大きければいいわけじゃなくても、大きい方が注目はされる
今回は三人称です。ご注意ください。
暗い森の牢獄でエドが一人密かな決意を固めている頃。ルナリーティアもまた集落のなかで自分なりの戦いを繰り広げていた。
「あの! もう十分! 十分ですから!」
ルナリーティアの目の前には、所狭しと並べられた料理の山。そしてそのほとんどは肉であった。ウサギやらイノシシやらと肉の種類こそそれなりにあったが、どれも同じ濃いタレで味付けされているため、正直なところ早くも食べ飽きている。
「む? そうか? でもルナリーティア小さい。食べないと強くなれないぞ?」
「小さいって……そりゃドナテラに比べれば小さいでしょうけど」
自分の隣で平然と肉を食べ続けるドナテラの姿に、ルナリーティアはちょっとだけ疲れた視線を向ける。ルナリーティアより少しだけ背の高いドナテラの体は全身が筋肉に覆われており、確かにルナリーティアに比べれば二回り以上サイズが大きい。
「でも、別に大きければ強いってわけでも、食べるほど強くなるってわけでもないでしょ? そりゃ力比べをしたら私が負けるでしょうけど、戦うなら私の方がドナテラより強いわよ?」
「ハッハッハ、そうかそうか! 流石は勇者! ほれ、もっと食え!」
「いや、だからもういいって……うぅぅ」
挑発的な言葉を豪快に笑って流しつつ肉を差し出してくるドナテラに、ルナリーティアは困った表情で薄笑いを浮かべる。見ているだけでも胸焼けしそうなのに、これ以上食べたら本気で吐いてしまうかも知れない。
「そ、それよりほら! その勇者って何? 何で私が勇者なの?」
「む? ルナリーティア、自分が勇者知らないか?」
「知らないわ。突然この場所に出現したと思ったら、いきなりそう呼ばれたんだもの。できれば説明してくれるとありがたいわね」
エドと引き離されてしまった以上、自分は自分で情報収集をしておきたい。そんな心づもりでそう言うルナリーティアに、ドナテラは肉をもうひと囓りしてから話をする。
「むぐむぐ……なら説明する。一〇年前、森の東に黒い星、落ちた。黒い星、黒いもや出す。黒いもや触ると、人も獣も凶暴になる。黒い悪魔、とても危険。私達ずっと黒い悪魔と戦ってきた」
「へぇ、それは大変だったわね」
「そう、大変だった。だから私、黒い星に勝つ力欲した。すると五年前、私の上に光る星、落ちてきた」
「星が、落ちてきたの?」
「そう。光る星落ちて、私目覚めた。黒い星に勝てなかったの、男が軟弱なせい! だから私、男を追い出した。邪魔な男いなくなる! 我ら強くなる! それに光る星の神託通り、勇者現れた! 我ら最強! 男最弱! これで我ら黒い星に勝てる!」
「ちょっ、ちょっと待って! 途中の話の流れが見えないんだけど、何で急に男の人が弱いって話になったの?」
突然話が飛躍してしまい、ルナリーティアは焦ってドナテラに問いかける。するとドナテラは露骨に顔をしかめつつも、その理由を語ってくれる。
「……黒い星、女の姿してる。胸ボインボイン、尻プリンプリン。男の視線そこに釘付け。だから男は役に立たない!」
「ええっ!?」
忌々しげに肉を食いちぎるドナテラに、ルナリーティアは驚きの声をあげる。
(え、ここの魔王って女性なの!?)
今まで魔王と言えば、その全てが性別不明の怪物か、あるいは男性だった。元となっているのが魔王エンドロール……つまりはエドなのだから、ルナリーティアは魔王もまた男性にしかならないのだと勝手に思い込んでいた。
が、よく考えれば木や怪物になることに比べれば、女性の姿をとることの方がよほど簡単であろうとは思える。思えるが……
(エドの顔をした女の人……?)
