自分は決してそうではないが、そういう奴がいることを否定はしない
「ウーララ! ウララ! ウーララー!」
「えぇ……?」
勢い込んでやってきた新たな世界。そこで俺達を出迎えたのは、布の胸当てと植物で編まれた腰蓑だけを身につけて一心不乱に踊り狂う半裸の女性達であった。
「え、エド!? これ、何!?」
「いや、知らん」
珍しく、今回は夜に出たらしい。深い闇の中揺れる炎に照らし出される謎の儀式は妙な迫力があり、怯えた表情で俺の腕にすがりついてきたティアに、しかし俺はそう答えることしかできない。
こんなインパクトのある歓迎を忘れることなどあり得ないが、本当に記憶にないのだ。ということはここもやっぱり何らかの改変が入っているということだろう。
「ウーララ! ウララ!」
「ウンバボ! ウンバボ!」
「ウーララ! ウララ!」
「ウンバボ! ウンバボ!」
何とも楽しげなリズムが鳴り響き、真剣な表情をした六人の女性に囲まれ、その外周ではでかい木製の仮面をかぶった奴がいい感じに太鼓を叩いて合いの手を入れてくる。足下には不可思議な模様が描かれており、おそらくはミゲルの時のように召喚系の儀式に便乗する形で現れたということだろう。
「ウーララー!」
最後にひときわ大きい雄叫びがあがったところで、俺達を囲んで踊っていた女性達が引いていった。すると奥の建物から髪に木の実やら枝やらで装飾を施したやや大柄な女性がやってくる。
「よくぞ来た、勇者よ!」
「勇者!? え、俺達が!?」
「そうだ。さあ、歓迎の宴、する! こっちに来い!」
そう言って近づいてきた女性が俺の……隣を通り過ぎ、ティアの腕をぐいっと掴んで連れて行こうとする。あれ?
「え? 俺は?」
「む? オマエ男、勇者違う」
「あ、そっすか」
まるで虫でも見るかのような目で見られ、俺はなんとも言えない薄笑いを浮かべてみる。いやー、別に? 自分が勇者とか、そんな期待してたわけじゃねーし?
「待って、じゃあエドはどうなるの?」
「エド、そいつの名前か? 男は害悪。縄で縛って集落の外に捨てる。お前達、やっとけ!」
「ウーララー!」
「おいおいおいおい!?」
さっきまで踊っていた女性達が俺の周りに集まってきて、腰に佩いていた剣を奪われあっという間に縄でぐるぐる巻きにされていく。そしてそんな俺の様子を見て、ティアが焦った声で大柄な女性に抗議の声をあげた。
「何するのよ、やめて! エドは私の大切な仲間なのよ!?」
「仲間違う。男邪魔! 男役立たず! 男、乳と尻しか見ない!」
「うぐっ!? いや、そういう一面が無いとは言わないけど……」
「あの、そこで俺の方をチラチラみるのはやめてもらっていいですかね?」
そりゃあ俺だって健全な男ですし? 全く興味が無いとは言わねーけども。でもそんなあからさまな態度を取ったことは無いはず……無いよな?
