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【Web版】追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双  作者: 日之浦 拓
第一三章 暴走勇者と密林の男達

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ただ在るだけならスルーもするが、殴ってくるならそりゃ殴り返す

『……おいエド、これ本当に聞こえるか?』


 植物で作られた簡素な……だが割と丈夫な牢の中。寝っ転がってリラックスする俺の耳に、ハモキンと名乗ったあの男の声が届く。


 ただし、ハモキンの姿はここには無い。五メートル以上離れた草むらのなかでボソボソと小声で喋っているはずだ。


『やっぱり信じられない。おいエド、聞こえてたら右手を振ってくれ』


「……………………」


 何も言わず、俺は右手を挙げてゆっくりと振る。あの後少ししてやってきた見張りがそんな俺の姿を不審げな顔で見たが、俺がヘラリと笑ってみせればつまらなそうに顔を背けた。


『えぇ、本当に聞こえてるのか? 正直ちょっと気持ち悪い……』


「っ…………」


 何とも不本意なハモキンの言葉に、俺は思わず顔をしかめる。ちなみにどうしてハモキンのささやき声が聞こえるかと言えば、聴力を強化する追放スキル「壁越しの理解者(リークザトーク)」を使っているからである。


 ぶっちゃけ耳が良くなるだけなのでこっちからハモキンに声を届けたりはできないが、この世界の事を一方的に説明してもらうだけならこれで問題はない。勿論新たな疑問は生じるんだろうが、それはいずれかの機会に聞けばいいだけだ。別に無理矢理今夜で全てを済ませる必要はないのだ。


『えっと、じゃあ話す……俺達ずっと、この森に住んでる。少し前まで俺達もこの集落に住んでた。獣狩る、果物捕る、俺達平和に暮らしていた。


 でも一〇年前、森の東に黒い星落ちた。星からは黒いもやが出てて、それに触ると人も獣も頭がおかしくなる。体に黒いもやが巻き付いた、黒い悪魔。とても強くて危険。


 だから、俺達黒い悪魔と戦った。今と違う、男と女、協力して戦った。俺達仲間だった。でも……』


「……?」


 徐々に弱くなっていったハモキンの声が、そこで一旦止まる。流石にここからじゃ表情は伺う余地もないが、おそらくは意気消沈しているんだろう。


『五年前。集落に光る星、落ちた。落ちたのドナテラの家。その日からドナテラ、変わった』


「ドナ……っ!?」


「ん? 何だ?」


「いや、何でも!? ちょっと寝ぼけちまっただけさ。ご心配なく」


「……フンッ! 寝ぼけて怯える、やっぱり男軟弱!」


 思わず声を上げてしまったことを誤魔化しつつ、俺は内心で必死に驚きを抑えていく。ドナテラという名に覚えがあったからだが……まあ今はハモキンの話を聞く方が先だ。俺がヒラヒラと手を振ると、少ししてハモキンの話が再開する。


『ドナテラ、元は大人しい女だった。でも光る星落ちてから、突然男を嫌うようになった。


 最初の内、集落のみんなドナテラを宥めた。でもドナテラの滅茶苦茶な話、何故か集落の女達に広まっていって、俺達集落から追い出された。


 今のドナテラおかしい。俺達ドナテラをやっつけて集落戻りたい。でも殺したいわけじゃない。ドナテラも女達も敵違う。俺達仲間。


 だから俺達、ドナテラに捕まった男、助ける。話聞いてもらうため、どうしても戦力必要。それに黒の星からやってくる悪魔とも戦わないといけない。


 これが俺達の事情。エド、わかったか?』


「……………………」


 ハモキンの話を聞き終え、俺は了承を示すべく右手を振ってからギュッと拳を握りしめた。するとハモキンの気配が遠ざかっていく。俺にここから逃げる意思がない以上、今夜のところはこれで終了だ。


 そうして語る者がいなくなったところで、俺は自分の中で情報を整理する。幸いにして今は他に何もできることがないので、時間だけはたっぷりある。


(なるほど、黒い星に光る星ねぇ……てかドナテラって)


 名を聞いて完全に思い出した。ここは第〇三六世界だ。確かにあそこはこういう世界だったが……とは言え空気感があまりにも違いすぎる。


 まず、俺が出るのは当然あんな怪しい儀式の最中じゃない。普通に森の中に一人で出たし、集落もハモキンの言葉通り普通に男女の入り交じった、ごく一般的なものだった。


 そして何より、ドナテラの雰囲気が大きく違う。ハモキンの言う通り俺の知るドナテラは意思は強くてもおとなしめで気の弱い女性であり、間違ってもウンバボ言いながら激しく腰を振る人物ではなかった。


