まで視野に入れると、どうしたって協力者は必要だ。となるとやっぱりこいつらに俺を認めさせる必要があるわけで……ならばこそ俺は真剣にエロに向き合う。
(エロい……エロいって何だ……?)
とりあえず今まで出会った女性を色々と思い浮かべてみる。レベッカとかは女海賊だし、いい感じにエロかった気がする。後はトビーのところで会ったパーム……は違うな。成人女性ではあったはずだが、あの方向性を突き詰めるのはとても危険な気がする。
キャナルは残念美人って感じだったし、アメリアは……凜々しくはあってもエロくはないよな? となると……お?
「これかっ!」
俺の脳内にパッと閃くものがあり、俺はそのイメージを追放スキル「半人前の贋作師」で形にする。差し出した右手の上に出現したのは、おおよそ一割ほどの大きさで再現された法衣姿のリーエルの人形だ。
「おぉぉぉぉ!? エドの手に人形、出た!?」
「乳でかい! 尻でかい!」
「ちょっとだけだらしない! でもそこがエロい!」
周囲から湧き上がる歓声に、俺はニヤリと笑ってガルガドの方を見る。するとガルガドがこっちに近寄ってくると、俺の作ったリーエル人形をまじまじと観察し始めた。
「むぅ……エド、オマエ凄い。この人形、とてもエロい」
「お、おぅ。そうか?」
「特にこの、ちょっと肉が垂れ下がってる感じの表現が凄い。集落の女、みんな体引き締まってる。だからこういうの珍しい。とても新鮮。とてもエロい。だらしない肉、果てしなくエロい。」
「あー……うん、そうか」
本人に聞かれたらスゲー睨まれそうな感想に、俺は微妙に言葉を濁しながら頷いておく。俺の「半人前の贋作師」は見た物を見た目だけそっくりに作るスキルなんだが……いや、多くは言うまい。自分から死地に飛び込む趣味はない。
「でも、ポーズが今ひとつ。もっとこう前屈みにさせて、尻を突き出しつつ胸を強調する感じにできないか?」
「ん? こんな感じか?」
魔王の力を吸収してパワーアップした俺の「半人前の贋作師」は、かつてに比べて多少の融通が利く。長いこと一緒に旅をしてリーエルのことは散々見続けてきたので、たとえ本人がとったことのないポーズでも、とることが可能であれば再現することはできる。
「おぉぉぉぉ!? 人形動いた!? 何というエロさ!」
「エド、凄い! エド、エロい!」
「エドこそ我らの勇者! 最高のエロ! 最強の男!」
「……エド、オマエ凄い。俺負けを認める。俺、オマエについていく」
その奇跡を目の当たりにし、キラキラと綺麗な目になったガルガドが、手に持っていた人形を鞄にしまってから俺に右手を差し出してくる。ならばと俺もリーエル人形をしま……おうとしたら近くのオッサンに奪い取られたので、それはそれとしてガルガドとがっちり握手を交わす。
「勝負決まった! エドの勝ち!」
「エド! エド! 偉大なるエロの先導者!」
「エド! エド! 我らを導くエロの化身!」
「エド! エド! 誰よりエロい男の中の男!」
「エド、オマエならきっとドナテラにも勝てる。ドナテラに通じるエロいもの、作れる! 頑張れエド! 期待してるぞ!」
「おう、任せと……あれ? そういう話か?」
「ん? そういう話じゃないのか?」
「いや、合ってるけど……じゃあいい、のか?」
「ガハハ! エド、細かいこと気にするな! 細部にこだわる、エロだけで十分!」
「そう……だな。うん、そういうことにしておこう」
何かが色々と間違っている気がひしひしとしていたが、それでも男達の信頼を得るという目的は達成された。さあ、次はいよいよドナテラとの対決だ。