まず普通にエドの姿を思い浮かべ、その胸とお尻を膨らませてみる。が、それは単にそこが出っ張っているだけのエドであり、今ひとつ想像が及ばない。
「男頭悪い! 男中身無い! 胸と尻、でかければそれでいい! 男使えない! 男軟弱!」
「「「男いらない! 男最悪!」」」
ドナテラの言葉に、周囲にいた他の女性が呼応して声を上げる。ちなみにだが、単純なサイズであればドナテラは両方共にかなり大きい。が、それは筋肉がついているからであり、女性的な大きさで言うと平均かやや小さいくらいである。
「勇者ルナリーティア! オマエもそう思うか?」
「へっ!? え、ああ、そうね」
「そうかそうか! やっぱりそうか!」
違うことを考えていたせいで咄嗟にそう答えたルナリーティアに、ドナテラは上機嫌でその背中をバシバシと叩く。
「ルナリーティア、尻はまあまあでかいけど、乳は小さい! わかってる! オマエ私達と同じ! 最高の勇者!」
「…………ど、どうも」
満面の笑みで褒められているはずなのに、どうにも素直に喜べない。釈然としないものを覚えるルナリーティアだが、この場でそれを口にすることなどできるはずもない。
その後も男に対する不平不満を叫びながら酒を飲み肉を食うドナテラ達の宴会に付き合うと、月が天頂に輝く頃、ようやくにしてルナリーティアは解放された。
「うぅぅ、すっごい疲れた…………」
あてがわれた寝床は、小さいながらも個室であった。湿度の高い密林の家だけあって、視界は遮れても空気は流れる作りで、外で鳴く虫の声などが割と大きく聞こえてくる。
「……エドはどうしてるかしら」
ドナテラから、エドは集落の外れにある牢に入れられていることは聞いた。エドであれば脱出しようとすればすぐに抜けられるのだから、そこで大人しくしているという事実がエドが安全で、かつ自分の意思でそこに留まっていることを逆説的に語っている。
(黒い星が魔王なのはほぼ確定よね。女の人の姿をしてるってのは意外だったけど……なら光る星は? この前エドが言ってた、魔王の力と一緒についてきた余計なものと同じものかしら? でも、前は魔王のなかにいて、今回は勇者のなか……? よくわからないわね)
植物で編んだ筵の上で横になりながら、ルナリーティアは仕入れた情報を整理していく。今日は無理だったが、近いうちに何とかエドと接触して情報交換をしたい。
幸いにして自分達ならば、言葉を交わさずとも手を触れるだけで話ができる。ただ無言で見つめ合うのはこの集落の空気からしてそれはそれで非難されそうなので、注意する必要はありそうだ。
(とにかく、まずは行動方針を決めないとよね。ドナテラに協力して魔王を倒すのはいいとして、男の人達との和解を優先させるべき? でもあんまり事を急いだらドナテラから不審に思われちゃうかしら? それにいなくなった男の人達が何処にいるのかもわからないし……ああ、エドならすぐに探せるのに)
精霊魔法を使えば周囲の気配を探ることはできるが、流石に男性とか女性というのを区別して調べることはできない。そのもどかしさにゴロゴロと筵の上を転がりながら、ルナリーティアはギュッと強引に瞼を閉じる。
(ふぅ、いいわ。私は私にできることをすればいい。まずはもっとドナテラと仲良くなって、彼女の信頼を勝ち得ないと。それに仲良くなれば、頑なに男の人を嫌ってる心も変えられるかも知れないし。そうしたらまずはエドを解放してもらって……それで…………)
ルナリーティアの意識にゆっくりと帳が降りていく。そしてそんなルナリーティアに、どこからともなく淡い光が静かに降り注いでいく。
「うぅぅ……ムチムチ……プリプリ……ボインボイン…………っ!」
その晩、ルナリーティアは謎の悪夢にうなされた。透明な檻に入れられて動けない自分が、ヘラヘラと笑いながら巨乳の女を追いかけ続けるエドの姿を延々と見せられ、徐々にその意識が白く染められていく。
そうして翌日。目覚めたルナリーティアは朝一でエドのいる檻の前まで行くと……
「男なんてサイテーよ! エドのえっち!」
「えぇ……?」
戸惑いの表情を浮かべるエドに、ルナリーティアは伸ばした人差し指を突きつけながら大声でそう責め立てた。