「と、とにかくエドは違うの! これ以上エドに酷いことをするって言うなら、勇者だか何だか知らないけど私は貴方に協力しないわよ!?」
「む、それは困る……わかった。じゃあ縛って牢に転がしておく。お前達、その男連れてけ!」
「ウンバボー!」
「エド!?」
「いや、大丈夫だ。その人が多分アレだから、いい具合に対応しといてくれ」
「っ!? わかったわ。気をつけてね」
俺の見立てでは、あの大柄な女性から勇者の気配がビンビン伝わってくる。というか、今回もどことなく見覚えがあるような気がするしな。
となると彼女の機嫌を損ねたり、関係を断絶させるのは得策じゃない。俺の意図を察してティアが彼女と奥の建物に消えていくなか、全身を縄でぐるぐる巻きにされた俺は別の女性に担ぎ上げられ、集落の外れにある細い植物を組み立てて作った牢に放り込まれた。
「ぐはっ!?」
「男のくせに滞在許された、感謝しろ!」
「そりゃどうも……ってか、この縄はほどいてくれないわけ?」
「当たり前! 男自由にする、無い!」
「自由って、ここ牢屋の中じゃん。それにこれじゃ動けねーし。ひょっとしてアンタがあーんで飯とか食わせてくれるのか?」
「そんなわけない! ……チッ、お前達、ちょっと外で見てろ」
ヘラヘラと笑いながら言った俺に、俺を運んできた女性の一人が舌打ちをして牢の中に入ってくる。しっかり扉を閉めたところで外の二人が俺に向かって槍を突き出し、俺が動かないのを確認してからその女性が俺の縄を外していく。
「ふぅ、やっと解放されたぜ。ありがとな」
「フンッ! 男に感謝、無い!」
「そう言うなって。ちなみに俺の名前はエドって言うんだけど、アンタは?」
「男に名乗る名前、無い!!!」
「おおっと、そんなに怒鳴ることねーだろ? わかったわかった、じゃ、気が向いたら教えてくれよな」
「…………フンッ! 行くぞみんな!」
「ウーララー!」
きっちり牢を閉じてから、三人の女性がその場を去って行く。意外にも見張りが付いたりはしないらしく、俺はとりあえず牢屋の材質を確認してみた。
「ふーん、固めの植物? 随分しなるな……素手で壊すのはちょっと無理か」
流石に石と金属の牢獄ほど堅牢じゃないが、とりあえず一般人がひょいと抜け出すのは無理だろう。まあ俺には追放スキルがあるので、こんな牢屋なんてどうとでもなるわけだが。
「さて、これからどうすっかな……?」
とりあえずは勇者と思われる人物との関係を優先し、大人しく捕らわれておいた。ティアの方がどうなってるかは多少気がかりだが、勇者なんて呼ばれてるくらいだからそう酷い扱いにはなっていないだろう。
「情報が欲しいけど、うーん……」
見張りすらいないんじゃ、そもそも調べようが無い。「不可知の鏡面」を使って集落を一回りしているという手もあるが、その間に誰かがここに戻ってきたりすると面倒なことになりそうだ。
(ま、最悪完全放置でも水も食料もどうにでもなるし、しばらくは様子見してティアから接触してくるのを待つか。もしくは……うん?)
不意に俺の視界の隅で、草がガサガサと揺れた気がした。そっちに注目していると、そこから女性達と同じような腰蓑を身につけた男が姿を現した。
「シーッ! 静かにする! 俺、オマエ助けに来た」
「助けに? そいつは助かるが……随分手際がいいな?」
俺がこの世界に来てから、まだ精々三時間くらいしか経っていない。にも拘わらずこれだけ素早く動いたとなれば、事前に情報を得ていたとしか思えない。
「オマエの言いたいこと、わかる。でも俺達、男が捕まる、すぐわかるようにしてある。今までも何度も仲間、捕まってる」
「あー、そう、なのか?」
なるほど。別に俺が捕まったからじゃなく、それ以前にも仲間が捕まって助けているというのなら、即応体制にも頷ける。
「そもそも、オマエ運がいい。普通なら縄で縛られて森に捨てられる。その場合すぐには助けられない。森の獣に顔をペロペロ舐められる……凄く臭くなる」
「……それは地味に嫌だな」
俺の「不落の城壁」は物理攻撃なら防げるが、舐められた時に唾が付かないようになるとかはない。縄で縛られ顔をベチョベチョにされ、悪臭に耐えながらもぞもぞ動いて逃げ回るのは……うん、本当に嫌だ。
「だから俺達、すぐに動く。でもオマエ特別。すぐには放り出されないかも知れない。
こんなこと初めて。だから俺もちょっとだけ迷ってる。オマエ、どうする?」
「そう、だな……」
男の言葉に、俺は腕組みをして考え始める。俺一人ならいつでもどんな状況からでも逃げられる。なのでこの状況は実は危機でも何でも無い。
が、それはあくまで俺だけの話。俺がここを逃げ出した場合、ティアの待遇にどんな影響が出るかがわからない。となれば今すぐここから逃げるよりは、この場に留まって情報を集める方がその後の活動が捗りそうな気がする。
「……すまん。せっかく助けに来てくれたみてーだけど、俺はここに残る。ただこの世界というか、なんで俺がこんな目に遭ってるのかみたいな情報は欲しい。そういうのを教えてもらうことはできるか?」
「ぐむ、できるけど難しい。見張りに見つかる、絶対駄目。ここで話すのとても危険」
「だよなぁ。なら…………」
頭の中で手札を整理し、俺は一つの回答を得る。その方法を伝えると、男は意味が分からないという顔で俺の方を見つめてきた。