 言われてみれば同じ顔だが、性格は勿論体つきや纏う雰囲気が完全に別人なので、顔が同じだけの双子の姉妹とでも言われた方がまだ納得できるだろう。


(これもまた世界の歪みか……だがこのくらいならどうにかなりそうだな)


 消滅してしまったハリスの世界に比べれば、この世界の現状はまだまだ救える段階だと思える。黒い星……魔王の出現時期や能力、そして俺がこの世界にやってくる時期も以前と同じだし、違うのはドナテラの性格だけ。


 無論勇者の性格がまるっきり変わってるとか、どういうわけか男を排除しているという問題はあるが、人類全てが滅亡してるなんて状況に比べれば全然余裕だ。


(となると、俺が無理に拘わるよりもティアに頼んでドナテラを誘導し、魔王を倒してもらうのが一番楽なんだろうが…………うーん)


 性格の変わったドナテラは随分と勇敢で好戦的なようだし、理由はわからないがティアを勇者と称して歓迎しているようだ。ならば俺が出張るよりこのままティアを協力者として前面に押し出し、そのうえで俺がこっそりと手を貸す形を取れば魔王を倒すのはそう難しくないように思える。


 が、その一番簡単な解決方法がどうにも引っかかる。原因は勿論ドナテラの変化のきっかけだ。


(つーか、またオマエの仕業か? ホントろくな事してねーな)


 右手を挙げて、その指先を眺める。俺の意識の中では中指の先端にハリスの世界からくっついてきた白いナニカが押し込めてある感じになっており、実際そこがジンジンと痺れている。完全に慣れきってもはや痛みですらないが、やっぱり不快であることに変わりはない。


(今回は勇者の中にあるみてーだし、なら増えることはないのか? それともコイツを回収したらドナテラの性格が元に戻るとか? うわぁ、スゲーありそう)


 魔王の時と違ってどうやって勇者の中からこれを取り出すのかはわからないが、あからさまに原因っぽいので手段を考えておく必要はあるかも知れない。


 もっとも、それは排除できない異物が俺の中にまた増えることを表している。力を暴走させたり性格をひっくり返したりするようなものが自分の中に増えるというのはいかにもぞっとしないし、可能なら今すぐにでもその辺に捨てたいところなんだが、「白い世界」に戻るときのみならず、そこから異世界に移動する時にすら着いてくるんじゃどうしていいかわからない。


(ひょっとしたら思ったよりヤバい代物かも知れん。こいつの対処も本気で考えねーとだな……はぁ、ドンドン考える事が増えやがる)


 当初はただ、勇者パーティに同行して追放されるだけだった。それがいつの間にか魔王を倒すところまでやるようになって、今度は謎の外的要因の排除まで求められている。


 勿論、それは俺が自主的にやることを増やしているだけなので、何もせずに黙って追放されるという選択肢も無くは無い。が、ここまできて色々知って、それでも全てを知らないことにして通り過ぎるのは俺の気が済まない。


(単に世界を巡るだけなら、今だってここで半年寝そべってから適当に追放されりゃいい。でももうそんなので満足する時期は終わった。好きで背負い込んだ業だ。最後まできっちりやり遂げてやるさ)


 天に輝く白い月。そいつに右手をかざしてみれば、何となく指先がピリピリするような気がしなくもない。その先におわします我らが神は、今日も俺達を見守っているのだろう……結構なご趣味だことで。


(見てろ。第〇二二世界みてーにはならねーぞ? 全部丸く収めて……余計なちょっかい出してきたことを後悔させてやる)


 それは静かな宣戦布告。どうでもよかった存在を明らかに敵視した証。今も遠くから聞こえる宴のような声を耳に、俺は誰にとも無く挑発的な笑みを浮かべて決意を固めるのだった。

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― 新着の感想 ―
忘れないように何個目の世界で、何番目の世界かメモしながら読んでいるのですが、以下誤字で前回が12番目なのか22番目なのか分かりません。 どちらが正しいですか? 《イレギュラーの先にあるのは、七割く…
魔王、エド、今回の勇者といい、監禁の神の性格が歪んでるせいか力を受け取るとことごとく被害者になるんだな… 許せん!!
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